俺の基準で顔が好き。

椿英-syun_ei-

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放課後と学校

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「へぇ。あの王子様がね。」
 昼休み、いつもの渡り廊下のベンチで中西と飯を食っていた。中西は焼きそばパンを食べながら中庭を見下ろしている。
「王子様なんて言ってやるなよ。意外と気にしてそうだしな。」
「はぁー。その半分でも俺に優しくしてくれたらいいのになぁ。」
「お前とあいつじゃデリケートさが違うだろ。」
「なんだよ、それ。俺だってデリケートだっつうの。」
「まぁ、お前の方が付き合い長いんだし、仕方ないだろ。」
「そんなもんかね。」
 あっ、と中西が声を上げる。
「どうした?」
「あー、竹内がさ、廊下歩いてるなぁって。」 
 中西が見ている方に顔を向けると、二階の廊下を竹内が歩いてる。その周りにはいつもの取り巻き連中が媚びを売りながら竹内にまとわりついていた。
 あの日、竹内とラーメンを食べて帰った時のことを思い出すと、とにかく固い表情をしてるなと思った。無理をしている気がするが、具体的にやってやれることを想像しても思い付かない。こんな時は水泳ばかりしてきた自分を呪いたくなる。
「なんか、可哀想だよな、あいつ。」
 考えるより先に口をついて出てきた。特に気にした様子もなく中西が答える。
「そうか?恵まれてるだろ。成績良くて容姿端麗、誰に恨まれる訳でもなく、いつも人に囲まれてるんだぜ。」
「人がいたって、寂しくない訳じゃないだろ。」
 今度は中西も俺の方を振り向いた。少し考えて中西が言う。
「お前は?」
 意味を図りかねて言葉を濁す。
「お前は、寂しいのか?」
 中西が問い直す。
「俺は、別に。お前がいるし、な。」
 照れ臭くて次の一口をやや多めに口に入れる。
「じゃあ入れてやればいいじゃん。」
 中西が俺の隣に座って肩を組んできた。
「俺らの輪の中に入れてやればいいんじゃねぇの。」
「なんだそれ。」
 あんまりキメ顔で言うので思わず吹き出してしまった。
「お前らの中が良すぎて俺があぶれるかもしれないけどな。」
 憎まれ口を叩く中西の肩に俺も手を回した。
「それじゃ意味ないだろ。親友。」
「そうだな。親友。」
 お互い昼飯は食べかけだったが、気恥ずかしくてその日はそのままお開きにした。

 俺はその夜、竹内にBINEを送った。「水泳部に入らないか。」と短い一言だけ打つと「ごめん。できない。」とこれもまた短い文が送られてきた。「それなら、毎週水曜日、俺達と遊ばないか?」とメッセージを送った。中西と俺と三人で遊びに行こう、と誘うと「OK。」と返事が来た。
 俺はよしっ!とガッツポーズをして天井を仰いだ。計画の第一段階はクリアといったところだ。もっとも、第二段階など別に考えていなかったが。難しいことを考えるのはもうやめにして、俺はアラームをセットして寝ることにした。
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