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第5話

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 トモと会った日のことは今でも覚えている。

 二週間近く、ただの雑談や理想のタイプの話、自分はどういう人間なのかという自己紹介に終始し、時々シモの話になったとしても、見るに耐えない仮想プレイを要求してきたりもしなかった。

 一文で終わる文章ではなく、ちゃんとした返答が返ってくる。それがたまらなく嬉しくて舞い上がっていた。

 だから当日、待ち合わせ場所に現れたトモを見て、自分の胸はどうしようもなくときめいた。

 決して華奢ではないが、細く引き締まった体に、襟の広いTシャツを纏い、首元から妖艶な雰囲気を醸し出す男が、プロフィールの写真そのままの姿で立っていたからだ。

 助手席の扉を開け、彼を車の中にエスコートする。

 自分の隣に、自分と同じ人種が座っている。

 カミングアウトしてきた友人を除けば、俺が初めて会う同性愛者だった。

 彼を連れ、海岸沿いを走り、夕焼けの綺麗なスポットで飽きるまで話をしようと思っていた。

 普通の友達みたいに、だけど、決して誰にも話さない秘密を共有する仲間として、ちゃんとした信頼関係を築きたかった。

 最初はとても順調だった。お互いに信じられないと思う友人の恋愛話に花を咲かせてみたり、今流行っているあれこれについてどう思うかを話したり、遠くに見えるサーフィンをする男たちの心境を想像したり、それはもう楽しい時間だった。

 だけど、だんだんと言葉少なになり、上目遣いの多くなったトモを見て、嫌な予感がした。

 案の定、彼は俺の下半身に手を伸ばし、屈んでそれを口に含もうとした。

 俺は慌てて彼を制止した。

「今日はもう帰ろう。」

 そう言ったときの彼の不満そうな顔を、俺は今も覚えている。

 絶対にわがままを聞いてくれると思ったのに、アテが外れて拗ねている子供のようだった。

 彼はすぐにさっきまでと同じ笑顔を浮かべ、黙って助手席に座った。

 帰り道は行きよりも静かだった。返事はするのに、窓の外ばかりを見ているトモの顔を見て、失敗だったかもしれないと後悔した。

 友達になるためだけに知らない人に会う。それはあまり一般的な行動ではなかったのかもしれない。

 ある程度コミュニケーション力に自信があり、恋人のいない男というのは、時に、いわゆる“ワンチャン”というものを狙って女の子をナンパする。

 ナンパをする男どもの中に女の子と遊ぶだけで満足だという男はほとんどいないだろう。

 大概の場合は、一夜を共にする相手か、あるいは彼女になってくれる異性を探すのが目的だ。

 それはきっと、ゲイの世界でも変わらないのだろう。

 ただ“お話がしたいから”出会いを求めている人間というのは限りなく少数派なのだと、トモの様子を見て痛感した。

 俺は、思いの外、純情な青年だったらしい。

 おかしくて、二人の間にある沈黙も、大して気にならなかった。


 2回目に会った時、俺はトモとセックスをすることにした。

 それはトモが希望したことであったし、俺も彼との情事に興味があった。

 昼間から車でラブホテルに乗り入れ、部屋に入った。

 女性との経験しかない俺は、男性をうまくリードできないかもしれないことを、ベッドの上で彼に告げた。

「経験人数なんて巧さの基準にはならないから大丈夫。」

 おかしそうに彼は笑った。

 君は、今までに何人と付き合ってきたんだい?

 そう聞きたくなる衝動を抑え、俺は彼にキスをした。

 キスをした瞬間、俺は彼にキスがしたかったんだと悟った。

 だから、ごく自然に自分を求めてきたトモに対して、嫌悪感を抱かなかったのだ。

 その日は4回、ベッドの上で果て、彼を抱いて眠った。
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