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「作為とは、どういうことでしょうか?」
「切っ掛けはこのリノスが、王子宮とカサンドラの衣装や装飾品に、違和感を覚えた事です。どれだけ趣味が悪くても、身の回りの物には、その人間の好みが出るものだが、カサンドラが買い集めたものには、統一性が全くなく、好みや個性が感じられないと」
「ほう」
「ただ適当に安物を買い集めたのではないかと言われて。カサンドラもこの詐欺の一味ではないかと考えたのです」
そこからカサンドラと、カサンドラが贔屓にしていた商会について調べ上げ、判明した事をカリストは丁寧に説明して行った。
「ナリウスが金を借りたのは帝国の貴族でした。そしてカサンドラが利用していた商会も、帝国人が経営していた。疑念は深くなる一方でした。そこで私達はカサンドラ本人に、話しを聞いてみる事にしたのです」
「当然の流れですね。それでカサンドラという女は何と?」
「吐きましたよ。包み隠さず綺麗さっぱりとね。こっちが聞いていないことまで、べらべらと話してくれました」
カリストと側近の2人は、取り調べ中のカサンドラの取り憑かれたような様子を思い出し、口の中が苦くなるのを感じた。
そしてその内容を聞いた3人も、カリストと同じ気分を味わったのだった。
「私は・・・公爵に玉璽をお渡ししようと考えています」
「国王が認めんでしょう」
「父が認めなくても関係ありません。父には前々からルセ王家は、父の代で終わりだと伝えてありますから」
「前からと言うと?」
「ナリウスの行いを調べ、公爵の元に謝罪に行った直ぐ後です」
「そうでしたか」
公爵は相変わらず難しい顔のままで、サイラスに頷いて見せた。
「カリスト殿下が、本気でそうのようにお考えなら、私はキャニス様からお預かりした、伝言をお伝えしたいと思います」
「キャニスからの伝言?私に対する苦情ですか」
暗い顔で呟くカリストにサイラスはそうではないと、慌てて訂正した。
「これは公爵様と、殿下への御伝言です。キャニス様は気乗りされていないご様子で、選ぶのは公爵様と殿下だと仰せでした。キャニス様は、信義に厚いお方とお見受けいたします。ですのでキャニス様の手で、王家に引導を渡すような真似は、されたくなかったのでしょう」
「私はキャニスに引導を渡されるなら、本望ですがね」
あぁ。
カリスト殿下も、キャニス様の事が好きだったのか。求婚したのも、政略だけではなかったんだな。
カリストの心情を察し、なんとも言えない遣り切れなさと、切なさを感じたサイラスだったが、程度の差こそあれ、初恋とは叶う事の方が少なく、大概が苦く切ない思い出になるものだ、と考えなおした。
出来る事なら、うちの殿下の初恋は、大団円で終わって欲しいけどな。
「それで、キャニスからの伝言というのは?」
「殿下が王位を捨てる気が有るのなら。道は二つ。帝国か公爵家に王位を売れと」
「はっ・・・ハハハ。譲れではなく、売れと言ったのか」
「はい」
そして突然サイラスは、立ち上がった。
何をする気か?と皆が見守る中、サイラスは執務室の壁の一面を占領している書類棚の前に立ち、書類の綴りを引き出し、棚の中を覗き込み始めた。
「キャピレット卿?何をされて居るのですか?」
サイラスの横に移動してきたマイルスが、不思議そうに聞いて来た。
「キャニス様から、この辺りに隠し棚の仕掛けがあると聞いて居るのだが・・・・おっ?これか?」
書類の後ろに、腕を滑り込ませたサイラスが、隠されていた小さなレバーを動かすと、パチンと何かが外れる音が聞こえ、書類棚の中央に隙間が出来た。
「開いたようです。棚を動かしますね」
サイラスが薄く開いた書類棚を左右に押し広げると、棚の後ろには小部屋が続いていた。
「こんなところに、部屋なんて有ったのか」
「元は衣裳部屋と、休憩室を兼ねた部屋だったそうですが、キャニス様は王宮内にもお部屋をお持ちだったので、使い道が無かったそうです。そこでどうせなら、と秘密文書の保管庫にされたのだそうです」
「秘密文書・・・キャニスは何を隠していたんだ?」
「殆どが、ナリウス殿下の表沙汰にできない事柄についての報告書と、被害者の保証に関する文書だそうです」
「これ全部が、ナリウスのやった事なのか?」
ここにある物全てが、そうなのだとしたら。カリスト達が調べ出した物の、数十倍にもなる。
愕然とするカリストを横目に、サイラスはキャニスから教えられていた場所から、目当ての物を見つけ出した。
「キャニス様は、この中の物は読んで気分の良くなるものでは無いから、今回の事で必要ないものは、破棄してくれて構わないと仰っておられました。まあ、殿下と公爵様が使い道があるとお考えなら、好きにしてくれて構わない、とも仰らていましたが」
「決めるのは私達という事か・・・・」
「ご本人はこれを使ってどうこう、とはお考えでは無いようですから」
「そうだろうな、あの子はそういう子だ」
「とにかく一旦出ましょう。中身を見なくても胸糞の悪く成る物なんて、視界に入れたくないですからね」
確かにそうだと頷いた一同は、元のソファーへと移動した。
サイラスが手際よく、ファイルから取り出した文書をテーブルに並べると、一同は額を寄せ合うように、その内容を確認して行った。
全てを確認した侯爵は、低く呻きながら、どさりとソファーに倒れ込んだ。
「大丈夫ですか?父上」
「大丈夫だと思うか?私は自分の能力を、過信しすぎていたようだ」
「それだけキャニス様は、優秀な手駒をお持ちだという事でしょう」
サイラスは、素直にキャニスの情報収集能力の高さに感心していた。そしてそれを可能にする、采配や人の使い方の上手さにもだ。
これだけの情報を持ちながら、本人は逃げ出すタイミングを計っていただけ、と言うのだから。軍人であるサイラスは、宝の持ち腐れだと、呆れてしまった。
「もう公爵家の跡継ぎも、キャニスで良くないですか」
そう零すトバイアスに、公爵は苦笑いを浮かべていた。
その後ろでリノスとマイルスは、ひそひそと言葉を交わし合っている。
「しかしあれだな。もう言い逃れは出来んな」
「そうだねぇ。これは無理だねぇ。それに、これだけの証拠が揃って居れば、逆に帝国に抗議出来るんじゃない?」
「逆ギレして、攻め込んでくるかもしれんぞ?」
「あそっか。でもそこは巧くやってくれそうな人がいるけど・・・・」
チラチラと公爵を盗み見るリノスに、公爵は苦笑を漏らした。
「君は確か、コペルと言ったか?」
「え?はいそうです」
「若いからといって、多くの事が許される時期は、あっという間に過ぎてしまう。これからも殿下の傍に居る積りなら、腹芸と言う物を覚えなさい」
腹芸と聞いたリノスは、恰幅の良い公爵が、自身の腹に人の顔を描いて踊る姿を想像し、危うく笑いそうになってしまった。
頬の内側を噛んで必死に耐えたが、腹筋は崩壊寸前。
目の前の公爵の顔が、腹に描いた顔に見えて来た。これ以上耐え切れない所まで追い込まれ、不敬を問われる事を覚悟したリノスを救ったのは。サイラスの生真面目な話しぶりだった。
「切っ掛けはこのリノスが、王子宮とカサンドラの衣装や装飾品に、違和感を覚えた事です。どれだけ趣味が悪くても、身の回りの物には、その人間の好みが出るものだが、カサンドラが買い集めたものには、統一性が全くなく、好みや個性が感じられないと」
「ほう」
「ただ適当に安物を買い集めたのではないかと言われて。カサンドラもこの詐欺の一味ではないかと考えたのです」
そこからカサンドラと、カサンドラが贔屓にしていた商会について調べ上げ、判明した事をカリストは丁寧に説明して行った。
「ナリウスが金を借りたのは帝国の貴族でした。そしてカサンドラが利用していた商会も、帝国人が経営していた。疑念は深くなる一方でした。そこで私達はカサンドラ本人に、話しを聞いてみる事にしたのです」
「当然の流れですね。それでカサンドラという女は何と?」
「吐きましたよ。包み隠さず綺麗さっぱりとね。こっちが聞いていないことまで、べらべらと話してくれました」
カリストと側近の2人は、取り調べ中のカサンドラの取り憑かれたような様子を思い出し、口の中が苦くなるのを感じた。
そしてその内容を聞いた3人も、カリストと同じ気分を味わったのだった。
「私は・・・公爵に玉璽をお渡ししようと考えています」
「国王が認めんでしょう」
「父が認めなくても関係ありません。父には前々からルセ王家は、父の代で終わりだと伝えてありますから」
「前からと言うと?」
「ナリウスの行いを調べ、公爵の元に謝罪に行った直ぐ後です」
「そうでしたか」
公爵は相変わらず難しい顔のままで、サイラスに頷いて見せた。
「カリスト殿下が、本気でそうのようにお考えなら、私はキャニス様からお預かりした、伝言をお伝えしたいと思います」
「キャニスからの伝言?私に対する苦情ですか」
暗い顔で呟くカリストにサイラスはそうではないと、慌てて訂正した。
「これは公爵様と、殿下への御伝言です。キャニス様は気乗りされていないご様子で、選ぶのは公爵様と殿下だと仰せでした。キャニス様は、信義に厚いお方とお見受けいたします。ですのでキャニス様の手で、王家に引導を渡すような真似は、されたくなかったのでしょう」
「私はキャニスに引導を渡されるなら、本望ですがね」
あぁ。
カリスト殿下も、キャニス様の事が好きだったのか。求婚したのも、政略だけではなかったんだな。
カリストの心情を察し、なんとも言えない遣り切れなさと、切なさを感じたサイラスだったが、程度の差こそあれ、初恋とは叶う事の方が少なく、大概が苦く切ない思い出になるものだ、と考えなおした。
出来る事なら、うちの殿下の初恋は、大団円で終わって欲しいけどな。
「それで、キャニスからの伝言というのは?」
「殿下が王位を捨てる気が有るのなら。道は二つ。帝国か公爵家に王位を売れと」
「はっ・・・ハハハ。譲れではなく、売れと言ったのか」
「はい」
そして突然サイラスは、立ち上がった。
何をする気か?と皆が見守る中、サイラスは執務室の壁の一面を占領している書類棚の前に立ち、書類の綴りを引き出し、棚の中を覗き込み始めた。
「キャピレット卿?何をされて居るのですか?」
サイラスの横に移動してきたマイルスが、不思議そうに聞いて来た。
「キャニス様から、この辺りに隠し棚の仕掛けがあると聞いて居るのだが・・・・おっ?これか?」
書類の後ろに、腕を滑り込ませたサイラスが、隠されていた小さなレバーを動かすと、パチンと何かが外れる音が聞こえ、書類棚の中央に隙間が出来た。
「開いたようです。棚を動かしますね」
サイラスが薄く開いた書類棚を左右に押し広げると、棚の後ろには小部屋が続いていた。
「こんなところに、部屋なんて有ったのか」
「元は衣裳部屋と、休憩室を兼ねた部屋だったそうですが、キャニス様は王宮内にもお部屋をお持ちだったので、使い道が無かったそうです。そこでどうせなら、と秘密文書の保管庫にされたのだそうです」
「秘密文書・・・キャニスは何を隠していたんだ?」
「殆どが、ナリウス殿下の表沙汰にできない事柄についての報告書と、被害者の保証に関する文書だそうです」
「これ全部が、ナリウスのやった事なのか?」
ここにある物全てが、そうなのだとしたら。カリスト達が調べ出した物の、数十倍にもなる。
愕然とするカリストを横目に、サイラスはキャニスから教えられていた場所から、目当ての物を見つけ出した。
「キャニス様は、この中の物は読んで気分の良くなるものでは無いから、今回の事で必要ないものは、破棄してくれて構わないと仰っておられました。まあ、殿下と公爵様が使い道があるとお考えなら、好きにしてくれて構わない、とも仰らていましたが」
「決めるのは私達という事か・・・・」
「ご本人はこれを使ってどうこう、とはお考えでは無いようですから」
「そうだろうな、あの子はそういう子だ」
「とにかく一旦出ましょう。中身を見なくても胸糞の悪く成る物なんて、視界に入れたくないですからね」
確かにそうだと頷いた一同は、元のソファーへと移動した。
サイラスが手際よく、ファイルから取り出した文書をテーブルに並べると、一同は額を寄せ合うように、その内容を確認して行った。
全てを確認した侯爵は、低く呻きながら、どさりとソファーに倒れ込んだ。
「大丈夫ですか?父上」
「大丈夫だと思うか?私は自分の能力を、過信しすぎていたようだ」
「それだけキャニス様は、優秀な手駒をお持ちだという事でしょう」
サイラスは、素直にキャニスの情報収集能力の高さに感心していた。そしてそれを可能にする、采配や人の使い方の上手さにもだ。
これだけの情報を持ちながら、本人は逃げ出すタイミングを計っていただけ、と言うのだから。軍人であるサイラスは、宝の持ち腐れだと、呆れてしまった。
「もう公爵家の跡継ぎも、キャニスで良くないですか」
そう零すトバイアスに、公爵は苦笑いを浮かべていた。
その後ろでリノスとマイルスは、ひそひそと言葉を交わし合っている。
「しかしあれだな。もう言い逃れは出来んな」
「そうだねぇ。これは無理だねぇ。それに、これだけの証拠が揃って居れば、逆に帝国に抗議出来るんじゃない?」
「逆ギレして、攻め込んでくるかもしれんぞ?」
「あそっか。でもそこは巧くやってくれそうな人がいるけど・・・・」
チラチラと公爵を盗み見るリノスに、公爵は苦笑を漏らした。
「君は確か、コペルと言ったか?」
「え?はいそうです」
「若いからといって、多くの事が許される時期は、あっという間に過ぎてしまう。これからも殿下の傍に居る積りなら、腹芸と言う物を覚えなさい」
腹芸と聞いたリノスは、恰幅の良い公爵が、自身の腹に人の顔を描いて踊る姿を想像し、危うく笑いそうになってしまった。
頬の内側を噛んで必死に耐えたが、腹筋は崩壊寸前。
目の前の公爵の顔が、腹に描いた顔に見えて来た。これ以上耐え切れない所まで追い込まれ、不敬を問われる事を覚悟したリノスを救ったのは。サイラスの生真面目な話しぶりだった。
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