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賢一は妃に依存するようになった。
破壊衝動やそれを耐える苛立ちを感じれば、すぐに妃を抱いた。
妃は喜んでそれに応じた。
妃がいないと不安になり、授業や進路を妃に合わせた。
その結果、同じクラスのまま高校三年に上がった。
情があってこのような付き合いを始めたわけではなく、妃からの情も感じないので、遊びであるのだと割り切っていた。
それでも賢一は、自分の生きる支えとなってしまった妃に対して、次第に情が芽生えてゆくのを感じ始めた。
その想いを払拭しようと、賢一は妃に、自分たちはどのような関係であるのかと尋ねた。
「ただのセフレだろ?」
妃のベッド、制服のまま横になった賢一の隣、間を置いて横たわる妃は、事も無げに笑った。
妃は賢一に対して、キスをしたり腕の中に収まるということは絶対にしなかった。
「だよな、わかってたし」
納得しても、淡い色をしたつかみどころのないこの男を、好きだと言って抱きしめてしまいたくなる。
「わかってないだろ?」
妃は片肘をついて賢一の顔を見下ろした。
「賢一のトラウマみたいなの聞いたから、俺のも話そうか?」
笑いながらも切なげに、妃は子供の頃の話をした。
外国にいた小さい時に、シッターに虐待されたこと。親には言えなかったこと。他の大人に傷ついた身体をさらした際に、救いの手を差し伸べられたこと。以降虐待が全くなくなったこと。身体をさらすと安心し、さらさないと不安を覚えるようになってしまったこと。
妃は一呼吸置いて、賢一の瞳を覗いた。
「身体を見てもらえるのはありがたいけど、見られたらまず、好きにはならないよ。期待させてたらごめんね」
賢一には、それが謝っている表情に見えなかった。本当に自分には妃の愛情を得る可能性がないのだと確信した。
なぜ自分に身体をさらしてしまったのかと怒鳴りたい気分だったが、必死でその気持ちを押しとどめた。期待などしていないと言いたかったが、その余裕はなかった。
恐らく自分がまだ諦めていないと認識されただろう。それで構わなかった。
自分が愛し続ければ、いつか妃は自分を見てくれると思った。
名前が似通い、会話の調子も心地よい、胸の内に質は違えど異常な感覚を持つ者同士。
賢一は妃に対する執着を、愛であると錯覚していた。
妃は賢一の想いに気付きながらも、度々賢一を誘った。
賢一はそれに応える事で愛があることを証明し続けた。
妃と同じ大学に入学したが、学科が異なりアルバイトも始めた結果、顔を合わせる機会が格段に減った。
次第に妃は、すれ違う間に他の男と寝るようになった。
賢一に想いを絶たせようと、相手のことを賢一に明言した。
しかしそれは、賢一を落胆させる材料にはならなかった。
身体をさらしているのなら、その相手も妃の愛を手に入れることはできないのだ。
一年が終わる時期だった。
久し振りに妃を抱いた。
会う機会が減っても想いは変わらなかった。
一度確認した日から、妃の気持ちを確かめるようなことはしなかった。
妃のために長い時間をかける覚悟があった。
その日も妃は情事の後、賢一から少し離れた場所で天井を眺めていた。
「賢一のこと嫌いじゃないから、言うよ」
唐突に、静かな口調で妃が語り出した。
「俺たちは、利害が一致しただけだよ」
賢一は妃に目を向ける。
いつものように笑ってはいなかった。
「俺も満足してたし、賢一も満足、してただろ」
妃の気持ちは、やはりまだ自分に向いていない。
今から決別を告げられるのだろう。
いくらでも時間をかけられると、なぜ思ってしまったのだろう。
「満足してねーよ。キスもさせてもらえねーとか」
賢一は軽い言葉で強い想いを伝える。
妃はうつ伏せになり、片肘をついて賢一を見た。
「俺も賢一にならキスできるのかなって、期待してたんだけどな、やっぱちょっと、違った」
期待して、妃は度々賢一を誘った。
だが求めたものは、見つからなかった。
「どうしても、利害が一致してるだけとしか、思えなかった」
賢一の想いは伝わって、妃はそれに応えようとしていた。
しかし、賢一には足りないものがあった。
「そっか、だよな」
賢一はすぐに思い当たる。
自分は妃の過去に哀れみや同情を感じていない。
知恵や知識で態度に示しただけの愛情では、妃には足りなかった。
恐らく、胸の内から意図せずに溢れるほどの愛情が必要だった。
賢一の胸の内は、良くない衝動がほとんどを占めている。
待つだけでは無理な話だった。
妃は手を伸ばして、賢一の手のひらに自らの手を乗せた。
「付き合ってくれてありがとう。賢一優しいから、もう手を出さない」
「え?」
自分の非を認めて大人しく引き下がろうとしたところに、思いがけない言葉が降ってきた。
「優しいって、何が」
「俺のために、自分の感情押し付けないで、ずっと待っててくれたんだろ?」
妃には、自分の全てを話し、全てをさらけ出していたつもりだった。
だが妃の情を得るため、優しい振りをした。
その弊害で。
愛する人に、本来の自分の姿が理解されていない。
作り上げた自分との隔たりが、なぜだかどうしようもなく不愉快だった。
「は! もういい」
急いで着替えると、賢一は戸惑う妃を無視して飛び出すように家を出た。
苛立ち、振り上げたくなる右の拳を、賢一は左手で固く抑え込む。
この痛憤を解消しなければと焦ったが、立ち止まって、思い出す。
解消する手段は、先程絶たれてしまったのだ。
破壊衝動やそれを耐える苛立ちを感じれば、すぐに妃を抱いた。
妃は喜んでそれに応じた。
妃がいないと不安になり、授業や進路を妃に合わせた。
その結果、同じクラスのまま高校三年に上がった。
情があってこのような付き合いを始めたわけではなく、妃からの情も感じないので、遊びであるのだと割り切っていた。
それでも賢一は、自分の生きる支えとなってしまった妃に対して、次第に情が芽生えてゆくのを感じ始めた。
その想いを払拭しようと、賢一は妃に、自分たちはどのような関係であるのかと尋ねた。
「ただのセフレだろ?」
妃のベッド、制服のまま横になった賢一の隣、間を置いて横たわる妃は、事も無げに笑った。
妃は賢一に対して、キスをしたり腕の中に収まるということは絶対にしなかった。
「だよな、わかってたし」
納得しても、淡い色をしたつかみどころのないこの男を、好きだと言って抱きしめてしまいたくなる。
「わかってないだろ?」
妃は片肘をついて賢一の顔を見下ろした。
「賢一のトラウマみたいなの聞いたから、俺のも話そうか?」
笑いながらも切なげに、妃は子供の頃の話をした。
外国にいた小さい時に、シッターに虐待されたこと。親には言えなかったこと。他の大人に傷ついた身体をさらした際に、救いの手を差し伸べられたこと。以降虐待が全くなくなったこと。身体をさらすと安心し、さらさないと不安を覚えるようになってしまったこと。
妃は一呼吸置いて、賢一の瞳を覗いた。
「身体を見てもらえるのはありがたいけど、見られたらまず、好きにはならないよ。期待させてたらごめんね」
賢一には、それが謝っている表情に見えなかった。本当に自分には妃の愛情を得る可能性がないのだと確信した。
なぜ自分に身体をさらしてしまったのかと怒鳴りたい気分だったが、必死でその気持ちを押しとどめた。期待などしていないと言いたかったが、その余裕はなかった。
恐らく自分がまだ諦めていないと認識されただろう。それで構わなかった。
自分が愛し続ければ、いつか妃は自分を見てくれると思った。
名前が似通い、会話の調子も心地よい、胸の内に質は違えど異常な感覚を持つ者同士。
賢一は妃に対する執着を、愛であると錯覚していた。
妃は賢一の想いに気付きながらも、度々賢一を誘った。
賢一はそれに応える事で愛があることを証明し続けた。
妃と同じ大学に入学したが、学科が異なりアルバイトも始めた結果、顔を合わせる機会が格段に減った。
次第に妃は、すれ違う間に他の男と寝るようになった。
賢一に想いを絶たせようと、相手のことを賢一に明言した。
しかしそれは、賢一を落胆させる材料にはならなかった。
身体をさらしているのなら、その相手も妃の愛を手に入れることはできないのだ。
一年が終わる時期だった。
久し振りに妃を抱いた。
会う機会が減っても想いは変わらなかった。
一度確認した日から、妃の気持ちを確かめるようなことはしなかった。
妃のために長い時間をかける覚悟があった。
その日も妃は情事の後、賢一から少し離れた場所で天井を眺めていた。
「賢一のこと嫌いじゃないから、言うよ」
唐突に、静かな口調で妃が語り出した。
「俺たちは、利害が一致しただけだよ」
賢一は妃に目を向ける。
いつものように笑ってはいなかった。
「俺も満足してたし、賢一も満足、してただろ」
妃の気持ちは、やはりまだ自分に向いていない。
今から決別を告げられるのだろう。
いくらでも時間をかけられると、なぜ思ってしまったのだろう。
「満足してねーよ。キスもさせてもらえねーとか」
賢一は軽い言葉で強い想いを伝える。
妃はうつ伏せになり、片肘をついて賢一を見た。
「俺も賢一にならキスできるのかなって、期待してたんだけどな、やっぱちょっと、違った」
期待して、妃は度々賢一を誘った。
だが求めたものは、見つからなかった。
「どうしても、利害が一致してるだけとしか、思えなかった」
賢一の想いは伝わって、妃はそれに応えようとしていた。
しかし、賢一には足りないものがあった。
「そっか、だよな」
賢一はすぐに思い当たる。
自分は妃の過去に哀れみや同情を感じていない。
知恵や知識で態度に示しただけの愛情では、妃には足りなかった。
恐らく、胸の内から意図せずに溢れるほどの愛情が必要だった。
賢一の胸の内は、良くない衝動がほとんどを占めている。
待つだけでは無理な話だった。
妃は手を伸ばして、賢一の手のひらに自らの手を乗せた。
「付き合ってくれてありがとう。賢一優しいから、もう手を出さない」
「え?」
自分の非を認めて大人しく引き下がろうとしたところに、思いがけない言葉が降ってきた。
「優しいって、何が」
「俺のために、自分の感情押し付けないで、ずっと待っててくれたんだろ?」
妃には、自分の全てを話し、全てをさらけ出していたつもりだった。
だが妃の情を得るため、優しい振りをした。
その弊害で。
愛する人に、本来の自分の姿が理解されていない。
作り上げた自分との隔たりが、なぜだかどうしようもなく不愉快だった。
「は! もういい」
急いで着替えると、賢一は戸惑う妃を無視して飛び出すように家を出た。
苛立ち、振り上げたくなる右の拳を、賢一は左手で固く抑え込む。
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解消する手段は、先程絶たれてしまったのだ。
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