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第6章 私はただ知らないことを知りたいだけなのに!
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「確かに私は自分の親のことを何も知らない。でも、親について知らないことを知っている」
ライラは私の言葉の意味を理解できていないようで、酷く困惑した表情を浮かべた。
私は親のことは何も知らない。分からない。記憶にない。
ライラのような親との胸が温かくなるような思い出話は一切できない。そんなものは私の中に存在していない。
私には他者の心まで温かく切なくするような思い出話は孤児院での出来事だけしかない。その思い出話には父親も母親も存在しない。
私の記憶のどこにも親はいない。
親の顔も知らない。
親が誰かも分からない。
親の名前も知らない。
親が生きているかも分からない。
でも、自分の親について知っていること、分かっていることはある。
「私には親はいない。でも、誰にでも親はいる。私は親のことは一切記憶にはないけど知っていることはある。親との思い出はないけど親に関する事実だけはあるからね」
私は困惑しているライラに私が知っている親のことに関して分かりやすく説明する。
生き物であれば誰にでも親はいる。
コウノトリが運んでくるわけではないから、必ず生物上の親は存在する。
だから、私の親に関して判明している事実はある。
血の繋がった子を捨てた親。
血の繋がった子を育てなかった親。
親としての責任を果たしていない人間。
そういう事実だけが私の目の前にはある。
何か事情があったのかもしれないが、その事実に親は言い訳も説明もできない。本人がいないのだから。それに孤児院に対して事情の説明や手紙を残すなどして説明責任すら果たしていない。
私の生物上の親は私を捨てた。私を育てなかった。生んだ責任を果たさず、養育の義務を放棄した。子を迎えに来なかった。
事実としてそれだけは判明している。それは覆しようのない事実だ。
その事実に基づいて、私の親は「無責任な人間」「薄情な人間」「卑怯な人間」ということが推察される。
親にも何か事情があったのかもしれない。
私を育てられなかったのはやむにやまれぬ事情で、自分の意志ではなかったかもしれない。
本人が不明のため否定も言い訳も情状酌量もできない。
本人からの事情の説明もないのだから、こちらからは事実からしか判断できない。
だから、判明している事実だけが私の真実だ。
目の前の事実を鵜呑みにしかできない。
それ以外に親に関して違う判断をすることもできない。
私の説明を聞いたライラは青褪めている。
私の親への評価があまりにも厳しくて辛口だったことが予想外だったようだ。
自分を産んでくれた親に対する容赦ない批判的な意見に驚いている。
私はこれまでは親に関しては無関心を装っていたから、ここまで辛辣に親のことを批判するとは思っていなかったのだろう。
「親について何も知らない。何も分からない。何も覚えていない。記憶に一切無い……。だからといって、親について何の感情も持っていないというわけではないんだよ」
この言葉にライラは動揺した。
ライラは私のこれまでの親に関する態度から親について私が負の感情を抱いてはいないことは理解していたようだが、『負の感情が無い=何も感じていない』と思い違いをしていたようだ。
「でも、特に産みの親を恨んだり、憎んだり、怒ったり、嫌ったりはしていないよ。何も分からないからそうすることもできないだけなのだけどね……」
相手の顔も事情も分からないから親として嫌ったり恨んだり憎んだりする以前の問題だ。
ただ、親に対して何の情も湧いてこない。
親子関係は破綻以前にそんな関係すら存在していない相手なのだから仕方ない。
「だからといって親に良い感情も抱いてはいないよ。何の関係もない赤の他人に対する感情が0なら、産みの親に対する感情は0ではなくマイナスのほうになる」
私にとって産みの親というものは親という名前だけの赤の他人と同じ存在。
そして、何も知らない赤の他人よりも信用できない警戒しなければならない危険な存在。
親という存在は今の私には何の関係も無い赤の他人と同じ位置にいる人間だが、判明している事実により赤の他人よりも信用度は低い。
怒りや恨みなどの感情は無いが、不信という感情があるので全く何も関係の無い赤の他人よりも心理的な位置としては不審者と同じくらいに遠くになる。
だから、特に両親に対して何かを求める気持ちが無い。何も期待していない。期待できないから。
相手に期待できるほどに相手のことを信用していない。寧ろ、警戒心の方が強い。
他人に何かを願ったり、求めたりすることができるのは、ある程度の関係性がある相手にしかできない。
普通は対価を払って要求を叶えてもらう。
無償で損得勘定抜きで自分のために何かをしてくれたり、与えてくれたりするのは友人関係や親子関係などのそれなりの信頼関係などがある相手とだけ。
血の繋がった親だからと子どもの要求に無条件で無償で応えてくれるはずだと無条件に信頼することはできない。
そこまで純粋ではない。
親子関係が構築されていない相手にそこまで楽観的にも短絡的にもなれない。
「私の親はライラの親とは違う。ライラの親はたしかにライラを産み育てた事実がある。でも、私の親には何も親としての実績が無い。事実だけ見れば私の親は親という以前に人として信用できない。同じ『親』であっても私の親とライラの親は全くの別物なんだよ」
私が突き付けた事実にライラは瞠目した。この事実をライラがこれまで認識できていなかったことが明らかになった。
やはりライラは親というものを自分の親に当てはめて同じように考えていたみたいだ。
まるでライラの間違いを指摘して責めているような状況に私のほうが逃げ出したくなる。
それでも逃げ出すわけにはいかない。
私はライラに私のことを知って理解して受け入れてもらいたいから。
私はライラの衝撃を受けている様子に気付かないふりをして話を続けた。
ライラは私の言葉の意味を理解できていないようで、酷く困惑した表情を浮かべた。
私は親のことは何も知らない。分からない。記憶にない。
ライラのような親との胸が温かくなるような思い出話は一切できない。そんなものは私の中に存在していない。
私には他者の心まで温かく切なくするような思い出話は孤児院での出来事だけしかない。その思い出話には父親も母親も存在しない。
私の記憶のどこにも親はいない。
親の顔も知らない。
親が誰かも分からない。
親の名前も知らない。
親が生きているかも分からない。
でも、自分の親について知っていること、分かっていることはある。
「私には親はいない。でも、誰にでも親はいる。私は親のことは一切記憶にはないけど知っていることはある。親との思い出はないけど親に関する事実だけはあるからね」
私は困惑しているライラに私が知っている親のことに関して分かりやすく説明する。
生き物であれば誰にでも親はいる。
コウノトリが運んでくるわけではないから、必ず生物上の親は存在する。
だから、私の親に関して判明している事実はある。
血の繋がった子を捨てた親。
血の繋がった子を育てなかった親。
親としての責任を果たしていない人間。
そういう事実だけが私の目の前にはある。
何か事情があったのかもしれないが、その事実に親は言い訳も説明もできない。本人がいないのだから。それに孤児院に対して事情の説明や手紙を残すなどして説明責任すら果たしていない。
私の生物上の親は私を捨てた。私を育てなかった。生んだ責任を果たさず、養育の義務を放棄した。子を迎えに来なかった。
事実としてそれだけは判明している。それは覆しようのない事実だ。
その事実に基づいて、私の親は「無責任な人間」「薄情な人間」「卑怯な人間」ということが推察される。
親にも何か事情があったのかもしれない。
私を育てられなかったのはやむにやまれぬ事情で、自分の意志ではなかったかもしれない。
本人が不明のため否定も言い訳も情状酌量もできない。
本人からの事情の説明もないのだから、こちらからは事実からしか判断できない。
だから、判明している事実だけが私の真実だ。
目の前の事実を鵜呑みにしかできない。
それ以外に親に関して違う判断をすることもできない。
私の説明を聞いたライラは青褪めている。
私の親への評価があまりにも厳しくて辛口だったことが予想外だったようだ。
自分を産んでくれた親に対する容赦ない批判的な意見に驚いている。
私はこれまでは親に関しては無関心を装っていたから、ここまで辛辣に親のことを批判するとは思っていなかったのだろう。
「親について何も知らない。何も分からない。何も覚えていない。記憶に一切無い……。だからといって、親について何の感情も持っていないというわけではないんだよ」
この言葉にライラは動揺した。
ライラは私のこれまでの親に関する態度から親について私が負の感情を抱いてはいないことは理解していたようだが、『負の感情が無い=何も感じていない』と思い違いをしていたようだ。
「でも、特に産みの親を恨んだり、憎んだり、怒ったり、嫌ったりはしていないよ。何も分からないからそうすることもできないだけなのだけどね……」
相手の顔も事情も分からないから親として嫌ったり恨んだり憎んだりする以前の問題だ。
ただ、親に対して何の情も湧いてこない。
親子関係は破綻以前にそんな関係すら存在していない相手なのだから仕方ない。
「だからといって親に良い感情も抱いてはいないよ。何の関係もない赤の他人に対する感情が0なら、産みの親に対する感情は0ではなくマイナスのほうになる」
私にとって産みの親というものは親という名前だけの赤の他人と同じ存在。
そして、何も知らない赤の他人よりも信用できない警戒しなければならない危険な存在。
親という存在は今の私には何の関係も無い赤の他人と同じ位置にいる人間だが、判明している事実により赤の他人よりも信用度は低い。
怒りや恨みなどの感情は無いが、不信という感情があるので全く何も関係の無い赤の他人よりも心理的な位置としては不審者と同じくらいに遠くになる。
だから、特に両親に対して何かを求める気持ちが無い。何も期待していない。期待できないから。
相手に期待できるほどに相手のことを信用していない。寧ろ、警戒心の方が強い。
他人に何かを願ったり、求めたりすることができるのは、ある程度の関係性がある相手にしかできない。
普通は対価を払って要求を叶えてもらう。
無償で損得勘定抜きで自分のために何かをしてくれたり、与えてくれたりするのは友人関係や親子関係などのそれなりの信頼関係などがある相手とだけ。
血の繋がった親だからと子どもの要求に無条件で無償で応えてくれるはずだと無条件に信頼することはできない。
そこまで純粋ではない。
親子関係が構築されていない相手にそこまで楽観的にも短絡的にもなれない。
「私の親はライラの親とは違う。ライラの親はたしかにライラを産み育てた事実がある。でも、私の親には何も親としての実績が無い。事実だけ見れば私の親は親という以前に人として信用できない。同じ『親』であっても私の親とライラの親は全くの別物なんだよ」
私が突き付けた事実にライラは瞠目した。この事実をライラがこれまで認識できていなかったことが明らかになった。
やはりライラは親というものを自分の親に当てはめて同じように考えていたみたいだ。
まるでライラの間違いを指摘して責めているような状況に私のほうが逃げ出したくなる。
それでも逃げ出すわけにはいかない。
私はライラに私のことを知って理解して受け入れてもらいたいから。
私はライラの衝撃を受けている様子に気付かないふりをして話を続けた。
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