35 / 261
第2章 私はただ普通に学びたいだけなのに!
7 冒険①
しおりを挟む
散歩という名の冒険を初めてから3日目。
私は途方にくれていた。私は生まれて初めて完全な迷子になっていた。
最初のうちは迷子になることを警戒して、細い道には入らないようにして、大通りだけを歩いていた。
私の育った田舎の村は半日足らずで村の端から端まで行けるくらいの広さしかなかったのに、この町はとても広くて3日歩いても町の一部分しか行けていない。
しかし、行っていない場所は多々あるが、宿を起点にしてその周辺だけを数時間以内に帰れる範囲での散策となると3日で十分足りる。
最初の内は見るもの全てが新鮮でそれだけで十分楽しめたが、さすがに3日目になると似たような街並みをただ眺めるだけというのにも飽きてきてしまった。
慣れてきたことで、警戒心が疎かになり、つい好奇心と出来心で、細い道へ入り込むという大胆な行動をとってしまった。
それでも最初のうちは十分に気を付けていた。
細い道に入っても、慎重に数分進んでは、すぐに来た道を辿って元の大通りへと戻っていた。
それを何度も繰り返すうちに、徐々に細い道の奥へ奥へと大胆に進んでいくようになっていった。大通りに帰ろうと来た道を歩いていたが、いつまで経っても大通りに出ない。
焦ってさらに細い道をどんどん進むが片道と同じだけの時間を歩いても大通りには戻れず、気付けば今自分がどこにいるのかが分からなくなっていた。
調子に乗って進み過ぎてしまい、帰り道が分からなくなってしまった。
細い道は大通りとは違い、人が二人歩くのがやっとという程の幅しかない道だ。
両側に高い建物がそびえ立っていて見通しが効かなく、日も差さない薄暗い通りだ。太陽も見えないから東西南北の方角すら分からない。
茶色のくすんで薄汚れた壁に個性などはどこにもなく、どこも同じような景色に見える。
焦って闇雲に動いてしまい、自分がどこから来たのか、自分がどこにいるのかが全く分からなくなってしまった。
根拠の無い自信からちょっとくらい無茶しても大丈夫と己の能力を過信してしまい、取り返しのつかない失敗をしてしまった。
大通りに出れば何とかなるはずだと焦ってしまい、闇雲に動き回り、更に細い道の奥へと入り込んでしまったようだ。
「ここはいったい何処なんだろう……?」
あまりの心細さについ弱音が口からこぼれてしまう。
歩いていればいつかどこかに出るか、人に出会うことはできるだろう。
しかし、こんな人通りの無い場所で変な人や悪い人に遭遇してしまった場合、かなり危険な目に合う確率が高い。
細い道から知らない場所に出た場合、そこは治安がとても悪い危険な場所である可能性が高い。
治安の良い大通り近辺ならばそれほど警戒する必要は無いし、危ない目に遭いそうになれば周りの人が助けるなり、町の治安維持を担っている警備隊を呼んでくれるだろう。
しかし、こういった人目の無い裏通りは一種の治外法権的な空間になっている。
こういう場所で犯罪に巻き込まれても、こういう場所に行った人間が悪いということでまともに取り締まりも捜査もしてもらえない。
警備隊の人員は限られていて、広い町の中の全てを把握し統制し維持することはできない。だから、そういった場所は領主などの統治者の暗黙の了解の下で必要悪として存在している。
私はそんな危ない場所に行こうとしたわけではなく、ほんの少しスリルを味わいたかっただけで、すぐに安全地帯に戻れるギリギリの場所までしか行く気はなかった。
私は後悔に苛まれながら、前に進むことも後ろに戻ることも出来ずに突っ立っていた。
ここで一つの誘惑に駆られる。
理術で浮かんで屋根の上まで行けば見晴らしが良くなって大通りの方角が分かるかもしれない。
理術さえ使えば屋根の上をつたって行くことも可能だ。
この世に生まれて初めての迷子。
不安と焦りで正常な判断能力を完全に喪失していた。
先日、大勢の人の前で理術を披露したことで、私の中の理術を使うことのハードルがかなり低くなっている。
私が理術を使えるということは、もう必死になって隠さなくてはならないことではなくなっている。
学園では理術を教えているのだから、学園の外で理術を使う人だって少しはいるはずだ。
私が理術を使っていることがばれても何も大きな問題にはならないだろう。
幸いこの辺りは全く人がいない。
右見て左見て、もう一度右見て、人がいないことを確認して私は自分の身体を宙に浮かし始める。
建物の高さは基本的に全て統一されている。
孤児院よりも少し低いくらいの屋根の上に身体が到着すると、理術を解除した。
屋根の上では一切の視界を遮るものはなく、周囲四方を遠くまで見渡すことができる。
使われている材料が同じなのか、屋根の色は全て赤茶色で統一感がある町並みだ。見上げればお城のような白い学園がそびえ立っている。町の外には広い平原がどこまでも続いている。遥か彼方に川が流れている。
建物が立ち並ぶ町の中では空が区切られてしまっていたが、屋根の上には空を遮るものが何もない。広々とした開放的な青空を久しぶりに眺めることができて自然と笑みがこぼれていた。
素晴らしい眺めだ。もっと早く屋根の上に登ってこの景色を眺めてみれば良かった。
そんな心の余裕が生まれてきたところで、冷静になって今の状況を客観的に見てみる。
こんな明るい時間に外で宙に浮かんでいる人間がいるなんて常識的にあり得ない。
人に見つかったら絶対に騒ぎになる。
宙に浮かんでいる人間なんて理術と関係なく大問題だ。
私は大急ぎで現在地と大通りの方角を確認して、出来る限り素早く屋根から降りた。
私が思っていたよりもずっと大通りから離れていたみたいだ。
迷路を上空から見て正解の道順を把握したようなもので、私は細い道を迷わずに歩きだした。
順調に道を進むことができて、あと少しで大通りに出られるところまで戻ってこれた。
まだ大通りに戻れていないのに、迷子ではなくなったという安堵と緊張感からの解放で気が緩んでいた。
ここはまだ危険な裏通りだということを意識し忘れていた。
私は途方にくれていた。私は生まれて初めて完全な迷子になっていた。
最初のうちは迷子になることを警戒して、細い道には入らないようにして、大通りだけを歩いていた。
私の育った田舎の村は半日足らずで村の端から端まで行けるくらいの広さしかなかったのに、この町はとても広くて3日歩いても町の一部分しか行けていない。
しかし、行っていない場所は多々あるが、宿を起点にしてその周辺だけを数時間以内に帰れる範囲での散策となると3日で十分足りる。
最初の内は見るもの全てが新鮮でそれだけで十分楽しめたが、さすがに3日目になると似たような街並みをただ眺めるだけというのにも飽きてきてしまった。
慣れてきたことで、警戒心が疎かになり、つい好奇心と出来心で、細い道へ入り込むという大胆な行動をとってしまった。
それでも最初のうちは十分に気を付けていた。
細い道に入っても、慎重に数分進んでは、すぐに来た道を辿って元の大通りへと戻っていた。
それを何度も繰り返すうちに、徐々に細い道の奥へ奥へと大胆に進んでいくようになっていった。大通りに帰ろうと来た道を歩いていたが、いつまで経っても大通りに出ない。
焦ってさらに細い道をどんどん進むが片道と同じだけの時間を歩いても大通りには戻れず、気付けば今自分がどこにいるのかが分からなくなっていた。
調子に乗って進み過ぎてしまい、帰り道が分からなくなってしまった。
細い道は大通りとは違い、人が二人歩くのがやっとという程の幅しかない道だ。
両側に高い建物がそびえ立っていて見通しが効かなく、日も差さない薄暗い通りだ。太陽も見えないから東西南北の方角すら分からない。
茶色のくすんで薄汚れた壁に個性などはどこにもなく、どこも同じような景色に見える。
焦って闇雲に動いてしまい、自分がどこから来たのか、自分がどこにいるのかが全く分からなくなってしまった。
根拠の無い自信からちょっとくらい無茶しても大丈夫と己の能力を過信してしまい、取り返しのつかない失敗をしてしまった。
大通りに出れば何とかなるはずだと焦ってしまい、闇雲に動き回り、更に細い道の奥へと入り込んでしまったようだ。
「ここはいったい何処なんだろう……?」
あまりの心細さについ弱音が口からこぼれてしまう。
歩いていればいつかどこかに出るか、人に出会うことはできるだろう。
しかし、こんな人通りの無い場所で変な人や悪い人に遭遇してしまった場合、かなり危険な目に合う確率が高い。
細い道から知らない場所に出た場合、そこは治安がとても悪い危険な場所である可能性が高い。
治安の良い大通り近辺ならばそれほど警戒する必要は無いし、危ない目に遭いそうになれば周りの人が助けるなり、町の治安維持を担っている警備隊を呼んでくれるだろう。
しかし、こういった人目の無い裏通りは一種の治外法権的な空間になっている。
こういう場所で犯罪に巻き込まれても、こういう場所に行った人間が悪いということでまともに取り締まりも捜査もしてもらえない。
警備隊の人員は限られていて、広い町の中の全てを把握し統制し維持することはできない。だから、そういった場所は領主などの統治者の暗黙の了解の下で必要悪として存在している。
私はそんな危ない場所に行こうとしたわけではなく、ほんの少しスリルを味わいたかっただけで、すぐに安全地帯に戻れるギリギリの場所までしか行く気はなかった。
私は後悔に苛まれながら、前に進むことも後ろに戻ることも出来ずに突っ立っていた。
ここで一つの誘惑に駆られる。
理術で浮かんで屋根の上まで行けば見晴らしが良くなって大通りの方角が分かるかもしれない。
理術さえ使えば屋根の上をつたって行くことも可能だ。
この世に生まれて初めての迷子。
不安と焦りで正常な判断能力を完全に喪失していた。
先日、大勢の人の前で理術を披露したことで、私の中の理術を使うことのハードルがかなり低くなっている。
私が理術を使えるということは、もう必死になって隠さなくてはならないことではなくなっている。
学園では理術を教えているのだから、学園の外で理術を使う人だって少しはいるはずだ。
私が理術を使っていることがばれても何も大きな問題にはならないだろう。
幸いこの辺りは全く人がいない。
右見て左見て、もう一度右見て、人がいないことを確認して私は自分の身体を宙に浮かし始める。
建物の高さは基本的に全て統一されている。
孤児院よりも少し低いくらいの屋根の上に身体が到着すると、理術を解除した。
屋根の上では一切の視界を遮るものはなく、周囲四方を遠くまで見渡すことができる。
使われている材料が同じなのか、屋根の色は全て赤茶色で統一感がある町並みだ。見上げればお城のような白い学園がそびえ立っている。町の外には広い平原がどこまでも続いている。遥か彼方に川が流れている。
建物が立ち並ぶ町の中では空が区切られてしまっていたが、屋根の上には空を遮るものが何もない。広々とした開放的な青空を久しぶりに眺めることができて自然と笑みがこぼれていた。
素晴らしい眺めだ。もっと早く屋根の上に登ってこの景色を眺めてみれば良かった。
そんな心の余裕が生まれてきたところで、冷静になって今の状況を客観的に見てみる。
こんな明るい時間に外で宙に浮かんでいる人間がいるなんて常識的にあり得ない。
人に見つかったら絶対に騒ぎになる。
宙に浮かんでいる人間なんて理術と関係なく大問題だ。
私は大急ぎで現在地と大通りの方角を確認して、出来る限り素早く屋根から降りた。
私が思っていたよりもずっと大通りから離れていたみたいだ。
迷路を上空から見て正解の道順を把握したようなもので、私は細い道を迷わずに歩きだした。
順調に道を進むことができて、あと少しで大通りに出られるところまで戻ってこれた。
まだ大通りに戻れていないのに、迷子ではなくなったという安堵と緊張感からの解放で気が緩んでいた。
ここはまだ危険な裏通りだということを意識し忘れていた。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
最強騎士は料理が作りたい
菁 犬兎
ファンタジー
こんにちわ!!私はティファ。18歳。
ある国で軽い気持ちで兵士になったら気付いたら最強騎士になってしまいました!でも私、本当は小さな料理店を開くのが夢なんです。そ・れ・な・の・に!!私、仲間に裏切られて敵国に捕まってしまいました!!あわわどうしましょ!でも、何だか王様の様子がおかしいのです。私、一体どうなってしまうんでしょうか?
*小説家になろう様にも掲載されております。
転生貴族の魔石魔法~魔法のスキルが無いので家を追い出されました
月城 夕実
ファンタジー
僕はトワ・ウィンザー15歳の異世界転生者だ。貴族に生まれたけど、魔力無しの為家を出ることになった。家を出た僕は呪いを解呪出来ないか探すことにした。解呪出来れば魔法が使えるようになるからだ。町でウェンディを助け、共に行動をしていく。ひょんなことから魔石を手に入れて魔法が使えるようになったのだが・・。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。
網野ホウ
ファンタジー
【小説家になろう】さまにて作品を先行投稿しています。
俺、畑中幸司。
過疎化が進む雪国の田舎町の雑貨屋をしてる。
来客が少ないこの店なんだが、その屋根裏では人間じゃない人達でいつも賑わってる。
賑わってるって言うか……祖母ちゃんの頼みで引き継いだ、握り飯の差し入れの仕事が半端ない。
食費もかかるんだが、そんなある日、エルフの女の子が手伝いを申し出て……。
まぁ退屈しない日常、おくってるよ。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる