僕はまだキスがしたい。

椿英-syun_ei-

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第4話

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 その書き込みを見つけたのはただの偶然だった。

 たまたま居合わせたゲイだけの飲み会で、やたらボディタッチの多い初対面の男が「そういえば、かわいそうな奴がいてさ。」とスマホの画面を突き付けてきた時だった。

 盛り上がると思っての提案なのだろうが、正直、下世話な話は好きではなく、頃合いを見て席を立とうと考えていた。

 適当に相槌を打ちながら、部屋のどこかにいる幹事を探して目を走らせる。

 ふと、聞き覚えのあるセリフを聴覚が捉えた。それはトモと会った最後の日に交わした会話の内容だった。

 なぜ、この男がそのやり取りを知っているのだろうか。

 答えは明確だった。彼の言う「かわいそうな奴」とは俺の初恋の人その人のことだったからだ。


 俺は家に帰り、パソコンを立ち上げ、同性愛者向けの出会い系掲示板を片っ端から探した。

 最初のページから順にスクロールしては次のページへと流していく。

 4つか5つ目ぐらいのサイトでそれを見つけた。

 出会い系掲示板の中で何の写真もない文字だけの書き込み。1行1行を読み進めながら、その行間にある二人だけのやり取り、トモの心情を思い浮かべた。

 俺がゲイだと気付いたのは成人してからだった。

 学生時代は何人かの女性とお付き合いをし、当たり前の日常を過ごしていた。

 それが変わったのは、友人にゲイであることをカミングアウトされてからだった。

 男を好きな男がいる。

 ニュースやテレビ番組でそういう人たちがいることを理解はしていたし、学校の授業でも耳にすることはある。

 だけど、どうしても身近なものと思えず、半ばファンタジーと化した存在だった。

 ところが、友人の話を聞いていくうちに、自分にも思い当たる節があることに気付いた。

 男のする仕草や言動に色気を感じる時がある。

 彼女とスキンシップを取る時、どことなく違和感を感じてしまう。

 街中で目に付くのは、肌を露出した女性ではなく、男性の方だった。

 ずっと意識をしていなかったが、自分はゲイだったのかもしれない。

 それを認めるのに、数年という月日が必要だった。


 ある日、俺は同じゲイの男と話をしてみようと思い立った。

 それで俺は、ゲイ同士の出会い方についてネットで調べ、マッチングアプリに行き着いた。

 写真にスタンプを貼り、万一友人が登録していたとしても、自分が誰か推察されないようプロフィール文なども工夫した。

 最初のうちは男同士の会話の下劣さにうんざりした。

 口を開けば「ヤりませんか。」と言い、断りを入れてもしつこく付きまとうような男ばかりだった。

 人としてのコミュニケーションは求められていないようで、気が滅入った。

 だから、相手からメッセージが来るのを待つばかりで、自分から連絡を取るようことはしなかった。

 そうするとやはり、刹那的で一時的な関係を求める人間ばかり集まってしまうのではないか、自分のやり方が間違っていたのかもしれないと、そう思いなおした。

 だから俺は、一人一人のプロフィールを読み、自分と相性が良さそうな人間に連絡を取ってみることにした。

 詰め寄りすぎて嫌われたり、適度に距離を取ろうとして嫌われたり、何回も失敗を繰り返した。

 そうやって繋がったのがトモという男だった。
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