氷の華を溶かしたら

こむぎダック

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61話

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オセニア王国後宮の離れに、常になく多くの人が集まっている。

これ迄は、離れで療養生活を送る、王子のライアンの体調を考慮し、少人数で見舞いに訪れる事が常だった。

しかし今回は、留学中のロジャー王子以外の家族が揃い、更にライアンの担当医師とその助手が固唾をのんで、ベットに腰掛けるキャニスとライアンを見守っている。

「殿下。魔道具の使い方を説明しても宜しいですか?」

「はい。お願いします」

緊張した面持ちのライアンに、キャニスはうっすらと目を細めた。

医師の助手から小ぶりな箱を受け取ったキャニスは、蓋を開けライアンに中身を見せた。

「ネックレス?このネックレスが魔道具なの?」

「はい。見た目はちょっと派手なネックレスですが、こちらが、私と主治医の先生が相談して作った、魔道具になります」

ライアンが食い入るように見つめている魔道具は、黒いベルベットの中敷きの上に綺麗に納められた金のネックレスだった。

そしてキャニスが言ったように、11歳の少年が身に着けるには、ちょっとではなく、かなり派手なものだった。

「本当は、ブレスレットや指輪のような目立たないものを、ご用意したかったのですが、最初は何度も調整を行う必要が出て来る事も考慮し、このサイズになってしまいました」

「そうなんだ」

「それにブレスレットや指輪では、殿下が成長されて、お身体が大きくなりますと、直ぐに使えなくなってしまいます」

「キャニス様は、僕でも大きくなれると思いますか?」

「勿論です。きっとシェルビー殿下よりも、逞しく成長されると思います」

「本当ですか?」

ライアンは理想とする兄よりも逞しくなれると言われ、瞳をキラキラと輝かせた。

そんなライアンを落ち着かせるように、小さな頭をキャニスは撫でてやった。

「説明を続けても宜しいですか?」

「はい。お願いします」

 キャニスはネックレスを取り上げると裏返し、刻まれた魔法陣をライアンに見せた。

「魔法陣は、この金の台座の裏に在ります。調整する時は、主にこの魔法陣に手を加える事になります。簡単には消えない様に、刻み込んでありますが、殿下も魔法陣を傷つけないように注意して下さい」

「はい」

「では次に、この派手な装飾部分なのですが、これが殿下のお身体の魔力を調整する助けになります」

「このトゲトゲがですか?」

「トゲ・・・・そうですこのトゲトゲです。この部分が殿下のお身体に触れる事で、体内の魔力量を感知する役割を果たします」

「へぇ~そんなんだ」

興味深そうに指を伸ばすライアンから、キャニスはネックレスを遠ざけた。

「まだ初期値の確認が出来ていないので、もう少し我慢して下さいね」

「あ、はい。ごめんなさい」

「ここからは、とても重要な事なので、良く聞いて下さいね」

「はい」
 
真剣な表情でキャニスを見るライアンに、王と王妃の微笑ましいと細めた目には、うっすらと涙の膜が掛かっている。

「真ん中の魔石、水色をしていますね?これは私の魔力を少しだけ入れてあるからです。ここから私の魔力を抜くと・・・・」

「・・・透明になった」

「そして魔力今度は魔力が増えると・・・」

「あっ!赤くなった」

「その通りです。このネックレスは殿下のお身体から魔力が抜けていくと、魔石から色が抜け冷たくなります。反対にお身体に魔力が溜まりすぎると魔石は赤く、熱くなります」

「ふ~ん」

「これから主治医の先生が、殿下の魔力量を測って下さいます。その魔力量を初期値として設定します」

「うん」

「設定した初期値よりお身体に魔力が増えた場合。このネックレスが殿下の魔力を吸い取り、魔石の中に溜めて行きます。そして今度はお身体の魔力が減って来たときは、ネックレスに溜めた魔力を、殿下のお身体に戻す事で、一定の魔力量を保つことが出来るのです」

「じゃあ。魔力が増えたり減ったりして、熱がでる事も無くなる?」

「そうですね。完全に、とは行かないかもしれませんが、今までよりはお身体が楽になると思います」

「うわぁ。本当なの?」

「本当です。でもいいですか殿下」

「はい?」

「この中心の魔石は、何事も無ければ先程のように水色をしています。色が変わったり、温度が変化するという事は、危険な状態だという事です。その場合直ぐに診察を受けなければなりません」

「そうなんだ」

「そこで、この・・・トゲトゲについている小さな魔石に注目して下さい」

「この8個の魔石ですか?」

「その通りです。私はこれをメーターと呼んでいますが、殿下の魔力が増えたり減ったりすると、この小さな魔石の色が一つずつ変化します、増えすぎた魔力を吸い取れば赤く、逆に減った魔力を、殿下に戻した場合は透明にです」

「へぇ~凄いですね」

「そうですか?殿下にはこの小さな魔石に注意していただき、2つ以上一気に魔石の色が変わったら、念の為診察を受けて頂きたいのです」

「毎回ですか?」

「面倒でしょうが、大人になるまでは毎回です」

「大人になったらいいの?」

「子供の内は、誰でも魔力が安定しない事が多いのです。体の成長と同じで、大人になると個人の魔力量が増える事は、滅多にありません。殿下は、体内に留めて置ける魔力量が安定してはいませんが、作り出す魔力の量はだんだん増えて行っているのです」

「ああ。だから気を付けなくちゃいけないんですね?」

「その通りです。これからは定期的な魔力量の測定と、お医者様の診察。そしてそれに合わせた、魔道具の調整が大切になります」

「はい。分かりました」

はきはきと返事をする、ライアンの頭を撫でたキャニスは、シェルビーとそっくりなグレーの瞳を覗き込んだ。

「殿下。今は発熱を繰り返している所為で、お身体が弱っている状態です。ですが、発熱の回数を減らせたら、だんだんお身体も丈夫になって来る筈です。そうすれば多少の魔力量の変化なら、熱を出さずに堪えられるようになると思いますよ」

「・・・・はい」

嬉しそうに破顔するライアンの頭をもう一度撫で、キャニスは主治医へ場所を譲った。

医師による魔力量の測定も終わり、設定を終えたネックレスを、ライアンの首に掛けると、ライアンは不思議そうに自分の身体を見下ろしていた。

「如何ですか?」

「ポカポカします」

「ぽかぽかですか?」

「はい。いっつも体の中が熱かったり冷たかったりしてたんですけど、今はポカポカしてます」

「ナミサどういうことだ?」

ライアンの様子を見守っていた国王は、堪らず主治医に声を掛けた。

「殿下はこれまで体内の魔力の増減を、温度として感じて来られたのでしょう。ですが今は、魔道具の効果で、殿下の体内の魔力量が、適量に保たれているため、ポカポカとした温もりとして、感じられて居られるのだと思います」

「では・・・では」

「はい、キャニス様の魔道具が、効果を見せているという事です」

「そうか・・・そうか!」

「キャニス様が仰られたように、今後も定期的な診察と、魔道具の調整は必要で御座いますが、殿下の発熱を抑える効果は十分期待できます」

「あぁ!ライアン、ライアン!良かった、本当に良かった!」

涙を流し息子を抱き締める母の姿に、セリーヌとシェルビーはそっと涙を拭ったのだ

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