私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

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第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに

45 誘拐⑦ 理不尽

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 恥も外聞も捨てて本気で被害者ぶってギャン泣きしているブリジットに私は困惑を通り越して不気味さを感じてドン引きした。
 話がまるで通じない宇宙人のような未知の存在にしか見えない。

 しかし、周りの男たちはブリジットの醜態に全く動じていない。
 まるでいつものことだと言うかのように少し困った様子でただ黙って眺めている。

 誰からも声を掛けることも手を差し伸べることもされずに放置されているブリジットは時間が経っても泣き止むことはなくずっと同じテンションで泣き叫んでいたが、徐々に体力の方が限界を迎え始めたのか少し声が小さくなってきた。

 そのタイミングでやっとリース男爵は立ち上がり、ブリジットに優しく声を掛けた。

 「ブリジット、大丈夫かい?怪我はないか?」

 やっと声を掛けてもらえたブリジットは先ほどよりもより一層大きな声で何を言っているのか分からない意味不明で理解不能な言葉を泣きながら喚き散らした。

 リース男爵はそれに相槌を打ちながら、「うんうん、分かるよ。かわいそうに。辛かったね。ブリジットは何も悪くないよ」と適当なことを言いながら宥めている。

 私はそんな喜劇のような馬鹿馬鹿しい二人のやり取りを立ったまま黙って見下ろしていた。

 そうしてやっとブリジットの子どもの癇癪のような行動と言動が収まってきた。涙は完全には止まってはおらず、まだすすり泣いてはいるが、やっと部屋の中が静かになる。

 リース男爵はぐすんぐすんと泣いているブリジットに手を貸してソファーに座り直させ、慰めるように、ブリジットの肩を抱いてその隣に座った。

 そうしてリース男爵は私の方へ目を向けた。
 その目はまるで私を責めるように鋭く尖っている。

 「──マルグリット、何をしている?!早く母親に謝りなさい!」

 リース男爵の口から意味不明な言葉が飛び出した。

 「……いったい私が何をリース男爵夫人に謝るのですか?」

 私は本当に意味が分からずに正直に聞き直した。
 リース男爵は私が分からないことに苛立ちを増大させるように更にキツく私を睨みつけてくる。

 「お前はそんなことも分からないのか!?お前のせいでブリジットが傷ついてこんなにも泣いているんだぞ!親に暴力を振るうなどなんて酷い娘なんだ!!早くブリジットに謝ってそのネックレスをブリジットに渡しなさい!!」

 リース男爵は怒りを露にして一方的に私を怒鳴りつけて命令してきた。

 リース男爵の回答にはならない言動に私はより一層混迷してしまう。

 「ちょ、ちょっと待ってください!私のせいってどういう意味ですか?リース男爵は目の前で私とリース男爵夫人のやり取りを見ていましたよね!?リース男爵夫人が泣いているのは無理矢理私から私のネックレスを奪おうとして失敗したからです。私のせいではありません。
 確かに、突き飛ばしてしまったことは悪かったと思いますが、そもそもその原因を作ったのはリース男爵夫人です。リース男爵夫人の方が先に私に飛びかかってきて暴力を振るいました。私の行為は正当防衛です」

 私は冷静に自分の行動の正当性を主張する。

 しかし、相手は完全に冷静さを欠いているようで、私の反論に逆上した。

 「子どものくせに親に口答えするな!そもそもお前がブリジットのネックレスを自分のものだと言ったのが悪いんだ!!お前がネックレスをブリジットから奪ったせいだ!」

 私はリース男爵の間違った主張に目を丸くして慌てて訂正する。

 「私は奪ってなどいません!自分の物を返してもらっただけです。自分の物を自分の物だと主張して返してもらうことの何が悪いのですか!?」

 「我儘を言うな!親が渡すように言っているのにそれに子どもが逆らうな!!母親を泣かしたお前が全面的に悪い!」

 こちらが何を言ってもリース男爵は筋が全く通らない自己主張を振り回して押し付けてくるだけだ。

 全く私の反論に対する答えを返すことなく、一方的な理屈で私を責め立てるだけ。

 親であるということを盾にとって子である私を無理矢理従わせようとしている。

 リース男爵のあまりにも道理の通らない物言いに段々と怒りが湧いてきた。

 私は「親としての責任も果たしていないのに父親面をするな」とか「法的にも実質的にも親子関係は存在していないのに何を根拠にそんなことが言えるのか」とか言いたくなったが、流石に親子関係についてあまりにも反抗的な態度を取ったら相手が何をしてくるか分からなくて危険だとなけなしの理性を総動員して抑え込んだ。

 しかし、誘拐されて、ずっと緊張状態が続き、先ほどのブリジットとの乱闘などで私は精神的にも肉体的にも消耗仕切っていた。
 このリース男爵との不毛なやり取りに精神的にも肉体的にも完全に疲れ果ててしまった私は怒りを抑えきれずについうっかり口を滑らせてしまった。

 「……私に向かって『子は親の言うことに従え』と貴方は言うけれど、貴方にそんな資格はあるのですか?」

 「……なに?どういう意味だ?」

 私の突然の言葉に不意打ちを喰らいリース男爵は一瞬怒りを忘れて私に尋ねてきた。
 私は何も考えずに勢いのままに口を開く。

 「……婚約破棄しましたよね?ご自分の意思で。親が決めた相手との婚約に逆らって自分が選んだ相手と結婚した。そんな人が『子は親の言うことに従え』と言うのはおかしくありませんか?」

 私の言葉を聞いたリース男爵の顔がみるみる内に赤くなっていき、ブリジットの肩を抱いている手が震え出した。

 私はその様子を見て言い過ぎたと後悔したが、それは後の祭りだ。

 一瞬の内にリース男爵はブリジットを離して立ち上がり、私に向かって手を上げた。
 私は身構えるすきもなく、バチンッという音が響いたと同時に私の頬に激痛が走り、私は先ほどのブリジットと同じように床に倒れ込んでいた。

 「うるさい!子どもなら親の言うことは黙って聞け!!この生意気な小娘め、躾け直してやる!!!」

 口ではどうやっても勝てないと思ったのか、リース男爵は遂に手を出してきた。
 
 リース男爵はそのまま倒れている私の腕を掴んで無理矢理立たせて、引きずるように部屋から出た。

 頬を強く叩かれた衝撃が少し頭にも影響があったようで、私は意識が朦朧としていて何も抵抗ができない。
 ふらついている私に構うことはなく、リース男爵は私を引きずって廊下を歩いて階段を下りていく。

 そして、地下のジメジメした暗い階段を下りて、地下の物置部屋に私を突き飛ばした。

 「お前はここで反省しろ!僕とブリジットに謝って、ブリジットにそのネックレスを渡すまでここから出してはやらないからな!!」

 バタンッと乱暴に扉が閉められて、ガチャガチャカチャッと音が聞こえ鍵が掛けられた。

 私はまだ朦朧とする頭を抱えて冷たい石の床に座り込みながらズキズキと痛む頬を左手で押さえ、右手の中のガラス玉を握り直した。

 口を滑らせなければ、このネックレスさえ諦めていたら、軟禁で済んでいただろうに、鍵の掛かった地下室に監禁されてしまった。

 媒体であるガラス玉は取り戻せたけれど、結局状況は悪化してしまい、私は途方に暮れた。



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