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第2章 私はただ普通に学びたいだけなのに!

6 待機中

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 学園から宿へ帰りついた頃には日が沈みかかっていた。
 もう精神的にも肉体的にもくたくたになっていた私は夕食も食べずに、待ち望んでいた寝心地が良さそうなベッドにダイブして、そのまま就寝した。
  見た目通りの素晴らしい寝心地を堪能しながら私は深い眠りに落ちていった。

 翌朝、身体に染み付いている習慣で夜明けとともに目が覚めてしまった。
 長旅の疲れと学園での精神的な疲労からまだ身体が休息を欲している。
 本日は特にやることも無いため、どれだけ惰眠をむさぼっても何の問題も無い。
 二度寝の誘惑に駆られてそのまままた眠ってしまった。

 完全に意識が覚醒したのは昼過ぎだった。
 さすがに寝過ぎたと慌てて飛び起きて身支度を整える。

 クローゼットを開けた瞬間、今まで着ていた普段着を着るか、昨日学園へ着て行った高級な服を着るか一瞬悩む。

 今日は学園に行く予定は無い。汚しては困るから私は今まで着ていた普段着を手に取りそれに着替えた。

 この高級宿では基本の宿代に全てのサービス料が含まれている。
 余程特殊なことを頼まない限りは追加料金は請求されない。

 朝、昼、夜、軽食などの普通の食事は宿代に含まれている。
 肉がいいとか魚がいいとかのある程度の食事のリクエストは聞いてくれるらしい。

 私は1階の受付へ行って、中途半端な時間に申し訳ないと謝りながら朝食兼昼食を頼んだ。
 この宿に泊まる人なら自分の雇っている使用人にそういったことをさせるのだろう。宿泊者本人が受付に行って宿の従業員に用事を頼む人はいないに違いない。

 この高級宿には食堂などの食事をする場所は無い。部屋は広いので食事を部屋まで運んでもらい自室で食べるのが当たり前のようだ。

 これは本当に助かる。
 こんな高級宿の宿泊客なんて富裕層ばかりに決まっている。そんな人たちと混ざって食事なんて無理。
 田舎者の私1人だけ周囲の人達から浮いて、ジロジロと見られながら居心地悪い状況では食事が喉を通らない。

 助かったと思いながら部屋で食事が届くのを待っていると扉がノックされた。
 扉を開けると廊下にワゴンが停まっていて、メイドさんが部屋に食事を運び込んでテキパキとテーブルセッティングしていってくれた。

  朝食兼昼食として用意された食事は数種類のパン、スープ、オムレツ、チキンソテー、果物という贅沢なものだ。
 孤児院での食事は基本的に硬くて酸っぱい黒パン1枚と旨味が全部抜けた数種類の野菜がどろどろに煮込まれた混沌スープと茹でた豆くらいだ。
 新鮮なお肉が当たり前のように出てくるなんて想像できない。
 塩漬けの肉ですら毎日は食べられなかった。

 昨日の夜と今日の朝の2食分を抜いているのでお腹がペコペコだ。
 本当にこんな贅沢な料理を私が食べていいのかという罪悪感は空腹の前に呆気なくどこかに消えてしまい、私は席について食事を堪能し始めた。

 どの料理もとても美味しい。
 パンは酵母が使用されているのか、酸味が少なくふわりと柔らかい。ほんのりと小麦の甘味がする白パンがとても美味しい。
 料理人の腕が良いのだろう。オムレツはふわふわだ。私の料理の腕前ではこんなオムレツは作れない。
 チキンは香辛料がいろいろと使われてよく分からない味付けだけど肉汁たっぷりで美味しい。
 スープは……、混沌としている。
 たくさんの種類の野菜だけではなく、何種類かの香辛料も入れているのだろう。今まで食べてきた混沌スープよりも味の複雑さが増している。
 不味い訳では無い。
 孤児院で食べていたスープよりも香辛料の分だけ味がしっかりする。
 その味が複雑過ぎて混沌さが増している。
 私はこのスープに「混沌スープ改」と名付けて比較的酸味の強いパンに浸して食べ切った。

 しっかりと食事を摂った後にするべきことは特に無い。
 ただ学園側からの連絡を待つことしかできない。
 この部屋で何もせずにダラダラゴロゴロと上げ膳据え膳で3食美味しい食事を食べるだけの生活。

 うん、無理だ。

 そんな時間を無駄にするだけの優雅な生活には耐えられない。
 しかし、やる事もやるべき事もやれる事も無い。
 学園からの連絡が来たら迅速に対応しなければならない以上、長くこの宿を留守にするわけにはいかない。

 どうするか悩んだ結果、散歩に出掛けることにした。

 結果は宿の受付に預けると言われたのだから、私がずっと宿の部屋で待っている必要は無いはずだ。
 私が学園の使者から直接結果を受け取るのではなく、宿の受付に預けるのだから私が留守にしていても、後から宿の受付から受け取れば問題無いはず。
 私が部屋にいたとしても宿の受付の人を介して私に届けられるのだから私がずっと部屋に篭っている意味は無い。
 あまり長いこと留守にするわけにはいかないだろうが、数時間の外出なら問題無いだろう。
 私はそう判断して部屋から出た。

 宿から出るときは部屋の鍵を受付で預けなければならない。
 鍵を外に持ち出されて紛失されては困るからだ。この世界ではそんなに簡単に鍵の複製をほいほい作れるわけではない。
 また、鍵を外に持ち出されて合鍵を作られてしまうことを防ぐためという理由もある。
 合鍵があればこっそり宿内に侵入できればその部屋から盗み放題になってしまう。

 私は受付で鍵を預けて数時間出掛けることを伝えた。数日中に学園から連絡があるはずだから、連絡があればすぐに伝えてくれるように頼んで宿を出た。

 特に目的も目的地も無い散歩だ。
 お金を無駄遣いする気は全く無いから買い物は一切しない。食事は宿でとれるのだから買い食いをする気も無い。
 本当にただ町の中を歩くだけだ。
 でも、私にとってはそれだけでも大冒険になる。
 私は自分が育った田舎の小さな村しか知らない。自由に町の中を歩き回ったこと、町の中をじっくりとこの目で見たことは一度も無い。
 領都では領主の館から一歩も外へは出なかった。学園都市にたどり着くまでの旅の間はずっと馬車に乗って、宿に泊まるだけで町の中を自由に見て回る時間は無かった。

 私はこの世界で生まれて初めての観光に出発した。

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