上 下
53 / 261
第3章 私はただ静かに研究したいだけなのに!

2 スカートとズボンとワンピース①

しおりを挟む
 部屋の問題が片付いたので、次は服装の問題を解決しなければならない。

 今の服装では人前で理術を披露できない。
 相手と距離があり、垂直移動だけならば下着が見える心配はないが、そんなに都合のいい時ばかりではないだろうし、垂直移動だけでなく平行移動もしたいと思っているので、やはり今の服装のままというわけにはいかない。

 私の服装は上流階級の女性の一般的な格好だ。
 レースやフリルが付いているシャツ、上下一揃いのスカートとジャケットとベスト。それに革製のヒールが少しだけある靴。そして、認定理術師のケープを羽織っている。

 スカートの丈はふくらはぎが隠れるくらいだ。完全に足首まで隠さなければならないという風習はこの国には無い。
 子どもの頃は膝下くらいの長さが一般的だが、大人になるとふくらはぎを隠すくらいの長さになる。
 スカートの長さは上流階級で裕福な女性ほど長くなっていく。
 貴族で自分で家事などをしない女性のスカート丈は足首まで隠れるほどの長さだ。

 スカートの長さは貧富の差や身分や階級の違いで変わっていて、大人の女性であるならば子どものスカート丈よりも長ければそれほど周囲から文句は言われない。

 女性として絶対に守らなければならないのは「生足を見せない」ということだ。

 大人の女性は人前では靴下やストッキングを必ず着用して、生足を晒すのは入浴中とベッドの上だけ。
 靴を生足で直に履いている女性は娼婦だけであり、生足を人前で晒し出すというのはベッドへのお誘いをしている行為と受け取られる。

 もちろん、生足以上に下着を人目に晒す行為は娼婦でもしない。
 下着を露出して他人に見せるようなことをした場合は娼婦以下の存在、痴女と見なされても文句は言えない。

 スカートの下はかぼちゃパンツのような下着を穿いている。
 ウエストは紐かボタンで留めているが、ずれ落ちる心配があるので、太股で締め付けて下着がずれ落ちないようにしている。
 お尻の部分が膨らんでいて、太股で絞られた形をしているので、まさにかぼちゃパンツの形だ。
 太股の裾部分には紐に繋がれた靴下留めが付いていて、そこで靴下がずれ落ちないように靴下を挟んで留めている。
 このかぼちゃパンツはガーターベルトの役割も一緒に担っている。

 ゴムのような伸縮性の高い素材がこの国には無いので、本当に簡単に下着も靴下も簡単にずり落ちてしまう。

 私がスカートのまま空を飛び、スカートの中の下着と生足を人前で晒した場合何と言われるだろうか。
 「まるで娼婦のようだ」「男を誘う阿婆擦れだ」「なんて破廉恥なことを」「いかがわしい女だ」「ふしだらで穢らわしい」などなどの悪口のオンパレードが並ぶことになる。

 絶対に今のままの格好で空を飛ぶことはできない。社会的な死が待っている。

 それならズボンを穿けば問題解決!とは簡単にはいかない。 

 この国では女性の服装はスカートと決まっている。
 法律で決められているわけではないので、ズボンを女性が穿いても罰せられることはないが、かなりの奇行をしているように見られてしまう。
 男装しているということで、目立ってしまうことは避けられない。周囲から浮いてかなりの注目を浴びてしまう。悪目立ちしている姿が目に浮かぶ。
 「なんてはしたない格好をしているのか」「女がズボンを履くなんてみっともない」「常識が無いのか」「男勝りな女だ」と面白おかしく話されて笑い者にされるだろう。

 そのままの男物のズボンを穿けば解決する問題ではない。

 一番簡単な問題解決としては、スカートの下にズボンを穿くことだ。
 普通に日常生活を過ごしているときは今まで通りの格好に見える。突然空を飛ぶことになってもズボンを穿いているなら下着も生足も見られる心配はない。
 わざわざスカートの下にズボンを穿いていると文句を言う人間もいないだろう。他人がスカートの下に何を着用しているかという話をするのはひどくいかがわしく破廉恥でその人の品性を疑われる。
 自分の品性を貶めてまで、私がスカートの下にズボンを穿いていることを批難する人はいないと思いたい。
 そんな品性下劣な人がいたとしても、そんな人は無視して問題なし。

 そういうわけで、ライラに男物の中古のズボンを用意してもらった。

 庶民の男性のズボンはゆったりとだぼっとした幅広で裾も広がっていてまったく締め付けない足首丈の長ズボンだ。ウエストもゆったりとさせて、サスペンダーで吊り下げている男性も多い。男の子しか膝丈の半ズボンは履かない。
 上流階級の男性のズボンはぴったりと自分の足に張り付くような細身で裾もしっかりと閉じられた足首丈の長ズボンだ。オーダーメイドで自分の体に合わせることができるから自分のサイズぴったりに仕立てられる。
 
 ライラはそれなりに質の良い中古品で、上流階級の細身のズボンだが多少手直しすればすぐに女の私でも穿けそうなものを見つけてきてくれた。

 かぼちゃパンツだとズボンの下が少しごわついてしまうが、押さえつければ穿けないことはない。下着の改良は後にして、まずはズボンを穿いてみる。

 上は女性用のレースとフリルがついた上品な白いシャツで、その下にズボンを穿いて、ズボンの上からスカートを穿く。

 腰回りがとても分厚くなった。
 スカートとズボンの重ね着は思った以上に着心地が悪い。
 重くて動き難くて暑くて衣擦れも悪くて違和感が半端無い。

 厚目のデニムのズボンとデニムのスカートを同時に穿いている気分だ。両方ともウエストはゴムではなくボタンで同じ位置で留めている状態。

 ちょっとこの服装は耐え難い。
 特別な日に一時のことなら我慢して着用することも考えるが、毎日日常的にこの格好をするのはちょっと辛い。
 
 スカートの下にズボンを穿くという一番簡単な解決策は却下せざるをえない。

 私とライラは二人で頭を突き合わせてスカートとズボンを眺めて頭をひねって考え込んだ。





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強騎士は料理が作りたい

菁 犬兎
ファンタジー
こんにちわ!!私はティファ。18歳。 ある国で軽い気持ちで兵士になったら気付いたら最強騎士になってしまいました!でも私、本当は小さな料理店を開くのが夢なんです。そ・れ・な・の・に!!私、仲間に裏切られて敵国に捕まってしまいました!!あわわどうしましょ!でも、何だか王様の様子がおかしいのです。私、一体どうなってしまうんでしょうか? *小説家になろう様にも掲載されております。

転生貴族の魔石魔法~魔法のスキルが無いので家を追い出されました

月城 夕実
ファンタジー
僕はトワ・ウィンザー15歳の異世界転生者だ。貴族に生まれたけど、魔力無しの為家を出ることになった。家を出た僕は呪いを解呪出来ないか探すことにした。解呪出来れば魔法が使えるようになるからだ。町でウェンディを助け、共に行動をしていく。ひょんなことから魔石を手に入れて魔法が使えるようになったのだが・・。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ
ファンタジー
【小説家になろう】さまにて作品を先行投稿しています。 俺、畑中幸司。 過疎化が進む雪国の田舎町の雑貨屋をしてる。 来客が少ないこの店なんだが、その屋根裏では人間じゃない人達でいつも賑わってる。 賑わってるって言うか……祖母ちゃんの頼みで引き継いだ、握り飯の差し入れの仕事が半端ない。 食費もかかるんだが、そんなある日、エルフの女の子が手伝いを申し出て……。 まぁ退屈しない日常、おくってるよ。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

処理中です...