私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

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第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに

99 末路

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 私が多くのものを呑み込みながらバームを飲み終えると、空気を変えるかのようにお父さんは何事も無かったかのように話しを再開した。

 「……ルリエラの誘拐の実行犯達の処罰だが、主犯はリース男爵夫妻ということで最も重い罰が下された。調査の過程で2人がイスラ侯爵家の資産に手を付けたり情報を売ったりしていたことも明るみに出て、実家のイスラ侯爵家からも正式に勘当されて完全に見放されている。最終的にリース男爵家は取り潰され、貴族身分は剥奪され、平民に堕とされた。その後に平民として貴族令嬢誘拐の主犯として裁かれたため、鉱山送りとされて労役30年が課された。男は鉱山内部での重労働、女は鉱山外での軽作業が課される。生きて社会に戻ってくることはないだろう。2人に会うことは二度と無いと思ってくれていい」

 それは事前にジュリアーナから説明されていた通りの処罰内容だったから特に意外性は無い。
 
 「分かりました」

 私は冷静にそれだけを返した。他に言うことは何も無い。思うことも感じることも何も無い。

 お父さんは私がもう少し動揺すると予想していたようだが、特に何の反応も無かったことに少し戸惑っているようだ。

 産みの親の悲惨な末路に子としてもう少し何か特別な反応をするべきだったかもしれない。それが子として当たり前の反応なのだろう。
 
 お父さんに冷たい人間だと誤解されたかもしれない。

 そう思うが、産みの親の末路に悲しむことも喜ぶこともできない。心が死んだように動かない。

 私としてももう少し安心感とか解放感とか罪悪感とか寂寥感とかを感じるかもしれないと想像していたのに、何も感じないことに驚いている。

 自分が思っていた以上に私は産みの親への期待や感情や想いを断ち切れていたようだ。

 事前にジュリアーナから教えられたおかげで心の準備が完全に完了できていたのだろう。本当に事前準備は大切だ。

 お父さんは私の態度については何も言わず、戸惑いもすぐに隠して話を続けてくれた。

 「それから、主犯以外の人間の処罰だが、リース元男爵夫妻に協力していたならず者達はこれまでの余罪も含めて全員が処刑された。そして、前北部辺境伯家のヨルデンは単なる協力者としてヨルデンと彼の家族全員が国外追放となった。勿論、貴族としての身分は剥奪されて平民として追放されたので二度と国内で会うことは無いだろう」

 私はその不公平な処罰内容に息を呑んだ。

 この国は身分社会で階級によって適応される法律が異なる。だから、ならず者は平民、ヨルデンは貴族として身分が違うから罰の重さも違う。

 これがこの国、この世界の常識だから納得して受け入れるしかない。身分によって刑罰が違うなんて不平等で差別的で酷いと感じる私の感覚が異常とされてしまう。

 私は何も言わずにそのまま先を促した。しかし、なぜかお父さんは少し言葉を止めて言い難そうにしている。
 そんなお父さんを不思議そうに見つめていたが、お父さんは気を取り直して意を決して口を開いた。

 「──其方を襲ったヒロデンだが、その件に関しては特に処罰はされていない。ヨルデンの家族として国外追放されただけだ」

 私がヒロデンに襲われかけたことはジュリアーナにしか話していない。
 しかし、理術を使ってヒロデンを気絶させたことはジュリアーナにも話せなかった。
 あの術は封印する。簡単に人を殺せてしまう。あまりに危険すぎる。そして、私にはその力を背負って生きていける強さは無い。
 だから、二度と使わない。

 そのため、ヒロデンが私を妊娠させる目的で部屋に侵入して来たが、私に近づいてきた時に突然勝手に倒れたと説明している。

 ジュリアーナにはヒロデンに襲われそうになったことは誰にも話さないようにと忠告されていた。
 未遂であっても成人前の女の私の名誉や評判に傷がつくことを心配してくれた。

 ジュリアーナにこちらで問題にならないように処理するから大丈夫だと言われていたので何も心配していなかった。

 そんな無関心だった私にお父さんは詳しい事情を説明してくれた。

 ヒロデンの私への婦女暴行未遂事件は最初から無かったことにされたそうだ。

 ヒロデンはクズではあったがバカではなかった。
 わざわざ正直に自分から私を襲う目的で部屋に侵入したとは供述しなかった。

 ヒロデンは私が監禁されていた部屋で気絶されていたところを発見されそのまま捕縛されていた。だから、部屋に侵入していないという言い逃れはできない。

 だから、あくまでも私との婚約について話すために部屋にお邪魔させてもらっただけで何もしていないと身の潔白を主張した。なぜ気を失っていたのかはヒロデン自身も分からず、私が何かしたせいだとは思っていないらしい。単なる体調不良で会話中に倒れたと自分から説明したそうだ。

 一般的に、貴族女性の部屋に本人の許可なく侵入すれば、それだけで婦女暴行未遂として捕まえることができる。
 本人の意思や目的は関係ない。
 しかし、平民の女性の家や部屋に貴族男性が押し入っても婦女暴行未遂には問われない。ここにも身分差による違いがある。
 私が南部辺境伯の養女となっていたことを知らなかったヒロデンには誤算だったに違いない。

 だから、ヒロデンを私への婦女暴行未遂事件の犯人として裁いて罰を与えることも不可能ではなかった。しかし、公にして大事にしてしまえば未遂と言えども被害者である私は男に襲われた女として傷物の腫れ物扱いされることになる。

 そのため、ヒロデンは私の部屋に侵入した時には既に私は不在だったということにされたそうだ。
 ヒロデンは私と話をするために私が監禁されている部屋を夜遅くに訪れたが部屋には誰もいなかった。その誰もいない部屋で突然の体調不良によって意識を失って倒れていたところを発見されただけ。

 私の名誉を守るために、そのようにヒロデンにも口裏を合わせるように強要し、そのように調書も作成された。

 結果として、ヒロデン個人には一切のお咎めは無しで父親のヨルデンの罪の連座として罰を受けるにとどまった。

 はっきりと言って、私はヒロデンが罰を受けようが受けなかろうがどちらでも構わない。
 私としては私の理術の使用によってヒロデンを気絶させたことが露見しなければ何でもいい。
 だから、私が不在時にヒロデンが勝手に一人で意識を失ったという事実が公式に採用されるならそのほうが私にとっては都合がいい。私がヒロデンの気絶と全くの無関係になることができる。

 私は特に不満などは表には出さずに黙って親と一緒に平民となって国外追放されたというヒロデンの末路を受け入れた。

 お父さんはそんな私の態度に少し申し訳なさそにしながらも安堵した様子で肩の力を抜いた。

 被害者の私がヒロデンの処罰を求めるかもしれないと思って身構えていたようだ。

 「お父さん、いろいろとお気遣いいただきありがとうございました」

 私はお父さんを安心させるためにお礼を伝えて頭を下げた。

 全員が何かしらの罰を受けていて、二度と私と関わることが無いだけで十分だ。

 私は犯人達の末路を知って、やっと全てが終わったと自分の中でやっと事件を終わらせることができた。

 

 

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