15 / 16
二人の知らない二人の感情
しおりを挟む
駅の方へ走って行くと、俺が見えなくなって安心したのか、両膝に手をついて息を弾ませている竹内が見えた。駆け寄りながら声をかける。
「竹内!」
その声に反応して竹内が振り返り、また走りだそうとする。
「待って!待ってくれよ!嫌わないでくれ。頼む!」
そう叫ぶと少しずつスピードを落とすと竹内はゆっくりと立ち止まった。俺は竹内の右手を掴み、言った。
「嫌わないでくれ。二度と言わないから。ずっと友達でいいから。一緒にいてくれ。頼む。」
全力疾走してきた俺は汗だくで、息も乱れてて、一言一言を絞り出すようにしか話せなかった。きっとめちゃくちゃカッコ悪いだろうな。必死すぎる俺を笑ってくれないかな。それで元に戻れたらどんなに良いだろう。
ゆっくりと振り返った竹内は目を潤ませて泣いていた。竹内が俺に向かって叫んだ。
「嫌うわけない。嫌うわけないだろ。俺だって、上条のこと大好きだよ。」
次から次へ竹内の頬を雫が伝う。徐々に大きくなるそれとは対照的に竹内の声は小さくこぼれていくようだった。
「びっくりしたんだ。上条から好きって言われて、俺がずっと言いたかったことだったから。びっくりして、それで…。」
そのまま、何も言葉にできず嗚咽を漏らす竹内を俺はそっと抱き締めた。
「ごめん。俺、お前の笑う顔が好きだ。ずっとそばで笑ってる顔が見たい。ずっと心の底で独り占めしたいって思ってた。でもこれが、竹内の望んでいる関係じゃなかったら、竹内を縛り付ける何かになったらって、だから、ただの友情なんだって言い聞かせてた。ずっと会えなかったから、だんだん気持ちが抑えられなくて、お前がいることも気が付かなくって…ごめん…」
俺が話す間、竹内はただ、うん、うん、と頷いていた。そして頷くたびに俺の背中を掴んだ竹内の手が強く強く握りこまれるのを感じた。
「俺もずっと、同じ気持ちだった。壊したくないって思って気付かないふりをしてた。でも、同じ気持ちなら、壊れたりしないよね?」
俺は答えず、竹内の頬に口付けをして、肩に顔を埋めた。そうしようと思ったわけじゃないのに、体がそう動いた。人に見られていることに気付いても竹内が泣き止むまでそのまま立ち尽くしていた。
お互いに落ち着くと照れ臭くなって少しだけ距離を置いて歩いた。自転車や反対側から歩いてくる人を避けるたび、肌と肌が触れる。今までだって何度となくあった出来事なのに、会話が途切れてしまうほど恥ずかしくなる。
駅のホーム、人目につきにくい場所で俺は竹内の言葉の意味を確かめることにした。無意識に肺の奥の方まで深く呼吸をする。
「俺たち、付き合うってことでいいんだよな?」
声が震える。竹内がコクリと頷く。
「中西と俺たちは今まで通りの友達ってことでいいよな?」
大事なことだった。どちらかを失うなんてそんなことは考えたくなかった。
「もちろんだよ。」
俺は胸を撫で下ろす。そんな俺の肩を竹内が叩いた。
「変なこと言わないでよ。心配性だな。」
竹内が左手を差し出す。
「行こう。」
「みんな見てるぞ?」
「見せつけようよ。もう誰も怖がりたくないんだ。」
そう言って笑う竹内は今までのどんなものより美しく見えた。俺は黙ってその手を握る。竹内がそう望むならいくらでも矢面に立とう。守り続けよう。そう決心したのも束の間、俺の心を読んだみたいに竹内が釘を刺した。
「でももう、俺のことで誰かを殴っちゃダメだからな。」
「もうやらねぇよ。」
俺は慌てて否定した。中西も後でお礼を言おう。どこまで計算だったのかは知らないけど、たぶん中西の力が大きかったに違いなかった。
俺たちは改札に入り、泳ぎ疲れていた俺はいつの間にか竹内の肩にもたれかかって眠っていた。降りる駅が来るまで二人はずっと手を繋いでいた。
「竹内!」
その声に反応して竹内が振り返り、また走りだそうとする。
「待って!待ってくれよ!嫌わないでくれ。頼む!」
そう叫ぶと少しずつスピードを落とすと竹内はゆっくりと立ち止まった。俺は竹内の右手を掴み、言った。
「嫌わないでくれ。二度と言わないから。ずっと友達でいいから。一緒にいてくれ。頼む。」
全力疾走してきた俺は汗だくで、息も乱れてて、一言一言を絞り出すようにしか話せなかった。きっとめちゃくちゃカッコ悪いだろうな。必死すぎる俺を笑ってくれないかな。それで元に戻れたらどんなに良いだろう。
ゆっくりと振り返った竹内は目を潤ませて泣いていた。竹内が俺に向かって叫んだ。
「嫌うわけない。嫌うわけないだろ。俺だって、上条のこと大好きだよ。」
次から次へ竹内の頬を雫が伝う。徐々に大きくなるそれとは対照的に竹内の声は小さくこぼれていくようだった。
「びっくりしたんだ。上条から好きって言われて、俺がずっと言いたかったことだったから。びっくりして、それで…。」
そのまま、何も言葉にできず嗚咽を漏らす竹内を俺はそっと抱き締めた。
「ごめん。俺、お前の笑う顔が好きだ。ずっとそばで笑ってる顔が見たい。ずっと心の底で独り占めしたいって思ってた。でもこれが、竹内の望んでいる関係じゃなかったら、竹内を縛り付ける何かになったらって、だから、ただの友情なんだって言い聞かせてた。ずっと会えなかったから、だんだん気持ちが抑えられなくて、お前がいることも気が付かなくって…ごめん…」
俺が話す間、竹内はただ、うん、うん、と頷いていた。そして頷くたびに俺の背中を掴んだ竹内の手が強く強く握りこまれるのを感じた。
「俺もずっと、同じ気持ちだった。壊したくないって思って気付かないふりをしてた。でも、同じ気持ちなら、壊れたりしないよね?」
俺は答えず、竹内の頬に口付けをして、肩に顔を埋めた。そうしようと思ったわけじゃないのに、体がそう動いた。人に見られていることに気付いても竹内が泣き止むまでそのまま立ち尽くしていた。
お互いに落ち着くと照れ臭くなって少しだけ距離を置いて歩いた。自転車や反対側から歩いてくる人を避けるたび、肌と肌が触れる。今までだって何度となくあった出来事なのに、会話が途切れてしまうほど恥ずかしくなる。
駅のホーム、人目につきにくい場所で俺は竹内の言葉の意味を確かめることにした。無意識に肺の奥の方まで深く呼吸をする。
「俺たち、付き合うってことでいいんだよな?」
声が震える。竹内がコクリと頷く。
「中西と俺たちは今まで通りの友達ってことでいいよな?」
大事なことだった。どちらかを失うなんてそんなことは考えたくなかった。
「もちろんだよ。」
俺は胸を撫で下ろす。そんな俺の肩を竹内が叩いた。
「変なこと言わないでよ。心配性だな。」
竹内が左手を差し出す。
「行こう。」
「みんな見てるぞ?」
「見せつけようよ。もう誰も怖がりたくないんだ。」
そう言って笑う竹内は今までのどんなものより美しく見えた。俺は黙ってその手を握る。竹内がそう望むならいくらでも矢面に立とう。守り続けよう。そう決心したのも束の間、俺の心を読んだみたいに竹内が釘を刺した。
「でももう、俺のことで誰かを殴っちゃダメだからな。」
「もうやらねぇよ。」
俺は慌てて否定した。中西も後でお礼を言おう。どこまで計算だったのかは知らないけど、たぶん中西の力が大きかったに違いなかった。
俺たちは改札に入り、泳ぎ疲れていた俺はいつの間にか竹内の肩にもたれかかって眠っていた。降りる駅が来るまで二人はずっと手を繋いでいた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
人の恋路を邪魔しちゃいけません。
七賀ごふん@小説/漫画
BL
この学校には恋仲を引き裂く悪魔がいる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
男子校に転入した智紀は優しいクラスメイト、七瀬と出会う。しかし会った初日に、彼の裏の顔とゲスい目的を知ってしまい…。
天真爛漫転校生×腹黒で強気な生徒会長。
会長の弟くんの話は別作品で公開中。
表紙:七賀ごふん
僕がサポーターになった理由
弥生 桜香
BL
この世界には能力というものが存在する
生きている人全員に何らかの力がある
「光」「闇」「火」「水」「地」「木」「風」「雷」「氷」などの能力(ちから)
でも、そんな能力にあふれる世界なのに僕ーー空野紫織(そらの しおり)は無属性だった
だけど、僕には支えがあった
そして、その支えによって、僕は彼を支えるサポーターを目指す
僕は弱い
弱いからこそ、ある力だけを駆使して僕は彼を支えたい
だから、頑張ろうと思う……
って、えっ?何でこんな事になる訳????
ちょっと、どういう事っ!
嘘だろうっ!
幕開けは高校生入学か幼き頃か
それとも前世か
僕自身も知らない、思いもよらない物語が始まった
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
漢方薬局「泡影堂」調剤録
珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。
キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。
高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。
メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる