氷の華を溶かしたら

こむぎダック

文字の大きさ
上 下
71 / 113

71話

しおりを挟む
「私だけでは無かったと思います。王太子は、あの、ナリウス殿下なのですから」

「そうだな。あのナリウスだからな。なぁ、国によっては、後継者争いがあったりするもんだろ?それにラリスの王太子は素行の悪いナリウスだった。だから俺は水面下で、ナリウスの廃嫡の動きがあっても、おかしくないと思ってた。俺が学院に留学している間、あいつの悪評は散々見聞きしていたからな。カリストの、スペアで良いって発言は、我が国は平穏です。問題は有りません。って、対外的なポーズかとも思ったんだ」

「でもカリスト殿下は、ナリウス殿下の事を何もご存じなかった」

「それなんだよ。仮にも王子が自国の問題を何も知らない、家族に何があったのか、何をしているのかも知らない、なんて事が有るか?俺なんて知りたくもないのに、セリーヌとロジャーの、喧嘩の原因まで知ってたんだぞ?」

「レ家の皆さんは、本当に仲が宜しいのですね」

「そうじゃなくて。いや、そうなんだけどな?普通は知ろうとしなくても、故郷の話しは耳に入ってくるものだろ?たとえカリストが、蚊帳の外に置かれていたとしても、ラリスの外交官に会う機会はあったし、商会を立ち上げたなら、商人との接点もある。なら国の噂くらいは、知っていて当然だろ?だがカリストは、そうじゃなかった。俺にはあいつが、わざと情報を遮断したとしか思えない」

「わざと・・・」

「そうわざとだ。だから俺が言いたいのはだな。キャニスが嫌だと思うなら、カリストの謝罪を受けたり、あいつを許す必要はないって事だ」

「はあ」

「分からないか?あいつは森の隠者でも、絶海の孤島に流されたわけでもない。自分の意思でキャニスの事を知ろうとしなかった。自分で選んだ結果に罪悪感を感じて、それから逃れたいからって、キャニスに許しを請うのは虫が良すぎる。と俺は思う訳だよ」

「・・・確かにそうですね」

「カリストに会わない事や、謝罪を受けない事で、君が罪悪感を感じる必要はない。君は心の感じるまま、好きにして良いんだ!」

とシェルビーは、言いたいことを一気に捲し立てると、鼻の頭を恥ずかしそうに指で掻いた。

 え~と。
 何故に、この人は恥ずかしがっているのだろうか。 
 
 これは、もしかして。
 
 殿下はさっきから、僕を慰めようとしてくれていたのかな?

 僕もひとの事は言えないけれど。
 なんて分かり難くて、不器用な人なんだ。

「お気遣いありがとうございます。母にも同じような事を言われたのですが、正直な所、今の僕は、ナリウス殿下で手一杯で、カリスト殿下に構っている暇はないのです」

「・・・・キャニス、こっちに来てくれ」とシェルビーは、自分が座っている3人掛けのソファーをポンと叩いた。

何をする積りなのかと、キャニスは警戒したが、疲れた顔に苦笑を浮かべるシェルビーに根負けし、テーブルを回ってソファーの一番端に腰かけた。

「遠いな」

「そうですか?適切な距離かと思いますが」

「違うな、正しいのはこうだろ」

とシェルビーは、キャニスの腰に腕を廻して引き寄せた。

「・・・近すぎです」

「えぇ~?俺は今日すっごく働いたんだぞ?このくらいの癒しは許してくれよ」

 確かに、疲れた顔をされて居るけど。

「・・・・少しだけですよ」

「ありがとう。キャニスは優しいな。それに・・・良い匂いがする」

子供の様に、キャニスの髪に顔を埋めて、匂いを嗅ぐシェルビーに、キャニスは呆れてしまった。

「殿下・・・そんな風に他人の匂いを嗅ぐのは、如何なものかと思います」

「そうか?最近はアロマ何とかって云うのが、癒し効果があるとか言って、流行ってるんだろ?だったら、俺はキャニスの香りで癒されてるから、一緒だ、一緒」

 どんな屁理屈だよ。
 それに近い。
 近すぎる。

 くすぐったいから、耳元で話すの止めてくれないかな。

「まだですか?」

「ん~~~。もうちょっと」

 本当に子供みたいだ。

「ナミサに、ナリウスの診察を依頼したって?」

「・・・ご存じでしたか」

「まあ、ナミサは宮廷医だし、ライアンの主治医だからな・・・ナリウスが心配か?」

「ええ。心配です」

 キャニスの返事に、シェルビーの身体が強張り、引き寄せる腕の力が強くなった。

「殿下、苦しいです」

「なんで、あんな奴の心配なんてするんだ?」

「彼には使い道があるからです。壊れた道具では役に立ちません」

「それだけ?」

「何がですか?」

「ナリウスを心配する理由は、本当にそれだけか?」

 他にどんな理由があるって言うんだ?

「ナリウス殿下の使い道は、貴方にも説明したじゃないですか。他に理由なんて有りません」

「でも、俺に隠してることが有るだろ?」

「それは、隠しているのではなくて確信が持てないからで、明日か明後日には、ヒャッ!?」

急に耳朶をぱくりと咥えられ、キャニスは反射的に身を離そうと、シェルビーの胸を押したが、その両手首を無骨で大きな手に捕まえられてしまった。

「ちょっ!!何してるんですか!止めて下さい!!」

「・・・耳にキスしてるだけだ。キャニスは耳も可愛いな」

「けっ契約違反です!」

「なんで?契約書には、どこにキスしろとは書かれてないぞ?」

「うっ!」

 迂闊だった。
 もっと内容を詰めて置けば良かった。

「みっ耳を食べないで!」

あむあむと耳朶を甘噛みされ、キャニスが堪え切れずに声を上げると、シェルビーはにんまりと微笑み、キャニスの耳元で囁いた。

「齧るのは駄目?キャニスはどういうのが好き?」

「どういうのも駄目です」

 教えるも何も、何が好きかなんて、知らないよ!

「え~?教えてくれないなら、色々試してみないとな」

Chu!Chu!っとリップ音を立てキャニスのにキスを繰り返したシェルビーは、逃げようとする体をがっしりと抱え込み、甘噛みして赤く染まった耳朶に舌を伸ばした。
 
「あっ!ちょっと。本当に止めて!」

「どうして?」

「くすぐったいからです!」

「キャニスは、耳が弱いんだな?」

 耳が弱くない人なんている?!

 もう!本当に止めて欲しいんだけど!!

それからしばらくの間、反応の一つ一つを確かめる様に、キャニスの耳朶を舐り、しゃぶり尽くしたシェルビーは、キャニスの唇も奪い、その甘さに夢中になった。

そしてシェルビーが満足の溜息を零した時には、キャニスは息も絶え絶え、腰砕けで、彼の事を睨むことしか出来なくなっていた。

そんな愛しの君を抱き上げ、ベットに運んだシェルビーは、キャニスの額にキスを落とし「これ以上やったら、我慢できなくなる」と呟いた。

そして、さっきまでの疲れた様子が嘘のように、つやつやの顔でニッカリと笑い、足取りも軽く、自分の部屋に戻って行ったのだった。

 ・・・・信じられない。

 耳だけでイカされそうになってしまった。

 不覚だ。
 不覚すぎる。
 
 なんで、こんなに巧いんだよ?

 オセニアの閨教育って、どうなってるの?

 う~~。怖い怖い。

 彼と褥を共にする人は、大変そうだな。
 ほんと、僕じゃなくて良かった。

この時のキャニスは、まだシェルビーから逃げ切れると、本気で信じていたのでした。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

処理中です...