私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

文字の大きさ
上 下
165 / 261
第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに

4 奇襲① 油断

しおりを挟む
 自称両親連中の背後にいる黒幕が判明してからはより一層モヤモヤとした気持ちと消化できない嫌な予感を抱え込みながらも、表向きは何も変わらずに日々を過ごしていた。

 心の奥底でこの予感が外れることを祈っていたが、その嫌な予感は外れてはくれなかった。

 その日は朝からしとしとと冷たい雨が降っていた。
 明け方から降り始めていたようで、起きたときから空は薄暗く、空気を肌寒くするような雨が降っている。空には雨がすぐに止みそうには見えない程にどんよりとした暗い雲が空一面を覆い、一日中雨が降り続くことが予想された。

 今日は都市の外で長距離飛行実験の予定だったが、雨天中止にするしかない。
 すぐにアヤタへ実験中止と本日は休みにして自由に過ごすようにという伝言を送る。

 寝起きから予定変更を余儀なくされてしまい、あまり良い一日の始まりとは言えなかった。

 しかし、久しぶりにぽっかりと何の予定も入っていない時間が生まれた。
 せっかくだから私も仕事を休みにして部屋でのんびりと過ごすことにしよう。
 そうして仕事とは関係のない本を読んだり、ライラとのんびりランチを食べたりと微睡むような優しくて穏やかで気持ちのいい時間を過ごしていた。

 だが、ライラと楽しくお茶をしているとき、突然扉が外からノックされたことで微睡みの時間は強制的に終了させられてしまう。

 寝てはいなかったが、気を抜いてのんびりとリラックスしていた時間を邪魔されたことでほんの少し不愉快な気分にさせられる。
 気持ち良く熟睡していたのに他人に無理矢理叩き起こされたかのような不快感を覚える。

 すぐに仕事モードに切り替わったライラが部屋の扉を開けて訪問者の対応をしているが、その空気から単なる手紙の受け渡しや単純な伝言ではないことが感じられる。  
 私は不快感と不機嫌さを押し込めて、腑抜けていた自分に活を入れてライラからの連絡を待つ。

 それほど待つことなく、ライラが困惑の表情を浮かべて躊躇しながら私へ伝言を伝える。

 「……門からの伝言なのですが、ルリエラ様のご両親が門前に訪問されているようです……」

 「自称両親連中は門前払いするように伝えているのになぜこちらに伝令が来たの?」

 自称両親連中は偽物扱いで問答無用で私へと取り次ぎはしないで門前払いすることになっている。それなのになぜ取り次ぎの伝令が来たのかと私は不思議に思い首を傾げる。

 「そ、それが、これまでの方達とは違い、今まで来たことのない初めての人達らしく……」

 ライラは全てを伝えることが出来ずに言い淀んでいる。
 
 「──今度は別の人間を新しく送り込んできたの!?……でも、対応はこれまでと同じで構わないから。自称両親や親族は全員偽物と見做しての対応で今のところ何の問題も無いからね」

 「そ、それが、本物らしいのです!」

 「どういうこと?」

 「訪問者は自分たちが本物のルリエラ様の産みの親という証拠を持ってきているそうです……」

 「その証拠って何?」

 「それが、『本人以外には言うつもりも見せるつもりも無い』と言い張って門番では確認できないみたいです」

 「………私が直接会って確認するしかないか……。分かった、門前払いせずに待合室に案内してもらって。すぐに支度する」

 ライラは伝言役に私の指示を伝えて、すぐに私の支度を手伝ってくれた。

 私は大急ぎで着替えながら束の間の平和な時間はこの時に終了したことを悟った。



 しかし、どうして自称両親連中というのは揃いもそろって非常識で礼儀知らずな人間ばかりなのだろうか。

 なぜ、事前連絡をしないのか?
 家族間であるならば仕方ないということで済ませられるかもしれないが、今現在の彼等と私の間には何の繋がりも関係も無い。

 家族ならアポなし訪問は許されて当たり前だから?
 家族だから許されるという無意識な傲慢さ故か?
 それとも意識してまずは家族としての形から入ろうとしてわざと家族のように振る舞っているのか?

 お互いに家族として認識も認知もしていない間柄なのに。

 もうこれは自称両親からの奇襲による先制攻撃でしかない。
 こちらに事前に何も知らせないことで相手に何の準備もさせない。事前に情報を集めて対策させない。
 油断しているところに突然の知らせで動揺させ、先制攻撃により先手側の彼等が有利に事を運ぼうとしている。
 相手への配慮や気遣いは一切ない。

 もうこれは仕掛けてきた相手を「敵」認定して対処しても問題無いだろう。

 しかし、初対面で明らかに相手を偽物と疑い露骨に警戒をするのは失礼になってしまう。事情があっても、マナーや礼儀を忘れて自分が礼を失する振る舞いをすることを正当化しては非常識で礼儀知らずな彼等と同じ人間に堕ちてしまう。
 
 私は改めてより一層気を引き締め、猜疑心と警戒心と敵対心を必死に抑えつつ奇襲攻撃を仕掛けてきた敵が待つ待合室へ向かった。

 

 ライラが待合室の扉を開けて私が中に入った瞬間、

 「──会いたかったわ!マルグリット‼」

 そう叫びながら見知らぬ初対面の女が知らない名前を呼んでいきなり抱きついてきた。

 あまりにも非常識過ぎる予想外の出来事に私は避けることができなかった。

 知らない女に抱きしめられた時、反射的に私の全身に怖気が走る。
 まるで変質者の男にいきなり抱きつかれて襲われているかのような生理的な嫌悪感と拒否感に襲われた。
 あまりの気持ち悪さと恐ろしさに女を振り払うこともできず、私は身を固くして女にされるがまま耐えることしかできない。

 そんな私の様子などお構いなしに女は抱きつきながら一人で意味不明なことを涙声で喋り続けている。

 私は救いを求めて辺りを見渡すと、椅子に座っている女の連れと思しき男と目が合った。
 だが、男は必死に救いを求める私の視線を無視して嬉しそうに女の傍若無人な振る舞いを黙って眺めているだけ。
 女の奇行を咎めることも止めることもしない。

 私は奇襲攻撃を仕掛けてくる敵に対する自分の警戒が全然足りていなかったことを心から反省した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

傀儡といしの蜃気楼 ~消えた王女を捜す旅から始まる、夢の世界のものがたり~

遠野月
ファンタジー
これは、現実の裏側に存在する、≪夢の世界≫のものがたり。 殺された妹、その無残を乗り越えられずにいた冒険者ラトス。 死の真相を探るべく足掻いた先で、行方不明となっている王女の捜索依頼を受けることになる。 王女の従者メリーを連れて森に入ったラトスは、王女が消えたその場所から夢の世界に迷いこむ。 奇妙がうずまく夢の世界に王女も囚われていると知り、ラトスたちは救出に向かう。しかしそのためには、怪物が巣食う悪夢の回廊を通り抜けていかなければならないのだという。 ラトスは旅の途中で出会った協力者たちの助力を得て、様々な困難を乗り越えていく。 現実とつながっている夢の世界は、様々な思想、感情などで構成されている。 広大な草原に浮かぶ、巨大な岩山。 岩山の中には、現実世界に生きるすべての人間が持つ、個人の夢の世界がある。それらはすべて、個人の記憶、思想、感情で盛衰しつづけている。 個人の夢の世界をつなぐ悪夢の回廊は、悪しき感情で満ちている。 悪から生まれた怪物たちは、悪夢の回廊を通り抜けようとする者に襲いかかる。 さらに、七つの大罪の元となる「八つの悪徳」から生まれた怪物は、猛る爪と牙をラトスたちに向ける。 現実感のある不思議がうずまく、夢幻。 誰もが感じ、夢想した世界が、このものがたりで形となる。

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

ブラコン姉妹は、天使だろうか?【ブラてん】

三城 谷
恋愛
本作の主人公『椎名崎幸一』は、青陽学園に通う高校二年生。この青陽学園は初等部から高等部まで存在するマンモス校であり、数多くの生徒がここを卒業し、世の中に名を残してきている超エリート校である。そんな高校に通う幸一は学園の中ではこう呼ばれている。――『卑怯者』と。 そんな卑怯者と呼ばれている幸一の元へやってきた天才姉妹……『神楽坂美咲』と『神楽坂美羽』が突然一人暮らしをしている幸一の家へと訪ねてやって来た。とある事情で義妹となった神楽坂姉妹は、幸一以外の男子に興味が無いという状況。 これは天才姉妹とその兄が描く物語である。果たして……幸一の学園生活はどうなる? ※表紙も僭越ながら、描かせていただきました。仮の物で恐縮ですが、宜しくお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

えっ!どうしよ!?夢と現実が分からない状況なので模索した結果…

ShingChang
SF
睡眠の前に見る【夢】を自由に制御できる能力者、 桜川みな子 社畜の様な労働時間の毎日…疲れ果てた彼女が 唯一リラックス出来る時間が『睡眠』だ 今夜は恋愛系? 異世界ファンタジー? 好きな物語を決め深い眠りにつく… そんな彼女が【今宵はお任せ】で見た 【夢】とは!?

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...