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第2章 私はただ普通に学びたいだけなのに!
7 冒険①
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散歩という名の冒険を初めてから3日目。
私は途方にくれていた。私は生まれて初めて完全な迷子になっていた。
最初のうちは迷子になることを警戒して、細い道には入らないようにして、大通りだけを歩いていた。
私の育った田舎の村は半日足らずで村の端から端まで行けるくらいの広さしかなかったのに、この町はとても広くて3日歩いても町の一部分しか行けていない。
しかし、行っていない場所は多々あるが、宿を起点にしてその周辺だけを数時間以内に帰れる範囲での散策となると3日で十分足りる。
最初の内は見るもの全てが新鮮でそれだけで十分楽しめたが、さすがに3日目になると似たような街並みをただ眺めるだけというのにも飽きてきてしまった。
慣れてきたことで、警戒心が疎かになり、つい好奇心と出来心で、細い道へ入り込むという大胆な行動をとってしまった。
それでも最初のうちは十分に気を付けていた。
細い道に入っても、慎重に数分進んでは、すぐに来た道を辿って元の大通りへと戻っていた。
それを何度も繰り返すうちに、徐々に細い道の奥へ奥へと大胆に進んでいくようになっていった。大通りに帰ろうと来た道を歩いていたが、いつまで経っても大通りに出ない。
焦ってさらに細い道をどんどん進むが片道と同じだけの時間を歩いても大通りには戻れず、気付けば今自分がどこにいるのかが分からなくなっていた。
調子に乗って進み過ぎてしまい、帰り道が分からなくなってしまった。
細い道は大通りとは違い、人が二人歩くのがやっとという程の幅しかない道だ。
両側に高い建物がそびえ立っていて見通しが効かなく、日も差さない薄暗い通りだ。太陽も見えないから東西南北の方角すら分からない。
茶色のくすんで薄汚れた壁に個性などはどこにもなく、どこも同じような景色に見える。
焦って闇雲に動いてしまい、自分がどこから来たのか、自分がどこにいるのかが全く分からなくなってしまった。
根拠の無い自信からちょっとくらい無茶しても大丈夫と己の能力を過信してしまい、取り返しのつかない失敗をしてしまった。
大通りに出れば何とかなるはずだと焦ってしまい、闇雲に動き回り、更に細い道の奥へと入り込んでしまったようだ。
「ここはいったい何処なんだろう……?」
あまりの心細さについ弱音が口からこぼれてしまう。
歩いていればいつかどこかに出るか、人に出会うことはできるだろう。
しかし、こんな人通りの無い場所で変な人や悪い人に遭遇してしまった場合、かなり危険な目に合う確率が高い。
細い道から知らない場所に出た場合、そこは治安がとても悪い危険な場所である可能性が高い。
治安の良い大通り近辺ならばそれほど警戒する必要は無いし、危ない目に遭いそうになれば周りの人が助けるなり、町の治安維持を担っている警備隊を呼んでくれるだろう。
しかし、こういった人目の無い裏通りは一種の治外法権的な空間になっている。
こういう場所で犯罪に巻き込まれても、こういう場所に行った人間が悪いということでまともに取り締まりも捜査もしてもらえない。
警備隊の人員は限られていて、広い町の中の全てを把握し統制し維持することはできない。だから、そういった場所は領主などの統治者の暗黙の了解の下で必要悪として存在している。
私はそんな危ない場所に行こうとしたわけではなく、ほんの少しスリルを味わいたかっただけで、すぐに安全地帯に戻れるギリギリの場所までしか行く気はなかった。
私は後悔に苛まれながら、前に進むことも後ろに戻ることも出来ずに突っ立っていた。
ここで一つの誘惑に駆られる。
理術で浮かんで屋根の上まで行けば見晴らしが良くなって大通りの方角が分かるかもしれない。
理術さえ使えば屋根の上をつたって行くことも可能だ。
この世に生まれて初めての迷子。
不安と焦りで正常な判断能力を完全に喪失していた。
先日、大勢の人の前で理術を披露したことで、私の中の理術を使うことのハードルがかなり低くなっている。
私が理術を使えるということは、もう必死になって隠さなくてはならないことではなくなっている。
学園では理術を教えているのだから、学園の外で理術を使う人だって少しはいるはずだ。
私が理術を使っていることがばれても何も大きな問題にはならないだろう。
幸いこの辺りは全く人がいない。
右見て左見て、もう一度右見て、人がいないことを確認して私は自分の身体を宙に浮かし始める。
建物の高さは基本的に全て統一されている。
孤児院よりも少し低いくらいの屋根の上に身体が到着すると、理術を解除した。
屋根の上では一切の視界を遮るものはなく、周囲四方を遠くまで見渡すことができる。
使われている材料が同じなのか、屋根の色は全て赤茶色で統一感がある町並みだ。見上げればお城のような白い学園がそびえ立っている。町の外には広い平原がどこまでも続いている。遥か彼方に川が流れている。
建物が立ち並ぶ町の中では空が区切られてしまっていたが、屋根の上には空を遮るものが何もない。広々とした開放的な青空を久しぶりに眺めることができて自然と笑みがこぼれていた。
素晴らしい眺めだ。もっと早く屋根の上に登ってこの景色を眺めてみれば良かった。
そんな心の余裕が生まれてきたところで、冷静になって今の状況を客観的に見てみる。
こんな明るい時間に外で宙に浮かんでいる人間がいるなんて常識的にあり得ない。
人に見つかったら絶対に騒ぎになる。
宙に浮かんでいる人間なんて理術と関係なく大問題だ。
私は大急ぎで現在地と大通りの方角を確認して、出来る限り素早く屋根から降りた。
私が思っていたよりもずっと大通りから離れていたみたいだ。
迷路を上空から見て正解の道順を把握したようなもので、私は細い道を迷わずに歩きだした。
順調に道を進むことができて、あと少しで大通りに出られるところまで戻ってこれた。
まだ大通りに戻れていないのに、迷子ではなくなったという安堵と緊張感からの解放で気が緩んでいた。
ここはまだ危険な裏通りだということを意識し忘れていた。
私は途方にくれていた。私は生まれて初めて完全な迷子になっていた。
最初のうちは迷子になることを警戒して、細い道には入らないようにして、大通りだけを歩いていた。
私の育った田舎の村は半日足らずで村の端から端まで行けるくらいの広さしかなかったのに、この町はとても広くて3日歩いても町の一部分しか行けていない。
しかし、行っていない場所は多々あるが、宿を起点にしてその周辺だけを数時間以内に帰れる範囲での散策となると3日で十分足りる。
最初の内は見るもの全てが新鮮でそれだけで十分楽しめたが、さすがに3日目になると似たような街並みをただ眺めるだけというのにも飽きてきてしまった。
慣れてきたことで、警戒心が疎かになり、つい好奇心と出来心で、細い道へ入り込むという大胆な行動をとってしまった。
それでも最初のうちは十分に気を付けていた。
細い道に入っても、慎重に数分進んでは、すぐに来た道を辿って元の大通りへと戻っていた。
それを何度も繰り返すうちに、徐々に細い道の奥へ奥へと大胆に進んでいくようになっていった。大通りに帰ろうと来た道を歩いていたが、いつまで経っても大通りに出ない。
焦ってさらに細い道をどんどん進むが片道と同じだけの時間を歩いても大通りには戻れず、気付けば今自分がどこにいるのかが分からなくなっていた。
調子に乗って進み過ぎてしまい、帰り道が分からなくなってしまった。
細い道は大通りとは違い、人が二人歩くのがやっとという程の幅しかない道だ。
両側に高い建物がそびえ立っていて見通しが効かなく、日も差さない薄暗い通りだ。太陽も見えないから東西南北の方角すら分からない。
茶色のくすんで薄汚れた壁に個性などはどこにもなく、どこも同じような景色に見える。
焦って闇雲に動いてしまい、自分がどこから来たのか、自分がどこにいるのかが全く分からなくなってしまった。
根拠の無い自信からちょっとくらい無茶しても大丈夫と己の能力を過信してしまい、取り返しのつかない失敗をしてしまった。
大通りに出れば何とかなるはずだと焦ってしまい、闇雲に動き回り、更に細い道の奥へと入り込んでしまったようだ。
「ここはいったい何処なんだろう……?」
あまりの心細さについ弱音が口からこぼれてしまう。
歩いていればいつかどこかに出るか、人に出会うことはできるだろう。
しかし、こんな人通りの無い場所で変な人や悪い人に遭遇してしまった場合、かなり危険な目に合う確率が高い。
細い道から知らない場所に出た場合、そこは治安がとても悪い危険な場所である可能性が高い。
治安の良い大通り近辺ならばそれほど警戒する必要は無いし、危ない目に遭いそうになれば周りの人が助けるなり、町の治安維持を担っている警備隊を呼んでくれるだろう。
しかし、こういった人目の無い裏通りは一種の治外法権的な空間になっている。
こういう場所で犯罪に巻き込まれても、こういう場所に行った人間が悪いということでまともに取り締まりも捜査もしてもらえない。
警備隊の人員は限られていて、広い町の中の全てを把握し統制し維持することはできない。だから、そういった場所は領主などの統治者の暗黙の了解の下で必要悪として存在している。
私はそんな危ない場所に行こうとしたわけではなく、ほんの少しスリルを味わいたかっただけで、すぐに安全地帯に戻れるギリギリの場所までしか行く気はなかった。
私は後悔に苛まれながら、前に進むことも後ろに戻ることも出来ずに突っ立っていた。
ここで一つの誘惑に駆られる。
理術で浮かんで屋根の上まで行けば見晴らしが良くなって大通りの方角が分かるかもしれない。
理術さえ使えば屋根の上をつたって行くことも可能だ。
この世に生まれて初めての迷子。
不安と焦りで正常な判断能力を完全に喪失していた。
先日、大勢の人の前で理術を披露したことで、私の中の理術を使うことのハードルがかなり低くなっている。
私が理術を使えるということは、もう必死になって隠さなくてはならないことではなくなっている。
学園では理術を教えているのだから、学園の外で理術を使う人だって少しはいるはずだ。
私が理術を使っていることがばれても何も大きな問題にはならないだろう。
幸いこの辺りは全く人がいない。
右見て左見て、もう一度右見て、人がいないことを確認して私は自分の身体を宙に浮かし始める。
建物の高さは基本的に全て統一されている。
孤児院よりも少し低いくらいの屋根の上に身体が到着すると、理術を解除した。
屋根の上では一切の視界を遮るものはなく、周囲四方を遠くまで見渡すことができる。
使われている材料が同じなのか、屋根の色は全て赤茶色で統一感がある町並みだ。見上げればお城のような白い学園がそびえ立っている。町の外には広い平原がどこまでも続いている。遥か彼方に川が流れている。
建物が立ち並ぶ町の中では空が区切られてしまっていたが、屋根の上には空を遮るものが何もない。広々とした開放的な青空を久しぶりに眺めることができて自然と笑みがこぼれていた。
素晴らしい眺めだ。もっと早く屋根の上に登ってこの景色を眺めてみれば良かった。
そんな心の余裕が生まれてきたところで、冷静になって今の状況を客観的に見てみる。
こんな明るい時間に外で宙に浮かんでいる人間がいるなんて常識的にあり得ない。
人に見つかったら絶対に騒ぎになる。
宙に浮かんでいる人間なんて理術と関係なく大問題だ。
私は大急ぎで現在地と大通りの方角を確認して、出来る限り素早く屋根から降りた。
私が思っていたよりもずっと大通りから離れていたみたいだ。
迷路を上空から見て正解の道順を把握したようなもので、私は細い道を迷わずに歩きだした。
順調に道を進むことができて、あと少しで大通りに出られるところまで戻ってこれた。
まだ大通りに戻れていないのに、迷子ではなくなったという安堵と緊張感からの解放で気が緩んでいた。
ここはまだ危険な裏通りだということを意識し忘れていた。
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