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第2章 私はただ普通に学びたいだけなのに!
21 査問会②
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アリーナの爆弾発言に部屋が静まり返った。
アリーナに指を指されて、親の仇を見るかのような視線を向けられている私もあまりにも突飛なアリーナの発言と行動についていけない。
真っ青な顔色で瞳に何も映さず虚空を見つめて倒れそうな様子だったアリーナが突然豹変した。興奮して顔を真っ赤に染めて、ギラギラと生気と憎しみに溢れた目で私を睨み付けている。
完全に正気ではない。ストレスが限界突破を迎えて、精神が振り切れてしまったようだ。
そこからはアリーナの独壇場だった。
自分は貴族だから何をしても悪くない。
自分は貴族だから何をしても許される。
自分は貴族だから平民よりも偉い。
自分は貴族だから平民が自分のために何かするのは当たり前。
自分は貴族だから今のこの状況は間違っている。
自分は貴族だから被害者は自分で加害者が平民だ。
自分は貴族だから今のこの状況は同情されるべきだ。
自分は貴族だから今すぐ救われなければならない。
ものすごい超理論を展開された。
全ての根拠は「自分は貴族」という点だけで、全く理屈の通らない話を延々と情感を込めて語られた。
自分はかわいそうな被害者で、ずる賢い平民に嵌められただけ。
皆さんはその平民に騙されている!
目を覚まして真実を見てください。
私は貴族で、その小娘はただの卑しい平民。親も分からない捨てられた孤児。
その事実だけで何が正しくて何が間違っているかは一目瞭然でしょう。
そう、貴族である私の言葉が正しくて、平民の言葉は全て間違っている。
それだけが真実です。
アリーナは最初は興奮して声を荒げて喚き散らして私を感情的に攻撃していたが、徐々に冷静さを取り戻し、役者のように涙ぐみながら周囲の哀れみを誘うかのような弱々しく儚げな様子で査問会の出席者に自分の正当性を訴えた。
今はアリーナのか細いすすり泣く音だけが部屋に漂っている。
誰もアリーナの狂態を止めることも、演説を遮ることも、演技に水をさすこともしなかった。
意味がないことだったから。
アリーナの言葉を真面目に聞いていた人はいない。ほとんどが意味のない言葉と聞き流していた。
アリーナの言葉はただの見苦しいだけの言い訳で正当性の欠片もない戯れ言でしかない。
貴族だからという理由で許される罪は学園ではない。
内々のことでは多少の忖度や配慮などが行われることもあるが、査問会まで開かれるほどの罪にはそのような配慮はもう期待できない。
事がここに至った段階でアリーナが貴族だろうが平民だろうが関係ない。学園の規則に則った厳正な判断が下されるだけだ。
長年、学園で働いていたアリーナにそれが分からないはずはないが、絶体絶命のアリーナがすがり付く先はもう貴族という身分しかないのだろう。
信頼する人でも自分が成し遂げた成果でも自分の能力でもなく、貴族という身分だけしか頼ることができない。
寂しくて哀れな人だ、と演技のすすり泣きをするアリーナを見て心の底から哀れんだ。
私にはアリーナの演技が別の意味で有効だったようだが、他の人たちには全く効果が無い、又は逆効果のようだった。
大部分の人は哀れみも同情も籠っていない冷ややかな目で、下手くそな劇を見て気分が悪いという不機嫌な様子になっている。
少数が肩を震わせて怒りを抑えている。
アリーナ以外にも貴族出身の人がここにはいる。
彼らはアリーナの発言は貴族を貶めていると憤りを感じている。
こんなのと一緒にしないでくれ!と怒鳴りたい気持ちを必死に抑えているようだ。
アリーナの生家のオルロー子爵家の人もここにいればアリーナの口を強制的にでも塞いでいたに違いない。
オルロー子爵の領地では法を無視して、貴族という身分を振りかざせば何をしても許される無法地帯だと宣伝しているようなものだ。
オルロー子爵家の名誉は今この瞬間に地に落ちた。
アリーナはきっとオルロー子爵家から勘当されるだろう。
そうしなければオルロー子爵家は潰される。
彼らが自分達を守るためにアリーナが切り捨てられる未来しか見えない。
そんな未来に思い至らず、アリーナはずっと自分を哀れんですすり泣きを続けている。
「……アリーナ・オルローの発言はこれで終わりとする。以後は発言しないように。それでは学園長、お願いします」
怒りも呆れも感じさせない声で何事も無かったかのように監査官が査問会の進行を再開した。
学園長はいつも浮かべている優しげな微笑ではなく、厳しい表情を浮かべている。
「アリーナ・オルローには学園の事務員を懲戒免職とし、学園都市からの永久追放を命じます」
厳粛な処罰が下された。
アリーナ以外の全員が納得する処罰だ。適正な罰だと思う。
しかし、アリーナだけが納得できない。
心の底からなぜそんな処罰を受けるのか理解ができないという表情を浮かべて再び感情的に喚き出した。
「こんな親が誰かも分からない孤児で平民で田舎者の言葉の方が貴族の私の言葉よりも信用に値すると言うのですか!?」
余程納得できないようで、再びそんなことを言っている。
私が孤児で平民で辺鄙な場所にある農村で育ったかなりの田舎者であることは事実だ。
しかし、その事実と彼女の犯した罪との間に何の関わりがあるのだろうか。
その言葉に事態打開の意味は無く、ただ単に私を貶すことが目的としか思えない。
私にとってはただの事実だから、それを恥じることとも貶されたとも感じないが、相手にとっては孤児で平民で田舎者という言葉は酷い侮辱の言葉のようだ。
自分が貴族であるということにこだわりを持っていて、親にも強いこだわりがあり、自分は都会の洗練された人間だという自負があるようだ。
今度は監査官がアリーナの発言を遮って止めた。
「アリーナ・オルロー、あなたの発言は許可されていません。黙ってください」
制止の言葉を聞かずにまだ何か言おうとしているアリーナを監査官は無視してなぜか私の方を向いた。
「ルリエラ理術師、あなたの発言を許可します。アリーナ・オルローに質問したいこと、伝えたいことがあれば何でも良いのでこの場で発言してください」
いきなり私に振られた!
アリーナは喚くのを止めて私をじっと睨み付けてきた。
アリーナを黙らせるために私が利用されたようだ。
ここで私が「特に何も言いたいことはありません」と消極的に答えたら、私が貴族を恐れて遠慮していると捉えられかねない。
貴族が私になめた真似をしたことを許容したと思われ、今後も貴族出身者から似たような目に合うかもしれない。
貴族だけでなく、学園の人間全員から私という人間がそういう弱い人間だと侮られることになる。
この発言は私の今後の評価にも生活にも大きく関わる。
毅然とした態度で何か発言しなければならない。
私は睨み付けてくるアリーナの視線を逸らさずに真正面から受け止めた。
アリーナに指を指されて、親の仇を見るかのような視線を向けられている私もあまりにも突飛なアリーナの発言と行動についていけない。
真っ青な顔色で瞳に何も映さず虚空を見つめて倒れそうな様子だったアリーナが突然豹変した。興奮して顔を真っ赤に染めて、ギラギラと生気と憎しみに溢れた目で私を睨み付けている。
完全に正気ではない。ストレスが限界突破を迎えて、精神が振り切れてしまったようだ。
そこからはアリーナの独壇場だった。
自分は貴族だから何をしても悪くない。
自分は貴族だから何をしても許される。
自分は貴族だから平民よりも偉い。
自分は貴族だから平民が自分のために何かするのは当たり前。
自分は貴族だから今のこの状況は間違っている。
自分は貴族だから被害者は自分で加害者が平民だ。
自分は貴族だから今のこの状況は同情されるべきだ。
自分は貴族だから今すぐ救われなければならない。
ものすごい超理論を展開された。
全ての根拠は「自分は貴族」という点だけで、全く理屈の通らない話を延々と情感を込めて語られた。
自分はかわいそうな被害者で、ずる賢い平民に嵌められただけ。
皆さんはその平民に騙されている!
目を覚まして真実を見てください。
私は貴族で、その小娘はただの卑しい平民。親も分からない捨てられた孤児。
その事実だけで何が正しくて何が間違っているかは一目瞭然でしょう。
そう、貴族である私の言葉が正しくて、平民の言葉は全て間違っている。
それだけが真実です。
アリーナは最初は興奮して声を荒げて喚き散らして私を感情的に攻撃していたが、徐々に冷静さを取り戻し、役者のように涙ぐみながら周囲の哀れみを誘うかのような弱々しく儚げな様子で査問会の出席者に自分の正当性を訴えた。
今はアリーナのか細いすすり泣く音だけが部屋に漂っている。
誰もアリーナの狂態を止めることも、演説を遮ることも、演技に水をさすこともしなかった。
意味がないことだったから。
アリーナの言葉を真面目に聞いていた人はいない。ほとんどが意味のない言葉と聞き流していた。
アリーナの言葉はただの見苦しいだけの言い訳で正当性の欠片もない戯れ言でしかない。
貴族だからという理由で許される罪は学園ではない。
内々のことでは多少の忖度や配慮などが行われることもあるが、査問会まで開かれるほどの罪にはそのような配慮はもう期待できない。
事がここに至った段階でアリーナが貴族だろうが平民だろうが関係ない。学園の規則に則った厳正な判断が下されるだけだ。
長年、学園で働いていたアリーナにそれが分からないはずはないが、絶体絶命のアリーナがすがり付く先はもう貴族という身分しかないのだろう。
信頼する人でも自分が成し遂げた成果でも自分の能力でもなく、貴族という身分だけしか頼ることができない。
寂しくて哀れな人だ、と演技のすすり泣きをするアリーナを見て心の底から哀れんだ。
私にはアリーナの演技が別の意味で有効だったようだが、他の人たちには全く効果が無い、又は逆効果のようだった。
大部分の人は哀れみも同情も籠っていない冷ややかな目で、下手くそな劇を見て気分が悪いという不機嫌な様子になっている。
少数が肩を震わせて怒りを抑えている。
アリーナ以外にも貴族出身の人がここにはいる。
彼らはアリーナの発言は貴族を貶めていると憤りを感じている。
こんなのと一緒にしないでくれ!と怒鳴りたい気持ちを必死に抑えているようだ。
アリーナの生家のオルロー子爵家の人もここにいればアリーナの口を強制的にでも塞いでいたに違いない。
オルロー子爵の領地では法を無視して、貴族という身分を振りかざせば何をしても許される無法地帯だと宣伝しているようなものだ。
オルロー子爵家の名誉は今この瞬間に地に落ちた。
アリーナはきっとオルロー子爵家から勘当されるだろう。
そうしなければオルロー子爵家は潰される。
彼らが自分達を守るためにアリーナが切り捨てられる未来しか見えない。
そんな未来に思い至らず、アリーナはずっと自分を哀れんですすり泣きを続けている。
「……アリーナ・オルローの発言はこれで終わりとする。以後は発言しないように。それでは学園長、お願いします」
怒りも呆れも感じさせない声で何事も無かったかのように監査官が査問会の進行を再開した。
学園長はいつも浮かべている優しげな微笑ではなく、厳しい表情を浮かべている。
「アリーナ・オルローには学園の事務員を懲戒免職とし、学園都市からの永久追放を命じます」
厳粛な処罰が下された。
アリーナ以外の全員が納得する処罰だ。適正な罰だと思う。
しかし、アリーナだけが納得できない。
心の底からなぜそんな処罰を受けるのか理解ができないという表情を浮かべて再び感情的に喚き出した。
「こんな親が誰かも分からない孤児で平民で田舎者の言葉の方が貴族の私の言葉よりも信用に値すると言うのですか!?」
余程納得できないようで、再びそんなことを言っている。
私が孤児で平民で辺鄙な場所にある農村で育ったかなりの田舎者であることは事実だ。
しかし、その事実と彼女の犯した罪との間に何の関わりがあるのだろうか。
その言葉に事態打開の意味は無く、ただ単に私を貶すことが目的としか思えない。
私にとってはただの事実だから、それを恥じることとも貶されたとも感じないが、相手にとっては孤児で平民で田舎者という言葉は酷い侮辱の言葉のようだ。
自分が貴族であるということにこだわりを持っていて、親にも強いこだわりがあり、自分は都会の洗練された人間だという自負があるようだ。
今度は監査官がアリーナの発言を遮って止めた。
「アリーナ・オルロー、あなたの発言は許可されていません。黙ってください」
制止の言葉を聞かずにまだ何か言おうとしているアリーナを監査官は無視してなぜか私の方を向いた。
「ルリエラ理術師、あなたの発言を許可します。アリーナ・オルローに質問したいこと、伝えたいことがあれば何でも良いのでこの場で発言してください」
いきなり私に振られた!
アリーナは喚くのを止めて私をじっと睨み付けてきた。
アリーナを黙らせるために私が利用されたようだ。
ここで私が「特に何も言いたいことはありません」と消極的に答えたら、私が貴族を恐れて遠慮していると捉えられかねない。
貴族が私になめた真似をしたことを許容したと思われ、今後も貴族出身者から似たような目に合うかもしれない。
貴族だけでなく、学園の人間全員から私という人間がそういう弱い人間だと侮られることになる。
この発言は私の今後の評価にも生活にも大きく関わる。
毅然とした態度で何か発言しなければならない。
私は睨み付けてくるアリーナの視線を逸らさずに真正面から受け止めた。
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