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第1話

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 きっと、誰も見ていないだろうから、僕だけの秘密をここに綴ろう。

 僕にはタケルというセフレがいる。もう二年の付き合いになるが、最近は少し疎遠になっていた。

 なんでも、初めての彼氏ができたとかで、ひどく浮かれているようだった。

 僕らの付き合いは俗に言う出会い系アプリでのやり取りから始まった。男女ではなく、男同士で恋をしたい男達が集まっているという点で、通常のそれとは少し違っていたかもしれない。

 いわゆるゲイと呼ばれる人種である人間は、恋をすることに憧れながら、テンプレートも教科書もないまま、ゴールのない地平線を歩かされている人間が多い。

 だからか、刹那的に求められることを愛だと勘違いしながら孤独を覚える人たちも少なくはなかった。

 自分もその例に漏れず、タケル以外のセフレが何人かいた。苛立ちを快楽で誤魔化したいと思った時、人肌が恋しいと思った時、ただ単に性欲をもて余してしまった時、理由は色々で、男たちの用途も様々だった。

 きっと僕も、そんな都合のいい男達の一人でしかなかっただろう。

 最初にコンタクトを取ってきたのはタケルの方からだった。

「一緒に遊びませんか?良い場所があるので、景色を楽しみながらドライブがしたいです。」
 そんなメッセージが届いていた。大変に失礼で笑える話なのだが、僕はこのメッセージを「野外でセックスしませんか?」という意味だと誤解していた。

 弁明させてもらうが、それは大変に仕方のないことなのだ。

 男同士の出会い系アプリでは「ヤりませんか?」と一言だけのやり取りもざらだし、かわいい女の子に気持ち悪いコメントを送る中年親父よろしく、セクハラだらけのお誘いが来ることもよくあった。

 相手の顔が好みで、ヤバそうな雰囲気さえしなければ、それはもう<タイプの男>で、<狩りの対象>なのだ。

 一晩を共にするだけでいい。それだけで、僕達の恋愛は成立したと言っていいだろう。まぁそれは、朝になれば解消されるのだろうけど。

 だから僕は、本物の地平線が視界いっぱいに広がる小高い丘の上で、車のボンネットに寄りかかり、何時間も互いの話をした時には大変面食らったし、なんだか物足りなかった。

 しびれを切らした僕は、日が影ってきて人通りもなくなった頃、タケルの履いたスラックスのジッパーに手をかけ、いつものそれを始めようと身を屈めた。

 そしたらタケルは驚いて僕を制止したのだった。

「せめて、ホテルに行こう。でも、今日はもう帰ろう。」

 そう言って、その日は大人しく家に帰った。

 普通なら、もうこれで終いだった。もう二度と会うこともないし、やり取りをすることがあっても進展はない。よくある最後になるはずだった。

 だけどタケルは何事もなかったみたいにメッセージを送ってきた。それが新鮮で、興味を引かれた。

 タケルはちょっとだけ身なりを気にしているサラリーマン程度のどこにでもいるありきたりな風体をしていた。眉毛を整えたりはしていないし、肌つやも一般男性よりは綺麗なだけだったが、なんとなく安心感のある雰囲気を漂わせている。

 会社なり大学なりで出会った彼女と円満な家庭を築いている、と言われた方がずっとしっくりくる見た目をしていた。

 二回目に会ったときにはセックスをする前提で約束をした。目的をはっきりさせないと無駄な時間を過ごしてしまいそうだったからだ。

 それに、「今日はもう帰ろう」と言ったのだから、「次は必ずヤろう」と同義ではないか。そんな風に思っていた。

 今思うと、とんでもないビッチだが、それぐらい歪んでいたのだ。

 タケルは驚くほど優しく僕を抱いた。決して上手くはないのに、まるで陶器にでも触れているかのように丁寧で柔らかい愛撫は、くすぐったいのに奥底まで触れられているようで堪らなかった。

 タケルは、シャワーを一人で浴びたがる。男同士だと二人で浴びてその場で二回戦に突入することもよくあるが、僕達は一回戦が終わるごとにシャワーを浴び、必ずベッドの上で肌を重ねた。

 タケルと出会う前は、最中に何かにぶつかって痣ができることを<愛されている証>だと感じていたのに、区切りを付けられることで<大切にされる>という感覚を知ってしまった。

 タケルは、当たり前に人を大切にできるまともな男だった。それは僕の大きな誤算だった。
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