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これサダシリーズ1 【 これぞ我がサダメ 】
第15話 ただ手作りしただけなのに……。
しおりを挟むその数日後、突然わたしの部屋にありとあらゆる人たちから贈り物が届いた。
それも、5月(メイル)だというのに、毛糸の手袋や靴下、毛皮や柔らかなガーゼを重ねた布地、あるいはハーブティーやお酒の数々。
カリナさんが品物と送り主を確認しながらいう。
「全部、サダメ様が夜温かく眠れるようにですわ。
全く残念ですわ。
わたくしも知っていたら、夜用の手袋と靴下を手作りして差し上げたかったのに」
「あ……」
そうか、あのときアデル様に話したから、それがみんなに知られたのね……。
去年は5月(メイル)、6月(シエル)の間はときどき火を焚いたこともあったけど、7月(ジュエル)からは冷えるとは言ってもさすがに夏だったしなんとかやり過ごせて、秋からは寝具が厚手のものに変わったからまたなんとかやり過ごせて、冬は冬で暖炉に火を焚くし……。
そっか、寝る用の手袋や靴下を用意してもらうっていう発想がなかったなぁ……。
こんなに使い切れるかわからないくらいたくさん、ありがたい……。
この1年の、いろんな人との関わりが脳裏に浮かんでくる。
「これはアデル団長からですわ。まあ、なんと可愛い」
薄ピンク色の柔らかなガーゼでできた手袋と靴下のセット。
「こちらはウィル副団長からですわね」
薄黄色のキルトの部屋用スリッパ。
「あらあら、王兵団のいつものメンバーは全員贈ってきておりますわねぇ。
靴下、手袋、靴下、手袋。
洗い替えにちょうどいいですわね」
「はい、きっと全部使わせてもらいます。みんなにお礼を言わなくちゃですね」
「お礼のお手紙ならこちらで用意いたしましょうか?」
うーん、そうだな……。
こんなにたくさんの返事を書くのは大変だなぁ。
あっ、そうだ……!
***
後日、わたしは贈り物をしてくれた人に抹茶のパウンドケーキをお返しした。
平たく焼いて切り分ければたくさん作れるから簡単便利。
この世界にすでにあった緑茶だけど、和菓子がないせいなのかどうなのか、抹茶にして頂くという文化がなかった。
だから、以前から抹茶の製造を進めてもらっていたのだ。
現物がない以上、抹茶をどう使えばいいかまたイメージしずらかったと思うけど、これで、抹茶が多様な方法で楽しんでもらえるとわかると思う。
小豆があればあんこが作れて、ザベストマッチなんだけど……。
今のところまだ、それらしい豆がこの国にはない。
焼き上がった抹茶色のケーキの上に、切り抜いた紙を敷いて粉砂糖を振る。
もちろん言葉は、ありがとう。
幸い、抹茶のケーキはフェイデル国の人たちに好意的に受け入れられた。
まあ、緑茶が好きなら間違いないはずだよね。
「サダメ様! 先日いただいた緑のケーキ、大変おいしかったです!
始めはなんとも怪しげな色に戸惑いはしましたが、まさかあれが緑茶の粉だとは、食べるまでは気がつきませんでした!リンゴのときも思っておりましたが、サダメ様は料理がお得意なのですね!」
「気に入ってもらえてよかったです。
ノーマンさんは甘いものがあまり得意ではないと聞いていましたから、少し甘さを控えめにしたんです。
より抹茶の高い香りが味わえるように」
「まさにそうでした! 我が家でも同じものが作れるよう、はやく抹茶を仕入れたいですよ」
「僕はあの粉砂糖のメッセージにやられました……!
もったいなくて、まだ食べられません!」
「えっ……。あの、焼き菓子ですから日持ちはしますけど、早めに食べてくださいね、グレンザさん」
「だ、だめです……。サダメ様がひとつひとつメッセージのために砂糖を振りかけるところを想像したら……!
む、胸がとろけて、とても口にできないんです……!」
「……そ、そう……」
さすがに1年も経てば、神格化バイアスの効果に慣れてはくるけど、ここまで言われちゃうと反応に困るよね……。
とりあえずの苦笑いがもう定番になってしまったわ……。
カリナさんがうっとりと頬に手を当てた。
「わたくしも役得でご相伴に預からせていただきましたけど、本当にいつもの緑茶があのように様変わりして美味しくいただけるなんて、まるで夢のようでした。
まさに、新しい世界が開けたような驚きでございましたわ」
「せっかくおいしい緑茶がとれるんですから、抹茶もフェイデル国の輸出品に育てることができたらいいですよね」
「全くその通りだと思いますわ! 抹茶を使ったレシピがこれからたくさん生まれると思うと、あんまり大きな声では言えませんけれど、味覚がワクワクしてしまいます。
これもすべてサダメ様のおかけでございますね」
「いえ、そんな……」
あれだけの品質の茶葉があるのだから、わたしが提案などしなくても、いずれ誰かがきっと思いついただろうと思う。
わたしがこの世界で行うことは、多分それぐらいがちょうどいい。
大陸全土を焼土に変えたり、子が親を失ったり、生活の糧や営みを奪うようなことをしたくない。
そんなの、絶対したくない……。
抹茶の普及が少しずつ広がり始め、わたしは夜手足を冷やすことなくぐっすり眠れるようになったある日。
ついに、ハマル国からの使者がやってきた。
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