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二人の知らない二人の感情
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駅の方へ走って行くと、俺が見えなくなって安心したのか、両膝に手をついて息を弾ませている竹内が見えた。駆け寄りながら声をかける。
「竹内!」
その声に反応して竹内が振り返り、また走りだそうとする。
「待って!待ってくれよ!嫌わないでくれ。頼む!」
そう叫ぶと少しずつスピードを落とすと竹内はゆっくりと立ち止まった。俺は竹内の右手を掴み、言った。
「嫌わないでくれ。二度と言わないから。ずっと友達でいいから。一緒にいてくれ。頼む。」
全力疾走してきた俺は汗だくで、息も乱れてて、一言一言を絞り出すようにしか話せなかった。きっとめちゃくちゃカッコ悪いだろうな。必死すぎる俺を笑ってくれないかな。それで元に戻れたらどんなに良いだろう。
ゆっくりと振り返った竹内は目を潤ませて泣いていた。竹内が俺に向かって叫んだ。
「嫌うわけない。嫌うわけないだろ。俺だって、上条のこと大好きだよ。」
次から次へ竹内の頬を雫が伝う。徐々に大きくなるそれとは対照的に竹内の声は小さくこぼれていくようだった。
「びっくりしたんだ。上条から好きって言われて、俺がずっと言いたかったことだったから。びっくりして、それで…。」
そのまま、何も言葉にできず嗚咽を漏らす竹内を俺はそっと抱き締めた。
「ごめん。俺、お前の笑う顔が好きだ。ずっとそばで笑ってる顔が見たい。ずっと心の底で独り占めしたいって思ってた。でもこれが、竹内の望んでいる関係じゃなかったら、竹内を縛り付ける何かになったらって、だから、ただの友情なんだって言い聞かせてた。ずっと会えなかったから、だんだん気持ちが抑えられなくて、お前がいることも気が付かなくって…ごめん…」
俺が話す間、竹内はただ、うん、うん、と頷いていた。そして頷くたびに俺の背中を掴んだ竹内の手が強く強く握りこまれるのを感じた。
「俺もずっと、同じ気持ちだった。壊したくないって思って気付かないふりをしてた。でも、同じ気持ちなら、壊れたりしないよね?」
俺は答えず、竹内の頬に口付けをして、肩に顔を埋めた。そうしようと思ったわけじゃないのに、体がそう動いた。人に見られていることに気付いても竹内が泣き止むまでそのまま立ち尽くしていた。
お互いに落ち着くと照れ臭くなって少しだけ距離を置いて歩いた。自転車や反対側から歩いてくる人を避けるたび、肌と肌が触れる。今までだって何度となくあった出来事なのに、会話が途切れてしまうほど恥ずかしくなる。
駅のホーム、人目につきにくい場所で俺は竹内の言葉の意味を確かめることにした。無意識に肺の奥の方まで深く呼吸をする。
「俺たち、付き合うってことでいいんだよな?」
声が震える。竹内がコクリと頷く。
「中西と俺たちは今まで通りの友達ってことでいいよな?」
大事なことだった。どちらかを失うなんてそんなことは考えたくなかった。
「もちろんだよ。」
俺は胸を撫で下ろす。そんな俺の肩を竹内が叩いた。
「変なこと言わないでよ。心配性だな。」
竹内が左手を差し出す。
「行こう。」
「みんな見てるぞ?」
「見せつけようよ。もう誰も怖がりたくないんだ。」
そう言って笑う竹内は今までのどんなものより美しく見えた。俺は黙ってその手を握る。竹内がそう望むならいくらでも矢面に立とう。守り続けよう。そう決心したのも束の間、俺の心を読んだみたいに竹内が釘を刺した。
「でももう、俺のことで誰かを殴っちゃダメだからな。」
「もうやらねぇよ。」
俺は慌てて否定した。中西も後でお礼を言おう。どこまで計算だったのかは知らないけど、たぶん中西の力が大きかったに違いなかった。
俺たちは改札に入り、泳ぎ疲れていた俺はいつの間にか竹内の肩にもたれかかって眠っていた。降りる駅が来るまで二人はずっと手を繋いでいた。
「竹内!」
その声に反応して竹内が振り返り、また走りだそうとする。
「待って!待ってくれよ!嫌わないでくれ。頼む!」
そう叫ぶと少しずつスピードを落とすと竹内はゆっくりと立ち止まった。俺は竹内の右手を掴み、言った。
「嫌わないでくれ。二度と言わないから。ずっと友達でいいから。一緒にいてくれ。頼む。」
全力疾走してきた俺は汗だくで、息も乱れてて、一言一言を絞り出すようにしか話せなかった。きっとめちゃくちゃカッコ悪いだろうな。必死すぎる俺を笑ってくれないかな。それで元に戻れたらどんなに良いだろう。
ゆっくりと振り返った竹内は目を潤ませて泣いていた。竹内が俺に向かって叫んだ。
「嫌うわけない。嫌うわけないだろ。俺だって、上条のこと大好きだよ。」
次から次へ竹内の頬を雫が伝う。徐々に大きくなるそれとは対照的に竹内の声は小さくこぼれていくようだった。
「びっくりしたんだ。上条から好きって言われて、俺がずっと言いたかったことだったから。びっくりして、それで…。」
そのまま、何も言葉にできず嗚咽を漏らす竹内を俺はそっと抱き締めた。
「ごめん。俺、お前の笑う顔が好きだ。ずっとそばで笑ってる顔が見たい。ずっと心の底で独り占めしたいって思ってた。でもこれが、竹内の望んでいる関係じゃなかったら、竹内を縛り付ける何かになったらって、だから、ただの友情なんだって言い聞かせてた。ずっと会えなかったから、だんだん気持ちが抑えられなくて、お前がいることも気が付かなくって…ごめん…」
俺が話す間、竹内はただ、うん、うん、と頷いていた。そして頷くたびに俺の背中を掴んだ竹内の手が強く強く握りこまれるのを感じた。
「俺もずっと、同じ気持ちだった。壊したくないって思って気付かないふりをしてた。でも、同じ気持ちなら、壊れたりしないよね?」
俺は答えず、竹内の頬に口付けをして、肩に顔を埋めた。そうしようと思ったわけじゃないのに、体がそう動いた。人に見られていることに気付いても竹内が泣き止むまでそのまま立ち尽くしていた。
お互いに落ち着くと照れ臭くなって少しだけ距離を置いて歩いた。自転車や反対側から歩いてくる人を避けるたび、肌と肌が触れる。今までだって何度となくあった出来事なのに、会話が途切れてしまうほど恥ずかしくなる。
駅のホーム、人目につきにくい場所で俺は竹内の言葉の意味を確かめることにした。無意識に肺の奥の方まで深く呼吸をする。
「俺たち、付き合うってことでいいんだよな?」
声が震える。竹内がコクリと頷く。
「中西と俺たちは今まで通りの友達ってことでいいよな?」
大事なことだった。どちらかを失うなんてそんなことは考えたくなかった。
「もちろんだよ。」
俺は胸を撫で下ろす。そんな俺の肩を竹内が叩いた。
「変なこと言わないでよ。心配性だな。」
竹内が左手を差し出す。
「行こう。」
「みんな見てるぞ?」
「見せつけようよ。もう誰も怖がりたくないんだ。」
そう言って笑う竹内は今までのどんなものより美しく見えた。俺は黙ってその手を握る。竹内がそう望むならいくらでも矢面に立とう。守り続けよう。そう決心したのも束の間、俺の心を読んだみたいに竹内が釘を刺した。
「でももう、俺のことで誰かを殴っちゃダメだからな。」
「もうやらねぇよ。」
俺は慌てて否定した。中西も後でお礼を言おう。どこまで計算だったのかは知らないけど、たぶん中西の力が大きかったに違いなかった。
俺たちは改札に入り、泳ぎ疲れていた俺はいつの間にか竹内の肩にもたれかかって眠っていた。降りる駅が来るまで二人はずっと手を繋いでいた。
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