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第2章 私はただ普通に学びたいだけなのに!

18 会議

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 私が会議室へ入ると、会議室中の視線が私へ集中した。
 視線が肌に刺さるかのような痛みを感じて息が止まってしまう。

 「……遅れまして、申し訳ありません」

 なんとか遅刻に対する謝罪の言葉だけを絞り出した私だが、視線の圧力は一向に緩まない。
 睨まれているわけではないが、無表情にこちらを見ている人たちからは不愉快さと憤りなどが感じられる。
 新参者の私が初めての会議に一番遅く、それも遅刻して登場したのだから誰も良い気持ちにはならないだろう。

 「早く席に着いてください。会議を続けます」

 学園長がそう発言したおかげで見えない圧力が霧散された。
 私は圧力から解放されて足を動かすことができるようになり、急いで空いている席に着いた。

 会議室は長方形の大きな机が一つ中央に置かれて、その周囲に椅子が配置されている。
 扉から一番奥の長方形の机の短い辺の中央の位置に学園長が座っている。そこから両側の長い辺に一定の距離を開けて椅子が置かれて学部長たち30人ほどが座っている。

 私の席は学園長寄りの上座に近い位置にある。
 席順がどうやって決められているのか分からない。早めに来た場合はどこに座ればいいか分からず途方にくれていたかもしれない。
 ほんの少しだけ遅れてきたことの利点を見いだして、会議室に入ってから圧倒された心を落ち着かせながら席に着いた。

 私が席に着席したことで、私の入室前に話していた副学園長が再び会議を再開させようと口を開いた。
 その瞬間に別の声が会議室に響いた。

 「会議に堂々と遅れて来るなど、認定理術師となれたからと何か勘違いしてしまっているようだな。貴殿は自分の立場を理解できていないようだ」

 私の向かいに座っている黒いケープを纏っている骸骨のように痩せている男が無表情でありなが目だけ不愉快さを滲ませて私を見ている。

 「ガイボーン、会議中です。勝手な発言は慎んでください」

 副学園長に軽く注意されたが、ガイボーンは副学園長をちらりと見た後、学園長へと向けて発言した。

 「このようなことを放置しては学園の風紀が乱れてしまいます。これは早急に正さなければならないことです」

 学園長は常に浮かべている微笑の表情を変えることなく黙ってガイボーンの言葉を聞いている。

 「会議への遅刻を咎めもせず、処罰もしないのでは、認定師は何をしても許されると勘違いして増長してしまいます。事前に遅れるという知らせもなく、遅れた理由の説明もしないのは明らかに秩序を乱しています。会議などの集まりで一番最後に席に着席する者は学園長と決まっています。それを破ったのだから、何かしらの罰則は必要です」

 多人数の集まりでは基本的に一番偉い人が最後に登場するのはどこでも同じようだ。全ての準備が整い、人が集まった時点で最も偉い人が現れて会議や食事は始まる。
 公の場で、事前に何の連絡もなく遅れて来て、一番偉い人よりも後に登場する行為は、その人を敬っていない、認めていない、と喧嘩を売る行為にもなる。

 しかし、学園の中の会議でそのようなことを言われるとは思わなかった。
 
 私は再び謝罪の言葉を口にしようとしたが、学園長の柔らかいがよく響く声に遮られた。

 「そのように目くじらをたてる程のことではないでしょう。どうしようもない用事で遅れることは誰でもあることです。それを一々処罰する必要はありません。これまでの会議でも遅刻者を処罰したことはありません。注意しても何度も繰り返すようなら処罰も必要かもしれませんが、まだ一度目のことでそれほど厳しくしなければならないこともないでしょう。ルリエラ、今後は遅れないように気を付けてください」

 そう言って学園長は私を庇ってくれた。
 言外に『何度も遅刻したら罰する』と注意されたが、一度目なので許してくださるようだ。

 私が「今後はこのようなことが無いように気を付けます。本日は遅刻して申し訳ありませんでした」と反省と謝罪を述べようとしたとき、

 「学園長、甘やかしては彼女のためになりません!認定師としての自覚をしっかりと持ってもらわなければ我々も困ります。認定師となったばかりの年若い彼女にはきちんとした指導が必要です」

 会議室が完全な静寂に包まれた。
 私の遅刻を糾弾していたガイボーンに同調していた人たちもこのガイボーンの言葉には引いたようだ。
 
 先程の学園長の言葉で場が収まるはずだったのに、ガイボーンはそれをぶち壊して私への糾弾だけでなく、学園長の対応まで糾弾し始めてしまった。

 「指導とはどのようなことですか?」

 全く微動だにせずに変わらない学園長の微笑が今は恐ろしく感じる。
 ガイボーンはそのようなことを全く感じないようで、自分の意見を主張し続けている。

 「正式に目上の者たちに謝罪させる必要があります。自分の立場を自覚するために。遅刻した理由を説明して、我々全員に正式に頭を下げて謝罪するべきです。彼女のせいで会議が中断されて我々全員が不利益を被ったのだからそうするのが当然です」

 今現在、会議を中断させているのは貴方だが、それはいいのか?

 と突っ込みを入れたいと思ってしまったが我慢だ。これ以上場を混乱させるわけにはいかないし、遅刻した私が悪いのは事実だ。

 下手に遅刻した言い訳をするよりも素直に謝ったほうが良いと思い入室してすぐに謝罪はした。それでは不十分だったようだ。
 このままでは埒が明かないので私はガイボーンの気を済ませることに決めた。

 「あの、その方が申されるように、正式に謝罪致します」

 私は立ち上がって頭を下げた。

 「会議に遅れてしまい、皆様へご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。今後、このようなことがないように気を付けます」

 と謝罪して頭を上げた。

 ガイボーンは勝ち誇ったかのように私を見ている。
 他の人たちは淡々と私を見ているだけで感情が読み取れない。
 私に対して不満を抱いているのか、ガイボーンのしつこさに呆れているのか、会議が進まないことに苛立っているのか、関係ないと無関心なのか。

 「なぜ会議に遅れたのか理由もきちんと説明してください」

 長々と言い訳を述べて会議を邪魔する方が悪いと考えていたが、これ以上ガイボーンに発言させ続ける方が迷惑をかけるようだ。

 ガイボーンは私への攻撃材料として私が遅刻した理由を知りたいのだろう。

 話したくはなかったが、目撃者が大勢いたからこの会議室から出たらどうやっても知られてしまう。
 他人から噂として耳に入ってしまうくらいなら、今私の口から説明した方がいい。

 私はガイボーンに促されるままに会議室にたどり着く前にあったことを正直に話した。

 話終えた後、会議室は騒然となり、会議はそっちのけで王子とその取り巻きたちの処遇についての話し合いと事実確認が行われることが決定した。
 
 結局会議を中断させることになってしまい、申し訳なさが倍増する結果になってしまった。

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