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第4章 私はただ真面目に稼ぎたいだけなのに!
3 気分転換
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ずっと理術漬け、研究三昧の日々を過ごしていたが、アヤタのおかげで媒体の研究が一段落ついた。
やっと状況的にも気持ち的にも少し余裕ができてきたので、ちょっとひと休憩することができそうだ。
今日は、ちょっと気分転換と休憩とアヤタへのお礼を兼ねて、約束していたクリームアイスを作ることにした。
アヤタと約束していたのにすぐにクリームアイスを作れなかった理由は幾つかある。
最大の理由は「料理よりも研究を優先しなければならなかった」からだ。
あと、現実問題として研究に理力をたくさん使うので、料理に理力を割くことができなかった。
そして、材料の生クリームがすぐには手に入れられなかった。
このクリームアイスは生クリームを使ってアイスクリームよりも簡単に作れる。
生クリームに砂糖を入れてしっかりと角がたつようになるまで泡立てる。それを型に入れて冷やして固めるだけ。
型から取り出してナイフで切り、皿に盛り、好みで上にジャムをかける。
前世の彼女の母親がよく彼女に作ってあげていたお菓子だ。
泡立てた生クリームはとても柔らかいのに、凍らせると固くなって歯応えや食感や口どけが全く別物になってしまう。
普通の生クリームは口の中に入れても溶けてはいかないのに、凍らせた生クリームは口の中でゆっくりと口内の温度で溶けていく。
元々が生クリームであり、泡立てて十分に空気が含まれているからまったく氷のような固さを感じられず、とても滑らかな口当たりだ。
口に入れた瞬間は冷えて固まっているが、口の中で徐々に溶けていくと生チョコレートのような柔らかさになって、それよりも更に柔らかくなって溶けていく。
前世の彼女はチョコレート入りの生クリームを凍らせたクリームアイスが大好きだった。
この世界では私はまだチョコレートというものは見たことも食べたことも無い。
この国はヨーロッパのような気候で四季があるどちらかと言えば涼しい地域だ。
チョコレートの原料のカカオは熱帯気候のような年中真夏のような地域に生えているだろうから、輸入されない限りは食べることはできないだろう。
そんなことを考えながらライラに数日前に新鮮な生クリームを手に入れるように伝えていた。
生クリームはバターやチーズなどの加工用として消費されていて、店では一般的に取り扱いされていない。この地域の一般家庭では料理で生クリームを使用することはあまり無いようだ。
生クリームを手に入れるためには、牧場まで直接行って買うか、牛乳を取り扱っているお店に事前に注文しておくしかない。
特に何の予定も無く、急ぎでもなかったが、ライラに頼んでから数日経った昨日に新鮮な生クリームを無事に手に入れることができた。
生クリームは日持ちがしないので早く使わなければならない。
だから、今日は早起きしてアヤタが研究室に来る前にさっさとクリームアイスを作ってしまう。
今は研究結果や資料を論文としてまとめているだけなので、幸いにも研究で理力を使う予定は当分無いから何も気にすること無くいくらでも理力を使うことができる。
コップ一杯くらいの生クリームをボウルに入れて、細かく砕いた茶糖を入れる。次に生クリームが分離してしまわないように冷やしながらしっかりと角が立つくらいになるまで泡立てなければならない。
もちろん、この世界に電動の泡立て器なんてものは存在しない。手動で使う泡立て器は探せばあるかもしれないが、この研究室のキッチンには無かった。
泡立て器について事前に調べておいて、生クリームの入手を頼んだときに一緒に泡立て器かそれに類する物も用意するように頼んでおけば良かった。
前回の歓迎会のときのアイスクリームはスプーンでかき混ぜて作っていたから泡立て器について完全に失念していた。
泡立て器が無いのだから、ライラと協力してフォークで生クリームを人力でかき混ぜて泡立てるしかない。
私が生クリームの入っているボウルを理術で冷やしながら、ライラが懸命にフォークを握りしめて目にも留まらぬ早さでかき混ぜている。
しかし、10分以上フォークで混ぜてもなかなか生クリームは泡立たない。角がたつまではまだまだ泡立てなくてはいけないようだ。
力尽きてきたのか、徐々に目に見えてライラの持つフォークの動きが鈍ってきた。
「ライラ、腕が疲れたでしょう?交代しましょう。私にフォークを渡して」
十分に生クリームは冷えているから、私がかき混ぜる間くらいなら冷やしておかなくても問題無いだろう。
私はボウルを支えて微弱な理術をかけ続けていた手を離してライラに手を差し出した。
でも、ライラは私にフォークを渡すことなく、フォークを握り直して首を横に振る。
「いいえ、まだまだ大丈夫です。ルリエラ様はボウルを支えていてください」
そう言うが早いかフォークのスピードが再び目にも留まらぬ早さに戻った。
私は何も言わずに交代するのを諦めて大人しく再びボウルを支えて理術で冷やすことにする。
先は長そうだから無理強いすることも焦る必要も無い。
そういうやり取りをライラと何度か繰り返し、私も一度は交代してかき混ぜて、なんとか生クリームは無事に角がたつまで泡立った。
それを深めの四角い型に入れて、理術で一気に凍らせる。
蓋を閉められる木箱に理術で作製した氷を入れて、その上に型を安置し、蓋を閉めて置いておく。
これで今日の研究の途中に休憩としてアヤタと共にお茶をするときのお茶請けとしてクリームアイスを出すことができる。
氷菓が出てきてもアヤタが以前のように取り乱すことはないだろう。
歓迎会で私が自分で氷を理術で簡単に作れることは理解してくれているのだから。
アヤタは喜んでくれるかな?喜んでくれたら嬉しいな。
久しぶりに料理をして十分に気分転換できた私はそんなことをのんきに考えていた。
やっと状況的にも気持ち的にも少し余裕ができてきたので、ちょっとひと休憩することができそうだ。
今日は、ちょっと気分転換と休憩とアヤタへのお礼を兼ねて、約束していたクリームアイスを作ることにした。
アヤタと約束していたのにすぐにクリームアイスを作れなかった理由は幾つかある。
最大の理由は「料理よりも研究を優先しなければならなかった」からだ。
あと、現実問題として研究に理力をたくさん使うので、料理に理力を割くことができなかった。
そして、材料の生クリームがすぐには手に入れられなかった。
このクリームアイスは生クリームを使ってアイスクリームよりも簡単に作れる。
生クリームに砂糖を入れてしっかりと角がたつようになるまで泡立てる。それを型に入れて冷やして固めるだけ。
型から取り出してナイフで切り、皿に盛り、好みで上にジャムをかける。
前世の彼女の母親がよく彼女に作ってあげていたお菓子だ。
泡立てた生クリームはとても柔らかいのに、凍らせると固くなって歯応えや食感や口どけが全く別物になってしまう。
普通の生クリームは口の中に入れても溶けてはいかないのに、凍らせた生クリームは口の中でゆっくりと口内の温度で溶けていく。
元々が生クリームであり、泡立てて十分に空気が含まれているからまったく氷のような固さを感じられず、とても滑らかな口当たりだ。
口に入れた瞬間は冷えて固まっているが、口の中で徐々に溶けていくと生チョコレートのような柔らかさになって、それよりも更に柔らかくなって溶けていく。
前世の彼女はチョコレート入りの生クリームを凍らせたクリームアイスが大好きだった。
この世界では私はまだチョコレートというものは見たことも食べたことも無い。
この国はヨーロッパのような気候で四季があるどちらかと言えば涼しい地域だ。
チョコレートの原料のカカオは熱帯気候のような年中真夏のような地域に生えているだろうから、輸入されない限りは食べることはできないだろう。
そんなことを考えながらライラに数日前に新鮮な生クリームを手に入れるように伝えていた。
生クリームはバターやチーズなどの加工用として消費されていて、店では一般的に取り扱いされていない。この地域の一般家庭では料理で生クリームを使用することはあまり無いようだ。
生クリームを手に入れるためには、牧場まで直接行って買うか、牛乳を取り扱っているお店に事前に注文しておくしかない。
特に何の予定も無く、急ぎでもなかったが、ライラに頼んでから数日経った昨日に新鮮な生クリームを無事に手に入れることができた。
生クリームは日持ちがしないので早く使わなければならない。
だから、今日は早起きしてアヤタが研究室に来る前にさっさとクリームアイスを作ってしまう。
今は研究結果や資料を論文としてまとめているだけなので、幸いにも研究で理力を使う予定は当分無いから何も気にすること無くいくらでも理力を使うことができる。
コップ一杯くらいの生クリームをボウルに入れて、細かく砕いた茶糖を入れる。次に生クリームが分離してしまわないように冷やしながらしっかりと角が立つくらいになるまで泡立てなければならない。
もちろん、この世界に電動の泡立て器なんてものは存在しない。手動で使う泡立て器は探せばあるかもしれないが、この研究室のキッチンには無かった。
泡立て器について事前に調べておいて、生クリームの入手を頼んだときに一緒に泡立て器かそれに類する物も用意するように頼んでおけば良かった。
前回の歓迎会のときのアイスクリームはスプーンでかき混ぜて作っていたから泡立て器について完全に失念していた。
泡立て器が無いのだから、ライラと協力してフォークで生クリームを人力でかき混ぜて泡立てるしかない。
私が生クリームの入っているボウルを理術で冷やしながら、ライラが懸命にフォークを握りしめて目にも留まらぬ早さでかき混ぜている。
しかし、10分以上フォークで混ぜてもなかなか生クリームは泡立たない。角がたつまではまだまだ泡立てなくてはいけないようだ。
力尽きてきたのか、徐々に目に見えてライラの持つフォークの動きが鈍ってきた。
「ライラ、腕が疲れたでしょう?交代しましょう。私にフォークを渡して」
十分に生クリームは冷えているから、私がかき混ぜる間くらいなら冷やしておかなくても問題無いだろう。
私はボウルを支えて微弱な理術をかけ続けていた手を離してライラに手を差し出した。
でも、ライラは私にフォークを渡すことなく、フォークを握り直して首を横に振る。
「いいえ、まだまだ大丈夫です。ルリエラ様はボウルを支えていてください」
そう言うが早いかフォークのスピードが再び目にも留まらぬ早さに戻った。
私は何も言わずに交代するのを諦めて大人しく再びボウルを支えて理術で冷やすことにする。
先は長そうだから無理強いすることも焦る必要も無い。
そういうやり取りをライラと何度か繰り返し、私も一度は交代してかき混ぜて、なんとか生クリームは無事に角がたつまで泡立った。
それを深めの四角い型に入れて、理術で一気に凍らせる。
蓋を閉められる木箱に理術で作製した氷を入れて、その上に型を安置し、蓋を閉めて置いておく。
これで今日の研究の途中に休憩としてアヤタと共にお茶をするときのお茶請けとしてクリームアイスを出すことができる。
氷菓が出てきてもアヤタが以前のように取り乱すことはないだろう。
歓迎会で私が自分で氷を理術で簡単に作れることは理解してくれているのだから。
アヤタは喜んでくれるかな?喜んでくれたら嬉しいな。
久しぶりに料理をして十分に気分転換できた私はそんなことをのんきに考えていた。
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