帝王の執着愛からは逃れられない ~桃の花 匂いたちたる 千と一夜~

国府知里

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第二夜

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 翌日の夜。僕は自分の脚を抱えさせられて、のしかかるサイード様の重さと熱さを感じながら喘いでいた。

「あっ、ああっ、はあ、はああ」
「ふっ、んっ、ふ、ふっ」

 僕の中をサイード様が熱く強く行っては戻り、一番奥でぐいぐいと揺れ動く。もはやできあがった水音と、とめどない熱いため息。甘い圧着と摩擦の快楽。ああ、感じる。サイード様を、強く感じる……!
 サイード様が奪う様にして、僕の唇をむさぼった。

「ちゅっ、くちゅっ、ちゅ」
「んっは、ちゅっ、んっ」

 激しいキスに息もとぎれとぎれ。すぐ間近に麗しいサイード様の顔があるだけで、僕は動けなくなってしまう。だって、この長いまつげに囲まれた切れ長の氷の刃のような目。野生の獣でも目だけで射すくめさせてしまうみたいな迫力。とても、さ、逆らえない……。

 ぬっちゅ、ぬちゅと、僕の奥を突くサイード様。ああ……、熱い……熱くて、最高にきもちいい……。
 爆ぜるのが近い。
 あっと思った瞬間、がぶりと口を塞がれた。僕の中にサイード様の愛の液がたっぶりと放たれる。

「ん、ふ……んっ……!」
「ふぬ……っ!」

 あ……ああ……、サイード様……。ど、どうして……。
 どうしてサイード様は、僕のことを……。

 僕はついさっきまでのサイード様とのことを頭に描いた……。

 今夜、僕はガクガクと震えながら、サイード様のお目通りを迎えた。
 今朝目が覚めたとき、僕はひとりで汚れたベッドの上にいた。昨晩の最後、どうなったのかを思い出せない。いや、正確には、サイード様を喜ばせると豪語したにもかかわらず、サイード様の手のひらの上で転がされ、気を失うまで喜ばされたのは僕のほう。それだけははっきりと覚えていた。
 朝から晩までの時間で覚悟はできたつもりだったのに、サイード様の冷たい視線を目の前にすると、僕の血は湖の水のように冷えていく。僕の人生は、ここまでだ……。朝からずっと祈りの言葉を捧げて来たけれど、ちっとも祈り足りない。死ぬ覚悟なんてできてない。怖くてたまらない。ああ、僕の代々のイーサンシュラーたちはどうなるんだろう。ラピュートナリアムはどうなるんだろう……。怖くて聞けない。
 それに、僕はどんなふうに処刑されるんだろう……。どんなに痛くて、苦しいだろう……。ああ……。ここから処刑上に引きずられて行くのか、それとも、この部屋で誰にも知られることなく殺されるんだろうか……。

「レィチェ」

 ギクッと体が跳ねた。低いその声に全身が慄き鳥肌が立つ。喉がカラカラだ。震える顎を奥歯を噛みしめることで保って、僕はなんとか答えた。

「……さ、昨晩は役目を全うできず、弁明の仕様もございません。し……死をもってその咎を償うべく……」
「ふん、確かに口ほどにもなかったな。シェフテリィーの手練手管というのは」
「……申し訳も……、ち、力及ばず……」

 サイード様は手練手管というが、実際のところシェフテリィーになにか特別な技術が備わっているわけじゃない。ただ、真心を込めてイーサンシュラーとの愛の務めに励むだけ。文化が違うシャバーヌ国ではシェフテリィーは男娼と同じだと思われている。でもその実は全く違うものだ。だけど、それをいくら口で話したところで納得などしてもらえるはずがない。それは実際に心と心、体と体を合わせてみて、初めて伝わるものなのだ。だけど、その大切な夜、僕は失敗してしまった。昨晩が最初で最後のチャンスだったのに……。もはや、昨日の失態を取り戻すことはできない。
 下を向いていたら、くいっと顎を掴まれて顔を上げさせられた。目の前に冷たくも美しい青い瞳が僕を見下ろしている。

「ラピュートナリアムにお前のような男は多くいるのか?」
「え……」
「どうなんだ?」

 すぐにでも処刑されると思っていたのに……? サイード様はラピュートナリアム王国の文化についてはほとんど無知で、興味もないと聞く。最後と思って、僕の気を楽にしようとしてくれているのだろうか……?

「あ、あの……。は、話すと少し複雑で……」
「構わん、話せ」
「は、はい……」

 シャバーヌ王国から砂漠を隔てた山河にあるラピュートナリアム王国は農業が基幹の小国だ。シェフテリィーの風習が生まれたのは国が始まって間もないころ。ラーチェという名の男性がその祖だとされている。稀なる美貌を持って生まれたラーチェは、同じく美貌の双子の妹の代わりにとある福家のものとなる。双子の妹はすでに幼馴染の若者と婚約をしていたから、妹のためにラーチェは身を投げうったのだ。福家の主は男色を好んでいたわけではない。だが妹思いのラーチェの優しさと、妹をあきらめて提案を飲んでくれた主へ感謝の心は、真心と忠誠となって主を支えた。実際ラーチェの働きによって主の家はさらに栄えた。そんなある年、その家を訪ねた別の福家の男がラーチェを気に入った。大切にするから譲ってくれ。譲ってくれたら、そなたの家を永遠に支援しようとまで言う。主はラーチェをその福家の男に譲り、永代の庇護を手に入れた。ここで初めて、シェフテリィーの風習が生まれたのである。
 美貌の若者ラーチェはその後も数奇な運命をたどる。新しい家でも可愛がられ重宝されラーチェ。今度はさらに裕福な家の男が現れ、ラーチェを譲って欲しいと願い出た。以前にラーチェが暮していた家を永代庇護するという盟約がある旨を伝えると、それではその家も含めてそなたの家も永代に面倒を見ようと言う話でまとまった。それでラーチェは次の主の元へ行くことになり、これまでの家は新しい福家の庇護に置かれることになった。これと同じことなんと十二回続いたある年、ラピュートナリアム王がラーチェを欲しがった。そして、王家はこれまでラーチェを引き取り愛してきた者たちを幸運を手にした者イーサンシュラーと呼び、重く用い庇護したのだ。
 ラーチェが譲り譲られ過ごしてきた代々のイーサンシュラーの家々は、軒並み栄え、資産をや人脈を手にした。これが、どんな美しい娘より、賢くたくましい息子より、遥かにたくさんの幸福と富をもたらしたシェフテリィーの国習の始まりだ。
 シェフテリィーとはラピュートナリアムの言葉で桃香花。すなわち桃の花の香りや甘く柔らかな花のことを指す。ラーチェは桃色の柔らかな髪に、桃のようにふっくらとした滑らかな肌、そして桃色の唇をしていたそうだ。そしてその体からは不思議といつも淡く甘い芳香がしたらしい。まさに、桃の木を燃やした時のような甘いお香のような香りだったそうだ。
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