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第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに

11 賽は投げられた④ 質問タイム

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 ジュリアーナは自分が感情的になって話が逸れてしまったことに気付き、落ち着くためにお茶を一口飲んだ。

 私もジュリアーナに合わせてお茶を飲む。

 ティーカップの中のお茶は冷めていたが爽やかなスッキリとした味わいの美味しい紅茶だ。

 いつもは温かいバームを飲むことが多いが、今日は冷めても美味しい紅茶が用意されていた。

 話し込む準備が万端にされていたことを実感してしまう。

 お互いにお茶をもう一口飲み、空気が落ち着きを取り戻したところで、ジュリアーナは何事も無かったかのように話を再開した。

 「……南部辺境伯からルリシーナの、いえ、ルリエラの近況報告を時々受けていたので、ルリエラが学園都市に来て認定理術師になったこともわたくしは知っていたわ。でも、アヤタがこの学園に居たことも貴女の助手になったことも偶然よ!わたくしの意思や命令ではないわ──」

 ジュリアーナは言い訳するかのようにそう言った。

 私はそこは特に問題視していない。
 私が学園都市に来る前からアヤタは学園の生徒として学園に在籍していたし、アヤタを助手に選んで雇用しているのは私の意思だ。

 私が「アヤタのことは大丈夫です。気にしていません」と本当に気にしていない様子で答えるとジュリアーナはあからさまに安堵した。

 私が想像していた以上にジュリアーナは私が怒ったり疑ったりすると不安に思っていたようだ。

 「……わたくしは貴女に関わる気は無かったわ。でも、貴女が困っているなら助けたいとずっと望んでいた。そのわたくしの気持ちと、アヤタ自身の貴女を助けたいという想いが一致したことでアヤタは貴女にアジュール商会を紹介したのよ。その後のことはいろいろ成り行きで、貴女も知っているようにお互いいろいろあって今に至っているわ……」

 ジュリアーナの話はこれで終わったようだ。

 ジュリアーナは落ち着いた優しげな表情を浮かべて私を見つめている。

 ジュリアーナは静かに私を待っている。
 私が口を開くのをただ待っている。

 これからは私の質問タイムとして使っていいみたいだ。

 ジュリアーナに尋ねたいことは沢山ある。
 ジュリアーナの話し中は話の腰を折らないために我慢していたが、もう我慢する必要はない。

 しかし、いざ質問タイムが来ると何を訊けばいいのか分からない。
 質問が全然浮かんでこない。

 一気に多くの情報が流れ込んできたせいで頭が酷く混乱している。

 ジュリアーナの話で判明した事実はいくつかある。

 しかし、それ以上に謎が増えた。

 ずっと分からなかったことが分かったが、分かったこと以上に分からないことが増えた。

 これまで分からないと悩んでいたこと以上に分からないことが増えてしまった。

 ひとまず頭の中を整理しよう。

 ジュリアーナの話で分かったことは大まかに分けると5つある。

 『私はルリエラであり、ルリシーナであり、マルグリット・リースという人間』
 『ジュリアーナは生後2ヶ月の私を拾って育てていた』
 『私は2度誘拐されていた』
 『2度目の誘拐の犯人はジュリアーナの父親の南部辺境伯』
 『私を孤児院に捨てた、というか預けたのは南部辺境伯』

 そこまで整理したところで疑問がふっと湧いてきた。
 
 「あの、ジュリアーナ、私は本当にあなたのルリシーナと同一人物なのですか?実は外見の特徴がそっくりなだけの全くの別人という可能性はありませんか?南部辺境伯があなたへ虚偽報告をしていた可能性はありませんか?」

 南部辺境伯が本物のルリシーナと取り替えて本物はどこか別の場所で保護されているか、最悪の場合は本物は既に消されているという可能性もある。
 ジュリアーナのために南部辺境伯が偽物のルリシーナであるルリエラ=私を用意した可能性は0ではない。
 その場合、私の産みの親はあの二人ではないことになる。

 一縷の望みを託してジュリアーナに勢いで質問したが、ジュリアーナは悲しそうに首を振った。

 「貴女がそう疑ってしまうことも無理はありません。でも、わたくしはルリシーナを見間違えたりしません。貴女はわたくしのルリシーナです。それは間違いありません」

 強くはっきりとジュリアーナは偽物説を否定し、私を『ジュリアーナわたくしのルリシーナ』と断言する。

 私の説は単なる思いつきで何の根拠も無かったので、私はそれ以上は何も言えなくなる。

 ジュリアーナの言葉を疑うことはジュリアーナが嘘をついているか、ジュリアーナが騙されていることになってしまう。

 つい頭に浮かんだ質問を深く考えることなくそのまま口走ってしまった。これ以上ジュリアーナの話の内容の真偽を尋ねることは本当にジュリアーナへの侮辱になる。

 そんなことに頭が回らない程に私は混乱していたようだ。

 私はジュリアーナを信じている。だから、判明した事実は今のところはひとまず全て受け入れよう。

 判明した事実に関しては今は何も問わないと決めて、私はジュリアーナへ自分の不用意で不躾な質問を謝罪した。

 ジュリアーナは謝罪を受け入れてくれたが、互いに黙り込んでしまい、私とジュリアーナの間に気まずい空気が漂い始める。

 いや、気まずく感じているのは私だけだ。
 ジュリアーナは失礼な質問の前と変わらずに優しく微笑んで静かに私を待ってくれている。

 この空気を変えるためにも何か話しかけたいが、何の質問も浮かんできてくれない。

 私はこの空気の中で必死に再び頭の中の整理を始める。

 ジュリアーナの話は基本的に淡々と事実だけが並べられていた。
 ジュリアーナの感情や憶測などはほとんど語られていなかった。
 例外はルリシーナへの深い愛情と父親への怒りだけだ。

 私がジュリアーナの屋敷の前に捨てられていた事実は語っても、なぜ私がジュリアーナの屋敷の前に捨てられていたかという推測などは語らなかった。
 ジュリアーナも知らないから話さなかったのだろう。
 憶測や推測や希望的観測などで私を錯誤や誤認させて洗脳や誘導をしないように気を付けて話したのかもしれない。

 その部分を私が改めて質問してもジュリアーナは何も語らないだろう。

 そんなところにジュリアーナの私への深い心配りが感じられる。

 だからこそ気になってしまう言葉がある。

 (……わたくしは貴女に関わる気は無かったのよ。でも、貴女が困っているなら助けたいとずっと望んでいたわ。)

 これはどういう意味なのだろうか?
 
 私は同じ轍を踏まないように質問内容を自分の中で精査して、ジュリアーナへの質問を考えた。

 

    
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