86 / 92
#85、 この式が終われば
しおりを挟むついに、この日がやってきた。
奈々江とシュトラスの結婚式だ。
何度も試着を重ねたドレスに身を包み、白いバラのブーケを手に持つ。
「ああ、ナナエ、なんて美しいの!」
「本当に! わたくしも娘を産んでおけばよかったわ!」
クレアとマイラがうっとりとしている。
ラリッサとメローナが自分のことのように誇らしげに、ナナエの身支度を整えている。
「準備はいかがですか?」
「ええ、入っていいわよ、セレンディアス」
奥の部屋からセレンディアスが出てくる。
はっと息を飲んで、にこりと微笑んだ。
「ナナエ様、お美しゅうございます」
「ありがとう、セレンディアス」
クレアが興奮にピンク色に頬を染めて声を上げる。
「さあ、式が始まるわ! この日をどんなに待っていたか!」
案内されて、奈々江は謁見の間に続く控室に入った。
スカートのすそを丁寧に整えた後、ラリッサとメローナが出ていく。
「焦らずゆっくりと歩いて下さいね」
「ナナエ姫様、この目にそのお姿を焼きつけますわ!」
「わかったわ、ありがとう」
しばらくするとノックが響いた。
そちらを振り向くと、白のドレスコートに身を包んだ、シュトラスが立っていた。
一瞬、息を忘れ、シュトラスは上ずった声でどもった。
「ナ、ナナエ姫……、。と、とても、きれいです……」
「あなたもよ、シュトラス様」
シュトラスが緊張した面持ちで、奈々江の脇の定位置に立った。
まともに顔が見れず、シュトラスは高鳴る心臓を抑え込もうと必死になった。
「シュトラス様」
「はい……」
「シュトラス様、こっちを向いて下さい」
「……」
すぐ横にまばゆいばかりに輝く奈々江がいる。
奈々江の横には少し強張っているものの、うっとりするくらいに魅力的なシュトラスが立っている。
お互いに見つめあうと、どちらともなく笑ってしまった。
「き、緊張しますね」
「はい、でもふたりなら大丈夫ですわ」
「はい」
互いに手を取り合い、ぎゅっと握った。
「あ、待ってください、これを」
奈々江はエアリアルポケットを開き、中から聖水のエレスチャルを取り出した。
「ナナエ姫、これは……」
「陛下に返してもらったの。これはあなたのものですわ」
「そんな、ああ……」
奈々江が輪を作って差し出すと、シュトラスが頭を下げる。
そっと首にかけると、体になじんだ光が、シュトラスの胸に輝いた。
シュトラスの頬にうれしさがこぼれる。
「ありがとうございます、ナナエ姫」
「あなたがうれしいと、わたしもうれしいの。
そんなこと、いわなくてもわかってしまうわね」
「はい」
まるで溶けるように奈々江の温かい気持ちが伝わってくる。
今すぐにでもきつく抱きしめて、キスしたい。
(この式が終われば……)
シュトラスはきゅっと奈々江の手を握った。
応えて握り返すその感触がうれしくて、シュトラスは夢見心地になる。
そう、まるで夢だった。
その言葉が聞こえて来たとき、シュトラスは理解が全くできなかったのだ。
(今日できっと、この夢も覚めるはずだわ)
奈々江のその言葉の意味を、このときシュトラスはまだ知らなかった。
*お知らせ-1* 便利な「しおり」機能をご利用いただくと読みやすいのでお勧めです。さらに本作を「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届きますので、こちらもご活用ください。
*お知らせ-2* 丹斗大巴(マイページリンク)で公開中。こちらもぜひお楽しみください!
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います
下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。
御都合主義のハッピーエンドです。
元鞘に戻ります。
ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる