氷の華を溶かしたら

こむぎダック

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87話

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「坊ちゃん。このご様子だと、中和剤が効かないかもしれません」

「僕は、直ぐに効いたよ?」

「別の媚薬なのか、相当な量を盛られたのかも知れません」

「医者を呼ぶべき?」

「医者も、中和剤を処方するより他ないでしょう。とにかく水分を多くとって、薬を体の外に出す事と、あとは・・・発散させるしかないと思います」

「・・・キャニス・・・」

潤んだ瞳でキャニスを見つめるシェルビーは、指でキャニスの手の甲を、ずっと撫で続けている。

「・・・酷い汗。僕は殿下に薬を飲ませるから。パトリックはお水とタオルをお願い。それが済んだら、キャピレット卿を探して来て。いくら何でも遅すぎるよ」

「畏まりました」

「マリーは、僕の荷物からジュニパーを取ってきて、お茶を用意して」

キャニスの指示に従い、水とタオルを用意し終えたパトリックと、マリーがその場を離れた。

「さあ殿下、中和剤を飲みましょう。起き上がれますか?」

「体が・・・熱くて苦しい」

 起きれないって事?
 困ったな。

「キャニス・・・飲ませて」

 もう、本当に止めて欲しい。
 なんて、無駄な色っぽさだよ。

 これで童貞なんて、絶対信じられない。

「・・・・キャニス。お願い」

 あ~~~!
 なんて、あざとい!
 もう知らないッ!!
 相手は200歳以上年下の、童貞君じゃない。

 これは医療行為。
 医療行為だから!!

中和剤の瓶を煽り、口に含んだキャニスは、熱く荒い息を吐く唇に、唇を合わせた。

首に添わせた手で、薬を嚥下する喉の動きを確かめながら、少しずつ中和剤をシェルビーの口内へ流し込む。

最後の一滴迄流し込んだキャニスが、唇を離そうとした時、シェルビーの大きな手に後頭部を抑えられた。

「んっ!?んんーー!!」

離れようと、両手でシェルビーの胸を押し返し返したキャニスだが、腰に回された腕で逆に強く引き寄せられ、火の様に熱い舌が口内を荒々しく舐め回し、蹂躙された。

「ん・・・殿下。放して」

「全然足りない。・・・あの女、部屋で待ち構えてたんだ。俺が部屋に入ったら急に抱き着いてきて・・・俺の身体を撫でまわしやがった」

その声は弱々しいほどに小さく、悔しさに満ちていた。

「殿下?」

「触られた所が、気持ち悪い。キャニスが触って上書きしてくれないか?」

「上書き・・・と言われても・・・」

「あの女が触った所を、触ってくれるだけでいい。忘れたいんだ・・・頼むよ」

キャニスの手首を掴んだシェルビーは、キャニスの返事を待つことなく、令嬢に触られた所に、キャニスの手を引っ張り、撫でさせた。

首から始まり、肩、胸、腰と段々下に下がって行く。

 短時間にどれだけ撫で廻されたの?

 ちょっと、これは、拙い。
 非常に拙い。

 パト・・パトリックは?
 どうしてパトリックもマリーも、帰ってこないの?

「殿下。それ以上は」

手を引っ込めようとするキャニスだが、武人のシェルビーの力には敵わず、とうとうキャニスの指が、ズボンを押し上げている、猛りに触れてしまった。

 嘘でしょ?
 あの娘、こんなとこも触ったの?
 侯爵家の令嬢が?
 リサは、何にも知らなかったのに。
 恥じらいは?
 どこに置いて来た?

動揺するキャニスを他所に、シェルビーはうっとりとキャニスを見つめ、ズボンの中の膨らみが更に大きくなった。

 お・・・大きい。
 同じ男として、自信が無くなりそうだ。
 
 ・・・・薬は?
 まだ効かないの?
 やっぱり、一度出さなきゃ駄目なの?

「きつくて苦しい。外に出して?」

「殿下。これ以上は、ご自分でお願いします。パトリック達も戻って来ますから」

「キャニス。お願い」

「お辛いのは分かりますが、これ以上は明らかな契約違反です。私はお手伝いできません」

現実を告げるキャニスに、それ迄のうっとりとしていたシェルビーの表情が、悲し気で苦しそうなものへ変化した。

「私は、部屋の外に居ります」

立ち上がろうとしたキャニスの手首を、シェルビーは放さなかった。

「ば・・・・罰金を払う。だから・・・」

「私は、男娼ではありません」

キャニスの言葉にシェルビーは、ショックを受けたように見えた。

 そんな傷付いた顔をされたら、僕が悪いみたいじゃない。

 あの契約の文言は、性行為を禁止するためのものだ。お金さえ払えば、何をしても良い。と言っている訳じゃない。

「手を放して下さい」

「ひと・・・一人じゃ無理だ。こんな・・・こんな熱、発散しきれない」

「殿下、手を放して」

「キャニス・・お願いだ・・・助けて」

「・・・・・・」

 もう!
 辛いのは、分かるよ?
 僕だって男だ。
 でも、自分で好きなだけ、すればいいじゃない!

 なんで、手伝わせようとするの?

 大体、契約で素肌への接触は、手首までだって決めたでしょ?!

「・・・・どうしても、ダメ?」

 うわぁ~~!!
 何そのおねだり!?
 これで恋愛経験が無いなんて、嘘でしょ?
 この人、自分の容姿の使い方、絶対分かってやってるよね?!

 あぁ!もう!!

「・・・・浴室まで歩けますか?」

「キャニス?」

「媚薬が早く抜ける様に、湯につかって汗を出した方が良い」

「・・・駄目なの?」

「素肌への接触は出来ません。それでも良ければお手伝いします」

 ふふん。
 混乱してるね?
 手で触らなくても、発散させる方法は、幾らでもある。
 
 僕は過去に、娼館へ売られた経験があるんだよ?忘れたの?

こんな所で、使う事になるとは思わなかったけど。童貞君には、刺激が強い、あれやこれやが有るんだけど?

「どうしますか?」

「・・・風呂に行く」

 好奇心に負けたってとこかな。
 実際、かなり苦しいだろうし。
 背に腹は代えられないよね?
 
「罰金は僕ではなく、どこかの養護施設に贈って下さい」

「・・・・分かった」

「お風呂の用意をしてきます。その間、殿下はお水を飲んで居て下さい」

大人しく頷いたシェルビーだが、その息はフーフーと荒く、まるで興奮した獣の様だ。

湯船に熱めの湯を溜め、入浴の支度を済ませたキャニスが、腕まくりをしたまま浴室から出ると、丁度そこへマリーが戻って来た。

「遅かったね、パトリックも戻ってこないけど。どうしたの?」

「それが・・・」と声を潜めたマリーの報告に、キャニスは眉を顰めた。

「殿下へは、僕から話すよ。ジュニパー茶はお風呂に運んでくれる?それが終わったら、パトリックを手伝ってあげて」

「でも、坊っちゃん。お一人では危ないです」

「大丈夫。殿下は中和剤も飲まれたし、お風呂で汗をかけば、落ち着くはずだ」

「そうですか?」

 これから、たっぷり汗をかかせてあげるからね。

心配そうなマリーを、パトリックの手伝いに行かせたキャニスは、よろけるシェルビーを支えて浴室まで移動させた。

指先が震えて、役に立たないシェルビーに代わり、服も脱がせてやった。

下穿きを脱がせたときには、飛び出して来た物の大きさに、驚愕してしまったが、妙に恥ずかしそうにしている本人を見ると、失礼だったかな?と反省した。

 でもこれ・・・・。
 どう見ても、凶器にしか見えない。

 これを受け入れる人は、大変だな。
 体が壊れちゃうんじゃない?

あくまでも他人事と、思っているキャニスなのだった。

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