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#85、 この式が終われば

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 ついに、この日がやってきた。
 奈々江とシュトラスの結婚式だ。
 何度も試着を重ねたドレスに身を包み、白いバラのブーケを手に持つ。

「ああ、ナナエ、なんて美しいの!」
「本当に! わたくしも娘を産んでおけばよかったわ!」

 クレアとマイラがうっとりとしている。
 ラリッサとメローナが自分のことのように誇らしげに、ナナエの身支度を整えている。

「準備はいかがですか?」
「ええ、入っていいわよ、セレンディアス」

 奥の部屋からセレンディアスが出てくる。
 はっと息を飲んで、にこりと微笑んだ。

「ナナエ様、お美しゅうございます」
「ありがとう、セレンディアス」

 クレアが興奮にピンク色に頬を染めて声を上げる。

「さあ、式が始まるわ! この日をどんなに待っていたか!」

 案内されて、奈々江は謁見の間に続く控室に入った。
 スカートのすそを丁寧に整えた後、ラリッサとメローナが出ていく。

「焦らずゆっくりと歩いて下さいね」
「ナナエ姫様、この目にそのお姿を焼きつけますわ!」
「わかったわ、ありがとう」

 しばらくするとノックが響いた。
 そちらを振り向くと、白のドレスコートに身を包んだ、シュトラスが立っていた。
 一瞬、息を忘れ、シュトラスは上ずった声でどもった。

「ナ、ナナエ姫……、。と、とても、きれいです……」
「あなたもよ、シュトラス様」

 シュトラスが緊張した面持ちで、奈々江の脇の定位置に立った。
 まともに顔が見れず、シュトラスは高鳴る心臓を抑え込もうと必死になった。

「シュトラス様」
「はい……」
「シュトラス様、こっちを向いて下さい」
「……」

 すぐ横にまばゆいばかりに輝く奈々江がいる。
 奈々江の横には少し強張っているものの、うっとりするくらいに魅力的なシュトラスが立っている。
 お互いに見つめあうと、どちらともなく笑ってしまった。

「き、緊張しますね」
「はい、でもふたりなら大丈夫ですわ」
「はい」

 互いに手を取り合い、ぎゅっと握った。

「あ、待ってください、これを」

 奈々江はエアリアルポケットを開き、中から聖水のエレスチャルを取り出した。

「ナナエ姫、これは……」
「陛下に返してもらったの。これはあなたのものですわ」
「そんな、ああ……」

 奈々江が輪を作って差し出すと、シュトラスが頭を下げる。
 そっと首にかけると、体になじんだ光が、シュトラスの胸に輝いた。
 シュトラスの頬にうれしさがこぼれる。

「ありがとうございます、ナナエ姫」
「あなたがうれしいと、わたしもうれしいの。
 そんなこと、いわなくてもわかってしまうわね」
「はい」

 まるで溶けるように奈々江の温かい気持ちが伝わってくる。
 今すぐにでもきつく抱きしめて、キスしたい。

(この式が終われば……)

 シュトラスはきゅっと奈々江の手を握った。
 応えて握り返すその感触がうれしくて、シュトラスは夢見心地になる。
 そう、まるで夢だった。
 その言葉が聞こえて来たとき、シュトラスは理解が全くできなかったのだ。

(今日できっと、この夢も覚めるはずだわ)

 奈々江のその言葉の意味を、このときシュトラスはまだ知らなかった。




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