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#11、 皇太子妃選びが中止!?
しおりを挟む「……うぅんんんんん――……」
ここ数日、奈々江は部屋に閉じこもって頭を抱えている。
心配そうなラリッサとメローナをよそに、机に紙を広げ、手には羽ペンを握りしめている。
この軟禁状態を打破すべく作戦を考えているところなのだ。
(現実では一体どのくらいの時間がたったんだろう……。
とにかく、もう一度ゲームの設定を思い出してみよう。
これ以上邪魔されずに、最短でゲームを終わらせて、目覚める方法をとにかく見つけないと)
紙にキャラクターの設定やイベントを思い出せる限り書き出してみた。
(まず、わたしが目覚める可能性のある状況は……。
第一に、自然に目が覚める。
あるいは、現実の誰かがわたしを起こしてくれる。
これだったら最高なんだけど、今のところその傾向全くがない……。
あるいは、ワンチャン、目覚めるまで引きこもるって手もあるけど……。
第二に、主人公のわたしが死ぬ。
エレンデュラ王国に帰れず、厳しく見張られている今、自殺は難しい。
でも、皇太子妃選びの中で、主人公はライバルの令嬢から嫌がらせをされ、服毒をさせられる。
社交界に出てライバルたちを煽れば、うまく殺害してもらえる可能性があるかもしれない。
ただ、太陽のエレスチャルが適用されている状態で、ライバル令嬢たちがどれくらい敵意を持ってくれるかはわからない……。
太陽のエレスチャルを装備から外せれば、ライバル令嬢たちも攻略キャラ達も正常に戻るはずだけど、今のところ、太陽のエレスチャルがわたしの体から出てこない……)
夢の中だからなのか、乙女ゲーム仕様だからなのか、食事や入浴の場面があっても、これまでトイレの場面が一度もない。
奈々江自身、催すということがないのだから、当然出るものも出ない。
かといって調子が悪くなるわけでもないので、太陽のエレスチャルを取り出す方法がまったくわからない。
(オズベルトならなにか手立てを知っていそうなんだけど、あのセクハラ医師には頼りたくないよね。
なにされるかわからないし……)
奈々江は紙に書かれた項目のひとつに三画マークを付けた。
△ 太陽のエレスチャルを取り出す
(第三に、唯一の正攻法として、ゲームをクリアする。
攻略キャラだけでなく、独身のモブキャラ達も対象なんだから、誰でもいいからなんとか両想いになれればいいんだけど。
でも、ヒューゴの例で行けば、モブキャラがあのからくり人形みたいな最後となると気持ち悪い。
となると、やっぱり主要なキャラで考えることになるんだけど、誰がいいんだろう……。
そもそも、わたしに恋愛経験がないのに、相手からぐいぐい来られてもどうすればいいのか、正直よくわからないのよね……。
キャラに感情移入したり、……ドキッとしたり……、あるいは、この人は絶対なしとかって、わたしの中でなにかが動いているのはわかる。
ラリッサのいうように、自然となるように身を任せてみるのもいいのかもしれない、とも思ってる。
だけど、攻略キャラの大渋滞で、ぜんぜん処理しきれない。
ただでさえ気持ちに余裕が持てないのに、頭がパンクしそうになる……!
いっそ、ひとりに絞って集中したほうがいいかもしれない……)
紙に書かれたリストを見下ろした。
既に登場した攻略キャラは○、まだ登場していないキャラには無印で表している。
攻略キャラ
○ グレナンデス第一皇太子
○ 魔導士カロンディアス
○ 魔獣使いセレンディアス
○ キュリオット師団長
○ 盗賊トラバット
○ オズベルト王室医師
ケンウッド伯爵令息
マクベス王室図書室長
隠れ攻略キャラ
○ ロージアス近衛兵長
シュトラス第二皇太子
アキュラス王弟殿下
ホレイシオ公爵令息(エレンデュラ王国)
(まだ出会っていないキャラは置いておいて、まず絶対にないのは、オズベルト)
オズベルトの頭の丸印をバツ印で上書きする。
(それから、婚約解消中でいまいち話のかみ合わないキュリオットはちょっと……。
トラバットは愛情深いけど、盗賊で追われる身というのが難点よね。
そもそも、こちらからどうやって連絡を取ったらいいのかわからないし。
ロージアスは、いい人そうだし、一度傷つけてしまったから気が引ける……。
今さら思いを寄せていこうなんて、虫が良すぎるよね……。
自信家のカロンディアスと、兄にコンプレックスを感じているセレンディアス。
確かこのふたりには確執があって、カタルシスまでが複雑で面倒くさかったような……。
となると、一番いいのはやっぱりグレナンデスかな……?
そもそもゲームのシナリオ通りに行けば、わたしは皇太子妃候補として来てるんだから、一番全うよね。
皇太子妃選びでは、これから出合うライバル令嬢たちの謀略が阻む可能性があるけれど、一方ではわたしをうまく殺害してくれる可能性もある。
他の攻略キャラを選んだら、その可能性は低くなるか、もしくは全くなくなってしまうのよね。
ってことは、やっぱりここは、……グレナンデス一択!)
奈々江は羽ペンで、グレナンデスの頭の丸に大きくぐるっと丸を重ねた。
(ひとまず、今できることをまとめると、ゲームシナリオ通りに皇太子妃候補としてグレナンデスを攻略すること。
攻略といっても、相手はラブゲージマックスだから、問題はわたしのほうがグレナンデスを愛せるように努力するってことよね。
そして、可能性として、ライバル令嬢たちに殺害されやすいように動くこと。
もう一つの可能性として、太陽のエレスチャルの装備を外す方法を探ること。
……こんなところよね)
紙を見つめながらひとりでうなづく。
ライバル令嬢たちに殺害されやすいように動くことについては、皇太子妃選びのイベントが発生したときに、ライバル令嬢を煽ってみたり、隙を見せたり、出されたものをノーガードでもらったりすればいいだろう。
太陽のエレスチャルの装備を外す方法を探ることについては、ゲームの設定を少し掘り下げねばならない。
そもそも”恋プレ”の舞台は中世のヨーロッパ風の世界観を主としているが、そこはゲームらしく一応魔法ファンタジーに系統しているのだ。
ゲームの序盤では、ベルベットのドレスや羽根付きの絹の帽子、オータムローズの口紅や雨上がりの雫色のネイルなど、攻略キャラの好感度を上げるほとんどが、ファッションアイテムだ。
これがゲームが進むにつれ、特に魔導士カロンディアス、魔獣使いセレンディアスが登場するころから、魔道具やら占いアイテムが増えだす。
太陽のエレスチャルもそうした魔法に関わるアイテムのひとつという設定だ。
普通なら手から離せば装備から外れるはずだが、体の中にあるアイテムを取り出す方法は今のところわからない。
とはいえ、魔法のアイテムに詳しいキャラがこのゲーム中にいるはずだ。
おそらくは、アイテムを取り扱っている王室御用達の商人たち。
彼らはステージ毎に、主人公の部屋にやって来ては、新しい商品の入荷を知らせる。
ユーザーは自分の支度金(課金)と鑑みて、必要なアイテムを決めたら、それを購入できるのだ。
まだ登場していない商人たちだが、彼らに聞いてみればなにかしらわかるかもしれない。
こめかみを叩いてステータスを確認する。
(……あっ、いつの間にかステージが2になっている……!
ということは、皇太子妃選びのイベントが始まるんだ!)
はっとして顔を上げたと同時に、部屋のドアがコツコツとなった。
迎えたメローナが振り返る。
「ナナエ姫様、グレナンデス皇太子殿下からのお手紙です」
(早速イベント発動ね……)
「なんて?」
「個人的なお茶会へのお誘いのようです」
「え? 個人的な……?」
「お手紙には、ナナエ姫様以外の皇太子妃候補を帰らせる準備を進めていることと、ナナエ姫様に近しい王家の一族をご紹介したい旨が書かれています」
「こ、候補を帰す!? そんな!」
慌ててメローナから手紙を受け取り、文字をさらった。
確かに手紙には、メローナのいった通りのことが書かれている。
(これじゃあ、ライバル令嬢たちに暗殺されるっていう可能性がゼロになる……!
なんとかして、止めなきゃ!
でも、どうやって……?)
手紙を強く握りしめる隣で、メイドのふたりがにわかに騒ぐ。
「グレナンデス皇太子殿下はもう完全にナナエ姫様にロックオンですね!
わたくしもうれしいです!」
「そうよね、メローナ。
ナナエ姫様が皇太子妃になれば、わたしたちも正式な侍女に格上げされますし。
あなたはもっと素敵な殿方と出会えるチャンスが増えるものね」
「ラリッサもそうすれば?
許嫁との婚約を解消して、もっと高望みしましょうよ!」
「わたくしはいままでもこれからも、彼ひとりで十分よ」
(こうなるとは考えていなかった……。
グレナンデスのラブゲージがマックスだから、今さら皇太子妃選びをする理由がなくなったんだ。
ああぁ~っ、ステージ2で、ビバルディ伯爵令嬢とその一味がお茶に毒を入れて、わたしを殺そうとするはずなのに。
ビバルディが帰っちゃう……)
うんうんうなっていると、いつの間にか両隣にラリッサとメローナが立って奈々江を挟んでいた。
「そうとなったら、ナナエ姫様!
新しいドレスを新調して、気合を入れましょう!」
「えぇ?」
「これから王室御用達の商人が来ることになっているのですよ。お忘れですか?」
「あ、ああ……!」
(ああもう……。こうなったら仕方ない。
正攻法でゲーム攻略よ。
一刻も早くなんとかグレナンデスを好きになって、ゲームを終わらせるのよ……!)
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