帝王の執着愛からは逃れられない ~桃の花 匂いたちたる 千と一夜~

国府知里

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第三夜

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 翌朝、僕は驚いた。自分にまだ首がついていたからだ。

「レィチェ様、湯あみの準備ができております」
「え……っ!?」

 昨日まで僕一人だった部屋なのに、若いメイドがそこに立っていた。

「え、え……? ど、どなた、ですか……?」
「アドとお呼びくださいませ。本日付けでレィチェ様の御世話をいいつかりました。お腹が空いてはございませんか? 湯あみの後すぐに召し上がれるよう取り計らってございます」

 ど、どういうこと……? 死んでなかった。その上僕付きのメイド? わけが分からぬままに、アドのいうままになった。湯から出ると、真新しい着物が準備されていた。それも、今まで見たことのないほど緻密な金の刺繍がついた豪華なものだった。
 そうか、わかった……。
 新しい着物に袖を通し、部屋に用意された豪華に料理を見て僕はようやく理解した。
 ここは天国なんだ。

「アドは神様のお使い……天使なんだね?」
「え……? なんのことでございますか?」
「だから、ここは死後の世界で、君は天使なんでしょう?」
「えっ、……?」

 アドが果汁の水割の入ったピッチャーを手にしたまま、ぽかんと口を開けた。
 あれ、天国では神様の使いのことを別の言い方をするのかな……?
 そのとき、突然何の前触れもなく部屋のドアが開いて、風が入ってきた。

「起きたか、レィチェ」
「サ、サイード様……!? ど、どうして……」
「どうしてだと? ここは俺の城だぞ」
「え……!? だ、だって、僕は死んだんじゃ……?」

 珍妙なものでも見るようなサイード様。
 突然、アドがくつくつと笑い出した。

「なんだ、アド」
「くすくす……っ、申し訳ございません、サイード様。ようやくレィチェ様のおっしゃっていた意味が解りましたので……」
「なんだ、レィチェがなにか言ったのか?」
「はい。私のことを神様の使い、天使なのかとお尋ねになりました。ここを死後の世界だと思われていらっしゃったようでございます」
「へ……っ? じゃあ、ぼ、僕はまだ生きて……?」
「はい、左様でございます。レィチェ様、私は天使ではなくただのメイドでございます」

 え……、そ、そんな……? な、なんで……?
 思わずサイード様を見ると、一瞬おかしそうに表情が崩れた。けれどすぐにいつもの冷徹な表情に戻った。

「お前は夢とうつつの違いも分からぬのか」
「も、申し訳ありま……、え……、でも、なぜ……?」
  
 テーブルの席に着いたサイード様が無言で僕を見つめた。青い瞳にドキッとする。
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