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#76、 トントン拍子*

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 奈々江は午前中のピアノと歌、マナーとダンスの練習を終えてから、景朴の離宮の一室でトランプタワー作りに励んでいた。

「あっ、あっああっ! あ~っ、また崩れてしまいましたわ」
「わたくしもよ、ラリッサ。ナナエ姫様、どうやったらそんなに何段も積み上げられるのですか?」
「トランプタワーはとてもシンプルなのよ。同じことを淡々と繰り返せばいいの」
「それが難しいんですわ……」
「わたくしも。手先は器用なほうだと自負しておりますのに……」

 侍女がふたりで散らばったトランプや占いカードを拾い集めている横で、奈々江はすでに十五段のタワーをつくりあげていた。
 そんなとき、ドアがノックされた。
 トランプタワーを刺激しないように、メローナがそっとドアを開ける。

「あら、セレンディアス様。もうお約束の時間でございますか」
「いや、少し早く来たのだ。ナナエ様がトランプタワーを研究するとおっしゃっていたので」
「ええ、いままさにその真っ最中ですわ。
 でも、これはEドミノよりはるかに難しゅうございますわ。
 魔法玩具にするのは難しいと思いますわ」

 メローナに案内されて奈々江を見ると、さらに高くしようと椅子に上りながらトランプを積み始めている。
 ラリッサがその横でトランプを渡しながらはらはらしている。
 セレンディアスも思わず声をかける。

「だ、大丈夫ですか、ナナエ様……」
「ええ、大丈夫よ。でも、タワーにスカートの裾がぶつかりそう。
 トランプタワー遊びは女性にはあまり向かないかもしれないわ。
 いっそ、女性用のズボンを売り出すというのはどう?」

 セレンディアスが目を丸くしていると、くるりとこちらを振り返った拍子に、奈々江が椅子の上でぐらついた。
 思わず三者が三様に奈々江が倒れないように素早く手を差し伸べる。
 幸い、ぐらついただけで転げ落ちたりはしなかったが、三人ともほっと息を漏らした。

「ナナエ姫様ったら、ズボンの前にトランプタワー用の足場を作るほうが先ですわ」
「それに、ズボンは男性の履くものですから、いくらトランプタワーをやりたいからといってズボンを好んではく女性がどれくらいいるでしょうか」
「それよりも、ナナエ様。まずは椅子から降りてくださいませんか。
 落ち着いて話もできません」
「それもそうね」

 椅子から降りると、メローナが気を利かせてお茶の準備をするといって部屋を出ていった。
 セレンディアスがトランプタワーを見つめながら口を開く。

「次の魔法玩具にトランプタワーというのはもうお決めになったのですか?」
「ううん、そう言う訳じゃないんだけど、久しぶりになにかに集中したくて。
 頭の中が無になるまで集中できればリフレッシュになるし、なにかいいひらめきがあるかもしれないと思って」
「息抜きは必要でございますね。
 ブランシュ殿下にお願いして、どこか小旅行にでも行ければいいのですが」
「そうよね、わたしロカマディオール修道院と旧イェクレール聖堂以外、ほとんど外に出たことがないわ。
 でも、お兄様が許して下さるかしら……?
 太陽のエレスチャルを外せるということを打ち明けたら許してくれそうな気もするけど」
「グランディア王国へ嫁げるということがはっきりするまでは、まだ打ちあけずにおいた方がいいですね。
 切り札は切り札として手元に置いておく方が賢いと思います。
 では、シュトラス殿下にお願いするのはどうでしょう?
 幸い明日、いつもの亜空間で面会できることになりました」
「そう、じゃあ、祝賀会の報告ができるわね。
 でも、シュトラス殿下にお願いするってどういうこと?」
「シュトラス殿下は亜空間魔法が得意だという話はすでにご存じだと思いますが、いくつかの空間を経由すれば探知されることなく特定の空間に行くことができます。
 上手にお願いすれば、どこかの山河や田舎の村、湖畔の別荘などに案内していただけるのではないかと」
「ええっ、それはすごいわね……!
 でも、ちょっとずうずうしくない? まだ義理の姉弟でもないのに」

 セレンディアスがくすりと笑った。

「お忘れですか? シュトラス殿下には何人もの兄弟姉妹がいるのを。
 そのほとんどが呪いの仲間ではありませんから、僕のように亜空間魔法の使用を許されている訳ではありません。
 実際、ご親族の中でシュトラス殿下が作り出した亜空間魔法の使用をお許しになっているのは、僕が知る限りではエドモンド国王陛下とグレナンデス殿下だけだと思います。
 シュトラス殿下にとって血や家系的つながりだけが重要というわけではないのですよ」
「そう……。じゃあ、上手にお願いすれば……ってどうすればいいの?
 Eドミノは国の管理輸出品だから勝手に持ち出せないわ。
 それどころか、太陽のエレスチャルを取り出すためのネックレスをもらったのに、まだお礼もしてないのに……。
 それなのにお願いなんて、やっぱりずうずうしいわ。
 それより、シュトラス殿下にどんなお礼をすべきかを一緒に考えて」
「それもそうでしたね……」
「そういえば、セレンディアス。シュトラス殿下の十六歳の誕生日にはなにを贈ったの?」

 そのとき、メローナがメイドともにお茶を運んできた。
 それとほぼ同時に、ブランシュからスモークグラムが飛んできた。
 両方とも紅茶の香りだが、ブランシュのほうがやや強く甘い香りがする。

「あら、ブランシュお兄様が呼んでいるわ。審判の議卓に来られたし。なにかしら……」

 淹ったばかりのお茶にひと口だけ口をつけたあと、セレンディアスをともない審判の議卓に向かう。
 部屋に入ると、ブランシュとイルマラはすでに着席していた。

「揃ったな。かけてくれ、ナナエ。
 セレンディアスたちは後ろの部屋で控えていろ」

 後ろの部屋というのは、従者たちが控える部屋のこと。
 セレンディアス、ラリッサ、メローナが入ると、すでにエベレストやパロット他、イルマラの従者らが思い思いの場所で控えていた。
 ブランシュらだけでなく、従者たちにも漂ういつもと違う雰囲気に、メローナが小さく漏らし、ラリッサがかすかにうなづく。

「なんだか、物々しい雰囲気ですね……」
「わざわざこの部屋に集まるというのはなにか大事なお話に違いありませんわ」

 奈々江が席に落ち着くと、ブランシュが妹たちを見わたした。

「今日集ってもらったのはライスのことだ」
「あら、修道院送りになった方のことなど、今更なんだというのですか?
 もっと別なことで呼ばれたのだと思いましたわ」

 イルマラが意外そうに眉を上げる。
 ブランシュが真面目な面持ちを向けた。

「そうはいうが、実際ライスはロカマディオール修道院に行ってからもなにかと我々の役に立っているのだぞ」
「国民が国のために働くのは当たり前のことですわ」
「それはそうだが、国政にとってライスの存在が不可欠だという話だ」
「まさかそんなこと。とうてい信じられませんわ。
 確かにライスは優秀でしたが、なににおいてもライスでなくてはならないというほどの能力があったとは聞いていませんわ。
 現に、ライスがいなくても内政も外交も滞りなく動いているじゃありませんか」

 ふう、とブランシュがため息を吐いて、奈々江のほうを見た。

「ナナエもそう思うか?」
(……ブランシュ、もしかしてライスの待遇を変えようとしているの?)

 だとすれば、わざわざ審判の議卓に兄弟会の三人を集めたのもわからないではない。

「……あの、わたしには国政のことはほとんどわかりませんので、ライスがどのようにな役割を担っていたのかや、ブランシュお兄様がご存じのことについてはなにも意見できませんわ。
 でも、わたしから言えることといえば、音楽のことですわ。
 国王陛下とマイラ様との祝賀会のときも、ユーディリア様の祝賀会のときにも、ライスはなにかと力を貸してくれました。
 その点においては、わたしはとても感謝していますし、役立っていると確信いたしますわ」
「あら、ナナエさんがおっしゃるのなら、そのとおりですわね」

 イルマラは愛想よくナナエに賛同した。
 太陽のエレスチャル効果は薄れているはずだが、Eドミノや歓喜の歌などの功績を認めているイルマラにとって反対する理由などないのだ。
 それに、互いにはっきりと言葉を交わしたわけではないが、謎の音楽家エックスについても、イルマラは大いにその音楽を楽しんでいた。
 表立っては確認を求めることはしないが、度々あれはすばらしい音楽家だと誉め言葉を公言している。
 ブランシュは軽くうなづいて見せた。

「そうだ。ライスがいなければ、ナナエの才能は埋もれたままであったろう。
 ライスは今も何の見返りもなく、ナナエの音楽的活動を助けている。違うか?」
「そのとおりですわ」
「ブランシュお兄様、それはわかりましたわ。
 それでライスがどうだというのです?」

 イルマラが続きを急かした。
 ブランシュは丁寧な態度で、説き明かすような口ぶりで話し出す。

「イルマラ、つまり、ライスの存在は俺にとっても同じなのだ。
 離れてみて改めてよくわかった。
 俺がこれから国を担う上で、俺の支えとなってくれるライスがどうしても必要なのだ。
 俺はライスの減刑もしくは還俗を父上に願い出たいと考えている」

 イルマラがびっくりしたように目を丸くしてぱちぱちとさせた。

「なっ、なんですって!?
 あれだけの大罪を犯した犯罪者を許すのですか?
 それも、再び国政に登用するおつもりなのですか?
 いいえ、そんなの信じられませんわ。
 私だけでなく誰も信じられることではありませんわ。
 国家の威信が揺らぎます。
 まさか、王籍に復活までさせるおつもりですの?」
「い、いや……、しかしだな」
「ありえませんわ。
 絶対にありえないことですわ。
 いくらお兄様でも、そんなこと貴族界が許しません。
 お父様も簡単にお許しになるはずがありません」
「むう……」

 想定はしていたのだろうがやはり反発を食らい、ブランシュの顔色は悪い。

(ひょっとすると、ブランシュひとりの個人的意見だけでは弱いから、兄弟会からの要望としてファスタンに上申したいということかしら?
 だとしたら、わたしは賛成だわ。
 ライスが復活してくれたら、わたしはいちいちブランシュのためにロカマディオール修道院に引っ張られなくて済むんだもの。
 場合によっては、ただただ礼拝堂で待たされるもの正直辛いものがあるのよね……。
 だけど、あそこまで大騒ぎした事件の犯人が簡単に国政に戻れるはずがないよね。
 イルマラの反応が多分正しいと思う。
 うーん、だとしても、せめてわたし抜きでもブランシュが直接ライスに会いに行けるようになれたらそれだけでも助かるんだけど)

 ブランシュが弱ったように目を向けてきた。

「ナナエはどう思うか?」
「……難しいとは思いますが、わたしは概ねブランシュお兄様の意見に賛成しますわ」
「そうか、賛成してくれるか!」
「まあ、ナナエさん、本気なんですの!?
 一番被害を受けたのはあなたではありませんか」
「ええ、まあそうですが、わたしにとってはもはや過去のことですわ。
 ライスが近くにいてくれた方が音楽のことでは便利なことは確かですわ。
 それに、ブランシュお兄様がやはり血を分けたライスを弟として強く信頼し、その意見を重用しているということは節々に感じます。
 信頼できる者をそばに置くということは、王位を預かる者にとっては大事なことだろうと推測しますわ」
「でも、ライスは……。
 特異な性質が治ったというわけではないのでしょう?」
「それは治るといった類のものではありませんわ、イルマラさん。
 でも、ライスが王宮にちょこちょこ顔を出したくらいでは、イルラマさんにはなにも影響はありませんわ。
 わたしはロカマディオール修道院でライスを見ていますが、以前よりもはるかに精神的に安定していますし、人当たりもずいぶんよくなりましたのよ。
 間違ってももう一度隷属魔法を使おうなんて考えはきっと万に一つもないと思いますわ」
「で、でも、今でもその、ブランシュお兄様に懸想しているのでしょ?
 どんな顔をしてライスを見たらいいかわかりませんわ」
「ああ、そのことなら。もうライスは吹っ切れていますわ。
 今は心に別の方を想っているようです」
「なにっ!? いっ、いつの間に!?」

 突如ブランシュが前にのめった。

(え、ブランシュ気づいてなかったの?)
「ナ、ナナエ!  それは誰のことだ!?」
「誰って……、ここで話すことではないと思いますわ」
「誰なのだ! 俺は兄として弟を守る役目があるのだぞ!」
「そうだとしても、わたしの口からいうことではありませんわ。
 今度直接聞いてみたらよろしいのでは?
 というか、減刑や還俗の前に、まずはブランシュお兄様個人でもライスと面会できるようにしていただきたいですわ。
 ロカマディオール修道院の礼拝堂がいくら落ち着いて居心地のいい場所だとしても、二時間も三時間も待ちぼうけをされる身にもなって欲しいですわ」
「む、そ、そうだな……」

 イルマラがふうんとにわかに小首をかしげる。

「そうでしたの……。
 わたくしが知らないうちに、いろいろと状況も進展していたのですね。
 ナナエさんがそうおっしゃるのなら、少しはわたくしも考えてみないことはありませんけれど、だとしても、マイラ様はともかくお父様が国王陛下として簡単に減刑や還俗をお認めになるとはとうてい思えませんわね。
 お母様もきっと反対なさるわ、それは盛大に……」
「道が険しいのはわかっている。
 だが、この道を通らねば、永遠に俺は半人前の王位継承者のままだ。
 俺が状況を整理し、考えをまとめ、なにをどうしていいのかわからず迷ったときには、冷静な意見や的確なアドバイス、それに俺が読み飛ばして済ませてしまった書物に書かれた史実や統計的な数値、そうしたものを提供してくれるライスが必要なのだ。
 父上も実際のところはよくわかっておられるのだ。
 だが、俺一人の意見だけを取り上げるわけにはいかない」
「そういうことでしたのね。
 兄弟会からの要望としてお父様、いえ国王陛下にお願いしたいというわけなのですね」
「そういうことだ。どうだろう、イルマラ。
 賛成してくれるか?」

 イルマラは難しそうにやにわに眉をひそめた。

「賛成することはしたとしても、今のままでは決して受け入れられるとは思えませんわ。
 もっともらしい理由や建前がなくては、いかに国王陛下とはいえ単なる身内びいきになってしまいますもの。
 それに、まだ早すぎるとも思いますわ。
 国内外ともにまだ記憶に新しいことですもの、穏便にとは考えにくいですわね」
「しかし、声を上げねばことも始まらん。
 ともかく、賛成はしてくれるのだな?」
「……明言は控えさせていただきますわ。
 ライスの件に関しては、お母様もずいぶん動揺なさって遺憾に思っていらしたので、娘のわたくしだけ勝手をするわけにいきません」
「そうだな……」

 ブランシュがすこし肩を下げると、イルマラはさっとテーブルに手をかけた。

「ひとまず、お話は以上でしょうか? でしたらわたくしはこれにて失礼いたしますわ」
「ああ、以上だ……」

 イルマラがうなづくと同時に、イルマラの侍女たちが奥の部屋から出てきて、そつなく退出していった。
 ややうなだれている兄に向って、そっと話しかける。

「ブランシュお兄様、国王陛下にお話を試みてはいるのですね?」
「ああ……。実は、謎の音楽家エックスやフェリペのことも父上の耳には入れてあるのだ」
「えっ、そうだったのですか……?」
「お前には事後報告になってしまって悪かったが、フェリペの身の置き所も考えなくてはならなかったのでな。
 ただやはり、ユーディリア様に感づかれては厄介なので、どうしたものか考えあぐねているのだ。
 俺個人でフェリペを囲ったとて、なぜなにと問われれば相応の理由がいる。
 俺の個人財産から費用をねん出したとしても、大きな目で見ればそれも国の財産だからな。
 めざといユーディリア様がかぎつけないとは限らない」
「そうですよね……。でもできるだけ早くフェリペさんの体を回復させて、きちんとした生活をさせなくてはいけませんね。
 フェリペさんを厳しい戒律で縛っていたという意味では修道院はある意味適切な場所だったわけですものね。
 もし還俗させるのなら、フェリペさんの生活をきっちり世話できる人をそばに置かなくては。
 取り急ぎ今のところはライスがその役割を担ってくれていますが……」
「ライスも一緒に還俗させられれば、ひょっとするとフェリペを任せられそうではあるんだが……」
(え……、あ、そうだよ……! その手があるじゃん!)

 ブランシュの言葉で奈々江は頭の中で考えを並べてみた。

(わたしの音楽の管理者と、謎の音楽家エックスの楽譜の製作者として、フェリペにはこれからも音楽の仕事を続けてもらいたい。
 そのため、可能ならば、ライスと共に還俗させて、共同で音楽を管理させてどうだろう?
 実務的なことはフェリペが、フェリペの労働環境の管理をライスが担う。
 そもそも音楽の仕事は秘密だから、ふたりをばらばらにしてしまうより、一緒にいてもらったほうが秘密は漏れにくい。
 それに、なによりライスにとってはフェリペと一緒にいられるようになる……!)

 ものすごく合理的でいい案だが、現実にするには難しい点もある。

(秘密の保持に際して要注意人物となるのはもちろんユーディリア。
 フェリペとライスを一緒に還俗させたとしたら、ユーディリアの目をどうやって逸らせばいいんだろう。
 ユーディリアはフェリペのことは知らない。
 でも、ライスのことは王家の威厳を汚した者として厳しい視線を向けている。
 ……あれ、ってことは、ライスが還俗したとして、ユーディリアはライスをどう扱うのかな?
 もしかして、干渉しないどころか、好んで関わり合いにはならない気がする……。
 ってことは、えっと、つまり、フェリペの還俗にはライスを一緒に連れていたほうが、ユーディリアの目をごまかせるってことにならない……?)

 よくよく考えてみたら、そういうことになりはしないか。
 いきなりぽっとでてきた修道士を囲うから否応がなく理由が求められ、注目を集めてしまう。
 しかし、元王族であり最愛の弟を囲うのであれば、いろいろな意見はあれどさほど妙ではない。

(……そうだよね。とすると、じゃあ還俗させるのはライス。フェリペはそのお供ってことにすればよくない?
 本当はその逆が目的だけど、対外的にはライスの還俗が必用だと見せられれば……。
 んんん……。でも、それこそが無理難題か……。
 イルマラの反応をみれば、絶対に無理そうだよね……)

 眉間にしわを寄せていたら、ブランシュが話しかけてきた。

「ライスのことに関してはなかなか父上を説得できなくて、お前には迷惑をかけるな」
「え? ……ああ。そう簡単なことではありませんよね……。
 わたしが国王陛下にお願いしてみても無駄でしょうか?」
「太陽のエレスチャルを使ってか?
 効果はあるだろうが、やはり鶴の一声を上げるには後押しできる材料が足りないのだ……」
「でも、祝賀会のためにライスが譜面を起こしてくれたり、フェリペさんと共に編曲の手伝いなどをして間接的に貢献をしていることはお伝えくださっているのですよね_?」
「むろんだ。それだけではなく、俺も度々ライスの意見を聞きに行って、それによって判断が助かっていることは報告している」
「だめもとでも一度陛下にお願いに行ってみましょうか。
 でも……、行けば行ったで、そんなことよりお前の婚約者を早く決めろといわれそうですわ」
「そうだな……。
 太陽のエレスチャルを使えば要望は通りやすくなるだろうが、下手に交換条件を出されても困る」
「交換条件?」
「ライスを還俗させる代わりに、ナナエの太陽のエレスチャルを今すぐ取り出して拠出せよとかな」
「えっ、陛下はそんなことをおっしゃるんですか?」
「いや、例えばの話だ。あるいは自分のために称える曲を作れとか、そんなことならいいが、Eボックスの技術で兵器を製造せよ、といい出さないとも限らないぞ」
「え……、エレンデュラ王国は今国防の危機なのですか?」
「危機に瀕しているというわけではないが、供えあれば憂いなしということだ。
 国を統括するものは常にそうした視点を持っていなければならない。
 そういう意味では父上もライスを手元に置いておいた方がよいということはわかっているのだ。
 だが、貴族たちの考えや民意を無視はできない。
 強行すぎる決断を下せば、反感を招き人心が離れる。
 これはとても難しいバランスなのだ」
「……そうですか……。
 やはり、ライスが国にとって有益な存在だという確かな事実がなくては大義名分になりませんね。
 でも、ロカマディオール修道院にいる以上、表立ったことはできないでしょうし、なにかしら積み上げてきた功績をというには、まだ時が早するということでしょうか」
「そうだな。なにか、貴族たちや民衆をはっとさせるようななにかがなければ……。
 それも、人里離れた山岳の修道院の第一階級の身では無理だろうな……」
「第一階級……。そうでしたね……。
 フェリペの為のライスの還俗が無理なら、いっそライスの還俗の為にフェリペをいっしょに還俗させられたら、と思ったのですが……」
「うん?」
「あの、つまり、そのほうがユーディリア様が自ら遠ざかってくれるのではと思ったのです。
 ライスは犯罪人であり、王家の権威を穢した者ですから、ユーディリア様があえてそこへ首を突っ込もうとはされないのではと思うのです。
 とすればつまり、謎の音楽家エックスのことはユーディリア様にばれにくいのではと」

 ブランシュが一拍置いて、はたと眉をあげた。

「そうか……」
「え?」
「いや、わからん。だが、考えてみる価値はあるぞ」
「えっ、え? でも、ライスの還俗には……」
「いや、いい案だぞ、ナナエ!」
「えっ? えっ、つまり、どうするというのですか?」
「今はまだなんともいえん。俺はこれから父上と話してくる」
「は、はあ……」

 言うが早いか、ブランシュは従者たちをよんで、勢いよく部屋を出ていった。
 側にやってきたセレンディアス、ラリッサ、メローナに聞いてみる。

「ブランシュお兄様はなにをお考えなのかしら……。わかる?」

 三人とも奈々江と同じように首をかしげた。
 その後、景朴の離宮に戻ると、イルマラからスモークグラムが届いた。

「本日の議題について、ナナエさんとお話ししたいですわ。
 明日、わたくしの部屋でお茶をいたしませんこと?
 ちなみに、明日は公務でお母様はおりませんわ」

 イルマラなりに思うところがあったらしい。
 奈々江は招待を受ける旨を返して送った。

 翌日、ラリッサとメローナに充分めかしこんでもらって、イルマラの部屋を訪ねた。
 指定された時間通りに行くと、テーブルの上には四人分のティーセットが片付けられている最中だった。

「お待ちしていましたわ、ナナエさん」
「お誘いありがとうございます、イルマラさん。
 ひょっとして、前のお客様を急かしてしまいましたか?」
「いいえ、そんなことはないわ、さあ座って」

 案内されたソファに腰掛けると、すかさず新しい紅茶とお菓子が出てきた。
 イルマラは前置きもせずに口を開いた。

「ライスのこと、わたくしなりに情報収集してみましたの」
(えっ、情報収集!?)

 思わず、ぎくっと身を揺らしてしまった。

(ま、まさか、謎の音楽家エックスのこと?)
「ナナエさん、確認ですけれど、ライスは本当に男性しか愛せないんですの?」
「え……、ええ、そ、そうですわ」
「わたくし、知らなかったのですけれど、そういう男性同士を愛でる文化があるのは御存じ?」
「めでる……、えっ?」
「愛でるですわ。美しい花や景色を愛でる。生まれたばかりの赤子を愛でる。と同じ愛でるですわ」
(ああ……BLのこと……。そっか、イルマラは知らなかったのね……)
「ええ、あの、話には聞いたことがありますわ。
 ええと、つまり男性同士の愛を女性が好ましく思うことですわよね?」
「そうなんですのよ!
 信じられないけれど、世の中にはそういう趣向の女性がいるんですわ!」
(もしかして……、前のお客さんてその集まりだったの……?)

 イルマラは本当に戸惑ったように首をかしげて行儀わるく腕組みまでしている。

「それで、彼女たちに言わせると、ブランシュお兄様に焦がれるライスの報われない悲恋は、大変な耽美なことのようで、なんといいますか、人気がありますのよ」
「そ、そうなのですね……」
「それによると、まあ確かに男性には嫌悪をお持ちの方が多いようなのですが、女性にはそれなりの理解というかがあるようですのよ」
「理解……ですか」
「ええ、人によってはライスを応援するとまでおっしゃっているかたもいますの。あるいは、以前は興味がなかったけれど、今はライスが好きという人までいるのですわ。もちろん、これが全ての女性に当てはまるわけではないのですけれど」
「そ、そうですわね……」
「理解できるとはいえないまでも、そういう意見があるということは事実なのですわ。つまるところ、やりようによってはライスの地位を今よりは少しマシにできるかもしれないとも思われるのだけれど、ナナエさんはどう思いまして?」
(そ、そういわれても……。この世界のBL許容度なんか見当もつかないよ。でも、ライスが戻って来れるのであれば、どんな手であってもとは思ってしまうけど……)

 しばらく考えた後、ナナエは慎重に口を開いた。

「例え好奇の目にさらされることになっても、この期に及んではもはや致し方ないですし、そんな中でもライスのことを少しでも理解してくれる方々がいるということはわたしたち兄弟会にとって、あるいは王家にとってはありがたい存在のようにも感じますわ。
 ただ、なんとなくライスからしたらずいぶんと戸惑いそうな気がしますけれど……」
「……正直わたくしにはよくわかりませんわ。どういうわけなのか、ライスの恋を愛でている皆様は、やけに情熱的で、ライスの為なら減刑の要求運動をしてもいいとまでおっしゃっているのですわ。どこからその熱量が出てくるのかさっぱりですわ」
「げ、減刑の要求活動って、そこまで具体的なのですか?」
「いいえ、今日はわたくしも話を聞いてみただけですわ。とりあえずわかったことは、なにからなにまでがライスにとって風当たりが強いというわけでもなさそうだということはひとつですわ」
「そのようですわね……」

 イルマラの話を聞いて景朴の離宮に帰る間、考えてしまう。
 奈々江の持ち込んだらしいBLというかブラザーフットが、いつの間にか貴族の婦女の間にも浸透していたらしい。
 もちろん、奈々江が触れて回った訳ではないが、ライスの事件を発端にして、今まで水面下に潜んでいたものが顕在化したということだろうか。
 今後この世界に腐女子文化が花開くのかもしれないけれど、なにが正解かはわからない。

(そもそもの問題として、愛でるほうは無責任に好きなことをいえばいいけど、いくら耽美だBLだなんていったって、愛でられる方はどう考えても困るわよね……。
 いくら王家の人間とはいえ、本人にとってはプライベートなことだし。
 それに、それがまた非難を招くようなことなったら、ライスの立場はますます悪くなってしまうに違いない……。
 イルマラはやりようによってはライスの地位を今よりは少しマシにできるかもしれないといっていたけれど、やっぱり、BLファンの皆さんには大人しくしてもらっていたほうが無難よね……。
 好き勝手にさせたら、なにをしだすか見当もつかないわ)

 ひとりでに考えていたら、セレンディアスが、どうですか? と尋ねてきた。

「え、ごめんなさい、なに?」
「ですから、シュトラス殿下へのお礼の品です」
「あ、ああ、お礼の品」
「紅茶などはいかがでしょう? エレンデュラ王国にはちょっと変わったフレーバーをつけた紅茶がありますよね。
 グランディア王国にはないものも数多くあり、僕は良いと思ったのですが」
「あ……、ほんと? じゃあ、そうするわ。ありがとう、セレンディアス」

 ひとまず、シュトラスへのお礼は紅茶のセットを手配した。
 リフレッシュのための空間魔法をねだるというのは脇に置いておいても、グレナンデスのことがどうなっているのかを聞きたい。
 その進展が第一課題なのに、人頼みというか、シュトラス頼みでそこから先になかなか進まない。
 グレナンデスにはなにか考えがあるらしいという話だったが、一体何を考えているのだろうか。
 記憶の中のグレナンデスを呼び起こす。
 王家の後継者としての立場がありながら、祖国を捨てるようなまねをしてまで、奈々江を追いかけてきたグレナンデス。
 エレンデュラに潜んでいるらしいということまではわかっている。
 一体どこへ行けば会えるのか……。
 居場所さえわかれば、今の奈々江なら犬の姿を借りて城を抜け出し会いに行けるのに。
 もう一度、トラバットに様子を聞いてみたらどうだろうか。
 そんなことを考えながら過ごしていたある日、国王ファスタンから呼び出しを受けた。

(クレアの同席もないとなると、……はあ、いよいよ婚約相手を決めろと迫られるのかも……。
 なんとかして躱すしかないわね……)

 そんな心構えで迎えに来た従者に従われて行くと、いつもの謁見の間ではなく、プライベートな私室に案内された。
 しかも、そこにはファスタンだけでなく、ブランシュとマイラが同席していた。
 ブランシュはわかるが、なぜマイラまでもいるのだろうか。
 奈々江が困惑気味に挨拶をすると、マイラがにこやかにやってきて、奈々江の手を取った。

「ナナエ、さあ来て、ここへ座ってちょうだい」
「マイラ様……」
「さあ、わたくしの隣に来て、さあ」
(な、なんなの……、怖いんだけど……)

 マイラの隣に座ったところで、ファスタンが口を開いた。

「ナナエ、謎の音楽家エックスの話はブランシュから聞いている。
 巷でもなかなかの評判だそうだな」
「は、はあ……」
「ブランシュからの提案でな、実はライスを還俗させるためにこうしたらどうかと話が持ち上がっている。
 それで、ナナエがどう思うか聞かせてもらいたいと思って、今日は呼んだのだ」
(え、ライスのことだったの?)

 ブランシュを見るとすかさずうなずき返してきた。

「ええと、それで……?」

 奈々江が促すと、今度はブランシュが口を開いた。

「音楽家エックスの正体はライスだということにして、それを公表するのだ」
「えっ……!」
「心配するな、音楽家エックスに関わる収入はきちんと管理して、お前のものとすることは変わらない。
 ただ、表向きは音楽家エックスの作った曲はすべてライスの手によるものだったということにするのだ。
 そうすれば貴族界において、ライスを見直すきっかけになると思う」

 今度はマイラが身を乗り出してきた。

「そうよ、ナナエ。音楽家として認められたということになれば、ライスへの風当たりは和らぐわ。
 いきなり王籍に戻ることは難しいかもしれないけれど、修道院から出て貴族らしい暮らしに戻ることができるの。
 王宮の側でなくても、どこか静かな屋敷で居を構えれば、わたくしもあの子の顔を見に行けるのよ」
「そ、そういうことでしたか……」
「ナナエ、あなたはどう思って?」

 ぎゅっと手を握られ、マイラの必死な瞳がきらめいた。
 息子のために一生懸命な母親の姿そのものだ。

(つまり、ブランシュの案はこういうことだったのね……。
 フェリペを囲うためにライスを還俗させることはできない。
 だけと、ライスを囲うためにならフェリペを王命によって従わせることができる。
 そのライスを修道院暮らしから解放するために必要な建前。
 そのために、謎の音楽家エックスは最適だということ……。
 たしかに、思ってもみなかったけれど、それなら貴族界の反発をやわらげられそうだわ……)

 一通り理解できた後、奈々江はブランシュに顔を向けた。

「では、フェリペさんをライスの還俗に同行させられるということなのですね?」
「ああ」
「イルマラさんもこの件を飲んでくださるでしょうか?」
「俺が説得する。……というより、ナナエが説得してくれた方がイルマラには効く気もするが……」
「わたしからお願いはできますが、でも最終的には、ライスが国政において必要不可欠であるということをイルマラさんに理解してもらうことのほうが重要ですわ。イルマラさんにはわたしのためにというより、国のためにこの秘密を共有していただくと納得していただかないと」
「では、了承してくれるのね、ナナエ!」

 とたんに、ぎゅうっとマイラの腕の中に閉じ込められた。

(くっ、くるし……)
「マ、マイラ様……、どうか落ち着いて下さい。いずれにしても、ユーディリア様にかぎつけられたら、元も子もない話ですわ……」
「はっ、そうよね! 実現するまでは、顔に出さないように気を付けなくてはね……。でも嬉しいわ!」

 ファスタンがマイラの喜びように目を細める。

「マイラ、気持ちはわかるが、もう少し慎重に。イルマラにはわしからもよく話しておこう。
 無論、万が一にもユーディリアに知られた場合であっても、ナナエやクレアの立場が悪くならぬように配慮する。
 ユーディリアとて、国の安定が王家に課せられた責務であることは理解しているはずだからな」
「お母様のお立場が守られ、ユーディリア様との間に国王陛下がきちんと入って折り合いをつけてくださると明言していただけるなら、わたしはこの案に賛同いたしますわ」
「そうか、ナナエ、お前には感謝する」
「あ、ただし、お母様にはきちんとお話を通してくださいね。いくら権力とは一線を引いているとはいえ、お母様おひとりでは精神的にもおつらいことがあるのです。スルタンお父様が生きていれば心の支えになっていただけたり、相談したりということもできたでしょうが、お母様のひとりの身では抱えきれないこともあるのですわ。ですから、家族としてお母様にもちゃんとフォローしていただきたいのです」

 ナナエがいうと、ファスタン、マイラ、ブランシュが驚いたように目を見開いた。
 初めてクレアの立場を知ったというような反応だった。

「……そ、それはそうだな……。ナナエのいう通りだ。わしからクレアにしっかりと話をしておこう」
「そうですわね……。わたくしもこれからはお姉様に頼るばかりでなく、お姉様のお話を聞きたいと思いますわ」
「確かに、そうだったな……。王家として……いや、一族としてクレア様にもっと寄り添って差し上げるべきだった。
 これからはそうすると約束する」
「その言葉が聞けて安心しましたわ。後のことは国王陛下とブランシュお兄様の思う様にしていただいて構いませんわ」

 話が決まり、方々の準備を整えたのち、王命としてこの件を修道院に持って行った。
 初めライスは自分がまさか音楽家エックスを名乗る羽目になるとは思いもよらず、また奈々江の成果を我が物にすることにためらいを見せたが、もはや王命で断れないことを知ると渋々了承した。

「ライス、思うところはあると思うけど、これでフェリペさんと一緒に暮らせるのよ。
 貴族界に戻るという苦労もついてくるけど……」
「それはありがたく思います……」

 礼拝堂でいつものように面会していると、ライスがぽっと頬を染めてフェリペを見た。
 その視線に気が付いたフェリペがややあって、小さく微笑みを返した。

(えっ……? 今のやりとりって……)

 すかさずライスに目を配ると、小さくうなづいた。

(そうなんだ、思いが通じ合ったのね……! よかったね、ライス!)

 思わず、ライスの手をぎゅっと握った。

「なんだか、トントン拍子に物事がうまくいったみたい!」
「ナナエ殿下にはいろいろとお力になっていただき感謝しかありません」
「む? 今回は俺もいろいろと手を尽くしたつもりだが」
「あっ、いや、もちろん、ブランシュ殿下にも感謝しております……!」

 ブランシュに視線で責められ、ライスははすに体と視線を避けている。
 ライスがブランシュにフェリペのことを打ち明けるのにはもうしばらく時間が必要になりそうだ。
 ふたりを置いて、奈々江はフェリペを側に呼んだ。

「そういうわけですから、フェリペさんにはいろいろと環境を変えたのちもお世話になります」
「はい、これからも尽力いたします」
「フェリペさん、ひとつだけ約束してください」
「はい」

 以前より少し回復した様子のフェリペが顔を上げる。

「これからは自分から音楽を手放すようなまねをしてはいけません」
「え……?」
「だって、そうですよね? 音楽が大切だからって、自分の体を顧みないで没頭していたら、命を縮めてしまいます。
 死んでしまったら、もう音楽を楽しむことはできなくなってしまうんですよ。
 あなたは自分から進んで音楽を手放そうとしたんです。
 それをわかっていますか?」
「……そ、そういわれますと、確かに……」

 フェリペがにわかに視線を下げた。

「あなたの関わってくれた音楽は、誰のものですか?」
「ナ、ナナエ殿下のものです……」
「違います! 曲を聞いてくれたすべての人のものです。あなたはそのすべての人と音楽を分かち合うという仕事を与えられているんですよ。だから、ひとりで勝手に暴走してはいけません。
 わたしやライスや、音楽に関わってくれる人や、聞いたり演奏してくれる人たちと一緒に音楽を楽しむということを忘れないでください。
 あなたにはその責任があります。わかりましたか?」
「は、はい」

 フェリペの表情が少しだけ真剣みを増す。

(フェリペさん、わかってくれたかな……?
 わたしも職場ではつい突っ走っちゃうところがあったけど、中ちゃんがそばでセーブしてくれたりしたからやってこれたんだよね。
 フェリペさんにとってライスがそのストッパーみたいになってくれたらいいけど)
「そういうことだから、ライス、フェリペさんがまた暴走しそうになったら、ちゃんとセーブしてよね」
「はい、もちろんです」

 ライスとフェリペが目線を合わすと、互いに柔らかくほほ笑んだ。
 その様子を見て、ブランシュは初めてなにかを感じ取ったようだ。

(……あ、ブランシュがもう悟っちゃったかも……。
 まあ、ブランシュの強烈なブラコンは今に始まったことじゃないし、付き合いも長いライスならきっと説得できるよね……。がんばれ、ライス)

 今にも詰め寄りそうなのを堪えているブランシュを見て、奈々江はこの先のライスとフェリペの苦労を慮ったが、見てみぬふりをすることにした。


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