氷の華を溶かしたら

こむぎダック

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91話

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☆☆☆☆☆☆


「では懸案の4366番について。刑罰を決めたいと思います。ご意見の有る方はいらっしゃいますか?」

「議論の余地など無い。これは単なるミスで済まされる問題か?」

「その通り。こ奴は何の権限も無く、神である我等の領域を荒したのだ。ゲヘナの底へ沈めるのが筋だろう」

「そこまでしなくても良いんじゃない?だって元はパラメーターの、入力ミスでしょ?」

「だとしても、ミスに気付いた後の隠ぺいの仕方が悪質過ぎる」

「そうよねぇ。お迎え天使のリストにも名前が載ってないなんて」

「4366番は、何人の神を欺いたと思っている?」

「ほんと・・・良い腕してるよ。なんでその才能を、他の事に使わなかったのか。これだけの腕なら出世できたのに」

「魂の消滅など生温い。ゲヘナの底に沈め4億年の処罰ではどうか?」

「氷漬け?その程度で良いの?」

「まだ温いか?」

「温かろうよ。局長や観察してい他の局員の報告を読むと、このような輩は、永劫の氷に浸けたとしても、反省するとは思えん」

4366番がキャニスに行った非道に、神達はキャニスへ同情し、4366番への怒りを募らせていた。

「何が問題かって?そりゃあ。この、現在キャニスって呼ばれている子に対する、愛が全く感じられない事。僕らの領域を犯された事も問題だけど。一番の問題は、平局員でも神の領域を好きに出来るっって、知らしめてしまった事。だと僕は思う」

自分達の領域を犯され、好き勝手にされた事で、神の面目は丸つぶれだ。

「うーーん」

 と神達は腕を組み、額を抑えて考え込んでしまった。

「セキュリティーの強化は、進んでるでしょ?」

話しを振られた局長は、恭しく頭を下げた。

「はい。元は外部からの攻撃に対し重点を置いて居りましたが。内部のチェック機能もさらに強化させ。人的チェックの体制も整え終えたところです」

「それで万全なの?」

「これまでも4366番が問題を起こさなければ、万全であったとお答えしたでしょう」

「要するに、完全なものは創れないって事?」

「システムが高度になるほど、思いもつかない抜け道が出来てしまうものです。今回の問題も、一局員が感じた違和感によって、発見に至りました。システムに頼りきりではなく、相互監視が重要かと存じます」

「ふむ。システムについてはその方向で良いと私も思う、だが4366番については・・・どうしたものか」

「古典だけどさ、いっその事ハンムラビで良くない?」

「目には目をか?」

「原始的だけど、一番効果がある気がするんだよね」

「それは、4366番を地上に降ろし、記憶を残したまま、このキャニスと同じ経験をさせるという事か?」

「そうそう。キャニスと同じ11回は確定で、反省するまで、何度でも追加するのはどう?」

「追加するにしても、途中で魂が耐えきれずに、消滅してしまうのではないか?キャニスの魂も消えかけていただろう?」

「そこは主神のお力で、強制的に魂を固定して貰う・・・・とか?」

ここで全員の眼が主神へと集まり、主神は長い顎髭を手で扱いた。

「うむ・・・愛を司る割に、えげつない事を考えるな」

「愛と憎しみは表裏一体。愛を裏切った者への復讐は、苛烈でなくちゃね」

「ふむ・・・・魂の固定には同意できん。摂理に反してしまう」

「なら、如何いたしますか?」

「そうだねぇ・・・・前回、今回と、キャニスに対し非道を行って来たナリウスは、その幸運を全てキャニスに移譲したのだが・・・」

「母様、主神も結構えげつないよな?」

「ほんとにね」

「そこ!聞こえて居るぞ」

主神に咎められ、美と愛の親子神は首を竦めた。

「ゴホン!あ~~~。ナリウスは今世において、今後幸運とは無縁の人生を送る事になって居る。そこで、4366番を地上での転生に送り出す前に、ナリウスの守護天使としたらどうかな?」

「守護天使?幸運をお与えになるのですか?」

時空の神の咎める様な声に、主神はひらひらと手を振って見せた。

「だから、今世のナリウスには幸運なんて残って居ない。それこそ道端で小銭を拾うような、小さなものでもね。だから4366番には、守護天使としてナリウスが反省し、更生できるように導かせる」

「それは冥界での罰を、現世でお与えになるという事ですか?」

「そうね。現世で生きることだって、程度の差はどうしても出来てしまうけど、それでも辛い事は多いよね?4366番には、守護天使としてナリウスを改心させる。その為には、自分の考え方も、変えなくちゃならないよね?」

「なるほど、考えを改めさせたうえで、11回の転生ですか・・・宜しいのではないですか?」

「うん。万が一11回の転生で4366番が、反省も改心もしないようなら、ゲヘナの底で無期限の氷漬けでどう?」

「・・・・やはりえげつない気がするな」

「何か言った?」

「いえ。何も・・・」

「私も主神のお考えに賛成です。4366番への罰でもありますが、他の局員への良い戒めとなるでしょう」

「異議のある方はいらっしゃいますか?」

「はい!」

「ウェヌス様どうぞ」

「4366番の事はこれで良いとして。このキャニスって子は、このまま放置で良いのかしら?」

「どういう事でしょう?」

「だからね。11回も転生して、全部悲惨な目に遭った上に若死によ?ナリウス一人の幸運を分けてあげたからって、お詫びとして足りないのじゃない?」

「その事につきましては、今世終了後、当方でそれなりのポストを、ご用意いたしております」

「え~~~。死んだ後に良い待遇受けても。ねぇ?」

「そうだよね母様。生きていてこその愛の有る人生だもんね♡」

「愛の無い人生に、意味なんてないわ」

「「ねぇ~~~」」

「・・・と、ウェヌス様は、仰られておりますが」

 そこで居並んだ神々は、ふむっと考え込んだ。

「この子散々な目に遭ったのに、今世では幸せになれる下地を自力で作ったのよ?偉いと思わない?それにこの美貌。メチャクチャ私好み」

「好みは脇に置いて、確かに10回の人生を耐え抜いた事や、今世での努力には、報いてやっても良いのでは?」

「そうですな。しかし一人に幸運が偏るのは、如何なものでしょう」

「ならこのシェルビーって子にも、幸運を分けてあげるとか?」

「それ良いわね!この二人にはぜひ巧くいってもらいたいわ。だって、見た目が2人とも素敵だもの」

「ですから、今は好みの話しではなく」

喧々諤々の協議の末、神1人に一つずつ、キャニスとその周辺の人物への、幸運の付与が決定された。

そして即日4366番は、守護天使としてナリウスの元へと、送り込まれる事となった。

 さて。
 僕も結構、幸運を付与してしまったんだけどな。
 
 でもまあ、今まで苦労してきたんだ。
 それ以上の幸せが贈られても、問題ないよね。

 後はキャニスが、この幸福を受け入れるだけだ。

 4366番は、自分の間違いに気付くと良いが・・・。

 このナリウスという子の、パラメーターは平均値なのに、何がこの子をこんな風にしてしまったのか・・・・。

 平均値であるにも関わらず、色々な方面で、突出する子が出て来るところが、人間の面白い処ではあるけれど・・・。

 こういう悪い方に突出した子が出て来ると、色々考えてしまうな。

溜息を吐く主神の前には、馬車に押し込められた、ナリウスの姿が映し出されていた。

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