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第2章 私はただ普通に学びたいだけなのに!
16 王子②
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この場は共用の廊下だ。
廊下を歩いている学生たちが私と4人の周囲で足を止めて遠巻きに囲むように人だかりができ始めている。
皆、野次馬と化して興味津々にこちらを眺めている。
このような状況での礼儀作法など誰にも教わっていない。そもそも王族相手の礼儀作法など知らない。そんなものが必要な事態など誰に想像できるだろうか。
シスターマリナからも、領主の屋敷での家庭教師からも、王族相手の礼儀作法など習ってはいない。ここの図書館で自分で調べてみようとすら思わなかった。
私が知っている貴族の礼儀作法と今の状況は何も合致しない。
王族だと自己紹介はしないでいいとかいう何か特別な決まりでもあるのだろうか。
私は自己紹介を自分からするべきか一瞬悩んだが止めた。
それが正しい対応なのか分からない。
一番無難で波風が起こらない失礼にならない対応……、相手に用件を尋ねることが一番無難かな。
私は必死に顔に上品な笑顔を張り付けて、出来る限り丁寧な口調で王子に向かって尋ねた。
「殿下、私に何か御用でしょうか?」
「お前は理術で空が飛べるそうだな?俄かには信じがたい。そのようなことはこの学園にいる者だけでなく城にいる誰もできない。なぜ平民で孤児で西部の辺境の田舎者のお前がそんなことができるのか。何か仕掛けがあると考えるのが普通だろう」
偉そうにそんなことを言われて、私は必死にポカーンとしてしまいそうになる自分を抑えて表情を変えずに笑顔を維持した。
この王子は私の不正を疑っているのだろうか。
私が理術ではなく、何かの仕掛けで空を飛んでみせて、それで認定理術師になったと疑念を抱いているようだ。
「本当にお前が空を飛べるなら、私は城へ報告しなければならない。だが、それは実際に見なければ信じがたい。間違ったことを報告するわけにはいかないからな」
王子自らスパイ宣言?
学園のことを城へ報告するというのはどういう意味だろう?
王子が城へ学園のことを報告するのは当たり前のことで秘密にするようなことではない?
それとも何か他に意味があるのだろうか?
私は一生懸命に疑問を顔に出さないように努力しながら王子の話を笑顔のまま黙って聞いた。
「本当に空が飛べるならここで飛んでみろ。できないというなら今すぐこの学園から去れ」
なぜ王子がそんなことを言うのだろう。王子に何の権限があるのか?
王子に学園から認定理術師を追い出す力なんて無い。
ここを自分の城だと勘違いしているのか?
私は王子にツッコミを入れたい衝動を必死に我慢して笑顔を維持した。
王子のこの態度は、王族が貴族でもないただの平民に対する態度としてなら何の問題も無いだろう。むしろマシなほうと言える。
年下の女で平民で孤児で田舎者でしかない私には寛容で丁寧な対応と言えないこともない。
しかし、今の状況では不適切だと言わざるを得ない。
白いケープの学生と黒いケープの認定理術師という立場でならその態度と発言は不適切だ。
このケープを互いに身に付けていない状態で、学園の外であるならば彼の態度は何の問題も無い。
だが、ここは学園の廊下で私は黒いケープを身に付けている学園公認の認定理術師であり、彼はここでは白いケープを身に付けているただの学生でしかない。
学園では貴族の身分関係なく平等主義を掲げている。
その中での上下関係は当然存在する。講師は学生よりも上の立場だ。教える側と教わる側という立場上当然の上下関係だ。
学生は誰に対しても学園内で命令権など誰も持っていない。
私はこの国の王子相手にどうすればいいのだろうか。
一番簡単で面倒が無い方法は相手の言う通りにすることだ。
相手が理術を使って飛べと言うのならその通りにすればいい。
私には何も困ることも隠すことも不都合なことも無い。
正々堂々と私の理術を見せて、飛べることを証明することが一番楽な方法だ。
王子の言う通りにすれば王子の機嫌を損ねることもないし、自分の理術を披露すれば自分の名誉も守られる。
ここで王子の言う通りに理術を披露することが最良の手段に思える。
しかし、私は認定理術師だ。
この学園ではそれなりの地位に就いていることになる。
実質的な権限や権力があるわけではないが、認定理術師の上にいる者は学園では学園長だけということになっている。
認定理術師はある意味では学園のナンバー2という立場にいることになる。
そんな立場にいる人間が王子だからという理由で一学生の言いなりになるのは学園の秩序を崩壊させかねない危険な行為だ。
学園内の立場や序列よりも、身分の方が優先されると示すことになる。
建前だけでも学園の身分に関係無く生徒は皆平等という学園の理念を学園のナンバー2が否定して踏みにじることになる。
学園全体に悪い影響を与えることになることは容易に想像できる。
下手したら学園への国からの口出しや手出しなどの干渉が増えて、国の干渉力が増すだろう。
私にも認定理術師としての誇りや義務がある。
自分の身を守る為だけに楽な道に逃げるわけにはいかない。
だからといってはっきりと王子の言葉を拒絶して非難して間違いを指摘するわけにもいかない。
私が、「お断りします。殿下はご自分のお立場を理解しておられますか?殿下はここでは白いケープを着用する一人の学生にすぎません。私はこの学園に正式に公認されている黒いケープを着用する認定理術師です。学生に認定理術師への命令権はありません」
と言って王子と全面的にやり合うわけにもいかない。
間違ったことは言っていないし、内容は正論だ。
でも、自分が正しければ良いという問題ではない。
学園ナンバー2の人間がこの国の王子と揉め事を起こしたら、国と学園の関係にも影響が及ぶだろう。
学園が国に喧嘩を売ったと思われたら大変だ。
学園と国の仲が険悪になることは避けなければならない。
私は王子の言いなりにならず認定理術師の立場を守り、それでいて王子の機嫌を損ねずにこの場を切り抜けねばならない。
廊下を歩いている学生たちが私と4人の周囲で足を止めて遠巻きに囲むように人だかりができ始めている。
皆、野次馬と化して興味津々にこちらを眺めている。
このような状況での礼儀作法など誰にも教わっていない。そもそも王族相手の礼儀作法など知らない。そんなものが必要な事態など誰に想像できるだろうか。
シスターマリナからも、領主の屋敷での家庭教師からも、王族相手の礼儀作法など習ってはいない。ここの図書館で自分で調べてみようとすら思わなかった。
私が知っている貴族の礼儀作法と今の状況は何も合致しない。
王族だと自己紹介はしないでいいとかいう何か特別な決まりでもあるのだろうか。
私は自己紹介を自分からするべきか一瞬悩んだが止めた。
それが正しい対応なのか分からない。
一番無難で波風が起こらない失礼にならない対応……、相手に用件を尋ねることが一番無難かな。
私は必死に顔に上品な笑顔を張り付けて、出来る限り丁寧な口調で王子に向かって尋ねた。
「殿下、私に何か御用でしょうか?」
「お前は理術で空が飛べるそうだな?俄かには信じがたい。そのようなことはこの学園にいる者だけでなく城にいる誰もできない。なぜ平民で孤児で西部の辺境の田舎者のお前がそんなことができるのか。何か仕掛けがあると考えるのが普通だろう」
偉そうにそんなことを言われて、私は必死にポカーンとしてしまいそうになる自分を抑えて表情を変えずに笑顔を維持した。
この王子は私の不正を疑っているのだろうか。
私が理術ではなく、何かの仕掛けで空を飛んでみせて、それで認定理術師になったと疑念を抱いているようだ。
「本当にお前が空を飛べるなら、私は城へ報告しなければならない。だが、それは実際に見なければ信じがたい。間違ったことを報告するわけにはいかないからな」
王子自らスパイ宣言?
学園のことを城へ報告するというのはどういう意味だろう?
王子が城へ学園のことを報告するのは当たり前のことで秘密にするようなことではない?
それとも何か他に意味があるのだろうか?
私は一生懸命に疑問を顔に出さないように努力しながら王子の話を笑顔のまま黙って聞いた。
「本当に空が飛べるならここで飛んでみろ。できないというなら今すぐこの学園から去れ」
なぜ王子がそんなことを言うのだろう。王子に何の権限があるのか?
王子に学園から認定理術師を追い出す力なんて無い。
ここを自分の城だと勘違いしているのか?
私は王子にツッコミを入れたい衝動を必死に我慢して笑顔を維持した。
王子のこの態度は、王族が貴族でもないただの平民に対する態度としてなら何の問題も無いだろう。むしろマシなほうと言える。
年下の女で平民で孤児で田舎者でしかない私には寛容で丁寧な対応と言えないこともない。
しかし、今の状況では不適切だと言わざるを得ない。
白いケープの学生と黒いケープの認定理術師という立場でならその態度と発言は不適切だ。
このケープを互いに身に付けていない状態で、学園の外であるならば彼の態度は何の問題も無い。
だが、ここは学園の廊下で私は黒いケープを身に付けている学園公認の認定理術師であり、彼はここでは白いケープを身に付けているただの学生でしかない。
学園では貴族の身分関係なく平等主義を掲げている。
その中での上下関係は当然存在する。講師は学生よりも上の立場だ。教える側と教わる側という立場上当然の上下関係だ。
学生は誰に対しても学園内で命令権など誰も持っていない。
私はこの国の王子相手にどうすればいいのだろうか。
一番簡単で面倒が無い方法は相手の言う通りにすることだ。
相手が理術を使って飛べと言うのならその通りにすればいい。
私には何も困ることも隠すことも不都合なことも無い。
正々堂々と私の理術を見せて、飛べることを証明することが一番楽な方法だ。
王子の言う通りにすれば王子の機嫌を損ねることもないし、自分の理術を披露すれば自分の名誉も守られる。
ここで王子の言う通りに理術を披露することが最良の手段に思える。
しかし、私は認定理術師だ。
この学園ではそれなりの地位に就いていることになる。
実質的な権限や権力があるわけではないが、認定理術師の上にいる者は学園では学園長だけということになっている。
認定理術師はある意味では学園のナンバー2という立場にいることになる。
そんな立場にいる人間が王子だからという理由で一学生の言いなりになるのは学園の秩序を崩壊させかねない危険な行為だ。
学園内の立場や序列よりも、身分の方が優先されると示すことになる。
建前だけでも学園の身分に関係無く生徒は皆平等という学園の理念を学園のナンバー2が否定して踏みにじることになる。
学園全体に悪い影響を与えることになることは容易に想像できる。
下手したら学園への国からの口出しや手出しなどの干渉が増えて、国の干渉力が増すだろう。
私にも認定理術師としての誇りや義務がある。
自分の身を守る為だけに楽な道に逃げるわけにはいかない。
だからといってはっきりと王子の言葉を拒絶して非難して間違いを指摘するわけにもいかない。
私が、「お断りします。殿下はご自分のお立場を理解しておられますか?殿下はここでは白いケープを着用する一人の学生にすぎません。私はこの学園に正式に公認されている黒いケープを着用する認定理術師です。学生に認定理術師への命令権はありません」
と言って王子と全面的にやり合うわけにもいかない。
間違ったことは言っていないし、内容は正論だ。
でも、自分が正しければ良いという問題ではない。
学園ナンバー2の人間がこの国の王子と揉め事を起こしたら、国と学園の関係にも影響が及ぶだろう。
学園が国に喧嘩を売ったと思われたら大変だ。
学園と国の仲が険悪になることは避けなければならない。
私は王子の言いなりにならず認定理術師の立場を守り、それでいて王子の機嫌を損ねずにこの場を切り抜けねばならない。
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