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58話
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「キャニス様の記憶については、私がご夫人からお聞きした事と、キャニス様を拝見していて感じた事などは、お話しすることが出来ます。今思いつかなくても、私がこちらに滞在中は、分かる範囲でお答えする事が出来ますので、いつでも質問なさって下さい」
「正直なところ、何を聞いてよいのかも分からない状態なのです。あの子は自分以外の人間に、中々心を開かない子です。ですがとても心根の優しい子なのです。そんな子が、辛く苦しい人生を、繰り返しているかと思うと。なんともやり切れない。あの子に罪など無いのに、ナリウスに続き、今度は帝国かと思うと、ただあの子が不憫で」
「父上。キャスの今世は、私達で幸せにしてあげようと、話し合ったではありませんか。帝国には武力では、劣るかも知れませんが。私達カラロウカは強い。絶対キャスを守れます。だから気弱な事は仰らないで下さい」
「トバイアス・・・そうだな。私が弱気になってはいかんな」
う~ん。
前世と呼んでいいのか分からんが。
前回の人生で、キャニス様を苦しめ見捨てたのと、同一人物とは思えんな。
夫人の言う通り、前回の己の非情さを知ったら、この二人首を括ってしまいそうだ。
「殿下から、学院時代のキャニス様のご様子を、何度もお聞きした事が有るのですが」
「学院の、ですか?ですが殿下と弟は、王宮行事以外での、接点はなかった筈ですが」
「その通りです。トバイアス様の鉄壁のガードの所為で、全くキャニス様に近付くことが出来なかった、と嘆いて居られました。ただ遠くから、キャニス様を見つめるしかなかったと」
「あはは。そうでしたか」
「ええ。幼かったキャニス様を、トバイアス様は守り抜かれた。ならば今回も、この先も学院時代と同様に、御守りする事が出来るのではないですか?それに、今回のキャニス様には公爵様も、我がオセニアもついて居ります。皆が力を合わせれば、帝国に後れを取る事など無いでしょう」
「キャピレット卿」
「なんとも心強いお言葉ですな。我等には民意という強い味方も居ります。帝国など取るに足らんことを、世界に知らしめてやりましょう」
傲岸不遜、とも言える公爵の言葉は、只の虚勢ではなく、公爵とカラロウカの実力に裏付けられた力強いものだった。
「左様ですな。ではここからが本題です。陛下と殿下より幾つかの案を預かってきております。それも含め、今後の計画の擦り合わせを進めましょう」
サイラスの武人らしく無駄を省いた話しぶりも有り、3人の協議はとんとん拍子で進んで行った。
そして、手持ちの案を全て出し合った処で、公爵は満足の溜息を吐いたのだ。
「流石と言うべきなのでしょうな。シェルビー殿下の案は理に適って的確だと感じます。陛下のお考えも柔軟性があり、大変すばらしい」
「天下のカラロウカ公爵に、お褒め頂いたと知れば、お二人もお喜びでしょう。最後に、キャニス様からの案と言うか、御伝言が御座います」
「キャニスから?」
「ご本人は、余り気乗りされていないようでしたが、選ぶのは公爵様と、カリスト殿下だと仰っておられました」
「私とカリスト?なんだろうな。お聞かせ願えますか」
サイラスがキャニスから預かった伝言を聞いた公爵とトバイアスは、う~ん。と唸り苦しげな表情になってしまった。
「お気に召しませんでしたか?」
「いや。あの子は優しい子だ。この手は使いたくないだろう。だが一番効果的な手ではある」
「それより、キャニスは何処まで知って居るのか、私はそっちの方が気になります。前回の記憶もある事ですし。そこまで知っていたなら、これまでの様にキャニス自身で、今回の事も、避けることが出来たのではないですか?」
「確かにそうですね。キャニス様が仰るには、前回似た様な事が起こったのは2年後の事だそうです。その時はキャニス様も王宮に留まられていた為、ご自分の力で負債を払われたそうでして。ただ今回は国王御夫妻が・・・まぁ・・そのぉ・・」
「役立たずだった」
言い難そうに言葉を選ぶサイラスに、トバイアスが助け舟を出した。
「まあ・・・そういう事です。それも有りキャニス様も、国庫の回復に積極的になれなかったと言うか、無理だったと言うか」
「そうでしょうな。奴らは無為に、息子の青春を食いつぶした訳ですから」
これは、相当腹に据えかねているようだ。
まぁ、赤の他人の俺が聞いても、胸糞の悪くなる話だから、この過保護な2人なら、無理も無いだろう。
「これまでキャニス様は、御婦人の命を救った事を始め、ご自身に降り掛かる苦難や不幸を避けて来られました。その所為で多くの事が変わってしまった。その筆頭がナリウス殿下との破婚が叶った事だそうです。ですので、ご自身でも、この先何が起こるのか予測が出来ない。と仰っておられました」
「なら、ナリウスとの婚約を断ればよかったのに」
トバイアスの呟きに、サイラスは頷き返した。
「ご夫人も同じ事をキャニス様に、質問されたそうです。何故断らなかったのか、とね。それにキャニス様は、多くの事が変わってしまうと、何が起こるか分からず、対処が出来なくなるのが怖かった、と仰ったそうですよ?」
「・・・・可哀そうに」
そうだな、本当に可哀そうだ。
自分の未来に不幸が待っている事を知りながら、生きて行くのは辛かっただろう。
だが、キャニス様は負けなかった。
俺は彼のような、強さを持つ人間を他に知らない。彼ほど、為政者として相応しい人間が他に居るだろうか。
「・・・意思の確認も含め、カリスト殿下との、話し合いの場を設けて頂きたい」
「そういう事なら、直ぐに手配いたします。場所はここで宜しいですか?」
「いえ。こちらは王太子殿下の婚約者となられる、キャニス様が被害に遭われて居るのですから、オセニア王国からの正式な使者として、抗議をしなければ成りません。ただ、話し合いの場は、王宮のキャニス様の執務室を、指定してください」
「キャニスの執務室?何故そんな処で?」
「キャニス様からの指示なのです。キャニス様の提案を選ばれるのなら、殿下に必要なものがそこに有るそうです」
「・・・・では、謁見の申請を直ぐに出しましょう。カラロウカの名で申し出れば、待たされることは無いはずです」
「公爵様は、キャニス様の案を選ばれる御積りか?」
「そうだな・・・どの道王家は潰す気ではいました。その後キャニスを王に据え、オセニアへの輿入れの持参金として、この国を持たせてやろうと、妻とも話し合っていたのです。キャニスの案は、その一助になりますな」
「は?一国を持参金にされる御積りだったのですか?」
「キャニスの輿入れですよ?この程度は当然でしょう。それにそうすれば、私達も好きな時に、キャニスに会えますからね」
「・・・・なるほど」
すげえな。
スケールの違いが半端ねぇ。
それをこうも平然と・・・・。
やっぱ。
カラロウカは、敵に回すもんじゃねぇな。
あの御婦人といい、こんなのが舅姑かぁ。
シェルビーの奴本当に大丈夫か?
「正直なところ、何を聞いてよいのかも分からない状態なのです。あの子は自分以外の人間に、中々心を開かない子です。ですがとても心根の優しい子なのです。そんな子が、辛く苦しい人生を、繰り返しているかと思うと。なんともやり切れない。あの子に罪など無いのに、ナリウスに続き、今度は帝国かと思うと、ただあの子が不憫で」
「父上。キャスの今世は、私達で幸せにしてあげようと、話し合ったではありませんか。帝国には武力では、劣るかも知れませんが。私達カラロウカは強い。絶対キャスを守れます。だから気弱な事は仰らないで下さい」
「トバイアス・・・そうだな。私が弱気になってはいかんな」
う~ん。
前世と呼んでいいのか分からんが。
前回の人生で、キャニス様を苦しめ見捨てたのと、同一人物とは思えんな。
夫人の言う通り、前回の己の非情さを知ったら、この二人首を括ってしまいそうだ。
「殿下から、学院時代のキャニス様のご様子を、何度もお聞きした事が有るのですが」
「学院の、ですか?ですが殿下と弟は、王宮行事以外での、接点はなかった筈ですが」
「その通りです。トバイアス様の鉄壁のガードの所為で、全くキャニス様に近付くことが出来なかった、と嘆いて居られました。ただ遠くから、キャニス様を見つめるしかなかったと」
「あはは。そうでしたか」
「ええ。幼かったキャニス様を、トバイアス様は守り抜かれた。ならば今回も、この先も学院時代と同様に、御守りする事が出来るのではないですか?それに、今回のキャニス様には公爵様も、我がオセニアもついて居ります。皆が力を合わせれば、帝国に後れを取る事など無いでしょう」
「キャピレット卿」
「なんとも心強いお言葉ですな。我等には民意という強い味方も居ります。帝国など取るに足らんことを、世界に知らしめてやりましょう」
傲岸不遜、とも言える公爵の言葉は、只の虚勢ではなく、公爵とカラロウカの実力に裏付けられた力強いものだった。
「左様ですな。ではここからが本題です。陛下と殿下より幾つかの案を預かってきております。それも含め、今後の計画の擦り合わせを進めましょう」
サイラスの武人らしく無駄を省いた話しぶりも有り、3人の協議はとんとん拍子で進んで行った。
そして、手持ちの案を全て出し合った処で、公爵は満足の溜息を吐いたのだ。
「流石と言うべきなのでしょうな。シェルビー殿下の案は理に適って的確だと感じます。陛下のお考えも柔軟性があり、大変すばらしい」
「天下のカラロウカ公爵に、お褒め頂いたと知れば、お二人もお喜びでしょう。最後に、キャニス様からの案と言うか、御伝言が御座います」
「キャニスから?」
「ご本人は、余り気乗りされていないようでしたが、選ぶのは公爵様と、カリスト殿下だと仰っておられました」
「私とカリスト?なんだろうな。お聞かせ願えますか」
サイラスがキャニスから預かった伝言を聞いた公爵とトバイアスは、う~ん。と唸り苦しげな表情になってしまった。
「お気に召しませんでしたか?」
「いや。あの子は優しい子だ。この手は使いたくないだろう。だが一番効果的な手ではある」
「それより、キャニスは何処まで知って居るのか、私はそっちの方が気になります。前回の記憶もある事ですし。そこまで知っていたなら、これまでの様にキャニス自身で、今回の事も、避けることが出来たのではないですか?」
「確かにそうですね。キャニス様が仰るには、前回似た様な事が起こったのは2年後の事だそうです。その時はキャニス様も王宮に留まられていた為、ご自分の力で負債を払われたそうでして。ただ今回は国王御夫妻が・・・まぁ・・そのぉ・・」
「役立たずだった」
言い難そうに言葉を選ぶサイラスに、トバイアスが助け舟を出した。
「まあ・・・そういう事です。それも有りキャニス様も、国庫の回復に積極的になれなかったと言うか、無理だったと言うか」
「そうでしょうな。奴らは無為に、息子の青春を食いつぶした訳ですから」
これは、相当腹に据えかねているようだ。
まぁ、赤の他人の俺が聞いても、胸糞の悪くなる話だから、この過保護な2人なら、無理も無いだろう。
「これまでキャニス様は、御婦人の命を救った事を始め、ご自身に降り掛かる苦難や不幸を避けて来られました。その所為で多くの事が変わってしまった。その筆頭がナリウス殿下との破婚が叶った事だそうです。ですので、ご自身でも、この先何が起こるのか予測が出来ない。と仰っておられました」
「なら、ナリウスとの婚約を断ればよかったのに」
トバイアスの呟きに、サイラスは頷き返した。
「ご夫人も同じ事をキャニス様に、質問されたそうです。何故断らなかったのか、とね。それにキャニス様は、多くの事が変わってしまうと、何が起こるか分からず、対処が出来なくなるのが怖かった、と仰ったそうですよ?」
「・・・・可哀そうに」
そうだな、本当に可哀そうだ。
自分の未来に不幸が待っている事を知りながら、生きて行くのは辛かっただろう。
だが、キャニス様は負けなかった。
俺は彼のような、強さを持つ人間を他に知らない。彼ほど、為政者として相応しい人間が他に居るだろうか。
「・・・意思の確認も含め、カリスト殿下との、話し合いの場を設けて頂きたい」
「そういう事なら、直ぐに手配いたします。場所はここで宜しいですか?」
「いえ。こちらは王太子殿下の婚約者となられる、キャニス様が被害に遭われて居るのですから、オセニア王国からの正式な使者として、抗議をしなければ成りません。ただ、話し合いの場は、王宮のキャニス様の執務室を、指定してください」
「キャニスの執務室?何故そんな処で?」
「キャニス様からの指示なのです。キャニス様の提案を選ばれるのなら、殿下に必要なものがそこに有るそうです」
「・・・・では、謁見の申請を直ぐに出しましょう。カラロウカの名で申し出れば、待たされることは無いはずです」
「公爵様は、キャニス様の案を選ばれる御積りか?」
「そうだな・・・どの道王家は潰す気ではいました。その後キャニスを王に据え、オセニアへの輿入れの持参金として、この国を持たせてやろうと、妻とも話し合っていたのです。キャニスの案は、その一助になりますな」
「は?一国を持参金にされる御積りだったのですか?」
「キャニスの輿入れですよ?この程度は当然でしょう。それにそうすれば、私達も好きな時に、キャニスに会えますからね」
「・・・・なるほど」
すげえな。
スケールの違いが半端ねぇ。
それをこうも平然と・・・・。
やっぱ。
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