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第3章 私はただ静かに研究したいだけなのに!
11 心配
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助手を一刻も早く雇うために、いろいろと用意をしなければならない。
でも、その前にやるべきことがある。
私は学園長室から辞した後、足速に自分の研究室へと帰り、はやる心のままに勢いよく扉を開けた。
「……え?あ!おかえりなさいませ、ルリエラ様」
私がノックをせずに研究室の扉を開けたので、研究室内でメイドの仕事をしていたライラが驚いて振り返った。警戒した顔をしていたが、すぐに私だと気付いて緊張を解いて笑顔で迎えてくれた。
この研究室は私の自室なのでわざわざノックをして扉をライラに開けてもらうことはしない。
今までは私があまり外出をしなかったし、外出するにしてもライラと共に出ることがほとんどだった。だから、この研究室にノックもしないで入ってくる人間がいるということを意識していなかったようだ。
意図したことでは無いが、驚いた顔をしたライラを見て、ちょっといたずらが成功した子どものような気持ちになってしまい思わず笑ってしまった。
「ただいま、ライラ。今からちょっと話したいことがあるからお茶を淹れてもらっていいかな?一緒に座ってお茶しましょう」
「ルリエラ様……、メイドと話すのにお茶は必要ありませんよ。ルリエラ様のお茶だけご用意してきます」
「ちょっと長い話になるから、座って話すのならやっぱりお茶は必要よ!だから、二人分お願いね」
ライラにお茶を淹れさせて、自分だけが座ってそれを飲みながら、ライラを立たせた状態で会話をするのは非常に居心地が悪い。
座りあっているのに、片方だけがお茶を飲み、片方には何も無しというのはあり得ない。
それならいっそお茶なしで互いに立ったまま話そうか、と提案したら、ライラは深いため息を吐いて「わかりました」と渋々了承してお茶の用意をしに行ってくれた。
私が正しくはないことは分かっている。それでも、この研究室でライラと二人きりのときは多少は私の好きにさせてもらいたい。
誰も見ていないのにストレスが溜まるようなことは極力したくはない。でも、その代わりにライラのストレスが溜まっている気もする。
貴族というわけではないのだから、多少は常識はずれなことをしても問題は無いと私は軽く考えているが、ライラは違うようだ。
なるべく常識的で一般的な使用人としての立場から逸脱した行動をとらないように心掛けている。
私が雇用主だから無理に距離を取ろうとしているのでも、自己保身のためでもない。
それは私への配慮であり、私に使用人への接し方や扱い方を教えるためであることには私も気付いている。
それでも、ライラが必要以上に自分を戒めているように感じる。
私としては「そこまで自分に厳しくしないで、もっと気楽に働いてくれて良いんだよ」と言ってしまいたい気持ちに駆られてしまうが、雇用主としてさすがにそれは口には出せない。
それに、私のためにと一生懸命やってくれている相手に、そんな相手の気持ちを踏みにじるようなことは言えない。
だから、私の我が儘としてライラに少しでも肩の力を抜いて欲しいのだけど、なかなか上手くいかない。
完全に雇用主と使用人として線引きしてしまえば楽なのかもしれないが、私がそれは嫌だ。
今現在、私とライラは互いにちょうどいい立ち位置を探りあっている状況にある。
きっと私とライラの落とし所となる立ち位置が見つかれば、私もライラももっと気軽に付き合えるようになるだろう。
ライラが用意してくれたお茶をいつも食事の時に使っているテーブルにセッティングしてもらい、互いに向かい合って座った。
学園長室で飲んだときとは違い、ライラが淹れてくれたお茶をリラックスしながら味わって飲んだ。
向かいに座って自分が淹れたお茶を飲んでいるライラも緊張はしておらず、リラックスしてお茶を飲んでいる。
ライラが私に緊張するということは無いようだ。
互いに椅子に座って食事をするときは昔のような対等な立場で接するというルールを作り、ライラもそれを受け入れてくれている。
互いにリラックスして堅苦しい関係を棚上げして、姉と妹のように接している。
お茶を飲みながらライラに学園長から助手を雇うことを勧められたことを話した。その理由も軽く説明した。
ライラはお茶を飲むのを止めて、真っ青な顔をしている。
「……ごめんなさい。私のせいでそんなことになっていたなんて」
思っていた通り、ライラは自分のせいだと思ってしまった。自分が使用人として出過ぎた真似をしてしまったせいだと。
そうなると思っていたから椅子に座ってお茶を飲みながら話すことにした。
この状態でなければライラは自分の思いを口にはしない。使用人が雇用主に本心など明かさない。そうなると私もライラの思い違いを否定できない。
「ライラのせいではないよ。これは完全に私の責任だから。私がライラに甘えすぎていたんだよ。そのことよりも、ライラは誰かに何か言われたり嫌がらせとかされていない?」
「特に何も……遠巻きにされて関わらないようにされているから」
ライラは下級の使用人の掃除婦でしかなかったのに、私に取り上げられて認定理術師の専属メイドに大出世している。ライラと同じ場所にいた使用人仲間達からは羨望よりも嫉妬の目を向けられることのほうが多いに違いない。
積極的にライラと関わろうとする使用人は皆無だろう。
それだけではなく、ライラは私の専属メイドになってからはこの学園内での使用人との関わりがほとんど無くなった。私がライラを研究室に閉じ込めているからだ。
普通の専属メイドなら、食事は雇用主と一緒に食べない。雇用主の食事の給仕をした後に使用人棟の食堂に行って食事をとる。その時間が休憩時間にもなる。
私がずっと研究室内に籠っているから、ライラも常に私の傍に控えてくれている。
だから、今回の事態に私もライラも気付くことができなかった。以前ならライラがすぐに噂を聞き付けて教えてくれることができただろうが、今はライラが噂を仕入れることができなくなっている。
この学園で生活していくならば、迅速に危険を察知しなければならない。噂をいち早く仕入れ、こちらからも噂を撒くことができなければならない。
「ライラにお願いがあるの」
私はライラにこの学園での使用人同士の伝を作ってほしいとお願いした。
この研究室は閉ざされた世界。私とライラしかいない平和な空間。ここでならライラを外の悪意から守ってあげられる。人目から隠してあげられる。でも、それではこの世界を守り維持し続けることはできない。本当の意味で守ることができない。
きっとここから出たら、ライラは多くの悪意に晒されることになる。多くの悪意に傷つけられることになる。
私の心配を他所に、私のお願いを聞いたライラは真っ青で後悔した顔をやる気の満ちた顔に変えていき、
「任せて!」
と元気よく応えてくれた。
私が心配を口にすると、「心配し過ぎ」と呆れたように返されてしまった。
これはメイドの仕事ではない。メイドの仕事を逸脱している。でも、メイドであるライラにしかできないことだ。
ライラは私の役に立てると張り切ってくれている。
仕事とは関係なく、私のために動こうとしてくれている。
そんなライラに感謝することしか私にはできない。
やはり、私とライラの間には雇用主と使用人以上の関係が存在している。
それが必要以上の重荷や柵や枷になったりしないように気を付けなければならない。
共倒れしないように、私もライラに甘えすぎないように、もっと雇用主としての自覚を持って行動をするように心掛けよう。
私とライラは互いに相手を大切に思い、相手のことを心配している。でも、心配し過ぎてしまっていたようだ。
もっと互いに相手を信頼して、過剰な心配をしないでも大丈夫と安心して任せて見守ることができるようになりたい。
ライラは私が雇用主として使用人を必要なときにきちんと適切に扱うことができると信じることができず、私が失敗して問題が起こって私が傷付くかもしれないと心配している。
もっと雇用主としての自覚を持って行動して自分に自信が持てるようになりたい。そしてライラに「そんなに心配しないでも大丈夫だよ」と胸を張って自信満々に言えるようになって、その言葉をライラが本当に信じてライラに安心してもらいたい。
ライラと今後のことについて遠慮なく話し合いながら、私はそのように反省して決意していた。
でも、その前にやるべきことがある。
私は学園長室から辞した後、足速に自分の研究室へと帰り、はやる心のままに勢いよく扉を開けた。
「……え?あ!おかえりなさいませ、ルリエラ様」
私がノックをせずに研究室の扉を開けたので、研究室内でメイドの仕事をしていたライラが驚いて振り返った。警戒した顔をしていたが、すぐに私だと気付いて緊張を解いて笑顔で迎えてくれた。
この研究室は私の自室なのでわざわざノックをして扉をライラに開けてもらうことはしない。
今までは私があまり外出をしなかったし、外出するにしてもライラと共に出ることがほとんどだった。だから、この研究室にノックもしないで入ってくる人間がいるということを意識していなかったようだ。
意図したことでは無いが、驚いた顔をしたライラを見て、ちょっといたずらが成功した子どものような気持ちになってしまい思わず笑ってしまった。
「ただいま、ライラ。今からちょっと話したいことがあるからお茶を淹れてもらっていいかな?一緒に座ってお茶しましょう」
「ルリエラ様……、メイドと話すのにお茶は必要ありませんよ。ルリエラ様のお茶だけご用意してきます」
「ちょっと長い話になるから、座って話すのならやっぱりお茶は必要よ!だから、二人分お願いね」
ライラにお茶を淹れさせて、自分だけが座ってそれを飲みながら、ライラを立たせた状態で会話をするのは非常に居心地が悪い。
座りあっているのに、片方だけがお茶を飲み、片方には何も無しというのはあり得ない。
それならいっそお茶なしで互いに立ったまま話そうか、と提案したら、ライラは深いため息を吐いて「わかりました」と渋々了承してお茶の用意をしに行ってくれた。
私が正しくはないことは分かっている。それでも、この研究室でライラと二人きりのときは多少は私の好きにさせてもらいたい。
誰も見ていないのにストレスが溜まるようなことは極力したくはない。でも、その代わりにライラのストレスが溜まっている気もする。
貴族というわけではないのだから、多少は常識はずれなことをしても問題は無いと私は軽く考えているが、ライラは違うようだ。
なるべく常識的で一般的な使用人としての立場から逸脱した行動をとらないように心掛けている。
私が雇用主だから無理に距離を取ろうとしているのでも、自己保身のためでもない。
それは私への配慮であり、私に使用人への接し方や扱い方を教えるためであることには私も気付いている。
それでも、ライラが必要以上に自分を戒めているように感じる。
私としては「そこまで自分に厳しくしないで、もっと気楽に働いてくれて良いんだよ」と言ってしまいたい気持ちに駆られてしまうが、雇用主としてさすがにそれは口には出せない。
それに、私のためにと一生懸命やってくれている相手に、そんな相手の気持ちを踏みにじるようなことは言えない。
だから、私の我が儘としてライラに少しでも肩の力を抜いて欲しいのだけど、なかなか上手くいかない。
完全に雇用主と使用人として線引きしてしまえば楽なのかもしれないが、私がそれは嫌だ。
今現在、私とライラは互いにちょうどいい立ち位置を探りあっている状況にある。
きっと私とライラの落とし所となる立ち位置が見つかれば、私もライラももっと気軽に付き合えるようになるだろう。
ライラが用意してくれたお茶をいつも食事の時に使っているテーブルにセッティングしてもらい、互いに向かい合って座った。
学園長室で飲んだときとは違い、ライラが淹れてくれたお茶をリラックスしながら味わって飲んだ。
向かいに座って自分が淹れたお茶を飲んでいるライラも緊張はしておらず、リラックスしてお茶を飲んでいる。
ライラが私に緊張するということは無いようだ。
互いに椅子に座って食事をするときは昔のような対等な立場で接するというルールを作り、ライラもそれを受け入れてくれている。
互いにリラックスして堅苦しい関係を棚上げして、姉と妹のように接している。
お茶を飲みながらライラに学園長から助手を雇うことを勧められたことを話した。その理由も軽く説明した。
ライラはお茶を飲むのを止めて、真っ青な顔をしている。
「……ごめんなさい。私のせいでそんなことになっていたなんて」
思っていた通り、ライラは自分のせいだと思ってしまった。自分が使用人として出過ぎた真似をしてしまったせいだと。
そうなると思っていたから椅子に座ってお茶を飲みながら話すことにした。
この状態でなければライラは自分の思いを口にはしない。使用人が雇用主に本心など明かさない。そうなると私もライラの思い違いを否定できない。
「ライラのせいではないよ。これは完全に私の責任だから。私がライラに甘えすぎていたんだよ。そのことよりも、ライラは誰かに何か言われたり嫌がらせとかされていない?」
「特に何も……遠巻きにされて関わらないようにされているから」
ライラは下級の使用人の掃除婦でしかなかったのに、私に取り上げられて認定理術師の専属メイドに大出世している。ライラと同じ場所にいた使用人仲間達からは羨望よりも嫉妬の目を向けられることのほうが多いに違いない。
積極的にライラと関わろうとする使用人は皆無だろう。
それだけではなく、ライラは私の専属メイドになってからはこの学園内での使用人との関わりがほとんど無くなった。私がライラを研究室に閉じ込めているからだ。
普通の専属メイドなら、食事は雇用主と一緒に食べない。雇用主の食事の給仕をした後に使用人棟の食堂に行って食事をとる。その時間が休憩時間にもなる。
私がずっと研究室内に籠っているから、ライラも常に私の傍に控えてくれている。
だから、今回の事態に私もライラも気付くことができなかった。以前ならライラがすぐに噂を聞き付けて教えてくれることができただろうが、今はライラが噂を仕入れることができなくなっている。
この学園で生活していくならば、迅速に危険を察知しなければならない。噂をいち早く仕入れ、こちらからも噂を撒くことができなければならない。
「ライラにお願いがあるの」
私はライラにこの学園での使用人同士の伝を作ってほしいとお願いした。
この研究室は閉ざされた世界。私とライラしかいない平和な空間。ここでならライラを外の悪意から守ってあげられる。人目から隠してあげられる。でも、それではこの世界を守り維持し続けることはできない。本当の意味で守ることができない。
きっとここから出たら、ライラは多くの悪意に晒されることになる。多くの悪意に傷つけられることになる。
私の心配を他所に、私のお願いを聞いたライラは真っ青で後悔した顔をやる気の満ちた顔に変えていき、
「任せて!」
と元気よく応えてくれた。
私が心配を口にすると、「心配し過ぎ」と呆れたように返されてしまった。
これはメイドの仕事ではない。メイドの仕事を逸脱している。でも、メイドであるライラにしかできないことだ。
ライラは私の役に立てると張り切ってくれている。
仕事とは関係なく、私のために動こうとしてくれている。
そんなライラに感謝することしか私にはできない。
やはり、私とライラの間には雇用主と使用人以上の関係が存在している。
それが必要以上の重荷や柵や枷になったりしないように気を付けなければならない。
共倒れしないように、私もライラに甘えすぎないように、もっと雇用主としての自覚を持って行動をするように心掛けよう。
私とライラは互いに相手を大切に思い、相手のことを心配している。でも、心配し過ぎてしまっていたようだ。
もっと互いに相手を信頼して、過剰な心配をしないでも大丈夫と安心して任せて見守ることができるようになりたい。
ライラは私が雇用主として使用人を必要なときにきちんと適切に扱うことができると信じることができず、私が失敗して問題が起こって私が傷付くかもしれないと心配している。
もっと雇用主としての自覚を持って行動して自分に自信が持てるようになりたい。そしてライラに「そんなに心配しないでも大丈夫だよ」と胸を張って自信満々に言えるようになって、その言葉をライラが本当に信じてライラに安心してもらいたい。
ライラと今後のことについて遠慮なく話し合いながら、私はそのように反省して決意していた。
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