私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

文字の大きさ
上 下
11 / 261
第1章 私はただ平穏に暮らしたいだけなのに!

10 森

しおりを挟む
 今日は孤児院の中は空っぽだ。子どもたちはみんな森に行っている。森で食べ物や薪や生活道具の材料を採取している。

 森にはシスターや大人は一緒にはいかない。森での採集は子どもの仕事と決まっている。大きな子が小さな子の面倒をみて丸一日を森で過ごす。

 今回は小さな籠を作りたいから、籠の材料になる植物の蔓をたくさん採ってくるようにお願いした。

 孤児院での日常業務を一人でこなし、夕食を作りながら子ども達の帰りを今か今かと待っている。子ども達だけで遠足に行かせた親のような、無事にちゃんと帰ってくるか心配しながら、そわそわしながら待っている。

  「ただいま~」
  子ども達が帰って来た。私は鍋を火から下ろして、子ども達がいる食堂へ小走りで向かう。

  「みんな、お帰りなさい!頼んでいた蔓はたくさん採ってきて……、どうしたの?何かあったの?」

  食堂にいる子ども達がみんな元気が無さそうにしょんぼりとしている。いつもなら、子ども達は我先にと森で採ったものを手に取って元気よく自慢したり、森であったことを楽しそうに話してくれるのに、今日は違う。
 
  「森で何かあったのね。何があったの?誰か怪我とかはしていない?」

 心配して子ども達に問い質すが、子ども達はみんな下を向いて何も言わない。

 このままでは埒が明かない。子ども達の中で一番歳上のマリーに直接問い質すことにする。

 「マリー、森で一体何があったの?誰か怪我でもした?きちんと説明して」

 下を向いていたマリーが顔を上げて私を見る。その顔は目が少し赤くなっていて、泣いた後の顔をしていた。

 「……誰も怪我はしてないよ。みんなの元気が無いのは、ちょっと森で嫌なことがあったから……」
 「嫌なこと?それは一体……」

 「森で村の子にいじめられたの!」

  突然、エマが叫ぶようにして会話に割り込んできた。

 「森の中でルメルの実をみんなで採っていたら、村の子達が来て『これは村のものだから、村の人間でない孤児が採るな!』て言ってきて、私達を追い払って、村の子達がルメルを独り占めしたんだよ!」
 「そうだよ!あいつら僕達のことを『泥棒』て言ったんだ!」
 「マリー姉ちゃんが『私達も村の一員だよ』って言っても、馬鹿にして話を聞かないんだ」
 「村の奴等に『お前達は12歳になると村から出て行って2度と帰って来ないから、村の人間じゃない』って言われた……」
 「マリー姉ちゃんももうすぐ居なくなっちゃうって言ってた……」

 エマが叫ぶように発言したのを切っ掛けに、子ども達は堰が切れたかのように一斉に森であったことを話し出した。中には森であったことを思い出して泣き出す子もいる。

 なんとか子ども達を落ち着かせ、子ども達からもう一度何があったのかを聞き、みんなの話を整理した。

 子ども達は森でルメルの実というさくらんぼによく似た形でブルーベリーのような色と味の果物が繁っている木を見つけた。森の奥にある木だったから、まだ誰にも発見されていなかったので、ルメルの実がたわわに実っていた。子ども達は大喜びでルメルの実を収穫していた。そこに村の子ども達がやって来た。

  村のルールでは、森での採集は早い者勝ちで、前の集団がいる場所にはその集団が去った後でなければ後から来た集団は収穫してはいけない。前の集団が採り終わってからでなければその木からは収穫できない。
 もちろん、前の集団も一つの木から全てを収穫して採り尽くしてはいけないという決まりはある。最大でも半分しか採ってはいけない。その次の集団はその半分で最初の集団の1/2しか収穫出来ない。

 孤児院の子ども達は当然そのルールを知っているから、村の子ども達に特に注意を払うことなくルメルの実の収穫を続けていた。
 その様子を見ていた村の子ども達がルールを破ってルメルの木に近づいて来た。
 孤児院の子は当然、ルールを破った村の子を注意する。
 でも、その注意を聞いて反省するどころか、「これは村のものだ!俺たち村の人間のものでお前達孤児のものではない。俺たちにその木を寄越せ!」と反論してきた。
 この暴言により、孤児院の子ども達は収穫を止めて、村の子ども達との言い争いが始まった。
  
 孤児院の子ども達も、村の子ども達も互いに引かず、手はお互いに出していないものの一触即発の状態になった。

 そこに10人ほどの別の子どもの集団がやってきた。
 最初に孤児院側に喧嘩を吹っかけてきた集団には5人の10歳前後の男の子だけしかいなかった。新しい集団は3歳くらいの小さい女の子からマリーと同じ年の男の子まで10人ほどいた。最初の男の子たちが先に行って危険や収穫物を確認する先遣隊の役割だったのに、帰ってこないから後の集団も彼等を追って来たようだ。

 後から来た村の子ども達も男の子達と合流して事情を男の子達から聞いた後、後から来た集団の男の子達も加わってルメルの木を自分たちに渡せと要求してきた。事情を理解できない小さな子や女の子達は少し遠巻きにして見ているだけだが、顔には「ルメルの実を採りたい」という気持ちが出ていた。

 孤児院の子どもは9人しかいない。男の子4人に女の子5人で多勢に無勢だった。

 マリーは最初から双方を落ち着かせようと一人で冷静に頑張っていたが、互いに頭に血が上った状態の子ども相手には無力だった。
 マリーはなんとか村の子に自分達のルール違反を理解させ、こちらの正しさを証明しようと必死に言葉で説明したが、村の子達は自分達の正しさを信じて疑わず、マリーの言葉に耳を傾けようとはしなかった。

 このままでは村の子ども達と喧嘩になってしまう、と考えたマリーはこちらが折れてルメルの木を譲ることにした。
 孤児院の他の子達は納得出来なかったが、孤児院で一番歳上でみんなの姉のような存在のマリーに逆らう事は出来ず、渋々従った。

 孤児院の子ども達が村の子ども達にルメルの木を譲ってその場を離れようとしたとき、勝ち誇るように村の子ども達は孤児院の子ども達に多くの暴言を浴びせた。

 子ども達は村の子達の前では泣くのを我慢していた。でも、ルメルの木から離れ村の子達との姿が見えなくなると耐え切れずに次々と子ども達は泣き出した。そして、ひと通り泣いて涙が止まると、泣き腫らした顔で沈んだ状態のまま森から孤児院までとぼとぼと歩いて帰ってきた。

 一番我慢強いマリーも泣いていた。

  「『孤児院の奴らは12歳になると全員村から出て行って2度と帰って来ないから、奴らと仲良くしても意味が無い』ってジョシュアが言ってたぜ!」

  この一言を聞いたマリーは酷く驚き、傷付いた。マリーとジョシュアは同い年でとても仲が良かったからだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

傀儡といしの蜃気楼 ~消えた王女を捜す旅から始まる、夢の世界のものがたり~

遠野月
ファンタジー
これは、現実の裏側に存在する、≪夢の世界≫のものがたり。 殺された妹、その無残を乗り越えられずにいた冒険者ラトス。 死の真相を探るべく足掻いた先で、行方不明となっている王女の捜索依頼を受けることになる。 王女の従者メリーを連れて森に入ったラトスは、王女が消えたその場所から夢の世界に迷いこむ。 奇妙がうずまく夢の世界に王女も囚われていると知り、ラトスたちは救出に向かう。しかしそのためには、怪物が巣食う悪夢の回廊を通り抜けていかなければならないのだという。 ラトスは旅の途中で出会った協力者たちの助力を得て、様々な困難を乗り越えていく。 現実とつながっている夢の世界は、様々な思想、感情などで構成されている。 広大な草原に浮かぶ、巨大な岩山。 岩山の中には、現実世界に生きるすべての人間が持つ、個人の夢の世界がある。それらはすべて、個人の記憶、思想、感情で盛衰しつづけている。 個人の夢の世界をつなぐ悪夢の回廊は、悪しき感情で満ちている。 悪から生まれた怪物たちは、悪夢の回廊を通り抜けようとする者に襲いかかる。 さらに、七つの大罪の元となる「八つの悪徳」から生まれた怪物は、猛る爪と牙をラトスたちに向ける。 現実感のある不思議がうずまく、夢幻。 誰もが感じ、夢想した世界が、このものがたりで形となる。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

ブラコン姉妹は、天使だろうか?【ブラてん】

三城 谷
恋愛
本作の主人公『椎名崎幸一』は、青陽学園に通う高校二年生。この青陽学園は初等部から高等部まで存在するマンモス校であり、数多くの生徒がここを卒業し、世の中に名を残してきている超エリート校である。そんな高校に通う幸一は学園の中ではこう呼ばれている。――『卑怯者』と。 そんな卑怯者と呼ばれている幸一の元へやってきた天才姉妹……『神楽坂美咲』と『神楽坂美羽』が突然一人暮らしをしている幸一の家へと訪ねてやって来た。とある事情で義妹となった神楽坂姉妹は、幸一以外の男子に興味が無いという状況。 これは天才姉妹とその兄が描く物語である。果たして……幸一の学園生活はどうなる? ※表紙も僭越ながら、描かせていただきました。仮の物で恐縮ですが、宜しくお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

えっ!どうしよ!?夢と現実が分からない状況なので模索した結果…

ShingChang
SF
睡眠の前に見る【夢】を自由に制御できる能力者、 桜川みな子 社畜の様な労働時間の毎日…疲れ果てた彼女が 唯一リラックス出来る時間が『睡眠』だ 今夜は恋愛系? 異世界ファンタジー? 好きな物語を決め深い眠りにつく… そんな彼女が【今宵はお任せ】で見た 【夢】とは!?

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...