43 / 45
これサダシリーズ1 【 これぞ我がサダメ 】
第33話 サダメ様こそ、我が定め(アデル視点)
しおりを挟む結婚式を無事に終えて、今宵は初夜……。
い、未だに、し、信じられない。
サダメ様が、私を選んでくださるとは……。
この戸の向こうに、サダメ様が……。
高鳴る胸を押さえきれずに、そっと戸を押し開いた……。
***
***
腕の中の可愛い人を見つめると、潤んだ瞳に私が写り込んでいた。
ああ、なんという至福……。
もはやなにもいえず、ただこの愛しい人を抱きしめることしかできない。
「今、あなたにこの世のすべての祝福をあげたい……」
腕の中でサダメ様がくすりと笑った。
「もうもらっています……」
……ああっ!
神よ、私にこれほどの幸福をもたらした神よ!
最大限の感謝と祈りを!
私は永遠にこの日を忘れないだろう……!
私はサダメ様の指に指を絡め、脚に脚を絡めて、祈るように抱きしめた。
「ようやく、名実ともにサダメ様の冷たい手足を温めて差し上げられます……」
「え……」
サダメ様がぱっと目を見開いた。
そして、声もたてずに小さく笑う。
「ええ、温めて。これからもずっと」
「はい……」
***
結婚して11か月が経つ。
朝日の中で、お包みを抱いたサダメ様の姿。
出会った時と同じ、神にも等しい、敬虔な気持ちになる。
「サダメ様、かわってくださいますか?」
「はい。でもリューデルは今眠ったところなの。そうっと抱いて下さいね」
そっと渡されたお包みの中に私とサダメ様の第一子がすうすうと眠っている。
私と同じ金色の髪に青い目を持ったこの国で最も新しい皇太子。
リューデルは甘いミルクの匂いがして、ふにゃふにゃと柔らかくて、頼りない。
これが立派な王家の男子になれるのかと不安にもなるが、私も生まれたときはこんなようなものだったと母上に聞き、驚いた。
そっと指を手に持って行くと、小さな小さな爪の付いた指で、か弱い力で握ってくる。
だが、これが今のリューデルにとっての全力であるらしい。
なんとも非力でまたも不安になるが、いつかはきっとこの手に剣を持ち、弓を持ち、国を守る立派な皇太子になって欲しい。
「こんにちは、リューデル皇太子のお顔を見にきましたよ!」
「ウィル、ノーマン、グレンザ、トマス。お前たち、仕事はどうした」
「ハマル国との一件が済んだので、王兵団も軒並み穏やかなんですよ。
ああ、かわいいっすねぇ。いつ見ても団長にそっくりっすねぇ」
「僕は今日非番なんです。この金色の巻き毛なんて、特にアデル団長の子どもの頃にそっくりですよねぇ」
「御気性はきっとサダメ様に似て、賢く優しいでしょうから、きっと立派な皇太子になるでしょう」
「アデル団長、国境警備の件で2、3報告がありますが……。
いや、無粋でしたね。大したことではありませんので、こちらで処理をしておきましょう」
「悪いな、ウィル。私の穴を埋めてもらって」
「いえ、この国を率いて立つ皇太子のご誕生です。
今しか味わえぬ喜びをしかと味わっていただきたく存じます」
「感謝する」
「はっ」
サダメ様がすらっと手をテーブルに差し向けた。
「皆さん、立ち話もなんですからどうぞおかけになってください。
今お茶を淹れます」
「わあっ、サダメ様手ずからいいんですか! お言葉に甘えて!」
「ちょ、ノーマンさん! 遠慮がなさすぎます!」
「う、うれしいのですが、僕は合間を抜けてきたので早く戻らないと……」
「おい、お前たち、家族水入らずの時間を奪うな!」
サダメ様がころころと笑う。
「みなさんが見えるんじゃないかと思って、実はもうお菓子も用意してあるんです。
クリスティさんの新作なんですよ」
「これはよばれにゃ損ですね!」
「う、うわあっ、今回のもすごくきれいですね……!」
「ひっ、ひとつだけなら……!」
「お前たちなぁ……!」
「ウィル副団長も、どうぞおひとつ」
「そ……、それではお言葉に甘えまして……」
堅物のウィルまでもがサダメ様にかかるととたんにデレてしまうのだから、他の者がああなってしまうのは仕方あるまい。
だが、4人に限らず、多くの者をその魅力で虜にしてしまうのがサダメ様。
ご自身にはその意図はなく、好意を差し向けられても困惑するばかり。
そんな無自覚の魅力を振りまくサダメ様のお心を、私が捕らえることができたのが今でも不思議なくらいだ。
そばに仕えるウィルたちにせよ、誠実で男性的な魅力にあふれる者はたくさんいる。
実際、こうして足しげく通ってくる彼らも、リューデルに会いに来たと言いながら、サダメ様に会いに来ているようなものだろう。
結婚してもなお、サダメ様に少なからず好意を寄せているということが、言葉にせずとも伝わってくる。
彼らのことは信頼しているが、私がサダメ様のお眼鏡に敵わなくなった場合には、すぐさま他の者にとって代わられるであろう。
そのようなことにならぬように、日々精進を重ねていく覚悟だ。
サダメ様が自らお茶を淹れ、お菓子を振舞う。
部下たちが頬を赤らめたり、うっとりとしながらサダメ様を見つめている。
……わかってはいるが……。
こんなささいなことでも嫉妬してしまう。
自分でも嫌になるが、器の狭い男だ、私は。
タイミングよく、ああん、とリューデルが泣き出してくれた。
「楽しみのところすまないが、リューデルに母君を返してくれ」
「あら、リューデル、どうしたの?」
サダメ様が私の腕から優しくリューデルを抱き取る。
聖母のように微笑むサダメ様を見る、部下たちの骨無しのうっとりとしたほのぼの顔。
私もどこか夢のように悦に酔う。
恥ずかしげもなく、これが私の愛する素晴らしき家族なのだと、心のどこかで得意になっている。
リューデルを抱くサダメ様を傍らに抱いて、至福の時を味わう。
このような幸福が私に許されるとは。
真に人生とはすばらしきもの。
冗談でも大げさでもなく、今私はこの世のすべての幸福を手に入れたような気さえする。
サダメ様が私の人生に現れたその時から、私はこの幸福とともに時を歩んできた。
この命が尽きるまでずっと、一緒に歩み続けていきたい。
私はそっとサダメ様の側頭部、流れるような黒い髪にキスをする。
こちらを仰ぐ黒い瞳に、私が写り込んでいるのを見るときの喜び。
これはなににも代えがたい。
ああ、サダメ様。
あなたこそが私の人生の大いなる喜び。
顎に手を添えると、すっと瞼を閉ざしてくださった。
私はその小さく甘い唇を吸う。
離れがたく、時にサダメ様や周囲を戸惑わせるほどに長いキスをしてしまう。
……ああ、でも、本心ではまだ足りない。
ああ、どうか……ずっと私をあなたのお側に。
サダメ様、あなたこそ我が喜び。
あなたこそ、我がサダメ。
丹斗大巴(マイページリンク)で公開中。こちらもぜひお楽しみください!
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる