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#41、 闇に乗じて
しおりを挟む奈々江の部屋はライスの攻撃魔法とラリッサの奮闘で、嵐が過ぎ去ったようなありさまだった。
「メローナ、どうしよう、ラリッサが、ラリッサが……!」
「ナナエ姫様、落ち着いてください」
「隷属魔法って何!? ラリッサはどうなるの!?
ラリッサはわたしと同じ風の属性……!
あのブレスレットがラリッサを阻害しているんでしょう!?」
「落ち着け、ナナエ」
ブランシュが歩み寄ってきたので、奈々江は目を見開いた。
「こ、来ないでください。わたしはブランシュお兄様を信じられません……!」
奈々江の言葉に、メローナがさっと前に出て奈々江をかばった。
ブランシュがにわかに瞳を揺らし、足を止めた。
クレアがすかさず奈々江に駆け寄る。
「ブランシュさん、これはどういうことなのですか!?
陛下もご承知なのですか!? それとも、ライスさんの独断ですか!?」
クレアは黒い瞳を炎のように揺らし、まるで獣のような威圧でブランシュをねめつけた。
母性本能にはすざまじいものがある。
初めて見るクレアの怒りに、奈々江でさえ震えた。
ブランシュが苦しそうに答える。
「い、いいえ! どうか信じてください。
俺も、ライスがこんな強硬な手段に出るとは思ってもみませんでした。
父上もなにも知らないはずです。
でも、あいつにはきっと、なにかわけがあるはずです……」
「どんなわけがあるというのですか!?
仮にも戸籍上の兄妹であり、縁続きの従兄妹同士であり、将来の妻となる相手に隷属魔法をかけようとしたのですよ!
無頼者にも劣る許されざる所業。
たった今目の前で見たこの事実をもってして、一体どんなわけがあるというのです!」
「そ、それは、わかりませんが……」
「話になりませんわ!」
クレアが胸元から水晶の棒のようなものを取り出した。
「呼び手あり 盟印のもと ここに出で 歌い届けよ ナイチンゲール」
呪文ともに水晶を振ると、キラと光った瞬きの中から一羽のナイチンゲールが飛び立っていった。
どうやらクレアの召喚魔法で、通信手段でもあるようだ。
ナイチンゲールが割れた窓ガラスから外へ出て行くのを確認し、クレアはふたたび厳しいまなざしをブランシュに向けた。
「ことの真相がはっきりするまでは、ナナエの結婚はどんなことがあろうとも承諾いたしません。
ブランシュさん、どうぞお帰り下さい」
「しかし、待ってください。どうか……」
「ここは私の屋敷です! 追い出してもいいのですよ!」
「……わ、わかりました……」
説得をあきらめたブランシュが一礼をし、顔を伏せたまま出て行った。
クレアは水晶をしまうと、奈々江の手を取った。
「許して、ナナエ。こうなるとわかっていたら、私は決して承知しなかったわ」
「お母様……、守ってくださってありがとうございます」
「本当に、私はだめな母親ね。あなたのためにと思っているのに、失敗ばかりだわ」
「そんな……」
「あなたはひとりでなんでも決めてしまうから。もっとあなたの話を聞くべきだとわかっていたはずなのに」
「え……?」
なんのことだろう。
奈々江がきょとんとしていると、クレアはてきぱきと指示を出し始めた。
「さあ、みんな、ぼうっとしている時間はないわ!
ナナエの部屋を早く元通りにしてちょうだい!
それから、防御魔法を使える者は全員屋敷中の出入り口に魔法をかけるのよ!
今度ライスが来たら、私が竜巻を起こして空のかなたまで吹き飛ばしてやるわ」
メイドたちが一斉に動き出し、あれよという間に奈々江の部屋は片付けられた。
割れた窓ガラスや壊れた調度品は、誰も修復魔法が使えなかったので、クレアが再びナイチンゲールを飛ばして、魔導士を派遣させた。
すっかり片付いたのはいいが、心配なのはラリッサだ。
「かわいそうだけど、ラリッサが無事であることを今は祈るしかないわ。
ライスは人質といったから、そう簡単に死なせたりはしないはずよ」
「一体どこへ連れ去られたのでしょうか、お母様。せめて治療はしてもらえるのですよね?
ラリッサは怪我をしていましたし、すごくぐったりとしていました」
「正直、私にもわからないわ。あんなライスを見たのは私も初めてなのよ。
いずれにしても、私の娘に隷属魔法をかけようとしたことは、絶対に許さないわ」
「その隷属魔法というのはなんなのですか?」
「簡単にいえば、魔法をかけた人間に決して逆らえなくなる魔法よ。
野生の動物や、興奮して手に負えない家畜を大人しくさせるために使うのよ。
人に対して行うこともあるけれど、それはたったひとつの場合しか許されていない。
つまり、罪人をさばくときよ」
「罪人に対する魔法だったのですか……」
「ええ。決して普通に使っていい魔法ではないの。
そもそも、限られた地位を持つ者にしか許されていないし、誰でも学べる魔法ではないの。
だからこそ、決して許されるべきではないわ。
これを許したら、人が人への、社会への信頼がすべて根底から崩れてしまうの」
奈々江にも事の重大さが見えてきた。
もし、あのままブレスレットをつけられていたら、一体どうなっていたのだろう。
自分にとって恐ろしいことだけは奈々江にもわかる。
だが、同時に疑問も出てきた。
(ライスは一体どうして、わたしに隷属魔法をかけようとしたの……?)
確かに、奈々江にはライスとの結婚は考えられない。
ライスは奈々江を目の敵にしていたし、もしかするとライスも奈々江とは結婚したいと思っていなかったのかもしれない。
しかし、奈々江と違って、ライスには断る余地がある。
どうしてもいやなら、ただ断ればよかったはずだ。
(それなのに、どうして断らずに結婚することを承知したの?
しかも、許されない魔法まで使って。
断れない理由があったの?
それとも、わたしを逆らえないようにして、どうにかしたかったのかしら?
私の魔力? 逃げられないようにするため? 自殺させないため?)
考えてみると、どうも妙な気がする。
グランディア王国にもう一度戻りたいと話したのは今日がはじめてだ。
ブランシュがそれをライスに話したのはいいとしても、反応が早すぎるような気がする。
もしも、そうだとすれば、ライスは午後の数時間の間にあの隷属魔法が施されたブレスレットを準備したことになる。
奈々江にはよくわからないが、魔法アイテムはそんな簡単に設えることができるものなのだろうか。
それに、ブランシュの反応からしても、今回のことはライスの独断のように思える。
しかも、そのライスに至ってはどこか投げやりというか、自暴自棄な印象もあった。
これまでのライスは、ブランシュに意見に常を耳を傾け、それに従う様に行動していた。
それが今回は、父と兄の意見に従っているといいながらも、そのやり方はまるでめちゃくちゃだ。
奈々江を妻にすることは、国のためだというのに、倫理的に許されない魔法を使い、重大な罪を犯しかけた。
信頼を失うとわかっていて、なぜこのような強行な策に出たのだろうか。
奈々江をコントロールできるという利はあっても、その代わりに失うものが多すぎる。
ライスは出合った時から、いつも規範であるブランシュからの信頼に重きを置いていた。
どうしてその兄の信頼を裏切るような行動に踏み切ったのか。
(そうだよ……。
こんなことしても、ライスはなにも得をしない……。
むしろ、損をしてる)
もしも奈々江がどうにもしようのないくらい結婚を拒絶するのなら、幽閉するとか、取引するとか、なにかしらの他の方法もある。
国対個人なのだから、やってやれないことはないはずだ。
だから、ライスひとりが泥をかぶって、奈々江をコントロールしようとなどする必要がない。
たったひとりで横暴な手段に訴える前に、なんどでもいくらでも、ライスを押しとどめるものがあったはずだ。
そう考えると、ライスの行動は腑に落ちない。
(どうしてライスはひとりでこんなことを起こしたの……?)
奈々江の知る限り、それを知っていそうなのは、ブランシュだけだった。
景牧の離宮が落ち着きを取り戻し、防御魔法で完璧に守られたところで、奈々江たちはお茶を飲んだ。
時間はすでに夕食のころ合いだったが、掃除と防御魔法に時間を取られ、まだ準備が整っていない。
メイドのひとりが部屋にやってきた。
「国王陛下と王妃陛下がお見えです」
「来たわね」
クレアは、ようやく来たかとでもいうように、荒くカップとソーサーを置いた。
人払いさせ、揃って出迎えると、挨拶抜きに、マイラが声を上げた。
「ああ、ナナエ! お姉様! どうか、許して!」
「マイラ、ともかく、ナナエは無事だったわ。あなたも落ち着いて」
「お姉様……。私にはわからないのです、どうして、どうしてライスがそんなことをしたのか……」
ファスタンが影の深い眉間を備えながらも、いたわりを口にした。
「ナナエ、無事でなによりだった。
お前の侍女がライスに連れ去られたそうだな。心配であろう」
「はい……。今、ラリッサはどこにいるのですか?」
「……それはわしにもわからん。
今、ブランシュに探させている。ライスのことを一番よく知っているのは、ブランシュだからな」
「……大丈夫ですよね? 生きていますよね?」
奈々江の必死な表情に、ファスタンがやや目を曇らせる。
「わしもそう信じたい」
「……」
クレアが第二の夫と妹を交互に見た。
「今回のことは本当に、ライスさんの独断なのですね?」
「ああ、そうだ。
わしがブランシュと相談してライスとナナエの結婚を決めたのは、二日前のことだ。
それからライスに伝えたのが昨日のこと。
そして、今日ブランシュから報告が上がってきた。
ナナエ、お前は一旦は辞退しておきながら、もう一度グレナンデス皇太子の妃候補になりたいそうだな」
「はい……」
目を見開いたのはクレアだった。
この場にいる者の中で、知らないのはクレアだけだった。
「その報告を聞いて、ライスはわしとブランシュの前から立ち去ったのだ。
そのときの顔がどこか思いつめた様子だったのでな、ブランシュに後を追わせたのだ。
それがまさか、こんなとになろうとはわしは予想もしなかった」
「ひょっとしたら、ライスはあなたに想い人がいると知ってショックを受けたのかもしれないわ。
あの子はプライドの高い子だから」
(ええっ? まさか、それはないと思うけど……)
終始奈々江に冷たかったライス。
一度確かめたときには、親愛のイエローゲージを持っていた。
そのゲージですら、太陽のエレスチャル効果が多少影響していても半分程度だった。
「それはないと思います。むしろ、わたしはライスお兄様にはどちらかといえば嫌われていたと思います」
「まあ……」
「とすると、無理強いが過ぎたかもしれんな。
ライスは繊細なところがある。
好かない相手との結婚をどうにか自分なりに折り合いをつけようとしたのかもしれない」
クレアがぎろりとファスタンを睨んだ。
「だからといって、隷属魔法を持ち出すのですか?
互いに真摯な心で向き合うことのほうが平和的かつ、よっぽど建設的だと思いますけれど」
「い、いや、すまない。
ライスは以前からなかなか結婚について話をしたがらなかったのでな、今回はナナエだということもあり、強くいって納得させたのだ。
そうでなくとも、ライスは日ごろからブランシュの陰に隠れて、ちっとも前に出ようとしない。
これでは、次期王位を戦わすにふさわしいとはいえぬ。
そこに、特殊な魔力を備えたナナエが現れた。
ライスにとってはよき協力者となるであろうし、許婚ができればライスの心構えも変わると思ったのだ」
(……わかっていたけど、わたしの意志って、本当に、全然関係ないのね……)
奈々江は隠しもせずにため息をはいた。
それに気づいたマイラが慌てて口を開いた。
「ナナエ、あなたにとっても悪い話じゃないわ!
確かにライスは少し繊細過ぎるところがあるけれど、頭もいいし、家族思いのいい子なのよ!」
「マイラは我が子に甘いわ! その家族思いのいい子がどうして、将来の家族に隷属魔法をかけるのよ!」
クレアが厳しくたしなめた。
「とにかく、私はライスさんとナナエとの結婚には賛成できません」
「お姉様、お気持ちは……」
「いや、クレアのいう通りだ。こうなってしまっては、なにもなかったように元通りというわけにはいくまい」
「で、でも、あの子がこんなことをするのにはなにかわけがあったに違いないですわ。理由を聞いてからでも……」
「いや、理由はどうあれ、王族同士で隷属魔法を持ち出したのは許せることではない。どんな理由があったとしても、厳罰に処するべき問題だ」
「……は、はい……」
「ライスでなければ、年恰好の良い縁者は、歳の順から行くとオースティンか、パステスか。
少し歳は離れるがハミルトン、あるいは少し年かさだがギーヴか、ヤヌスあたりか」
(う……ちょっと、待ってよ……)
奈々江が青ざめたのをみて、ファスタンがいった。
「ナナエ、辛いことをいうようだが、特殊な魔力というのはそれほど稀で貴重なのだ。
魔法の基礎を作ったプレジャス大帝や、第三次魔法変革期に活躍したエルマーナ女史、第五次変革期のクラスティン卿も、特殊な魔力の持ち主だったといわれている。
そうした特別な才能は、国のみならず世界に大きな変革をもたらす可能性があるのだぞ。
お前はその自覚を持って、この国にとどまり、国を繁栄させていかなければならないのだ」
(そ、そんな歴史上の人物みたいな名前を羅列されたって、知らないよ~!
国のため国のためって、だいたい、これは建国ゲームじゃなくて、乙女ゲームでしょ……!?)
グランディア王国内で"恋プレ"をプレイしているぶんにはなんら問題なかったのだろう。
だが、エレンデュラ王国に来てしまったことで、設定にはないあらゆる情報の補正や補完が必要となり、奈々江の脳が勝手に国家やのあり方までを作り上げてしまっている。
「こう」なら「こう」でなければおかしい。
「これ」があるならば「こういう理由」がなければおかしい。
といったように、奈々江の記憶と常識とが今この世界を作り上げている。
しかも、それは意識してできているものではなく、当たり前と思い疑いようもなく信じているような、潜在意識のレベルで行われているようだ。
故に実際これまで奈々江自身が、何度となく補正された内容に大いに振り回されてきた。
今さら「これはなし」と願ったところで、やすやすと変更されるものではないのだろう。
じりっと奈々江が後ずさる。
それとほぼ同時にクレアが前に出た。
「いずれにせよ、どなたであろうと、今度からは私がしっかり吟味させていただきます。
一人娘を不幸にしたら、私も陛下も、あの世でスルタンに合わせる顔がございませんよ」
「さもあらん……」
ファスタンがにわかに目を伏せた。
「まこと、子というのは親の思う通りにはいかないものだ。
どれほど子の幸せを願っても、願い足りないのであろうか。それともわしの不徳のせいであろうか……」
ふと、ファスタンの顔のしわに、奈々江は両親の面影を見た。
(王様も親なんだ……)
とはいえ、奈々江にとっては勝手に結婚相手を押し付けられることには変わりがない。
(うう……、なんとか方法を考えないと……。
だけど、ラリッサもまだとり返せていないに、どうすれば……)
ファスタンとマイラが帰り、クレアとともに夕食を取った。
しかし、ラリッサのことが気がかりでどうにも喉を通らない。
早々に切り上げて部屋に戻った。
「ねぇ、メローナおかしいと思わない?」
「なにがでしょうか」
「ライスお兄様のことよ」
「……ナナエ姫様、そのようなお方のことで頭を悩ますのは、時間の無駄というものでございますよ。
あのように卑劣で無礼なひとでなしの極悪人を理解しようとしたって、どうしたって無理なのです」
「そうかもしれないけど……。
でも、今回のことでライスはなにも得をしない。
むしろ損な役回りを演じているように思えるの。
わたしとの結婚が嫌なら断ればよかったし、わたしを思い通りにしたいのなら、なにもライスがこんなことをしなくても、もっと他に方法があったように思うのよ」
「……ええ、まあ、冷静に考えてみると確かにそうでございますね……。
仕事であれ、恋人であれ、家族であれ、隷属魔法を使う相手と付き合いたいと思う人は、どの世界にもいないでしょう。
城内だけでこの騒ぎ治めたとしても、もはや皇太子としての評判は地に落ちたも同然です。
噂というものはどんなにきつく取り締まっても、悪い噂ほど流れてしまうものですから。
わたくしだって、帰化さえしていなければ、こんなスキャンダラスな話題、家族や友達への手紙に書かずにいられませんわ。
公務においては、当然今ライス殿下が負っているあらゆる責務や利権の多くをはく奪されてもおかしくないと思います。
新たに皇太子妃をいただこうにも、まともな家柄の貴族でしたら間違ってもそんな評判の相手に娘をやろうとなど思いません。
普通なら、こんなことを自ら望んでしたいとは到底思えないはずですが……。
でも理由がなんであっても、事実は事実ですわ。
ライス殿下が人としての倫理のたがを外してしまったことは、もう疑いようがありません」
「たが……?」
「なにか……?」
「あのとき、ライスお兄様がそういってた気がしたの。
ええと……、たがを外したのは、ブランシュお兄様だ、とかなんとか……」
「え、そんなこといっていましたか?」
「ええ、多分……」
「確かに、ナナエ姫様は風の属性がお強いようですから、ラリッサと同じで耳がよいのですね。
わたくしには聞こえませんでしたが、そう聞こえたなら、そういっていたのでしょう。
でも、それはどういう意味でしょうか?」
「さあ……。
でも、明日ブランシュお兄様に聞いてみようと思うの」
「そうですね……。
ブランシュ殿下はあちら側の人間ですが、情報交換はしたいですね。出来るだけ早くラリッサを取り戻すために」
「そうね」
メローナと明日ブランシュに会うことを決め、奈々江は早めにベッドに入った。
夜がふけ、屋敷全体が寝静まったころ、奈々江はなにか息苦しさを感じて目が覚めた。
(お、重い……?)
あきらかになにかおかしい。
体の上になにかが載っている。
奈々江は闇に目を凝らした。
僅かに窓から差し込む月の光に、その姿が薄暗く浮かび上がる。
柔らかな髪の曲線が描く先に、鋭く冷たい光があった。
恐怖で声も出なかった。
(ラ、ライス……!?)
パニックだ。
なぜ、ライスが寝所にいるのだろう。
景牧の離宮の出入り口にはすべてに防御魔法を施したはずだ。
侵入しようとすれば、魔法になにかしらの反応があると聞いていた。
それなのに、どうしてライスは今、奈々江の上にのしかかっているのだろう。
それに、メローナはどうしたのか。
隣の部屋で控えているはずのメローナがなにも気がつかないなんて、ありえない。
まさか、ライスはすでにメローナに手をかけたのだろうか。
体が恐怖で冷たくなり、口がうまく動かない。
「メ……、メロ……」
「叫んでもいいが、防音魔法を張ってある。無駄だ」
(メローナ、メローナ……!)
「所詮兵法も知らない女の浅知恵。屋敷の出入り口に防御を張れば間違いないと思ったのであろう。
だが、私は去るときに既に、この部屋に転移魔法を仕込んでおいたのだ。
なんと愚かなるクレア様だ。翌朝、娘が操を奪われていると知って、どんな顔をするであろうな」
(み、みさお……!?)
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