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第6章 私はただ知らないことを知りたいだけなのに!

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 発表会の準備は衣装だけではない。
 衣装は発表のおまけでしかなく、本命はその発表内容だ。
 発表会本番に向けて用意しなければならないものはまだたくさんある。

 その内の1つが発表会の2か月前の本日に無事に届いた。

 発表会では舞台の上で宙を飛ぶことになっているが、飛行術の行使には媒体が必要不可欠だ。

 理術の媒体になるガラスの玉はまだ試行錯誤中で改良を続けてはいるが、今の段階での完成品はできている。

 研究の結果、私にとって媒体に最適な大きさは前世の彼女の記憶にある怪し気な占い師が使っているような水晶玉くらいの両手で包むくらいの大きさだという結果が出た。
 そこまでは良かったが、その後、そんな大きさのガラス玉をどうやって媒体として使用するかという新たな問題に直面した。

 占い師ならテーブルの上に安置して座っていればいいが、私は移動するのでそうはできない。片手で持つには大き過ぎるガラス玉を持ち歩くことも、それを持って空を飛ぶことも難しい。
 ガラス玉の強度はそれ程強くないので地面に落としてしまえば簡単に割れてしまう。落とさないように常にガラス玉を両手で抱えている状態では手が自由に使えなくて不便極まりない。

 媒体のガラス玉をアクセサリーのように首から下げたり、腕に付けたりするには大き過ぎるし重過ぎる。

 媒体として使用するには直接触れるか目視する必要がある。自分がその媒体となる物質の存在を視覚か触覚などの五感で認識していなければ媒体として使えない。
 持ち運ぶときには袋に入れて腰から下げても、使うときには袋から出さないといけないから理術の行使中に両手が塞がる問題は解決しない。
 袋に片手を突っ込んでガラス玉に直接触れれば媒体として使えるが、何をしているか他人には分からず、見た目が怪しくて不審がられるので堂々とガラス玉を披露しながら使いたい。

 もっとガラス玉の媒体としての質が向上すればサイズを小さくしても理術の威力が落ちることはないだろうが、今はまだないものねだりになってしまう。

 飛行術には複数の理術の同時行使が必要になる。
 浮くだけなら重力に干渉する理術だけでいいが、飛ぶとなると重力以外の複数のことわりにも干渉する必要がある。

 重力だけの理術は曲を1つだけ作曲して、その曲を楽譜にして暗譜して右手だけでピアノで弾くようなものだが、他の理術も同時に行使するとなると行使する理術の数だけ楽譜を暗譜して右手だけでなく左手や右足や左足も使ってそれぞれ違う曲を同時に演奏しなければいけないような感じだ。
 媒体は理力と理術の相殺の解消だけでなく、その負担も減らしてくれる。

 同時に複数の理術を行使するために、事前にその曲を作曲して楽譜に起こしてそれを暗譜して完全に演奏できるようにマスターしなければならないというのは媒体の有無とは関係なく理術を使う上で必要なことで省略などはできないが、媒体を使うと身体を使ってピアノを弾かなくても頭で思い浮かべるだけでピアノが勝手に動いて全ての曲を同時に演奏してくれるみたいな感じで理術の行使の負担を減らしてくれる。
 
 サイズを小さくしてアクセサリーにできるくらいの大きさにしてしまうと媒体として力が落ちてしまい同時行使ができる理術の数を減らすか威力を落とさなければならない。そうなると飛行術の安全性と安定性が損なわれてしまう。

 複数の媒体を使ってそれぞれに別の理術を使えないかと試してみたが私には無理だった。
 
 どれだけ単純で簡単な理術でも別々の媒体を使って同時に理術を行使することはできなかった。
 右手と左手に媒体を持って両方に同時に理力を込めようとしても理力がどちらにも込められなかった。理術の行使以前の問題で、まだ原因は解明できていない。
 理術を二つの物にかけることはできるが、媒体を二つ同時に使うことは不可能という事実だけが判明している。


 だから、飛行術を行使するにはどうしても両手で包むくらいの大きさのガラス玉を使うしか方法がない。

 私とライラとアヤタの3人で必死に頭をつき合わせて考えた。

 カンガルーのように服に大きな内ポケットを付ける案、王冠のように頭に載せる案、武器の鉄球のように鎖を付けて肩から吊るす案などが出たがどれも見た目や使い勝手が悪く決定打に欠けた。

 割れ物の丸いガラス玉を露出した状態で割れないように持ち運ぶ方法を誰も思い付けなかった。

 私は前世の彼女の記憶を総動員して何か良い案はないかと探しまわった。
 そこで引っ掛かったのは彼女が小さな頃に観ていたアニメの『魔法少女』だった。
 魔法少女は魔法の短い棒を振り回していた。
 指揮棒くらいの短い棒の先には透明なハート型の宝石のようなものが付いていた。

 「杖にこのガラス玉を載せてみよう!」

 魔法少女から閃いた私がそう提案したが、最初はライラとアヤタには全く理解されなかった。
 絵に描いたり、実際に木の棒を拾ってきてその上にガラス玉を置いてみせたりしてなんとか私が想像している物を理解してくれた。

 杖ならば手で持って運びやすいし、長い杖であれば地面に下側を接地して安定させれば片手で支えることも可能になる。

 ガラス玉と杖を一体化するにはガラス玉を載せる皿部分とガラス玉を皿に固定する爪の部分が必要で、高度な職人技を必要としたがアクセサリーなどを製作している職人にオーダーメイドで注文して作ってもらった。
 もちろん、アジュール商会が紹介してくれた職人にお願いした。

 王様が持つ錫杖のように豪華絢爛である必要もなく、武器としても歩くための杖としても使わないので強度はそこまで強くなくていい。
 ガラス玉を持ち運ぶことが主目的なので、ガラス玉を載せることができれば他に一番に杖に求めることは軽さだった。

 軽くて丈夫であること。

 あまりに軽すぎてガラス玉の重さにも耐えきれずに折れてしまうのは論外だが、人がちょっと力を入れただけで簡単に真っ二つになるほどに脆いのも不安だ。
 力をいれて思いきり殴ったりしたら折れてしまうのは仕方ないが、それなりの丈夫さは必要。

 ガラス玉を固定するための複雑な加工もできて、軽くて、丈夫。そんなすべてを兼ね備えている都合のいい素材は残念ながら無かった。

 苦肉の策として、ガラス玉を載せる上部だけは加工のしやすい指輪などに使われる金属で作り、杖の本体部分は硬すぎて細工はできないが丈夫で軽い材質の木で作って、後から二つを合体させて固定することになった。
 同じ白い塗料で外側を塗っているので見た目にはほとんど違和感の無い作りになっている。言われなければ上の部分が後付けだとは気付けない。

 一月前に完成して届けられたガラス玉付きの杖を略して玉杖ぎょくじょうと命名した。

 早速、玉杖を剣のように腰に装着したベルトから吊るして身に付けようとしたが、ここで思わぬ問題が発生した。

 長かった。

 私の身長は平均的な女性よりも一回り低くて、足が短いので腰に玉杖を吊るすと杖の先端が床に当たってしまい擦りながら移動することになる。

 自分の足の長さを呪っても何も解決しないので、すぐに職人に杖の長さを私が引きずらないくらいに短くするようにと送り返した。それだけでなく長さを自分で調節できるようにしてほしいという要望も一緒に送った。

 再び返ってきた箱の中には指揮棒くらいの長さのガラス玉が付いた上部がくっついている短い棒と数本の長さの違う棒が入っている。

 ガラス玉が付いている上部の部分と下部分が分割できるようになっており、上下を嵌め込んで右に回せば固定され、左に回せば再び取り外すことができるようになっている。

 私が引きずらないくらいの長さになるように短い棒を合わせて1本にして腰に吊るしてもいいし、分割して腰に2本吊るしておけば椅子に座っても邪魔にならない。
 
 とても良い改良をしてもらった。これで床を引きずる心配は無くなった。

 前世の彼女の記憶では長い魔法の杖を使う魔法使いは常に杖を握って持ち歩いているが、片手が塞がれてしまって不便だと思う。
 剣士や槍使いや弓使いや盾使いなどはみんな武器を腰に下げたり、背中に背負ったりして普段は両手は空けている。
 杖を背負う魔法使いや杖を引きずる魔法使いは彼女の記憶の中の物語には出てこなかった。
 指揮棒のような短い魔法の杖は懐に隠しておけるのが羨ましい。

 やはり、ガラス玉の媒体としての質を向上させて媒体を小さくしてせめて指揮棒程度の長さくらいで片手で簡単に振り回せるくらいの大きさと重さにできるようにしたい。

 こうして私には発表会が始まる前に発表会が終わった後の目標ができた。
 

 

 
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