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これサダシリーズ1 【 これぞ我がサダメ 】

第13話 ただ変えただけなのに……。

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 部屋を辞して戻る途中。
 わたしはアデル団長にさっそく頼んだ。

「もう1度、ホーリーを見たい? ええ、もちろんいいですよ」

 王家の庭に行き、柊を確認すると、嘘のように緑色に葉が復活していた。

「わあ、神様の加護って本当なんですね……!」
「司教たちの熱心な祈りが届いたこともそうですが、それよりもまず、サダメ様が父上の心身を献身的にいたわってくださったおかげです。
 実の子でも毎回あのように足をマッサージしたり、湿布を取り換えるのは大変であるのに、この国に来たばかりのあなたがあれほど熱心に尽くしてくださったので、私たちもまだ希望が持てるのではないかと気づき、信じることができのです。
 私自身、サダメ様の真心に日々胸を打たれました。
 実際、貴族の間でも市井でも、サダメ様ご指南くださった方法が効果を上げていると聞いています。
 本当に、ありがとうございました。
 本当に、感謝の言葉が見当たりません」
「正直、まだまだ回復には時間がかかると思っていたので、わたしにとっては神様のご加護のほうが驚きですし、ありがたく思えますけど。
 わたしの捻挫だけでなく、体の病まで治してくれるなんて、地球だったら本当に崇め奉られること間違いなしの神様ですね。
 ……でも、少しでも役に立ててよかった。
 これで、わたしがここに来た意味があったんだと思えるから……」

 これからはここで生きていかなければならない。
 なにができるのか、どうやっていくのか、まだ手探り状態だけど。
 もう、あの庭には戻れない。
 順繰りに巡っていくと、アデル団長のガクアジサイが目に入る。
 つい足が止まった。
 もう見ることのできないわたしのアナベル……。

「ハイドランジアになにか思い入れがあるのですか?」

 はっとして振り返ると、アデル団長がためらいを表情に浮かべていた。

「先日も、私のハイドランジアの前でお悲しみでいらしたね」
「……あ、ご、ごめんなさい。アデル団長のアジサイがというわけじゃなくて……」
「アジサイ……。遠きお国ではハイドランジアをアジサイとおっしゃるのですね」
「ええ……。地球には何種類ものアジサイがあって……。
 わたしは白い手毬のような丸く花が咲くのが好きなんです。
 ここにもあるでしょうか……?」
「白いハイドランジアですか? 聞いたことがありません……。
 わが国では栽培されていませんので、もしかすれば外国ならば……」

 やっぱり、ないか……。
 ま、あったところで、ね……。
 いってもしょうがないよね。
 つい、下を向いてしまった。

「遠くお国の、地球のことをもっとお聞かせくださいませんか?」
「え?」
「白いハイドランジアが咲くニホンという国はどのようなところなのですか?」
「えと……。でも、その、いってもどうしようもないですし……」
「思い出すのがお辛いのでしょうか?
 サダメ様はいつも、私たちに気をつかわせまいと明るく振舞っておられます。
 でも、時々そのように、とてもさみしそうなお顔になるときがあります。
 先日もそうでした。
 ……私ではだめでしょうか……?」
「え……?」

 いつの間にか、アデル団長が目の前にいて、青い瞳でこちらを見つめていた。
 潤んだ目。
 染まる目元。
 何かを期待するような……。

「私はサダメ様のことを、地球やニホンのことをもっと知りたいのです。
 ニホンに置いてきてしまわれたご家族やお友達と同じとはいかないことは充分に承知しています。
 でも、もっと、あなたの心に近づきたい……。
 そう思ってはいけませんか……?」

 戸惑ううちに、そっと手が伸びてきて、わたしの頬をアデル団長の指が滑っていく。
 ドキッと胸が高鳴る。

「私はすでにあなたにハイドランジアの加護をお渡ししています。
 あなたが望むのであれば、私はどんなことでもして差し上げたいのです……」

 そ、そういえば……。
 お姫様抱っこされたあのときの……。
 あれって、そうか、アジサイのことだったの?

「ハイドランジアの加護って……」
「私の忠誠と真心を差し上げたのです」

 ……ん、てことは、え?
 あのときに……。
 ……あのときから、もう……?

「ひと目見たときからあなたに惹かれていました。
 お側にいるときは自然とあたを目で追い、いないときは瞼の裏のあなたを思い浮かべていました。
 王命でなくとも、あなたを守りたいと心から強く思ったのです。
 できることなら、もっとお側に私を置いてはいただけませんか?
 たとえ今はまだ無理でも、サダメ様のお心の端に、私をおいていただきたいのです」

 アデル団長がおもむろにアジサイの枝を掴むと、短剣を抜いて枝を切った。
 剣をしまうと、膝をつき、枝を差し出す。

「どうか、窓辺の花瓶にこのひと枝を加えてください」

 熱っぽい視線に当てられる。
 どくどくと自分の胸が高鳴る。
 こんなすてきな告白、今まで受けたことがない……。

「アデル団長……」
「どうか、お近づきのしるしに、これからはアデルと」
「アデル……様」
「はい、サダメ様」

 喜びに顔を崩すアデル団長。
 た、ただ少し呼び方を変えただけなのに……。
 そんなに……?
 そのまぶしさに、目がぱちぱちとして、息が止まりそう。
 な、なに、この発光体……。
 手に手を取り、枝を握らされると、その手の甲にキス……。
 うわあ……!
 お、王子様……っ!
 しょ、正真正銘の、王子様だわ……!

「この手を離したくありません」
「……えっ……」

 上目遣いに見上げるその表情には、喜びと同時にどこか独占欲がちらつく。
 なに、これ……。
 こ、こんな目で見つめられるなんて。
 胸がますますうるさく鳴り出す。
 ど、どうしよう……!?
 立膝、手にチューなんて、彼氏にもこんなことされたことないよ!?
 なんていうのが正解なの?
 こんなときに使える台詞、今すぐチャットGPT教えてぇ……!
 あんまりにもテンパっていたのがわかったのか、アデル団長かくすりと笑って手を離してくれた。

「申し訳ありません。
 困らせるつもりはなかったのですが……」

 えっ、い、いや……!
 こ、困りますよ!
 こっちは、地球じゃただのモブみたいなタイプなんですから!
 こんなラブシチュエーション、慣れていませんから!
 心臓に悪すぎ。
 こんなに激しい動悸、バレー部のしごき以来ですけど……!
 ただ立ってるだけなのに、この汗のかき方、やばい……。

「部屋に戻りますか?」
「……は、はい、そうですね……!」

 無用に力の入った返事をしてしまった。
 カリナさんが口元を隠しながら、楽しそうに笑っている。
 警護で同行していたグレンザさんは顔を真っ赤にして立ち尽くしている。
 はあ~……。
 貴族ってある意味すごいね。
 こんな人に見られている中で公開告白とか。
 肝が太いっていうか……。
 SNSでしか告ったことないわたしには別次元です……。



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