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一
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ラグビー部の友人遠田龍樹の弟は、高校文化祭で『ロミオとジュリエット』のヒロイン・ジュリエットを一年生で演じ、『美人らしい』と噂だった。
舞台上の姿を遠目に見たきりで実際のところはどんなもんか知らなかったが、俺は今、その弟と対峙している。
「気を悪くしたら申し訳ないんですが、俺、鷹沢さんのことが好きなんです」
即座にそういう趣味はないと突っぱねなかったのは、友人の弟だったからか、ジュリエットだったからか。
遠田に学食に呼び出されてなにごとかと思って来てみたら、待っていたのは弟の光樹で、着席して早々告られた。
美人、ではないな、ジュリエットも別に女に見えたわけじゃない。
かわいい後輩、って感じだった。
背が低く大きな瞳に素朴な短髪黒髪が『少年』ってイメージだ。
「あのさ、遠田は、龍樹はなんて言ってたの?」
弟が男に告白する件に協力するなんて、遠田はなにを考えてるのか。
「俺、兄さんのラグビーの試合見に行って、ベビーフェイスなのにガッチリしてる鷹沢さんに一目惚れしたんですよ。応援行くたび鷹沢さんカッコよかったって言ってたら、そんなに言うなら告白しろって昨日言われました」
兄貴公認なのかよ。
ベビーフェイスって、お前が言うな、なんだけど。
試合前後の俺の振る舞いを見て、俺の人となりにさらに惚れたとか言い出した。
「兄さんが伝えてやるって言うから、自分で伝えるって言ったんです。面識ないのに急に出てきてすみません」
なんか違和感があって、すぐ気づく。
同性の上級生に告白とか、イメージだとモジモジとかナヨナヨとかしてそうなのに、してないんだよな。
そして俺的にこいつはとんでもないことしてんのに、常識的に見えて堂々としてる。
演劇部員だからかな?
「そう、面識ないからさ、好きって言われて付き合おうとはならないよ?」
こちらも常識的に返してやる。
すると光樹は、落胆もせずに問い返してきた。
「友達から始めるのはありですか?」
はぐらかしてもあきらめる気はなさそうだ。
どうすりゃいいかなー。
俺、こいつと付き合う気ないんだけどな。
簡単にフったら遠田に悪い気もするし、かわいい顔してるから断るのかわいそうだし、真剣そうだからなんとかしてやりたい気もするし。
いや、なんとかするのは無理か。
「なにも始まらないかも知れないけど友達になる、ってのはダメかな?」
百歩譲って提案してみると、光樹はあわてたように片手を挙げた。
「あの、無理しないでいいんですよ。俺も告白する気なんてなかったんですから」
あれっ、あきらめるんだ?
話を聞くと、遠田が勝手に唐突に段取りつけて、光樹はたいした心構えもないのにここに来たらしい。
遠くからあこがれているだけで充分だったとか。
「困らせてごめんなさい」
俺、困った顔しちゃってた?
あやまる顔がすごいさみしそうで、俺は思わず、しなくていいって言われた無理をしてた。
「いや、うん、もう面識あるから友達でいいだろ! 俺今から部活だから、連絡先の交換だけでもしとこーか」
「いいんですか? ありがとうございます!」
光樹の沈んでた表情が急に超明るい顔になって、なんかビビった。
そんなに嬉しいのかよ、って。
連絡先をゲットすると、光樹は今度は期待に満ちた表情になる。
「名前で呼ばせてもらってもいいですか? 春斗さんって」
「いいよ。なら俺は光樹って呼ばせてもらうぞ。遠田って呼んだら龍樹と同じになるし」
顔に似合わず堂々としてんなと思ってた光樹はその時、顔に似合った照れ混じりの笑顔を見せた。
「はい」
舞台上の姿を遠目に見たきりで実際のところはどんなもんか知らなかったが、俺は今、その弟と対峙している。
「気を悪くしたら申し訳ないんですが、俺、鷹沢さんのことが好きなんです」
即座にそういう趣味はないと突っぱねなかったのは、友人の弟だったからか、ジュリエットだったからか。
遠田に学食に呼び出されてなにごとかと思って来てみたら、待っていたのは弟の光樹で、着席して早々告られた。
美人、ではないな、ジュリエットも別に女に見えたわけじゃない。
かわいい後輩、って感じだった。
背が低く大きな瞳に素朴な短髪黒髪が『少年』ってイメージだ。
「あのさ、遠田は、龍樹はなんて言ってたの?」
弟が男に告白する件に協力するなんて、遠田はなにを考えてるのか。
「俺、兄さんのラグビーの試合見に行って、ベビーフェイスなのにガッチリしてる鷹沢さんに一目惚れしたんですよ。応援行くたび鷹沢さんカッコよかったって言ってたら、そんなに言うなら告白しろって昨日言われました」
兄貴公認なのかよ。
ベビーフェイスって、お前が言うな、なんだけど。
試合前後の俺の振る舞いを見て、俺の人となりにさらに惚れたとか言い出した。
「兄さんが伝えてやるって言うから、自分で伝えるって言ったんです。面識ないのに急に出てきてすみません」
なんか違和感があって、すぐ気づく。
同性の上級生に告白とか、イメージだとモジモジとかナヨナヨとかしてそうなのに、してないんだよな。
そして俺的にこいつはとんでもないことしてんのに、常識的に見えて堂々としてる。
演劇部員だからかな?
「そう、面識ないからさ、好きって言われて付き合おうとはならないよ?」
こちらも常識的に返してやる。
すると光樹は、落胆もせずに問い返してきた。
「友達から始めるのはありですか?」
はぐらかしてもあきらめる気はなさそうだ。
どうすりゃいいかなー。
俺、こいつと付き合う気ないんだけどな。
簡単にフったら遠田に悪い気もするし、かわいい顔してるから断るのかわいそうだし、真剣そうだからなんとかしてやりたい気もするし。
いや、なんとかするのは無理か。
「なにも始まらないかも知れないけど友達になる、ってのはダメかな?」
百歩譲って提案してみると、光樹はあわてたように片手を挙げた。
「あの、無理しないでいいんですよ。俺も告白する気なんてなかったんですから」
あれっ、あきらめるんだ?
話を聞くと、遠田が勝手に唐突に段取りつけて、光樹はたいした心構えもないのにここに来たらしい。
遠くからあこがれているだけで充分だったとか。
「困らせてごめんなさい」
俺、困った顔しちゃってた?
あやまる顔がすごいさみしそうで、俺は思わず、しなくていいって言われた無理をしてた。
「いや、うん、もう面識あるから友達でいいだろ! 俺今から部活だから、連絡先の交換だけでもしとこーか」
「いいんですか? ありがとうございます!」
光樹の沈んでた表情が急に超明るい顔になって、なんかビビった。
そんなに嬉しいのかよ、って。
連絡先をゲットすると、光樹は今度は期待に満ちた表情になる。
「名前で呼ばせてもらってもいいですか? 春斗さんって」
「いいよ。なら俺は光樹って呼ばせてもらうぞ。遠田って呼んだら龍樹と同じになるし」
顔に似合わず堂々としてんなと思ってた光樹はその時、顔に似合った照れ混じりの笑顔を見せた。
「はい」
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