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#84、 相談
しおりを挟むシュトラスの住む屋敷に、ブランシュとライスがやってきていた。
三人はそれぞれに椅子やソファにくつろいでいる。
とはいえ、楽し気な話をしているわけではではなかった。
「ナナエは亜空間の新居に同意してくれたようだな?」
「はい」
ライスが慎重そうに手元の紙を眺めている。
「時間の経過が極めて遅い亜空間にナナエを移すというのは、確かにいい案です。
短い寿命であるナナエの時間を遅らせている間に、こちらでは研究を進める。
命を回復するための魔法を見つけるまでの時間が稼げます。
ただ、ナナエがひとたび空間から出てきてしまえば、時間の経過に差があることはすぐに気づいてしまいます」
「ですから、例えば三年。
現実世界では三年たつ間、亜空間の中では一年が過ぎるというように設定したらと思うのです。
季節や行事などによるずれを回避しやすくなります」
紙に書かれたシュトラスの案をライスは目で追う。
ブランシュは腕組みをしてライスの手元を見つめる。
「しかし、年間行事ばかりではないし、家族や友人たちには子の出生や親族の死亡、それ以外にもあらゆるイベントが発生する。
そこで時間のずれは簡単にばれてしまう」
「兄上、やはり、ナナエには正直に話したほうが良いのでは? いずれわかってしまうことですし……」
「いや、話すにしても、結婚を控えた今伝えることではない」
「そうですね。折を見て、ナナエが受け入れられる頃合いをはかる必要がありますね」
「いっそ、亜空間に閉じ込めて置ければいいのだが、無理だろうな」
シュトラスが首を左右に振った。
「そ、それはできません! ナナエ姫がかわいそうすぎます」
「それでは、ハネムーンというのはどうだ? 一年かけて、亜空間の中でハネムーン旅行をするのだ」
ライスがびっくりしたように目を見開く。
「それは、壮大な空間魔法ですね! しかし、シュトラス殿下の魔力だけでは……、いや、セレンディアスの力も借りればできないこともないかもしれません」
シュトラスもまたブランシュの発想に驚くが、首をふった。
「それでは、僕が研究に関わることができません」
「む、そうであった……」
「とにかく、もう少し検討してみましょう」
「そうだな」
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