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「それがお前の初恋か?」
サイード様が少しも変わらない表情のままそう言った。
「は、はい……そうです」
「ふぅん……なるほどな……」
サイード様が少し顎を傾けてなにかを考えるように黙った。請われるまま、思い出すままに話してしまったけれど、サイード様にとっては退屈だったかもしれない。僕がビルゲのようにもう少しでも頭が良ければ……。もっと簡潔にうまくしゃべれたのかもしれないけど……。
そっと見ると、サイード様がおもむろに立ち上がった。
「うむ……。気に食わんな」
「え……」
「やり直せ、今すぐ」
「え?」
「アド」
「はい、失礼いたします」
なぜか急にアドが部屋を出て行ってしまった。同時に僕も腕を引かれて立たされた。
「夕日にはまだ早いが、いいか、お前の初恋は今から、俺だ」
「え……?」
どういうこと? 言っている意味がわからない……。
サイード様が真剣な目をして僕を見下ろしている。でも、僕はサイード様がなにを言っているのか、なにをしようとしているのかが全然わからなかった。ただ見つめ返してぼんやり立っていると、ぎゅっと顎を掴まれた。
「お前の髪の色はなかなかいい」
「……? あ、ありがとうございます……?」
おもむろに、サイード様が僕の手を取った。
「ふん……。握ってみろ」
「え?」
「いいから、握ってみろ」
えっと……? 手を握ってみろってそういうこと?
僕はそっとサイード様の指先を掴んでいる指に力を込めた。その途端ギュウッと強く握り返され、一瞬ビクッと身がすくんだ。
「レィチェ。俺を見ろ」
低くつぶやかれると、魔法にかけられたみたいに僕の目はサイード様を見つめた。なんでも突き刺して凍らせてしまうような鋭いまなざし。すらっと一本通った鼻すじと形のいい唇。自然と、神様の壁画でも見ているような荘厳さと畏怖に満たされる。いつの間にか、クイッと顎が上に向けられていた。ふわっとサイード様の香りが鼻をつく。
熱い吐息と共に、サイード様の口づけが降ってきた。
「くっちゅ、ぬっちゅ」
あ、う……。ざらりと感度のいいところを舐め上げられて僕は身もだえした。サイード様、キスがうますぎる。
かすかに目を開けると、逃がさないみたいにぎらつく青い光が見えて、僕はさらに身をすくめた。とたんに、サイード様が僕を離れた。
「ぬ? 違ったか。そうか、もっと軽くだったか」
「へ、え……っ」
今度はそっと僕の両頬をサイード様の両手が包むと、毛布みたいな柔らかなキスが降ってきた。
サイード様……。混乱しながらも、僕はようやくわかってきた。もしかして、サイード様は、僕の初めてのキスをやり直し、いや、上書きをしようとしているの……? な、なんで、なんのために……?
あの日ほどの新鮮味はなかったけれど、ドキンドキンと不安が混ざった鼓動が胸を鳴らす。
「次は、なんだ」
「え?」
「ビルゲとの初めての夜はなにをした」
「え……っ」
さっきから少しも変わらない表情なのに、サイード様はいったいどうしてしまったんだろう? どうして急に……。それにもしかして、僕のこと処刑するのを、やめてくれた……、ということ……?
「おい、次だレィチェ」
「あ、あの……」
「なんだ」
「ぼ、僕の処刑は……」
「今日はやらん。早く続くを言え」
「な、なんで……」
「気に食わんからだ。お前は俺の所有物。お前の中にある他のイーサンシュラーとの記憶、そんなものは必要ない」
「そ、それは……」
ぐいっと包まれた両手で視線を強制された。
「過去も未来もお前の全ては俺のものだ。俺だけを見ていろ」
ギクンと震えて体が素直に熱くなった。このぬくもりとこの視線……。
どちらも僕を離してくれそうにない……。
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サイード様が少しも変わらない表情のままそう言った。
「は、はい……そうです」
「ふぅん……なるほどな……」
サイード様が少し顎を傾けてなにかを考えるように黙った。請われるまま、思い出すままに話してしまったけれど、サイード様にとっては退屈だったかもしれない。僕がビルゲのようにもう少しでも頭が良ければ……。もっと簡潔にうまくしゃべれたのかもしれないけど……。
そっと見ると、サイード様がおもむろに立ち上がった。
「うむ……。気に食わんな」
「え……」
「やり直せ、今すぐ」
「え?」
「アド」
「はい、失礼いたします」
なぜか急にアドが部屋を出て行ってしまった。同時に僕も腕を引かれて立たされた。
「夕日にはまだ早いが、いいか、お前の初恋は今から、俺だ」
「え……?」
どういうこと? 言っている意味がわからない……。
サイード様が真剣な目をして僕を見下ろしている。でも、僕はサイード様がなにを言っているのか、なにをしようとしているのかが全然わからなかった。ただ見つめ返してぼんやり立っていると、ぎゅっと顎を掴まれた。
「お前の髪の色はなかなかいい」
「……? あ、ありがとうございます……?」
おもむろに、サイード様が僕の手を取った。
「ふん……。握ってみろ」
「え?」
「いいから、握ってみろ」
えっと……? 手を握ってみろってそういうこと?
僕はそっとサイード様の指先を掴んでいる指に力を込めた。その途端ギュウッと強く握り返され、一瞬ビクッと身がすくんだ。
「レィチェ。俺を見ろ」
低くつぶやかれると、魔法にかけられたみたいに僕の目はサイード様を見つめた。なんでも突き刺して凍らせてしまうような鋭いまなざし。すらっと一本通った鼻すじと形のいい唇。自然と、神様の壁画でも見ているような荘厳さと畏怖に満たされる。いつの間にか、クイッと顎が上に向けられていた。ふわっとサイード様の香りが鼻をつく。
熱い吐息と共に、サイード様の口づけが降ってきた。
「くっちゅ、ぬっちゅ」
あ、う……。ざらりと感度のいいところを舐め上げられて僕は身もだえした。サイード様、キスがうますぎる。
かすかに目を開けると、逃がさないみたいにぎらつく青い光が見えて、僕はさらに身をすくめた。とたんに、サイード様が僕を離れた。
「ぬ? 違ったか。そうか、もっと軽くだったか」
「へ、え……っ」
今度はそっと僕の両頬をサイード様の両手が包むと、毛布みたいな柔らかなキスが降ってきた。
サイード様……。混乱しながらも、僕はようやくわかってきた。もしかして、サイード様は、僕の初めてのキスをやり直し、いや、上書きをしようとしているの……? な、なんで、なんのために……?
あの日ほどの新鮮味はなかったけれど、ドキンドキンと不安が混ざった鼓動が胸を鳴らす。
「次は、なんだ」
「え?」
「ビルゲとの初めての夜はなにをした」
「え……っ」
さっきから少しも変わらない表情なのに、サイード様はいったいどうしてしまったんだろう? どうして急に……。それにもしかして、僕のこと処刑するのを、やめてくれた……、ということ……?
「おい、次だレィチェ」
「あ、あの……」
「なんだ」
「ぼ、僕の処刑は……」
「今日はやらん。早く続くを言え」
「な、なんで……」
「気に食わんからだ。お前は俺の所有物。お前の中にある他のイーサンシュラーとの記憶、そんなものは必要ない」
「そ、それは……」
ぐいっと包まれた両手で視線を強制された。
「過去も未来もお前の全ては俺のものだ。俺だけを見ていろ」
ギクンと震えて体が素直に熱くなった。このぬくもりとこの視線……。
どちらも僕を離してくれそうにない……。
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