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第6話

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 様子がおかしいと気付いたのは、彼と出会ってから半年が過ぎた頃だった。

 二人でドライブをし、時には遠出をして観光地を回ったり、遊園地で遊んだりもした。

 誕生日だって一緒にいたし、職場の人間の次に彼と会っていた自信があった。

 なのに、まだお互いに告白をしていないし、彼のプロフィール欄から“彼氏募集”の文字は消えないままだった。

 今でも俺以外にセフレがいるのだろうか。

 そもそも今の俺たちの関係はセフレの枠を出ないのだろうか。

 すっかり恋人同士のつもりでいたのに、途端に不安が押し寄せた。


 そんな時だった。ゲイバーで知り合った友人から告白をされた。

 同性に告白をされるのも、やはり初めての経験だった。

 少し戸惑い、どう返事をするべきか悩んだ。

 そんな折、トモと会う約束ができた。

 つい魔が差したのだろう。俺は、トモにドッキリのつもりでカマをかけることにした。

「俺、彼氏ができたんだよね。」

 そう言ったら、「え、僕が彼氏なんじゃないの?」と言ってくれるような気がした。

 そうじゃなかったら、「俺と付き合ってるのにどういうこと!?」と言って怒ると思っていた。

 なのに、トモの反応はどちらでもなかった。

 打ちのめされたような顔をして、俺にタオルを投げてきた。

 また俺は致命的なミスを犯したのだ。嘘だと告げる隙もないほど、相手が傷付くとは思っていなかった。

 浅はかな自分の行いの後に、実はトモが好きなんだと改めて言う勇気はどこにもなかった。

 努めて笑顔で、せめて祝福されるべき男に見えるよう、俺は精一杯笑うことにした。


 その後、俺は告白をしてきた友人を振った。

 好きな人がいることを話し、この気持ちを抱えたまま他の人と付き合うつもりがないことを説明した。

 お試しでもいいと嘯く友人を説得するのに、1ヶ月ほどの時間を要した。


 そして、その1ヶ月は、居もしない彼氏と別れたことをトモに告げるには、時間がかかり過ぎていた。

 はっきりと確実に線を引き壁を作ったトモはどこまでも卑屈で、俺だけが登場するエピソードでは全く反応を返してくれなくなった。

 架空の彼氏にまつわる話にだけ、トモは乗ってくれる。

 こんな状態で、どう切り出せばいいのか、俺には分からなかった。

 だから俺は、偶然誘われたゲイだけがいる出会い目的の飲み会に参加していたのだ。君ではない誰かに、穴を埋めてもらいたくて。


俺は、君に説明できない嘘をたくさん重ねている。

アドレスの末尾にある数字が、君の誕生日だとすぐに分かっても、
君が傷付くことが何かを、察することもできない。

そんな俺に、君にもう一度会う権利はあるのだろうか。

僕は、君に説明できない嘘をたくさん重ねている。

君が初めて話しかけてくれるずっと前から、僕の人生は嘘まみれだ。

誰とでも肌を重ねてきた僕だけど、心を重ねたことは一度もない。

そんな僕に、君に会いたいと言う権利はあるのだろうか。


分からない。分からないけど。

自分のことさえも分からない世界で、それでも会いたいと願う人がいる。

それならば、出会いからやり直すことも、許してほしいと願うのだ。



「初めまして。よければ俺と話しませんか。」
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