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これサダシリーズ1 【 これぞ我がサダメ 】

第33話 サダメ様こそ、我が定め(アデル視点)

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 結婚式を無事に終えて、今宵は初夜……。

 い、未だに、し、信じられない。
 サダメ様が、私を選んでくださるとは……。
 この戸の向こうに、サダメ様が……。

 高鳴る胸を押さえきれずに、そっと戸を押し開いた……。



 ***


 ***



 腕の中の可愛い人を見つめると、潤んだ瞳に私が写り込んでいた。
 ああ、なんという至福……。
 もはやなにもいえず、ただこの愛しい人を抱きしめることしかできない。

「今、あなたにこの世のすべての祝福をあげたい……」

 腕の中でサダメ様がくすりと笑った。

「もうもらっています……」

 ……ああっ!
 神よ、私にこれほどの幸福をもたらした神よ!
 最大限の感謝と祈りを!
 私は永遠にこの日を忘れないだろう……!

 私はサダメ様の指に指を絡め、脚に脚を絡めて、祈るように抱きしめた。

「ようやく、名実ともにサダメ様の冷たい手足を温めて差し上げられます……」
「え……」

 サダメ様がぱっと目を見開いた。
 そして、声もたてずに小さく笑う。

「ええ、温めて。これからもずっと」
「はい……」

 








 ***


 結婚して11か月が経つ。
 朝日の中で、お包みを抱いたサダメ様の姿。
 出会った時と同じ、神にも等しい、敬虔な気持ちになる。

「サダメ様、かわってくださいますか?」
「はい。でもリューデルは今眠ったところなの。そうっと抱いて下さいね」

 そっと渡されたお包みの中に私とサダメ様の第一子がすうすうと眠っている。
 私と同じ金色の髪に青い目を持ったこの国で最も新しい皇太子。
 リューデルは甘いミルクの匂いがして、ふにゃふにゃと柔らかくて、頼りない。
 これが立派な王家の男子になれるのかと不安にもなるが、私も生まれたときはこんなようなものだったと母上に聞き、驚いた。
 そっと指を手に持って行くと、小さな小さな爪の付いた指で、か弱い力で握ってくる。
 だが、これが今のリューデルにとっての全力であるらしい。
 なんとも非力でまたも不安になるが、いつかはきっとこの手に剣を持ち、弓を持ち、国を守る立派な皇太子になって欲しい。

「こんにちは、リューデル皇太子のお顔を見にきましたよ!」
「ウィル、ノーマン、グレンザ、トマス。お前たち、仕事はどうした」
「ハマル国との一件が済んだので、王兵団も軒並み穏やかなんですよ。
 ああ、かわいいっすねぇ。いつ見ても団長にそっくりっすねぇ」
「僕は今日非番なんです。この金色の巻き毛なんて、特にアデル団長の子どもの頃にそっくりですよねぇ」
「御気性はきっとサダメ様に似て、賢く優しいでしょうから、きっと立派な皇太子になるでしょう」
「アデル団長、国境警備の件で2、3報告がありますが……。
 いや、無粋でしたね。大したことではありませんので、こちらで処理をしておきましょう」
「悪いな、ウィル。私の穴を埋めてもらって」
「いえ、この国を率いて立つ皇太子のご誕生です。
 今しか味わえぬ喜びをしかと味わっていただきたく存じます」
「感謝する」
「はっ」

 サダメ様がすらっと手をテーブルに差し向けた。

「皆さん、立ち話もなんですからどうぞおかけになってください。
 今お茶を淹れます」
「わあっ、サダメ様手ずからいいんですか! お言葉に甘えて!」
「ちょ、ノーマンさん! 遠慮がなさすぎます!」
「う、うれしいのですが、僕は合間を抜けてきたので早く戻らないと……」
「おい、お前たち、家族水入らずの時間を奪うな!」

 サダメ様がころころと笑う。

「みなさんが見えるんじゃないかと思って、実はもうお菓子も用意してあるんです。
 クリスティさんの新作なんですよ」
「これはよばれにゃ損ですね!」
「う、うわあっ、今回のもすごくきれいですね……!」
「ひっ、ひとつだけなら……!」
「お前たちなぁ……!」
「ウィル副団長も、どうぞおひとつ」
「そ……、それではお言葉に甘えまして……」

 堅物のウィルまでもがサダメ様にかかるととたんにデレてしまうのだから、他の者がああなってしまうのは仕方あるまい。
 だが、4人に限らず、多くの者をその魅力で虜にしてしまうのがサダメ様。
 ご自身にはその意図はなく、好意を差し向けられても困惑するばかり。
 そんな無自覚の魅力を振りまくサダメ様のお心を、私が捕らえることができたのが今でも不思議なくらいだ。
 そばに仕えるウィルたちにせよ、誠実で男性的な魅力にあふれる者はたくさんいる。
 実際、こうして足しげく通ってくる彼らも、リューデルに会いに来たと言いながら、サダメ様に会いに来ているようなものだろう。
 結婚してもなお、サダメ様に少なからず好意を寄せているということが、言葉にせずとも伝わってくる。
 彼らのことは信頼しているが、私がサダメ様のお眼鏡に敵わなくなった場合には、すぐさま他の者にとって代わられるであろう。
 そのようなことにならぬように、日々精進を重ねていく覚悟だ。

 サダメ様が自らお茶を淹れ、お菓子を振舞う。
 部下たちが頬を赤らめたり、うっとりとしながらサダメ様を見つめている。
 ……わかってはいるが……。
 こんなささいなことでも嫉妬してしまう。
 自分でも嫌になるが、器の狭い男だ、私は。
 タイミングよく、ああん、とリューデルが泣き出してくれた。

「楽しみのところすまないが、リューデルに母君を返してくれ」
「あら、リューデル、どうしたの?」

 サダメ様が私の腕から優しくリューデルを抱き取る。
 聖母のように微笑むサダメ様を見る、部下たちの骨無しのうっとりとしたほのぼの顔。
 私もどこか夢のように悦に酔う。
 恥ずかしげもなく、これが私の愛する素晴らしき家族なのだと、心のどこかで得意になっている。
 リューデルを抱くサダメ様を傍らに抱いて、至福の時を味わう。

 このような幸福が私に許されるとは。
 真に人生とはすばらしきもの。
 冗談でも大げさでもなく、今私はこの世のすべての幸福を手に入れたような気さえする。
 サダメ様が私の人生に現れたその時から、私はこの幸福とともに時を歩んできた。
 この命が尽きるまでずっと、一緒に歩み続けていきたい。
 私はそっとサダメ様の側頭部、流れるような黒い髪にキスをする。
 こちらを仰ぐ黒い瞳に、私が写り込んでいるのを見るときの喜び。
 これはなににも代えがたい。

 ああ、サダメ様。
 あなたこそが私の人生の大いなる喜び。
 顎に手を添えると、すっと瞼を閉ざしてくださった。
 私はその小さく甘い唇を吸う。
 離れがたく、時にサダメ様や周囲を戸惑わせるほどに長いキスをしてしまう。
 ……ああ、でも、本心ではまだ足りない。
 ああ、どうか……ずっと私をあなたのお側に。
 サダメ様、あなたこそ我が喜び。

 あなたこそ、我がサダメ。





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