氷の華を溶かしたら

こむぎダック

文字の大きさ
上 下
103 / 113

103話 **

しおりを挟む
 初めは啄むようだった軽いキスが、次第に熱を帯びて行く。
 親指の腹で顎を押し、寝息を零す薄く開いた唇を割開いて、ねじ込んだ舌で熱い口内を犯して行った。

 どれだけ深く眠っているのか、キャニスは全く目覚める様子を見せず、それに気を良くしたシェルビーは、夢の中だからと、唇から首筋に、そして鎖骨へと唇と舌を滑らせた。

 夜着の代わりのシャツの上から、愛しい人の輪郭を覚えるように撫でまわし、寒さで凝った胸の尖りを見つけた時は、シェルビーの指に歓喜の震えが走った。

 そのまま優しく爪で引っかき、指の腹で押し潰しこね回すと、規則正しかったキャニスの呼吸が次第に乱れ、その唇から零れた熱い吐息が、残っていたシェルビーの理性を弾けさせた。

 互いの下穿きの紐を引き抜く様に解き、取り出した愛しい人の隠されていた姿に、シェルビーは陶然となった。

 嗚呼。
 なんて綺麗なんだ。
 俺の醜悪なモノとは全然違う。
 キャニスはどこもかしこも、全部が優美だ。

 緩く立ち上がりかけているキャニスに、熱り立ち、ボコボコと血管の浮いたぶつを擦り付ける行為は、想像以上の背徳感だった。

 熱く芯をもって、優雅に立ち上がるキャニスと、猛々しい自分のモノをまとめて掴み、軽く扱くだけで、信じられない程の快感が、腰から脊髄を走り抜けた。

 あぁ!
 熱くて、ビロードみたいだ。
 気持ちいい!
 めちゃくちゃ気持ちいいぞ!!

「ん・・・ふっ・・・んぁ」

 キャニスの唇から、溢れ出た快感に溶けた吐息が、シェルビーをより大胆にさせた。
 擦り合わせた2人の物を、右手で上下に扱きながら、左手で敏感な先端をくるくると撫で回す。

 すると、二つの鈴口から溢れ出る先走りが、ニチャニチャと卑猥な音を奏で、こぷこぷと快感の蜜をこぼすキャニスに、これ迄以上の愛しさが溢れだした。

 かわいい。かわいい。かわいい。

「あぁ。キャニス・・・好きだ・・・愛してる」

 唇同士が触れる、ギリギリの距離で囁いた。

 とキャニスの瞼がパチリと開いた。

まだ寝ぼけているのか、自分の身に起きている事を理解出来ていないキャニスは、パチパチと瞬きを繰り返した。

「キャニス。キャス。愛してる」

「ふぁ?あっ!なっなに?」

一瞬の戸惑いの後、キャニスは驚愕に眼を見開き、胸を突き返された。

「何してんだよ!!」

 上半身は、離れてしまったが、大事な部分は、まだシェルビーの手の中にある。

「スケベな事」

「ふざけっ!あっ!!そこはダメッ!!」

「キャスは、ここが好き?」

「あぁ!・・・やめて・・動かさないで!」

「はあ・・・気持ちいいな。キャス一緒に」

「クッ!・・・やめろって・・・言ってるだろッ!!」

 バキッ!!

「・・・痛い。えっ?!うそ?・・・グーパン??」

 殴られた頬を抑えたシェルビーは、自分の犯した間違いに気づき、真っ青になった。

「ごめ・・・・ごめんッ!!俺!夢だと思って!!」

「はあ?夢?」

 地の底からの低い声に、シェルビーは震え上がり、キャニスは乱された服を掻き合わせた。

「こっちは悪夢だよ。人の寝込みを襲うなんて・・・最っ低!」

「だって、キャスが一緒に寝てくれるなんて思ってなかったから、絶対・・・夢だ・・・と」

「夢の中なら、同意のない相手でも、犯して良いと?」

「そんな事、思ってないよ!!」

「じゃあ。これは何?」

 氷点下の視線を向けられたシェルビーは、ベットの上で正座のまま項垂れた。

「うう・・・ごめんよ」

「黙れ変態。さっさと自分の天幕に戻れ」

 またも天幕の出口を指差されたシェルビーは、王太子の威厳はどこへ行ったのか、しょぼくれてヨロヨロとベットから降りた。

「あの・・・キャニス?」

「黙りなさい」

「はい・・・すみませんでした」

 トボトボと王太子が天幕から出て行くと、キャニスはベットに突っ伏した。

「クソッ!だから、なんで上手いんだよ?!」

 不覚だ。
 危うく流されて、イカされる所だった。
 僕の体・・・快楽に弱すぎない?
 大丈夫なの?

 まったく。
 僕だって、好きで一緒に寝た訳じゃないんだよ?!
 
 医者が来ても、殿下は全然起きないし。

 医者は、熱が出るかもしれない、って言うし。診察中に、僕の手を握って来て、そのまま放してくれなかったのは、殿下じゃないか。

 ベットの上で、キャニスが一人プリプリと怒っていると、遠慮がちなアントワーヌの声が、天幕の入り口から聞こえて来た。

「坊ちゃん。ご無事ですか?入っても宜しいでしょうか?」

「いいよ」

「失礼致します」

「アントワーヌ。来るのが遅いよ」

「申し訳ございません。坊ちゃんが助けを呼ばない限り、手出し無用、とパトリックさんから申し付けられておりました」

「パトリックが?どういう事?」

「その・・・坊ちゃんも、健康な男子ですので・・・そういう事も有るかと・・・」

 何だよそれ?

 パトリックは、いつから殿下の回し者になったんだ?

「はあ~~。僕にそういう、無駄な気遣いは要らないよ。何かあったらすぐに来るように言って置いたでしょ?」

「それは、殿下具合が悪くなるかもしれないから、との事でしたし。その・・殿下はお元気そうでしたので」

 そっちの元気は、要らないんだけどね。

「もういいよ。それより、医者を殿下の所へ向かわせて」

「頬の治療ですか?赤くなってましたね」

「それも有るけど、殿下は発熱されているから」

「熱が御有りだったんですか?」

 そのわりに・・・殿下も大概元気だな。

 熱がある相手を殴るとか。

 流石は坊ちゃん。
 病人相手でも容赦のない、孤高の精神が素晴らしいな。

「今日は、皇女の相手をしなくちゃならない。殿下に無理はさせられないからね」

 坊っちゃんなら、無理をしてもいいと仰るのか?坊ちゃんだって、会いたく無い相手だろうに。
 
 殿下は、坊ちゃんが気に掛けて下さることを、もっと有難がるべきだ。

 坊ちゃんに言われて、戦闘中オレは殿下のそばを守っていたけど。守る必要なんて、これっぽっちも無かったんだぞ?

 大体。盾で殴られて外れた肩を、自分で嵌め直して、平然と戦い続ける様な化け物の、心配をする必要があるか?

 殿下は、坊ちゃんの前では優しい男の振りをしてるけど、オレはあんなおっかない戦い方をする男を、他で見たことがねえ。

 坊っちゃんがオレの弟か、オレが公爵様なら、コイツは止めて置け、って言いたいくらいだぜ?

 オレは、坊ちゃんの結婚に口出しできる身分でもないし、パトリックさんは、殿下の事を気に入ってるみたいなんだよな。

 パトリックさんは殿下の何処を、気に入ったんだろう?パトリックさん程の人でも、殿下の本性を見抜けないのか?
 
 でもまあ。
 クソウスに比べたら、数百倍は真っ当な王太子だし?
 坊っちゃんだけには、とてつもなく優しいし。坊っちゃんの方も、満更でもねえ感じだしな。
 
 今の所、一番の優良物件なんだけどさ。

 オレは坊ちゃんが幸せになれるなら、何でもいいんだ。

 けど・・・・。
 男女問わず、坊ちゃんが話してる相手に、殿下が向ける視線。

 あれは、いただけねぇ。

 顔は笑ってるのに、瞳の奥に、嫉妬の炎がぶすぶす燻ってやがる。

 あの目だけは、どうしたって好きになれねえよ。

「もう一度お休みになられますか?」

「寝れそうもないな・・・」

「お召し替えなら、マリーを呼びましょうか」

「自分でやるから良いよ。マリーはもう少し寝かせてあげて」

「畏まりました」

アントワーヌが医者の元へ走り、キャニスが着替え終わると、朝食を持ったパトリックが顔を出した。

「どういうつもり?」

「何がで御座いますか?」

ニコニコと空惚けるパトリックに、キャニスは溜息を吐いたのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~

華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

処理中です...