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57話
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☆☆☆
「・・・・カサンドラの・・・再調査を・・・命じたのでした・・・っと」
「おい」
「え?はい!なっなんでしょうか!!」
「4366番。お前が書いて居るのは報告書か?報告書なのか?」
「はい!心を込めて書かせて頂いた報告書です!!」
「お前ふざけてんのか?散々システム引っかき回して置いて、今は処分が保留だからって、仕事舐めんなよ」
「はい?舐めてなんかいません!!これは私の渾身の報告書です!!」
「はあ?こ・れ・は・報告書じゃなくて、行って来ました作文だろうが?!」
先輩局員は手に取った、報告書という名の作文を、手の甲でバシバシと叩いて見せた。
「行って来ました?酷いな、これでも言語学はA判定貰ってるんですけど」
「A判定が何だ!口答えするな!!とにかくこれは没収!書き直せ!!」
「え~~?どうやって書き直せば良いんですかぁ?」
不満を漏らす4366番に、先輩局員はブチギレ寸前。
指で4366番の頭をゴスゴスと刺した。
「お・ま・え・の・頭にはおがくずが詰まってんのか?閲覧室に幾らでも見本があるだろうが!いいか?今日中に、既定の形で書き直せ!!」
「え~~~?せっかく書いたのに~~~」
「うるさい!!」
足音も荒く部屋を出た局員は、その足で主神の居るコントロールームへと向かった。
「主神」
「ん?何かな?」
「お言いつけ通り、4366番の報告書を持って参りました」
「そう。ちょっと見せて・・・・ねぇこれ、行って来ました作文?」
「仰る通りです。申し訳ありません」
「君が謝る事じゃないでしょ。まあ、いいや。4366番には、これからも報告書を書かせてね」
「本当に宜しいのですか?4366番は、反省していないようですが」
「まあ。仕方ないよね。次の会議まで時間があるし、それまではトイレ掃除と報告書の作成をやらせておいて」
「承りました」
局員が去った後、主神はもう一度、4366番の報告書に眼を通し直した。
「不思議だなあ。行って来ました作文なのに、なんか面白い。ちょっと癖になりそうだ」
4366番の報告書を引き出しにしまった主神は、再び箱庭のモニターへと目を戻し独り言ちた。
「さてさて。これからどうなるのかな。彼等は何を選ぶのか。楽しみだね」
・・・・・・
「遅れて申し訳ありません」
「遠方からいらして頂いたのです。どうかお気になさらず」
「そうですよ。さあ、お座りください。今茶の用意をさせますから」
「忝い。では遠慮なく失礼する」
トバイアスに促され席に着いたサイラスは、カラロウカ公爵とトバイアスに深く頭を下げた。
「サイラス・キャピレットと申します。オセニア王国重騎士団、副団長と、シェルビー王太子殿下の護衛を兼任いたしております」
「お噂は兼がね承っております、先のクロアトとの戦では、王太子殿下と共に大変なご活躍だったそうで」
「あっいや。お恥ずかしい。あの戦は王太子殿下の采配のお陰で、命拾いしたようなものです」
「左様でしたか。貴国の王太子殿下は我が国のそれとは違い、優秀な方の様で羨ましい限りですな」
うう。まだ名乗ってもらえない。
婿いびりなら、本人にやってくれよ。
「父上」
「ん?あっ!これは失礼した。私がカラロウカ公爵家当主。レオン・ヴォロス・カラロウカです。こちらは嫡男のトバイアスと申します」
「トバイアスです。以後お見知り置きを」
「こちらこそ、よろしくお願いいたます」
「この度は、私の妻と息子のキャニスを王宮で匿っていただいた事、感謝申し上げる」
「王太子殿下だけでなく、両陛下、他の殿下方もキャニス様のお人柄に心酔され、あのような理不尽を罷り通らせてはならぬ、と仰せです」
「誠に有難く、両陛下を始め王家の方々には、私からの感謝をお伝えいただきたい」
「承りました。では早速で申し訳ないが、王太子殿下から手紙を預かっております。先ずはそちらに眼を通して頂きたい」
「拝見いたします」
サイラスが懐から取り出した手紙には、契約婚約などという、非常識な形になってしまった事への詫びと、キャニスに対する恋慕の想い。キャニスが夫人に告白した、記憶に関する全てを自分は信じる事と、帝国にキャニスを渡すつもりはなく、それはレ王家の総意であることが綴られていた。
手紙を読み終わった公爵は、そのままトバイアスへ手紙を渡し、何事かを考えている様だ。
トバイアスの方は、信じられないと言う顔つきで、読み終わった手紙を凝視していた。
「トバイアス様?何か気にかかる事が、書かれておりましたか?」
「いや。ちょっと信じられないと言うか、逆に納得したと言うか」
「何が言いたいのだ?」
「はぁ。学院に留学されていた頃の殿下は、本当にモテたのです。あの時在学していた女子生徒で、殿下に憧れなかったものは、一人も居ないでしょう。それに殿下は大変、男性的で魅力的な方でしたから、男子生徒からも憧れの的でした」
「ほう・・・」
「しかし、誰かと違い、浮いた話が一度も出た事はなく、何人もの女子生徒が、その、殿下に告白をしましたが、誰にも靡くことが無かった」
「ふむ。ご自分を律する、真面目なお方だったという事か?」
「ええ。印象としてはそうでした。しかし一人だけ、かなりしつこく殿下に付き纏っていた令嬢が居たのですが。その方に殿下は、”自分は心に秘めた相手がいる、その人は妖精の様に美しい人で、申し訳ないがその人以外は、皆カボチャに見えるから、今後自分に近寄らないで欲しい。”と仰られたそうでして」
「カボチャ・・・・」
「そうなんですよ父上。どれだけ自信があったのか知りませんが、その令嬢、大勢が見て居る前で殿下に告白したもんですから、あっという間に噂が広がって、結局学院を辞めてしまったんですけど」
「かぼちゃ・・・カボチャ・・もしや、若い後妻を貰った、あのカボチャ伯爵の事か?」
「当たりです。学院を辞めた後、あの令嬢にまともな縁談なんて無くて、伯爵家の後妻に入ったのですけどね。噂ってのは何処までも追ってくるものでしょう?だからカボチャ伯爵って呼ばれて居るんですよ」
「なるほどなぁ」
カボチャ伯爵・・・・。
いくら迷惑だったからって、断り方ってものがあるでしょうに。
殿下~~。
あんた他人の人生壊してますよ~!
「まさかあの時の妖精が、キャニスだったとは・・・しかしそうと分かれば、確かにあの令嬢はカボチャでしたね」
カボチャ認定される令嬢って、どんなだよ?
「殿下のキャニスに対する想いは本物なのだな。エミリーからの手紙だけでは今一つ、信じられなかったが、これで納得だ」
え~!カボチャで納得するのか?
あのご夫人の夫なだけあって。
この人も大概だ。
「すまんなキャピレット卿。あなたの主を疑ってしまった」
「いえ。お気になさらず。では次に、ご夫人からの手紙の補足を、私からするように言われております」
「あの手紙か・・・あれは私の手紙と入れ替わりで届いたのだ、返事が早すぎるとは思ったが・・・・」
「公爵様は信じて居られない?」
「いや。キャニスは嘘をついたり、空想に逃げる様な子ではない。あの子を疑ったり、信じない訳ではなくてだな。このトバイアスとも話し合ったのだが、あの子が心を開かない理由がやっと分かって、全ての事が腑に落ちたのです。ただ、その様な現象が起こる不思議に戸惑っている。と申し上げればご理解頂けますかな?」
「なるほど。そのお気持ちは理解できます。私はシェルビー殿下と共に、御夫人からその話を伺ったのですが、やはり公爵様と同じ気持ちになりました」
「エミリーの話しを聞いた殿下は、何と仰られた?」
「キャニス様を信じると。自分ならあのような体験を繰り返す事に、堪えられないだろう。キャニス様は本当に強く、優しい方であると。そしてキャニス様に笑顔を取り戻すために、自分の一生を捧げると、夫人に誓われて居られました」
そうですか。と呟き、公爵は片手で顔を撫で下ろした。
「王太子殿下は、私などよりずっと度量の広いお方の様だ。そして我が息子をお任せするに相応しいお方だと思います」
あ~。選ぶのはそっちか。
成る程、これがカラロウカなんだな。
「・・・・カサンドラの・・・再調査を・・・命じたのでした・・・っと」
「おい」
「え?はい!なっなんでしょうか!!」
「4366番。お前が書いて居るのは報告書か?報告書なのか?」
「はい!心を込めて書かせて頂いた報告書です!!」
「お前ふざけてんのか?散々システム引っかき回して置いて、今は処分が保留だからって、仕事舐めんなよ」
「はい?舐めてなんかいません!!これは私の渾身の報告書です!!」
「はあ?こ・れ・は・報告書じゃなくて、行って来ました作文だろうが?!」
先輩局員は手に取った、報告書という名の作文を、手の甲でバシバシと叩いて見せた。
「行って来ました?酷いな、これでも言語学はA判定貰ってるんですけど」
「A判定が何だ!口答えするな!!とにかくこれは没収!書き直せ!!」
「え~~?どうやって書き直せば良いんですかぁ?」
不満を漏らす4366番に、先輩局員はブチギレ寸前。
指で4366番の頭をゴスゴスと刺した。
「お・ま・え・の・頭にはおがくずが詰まってんのか?閲覧室に幾らでも見本があるだろうが!いいか?今日中に、既定の形で書き直せ!!」
「え~~~?せっかく書いたのに~~~」
「うるさい!!」
足音も荒く部屋を出た局員は、その足で主神の居るコントロールームへと向かった。
「主神」
「ん?何かな?」
「お言いつけ通り、4366番の報告書を持って参りました」
「そう。ちょっと見せて・・・・ねぇこれ、行って来ました作文?」
「仰る通りです。申し訳ありません」
「君が謝る事じゃないでしょ。まあ、いいや。4366番には、これからも報告書を書かせてね」
「本当に宜しいのですか?4366番は、反省していないようですが」
「まあ。仕方ないよね。次の会議まで時間があるし、それまではトイレ掃除と報告書の作成をやらせておいて」
「承りました」
局員が去った後、主神はもう一度、4366番の報告書に眼を通し直した。
「不思議だなあ。行って来ました作文なのに、なんか面白い。ちょっと癖になりそうだ」
4366番の報告書を引き出しにしまった主神は、再び箱庭のモニターへと目を戻し独り言ちた。
「さてさて。これからどうなるのかな。彼等は何を選ぶのか。楽しみだね」
・・・・・・
「遅れて申し訳ありません」
「遠方からいらして頂いたのです。どうかお気になさらず」
「そうですよ。さあ、お座りください。今茶の用意をさせますから」
「忝い。では遠慮なく失礼する」
トバイアスに促され席に着いたサイラスは、カラロウカ公爵とトバイアスに深く頭を下げた。
「サイラス・キャピレットと申します。オセニア王国重騎士団、副団長と、シェルビー王太子殿下の護衛を兼任いたしております」
「お噂は兼がね承っております、先のクロアトとの戦では、王太子殿下と共に大変なご活躍だったそうで」
「あっいや。お恥ずかしい。あの戦は王太子殿下の采配のお陰で、命拾いしたようなものです」
「左様でしたか。貴国の王太子殿下は我が国のそれとは違い、優秀な方の様で羨ましい限りですな」
うう。まだ名乗ってもらえない。
婿いびりなら、本人にやってくれよ。
「父上」
「ん?あっ!これは失礼した。私がカラロウカ公爵家当主。レオン・ヴォロス・カラロウカです。こちらは嫡男のトバイアスと申します」
「トバイアスです。以後お見知り置きを」
「こちらこそ、よろしくお願いいたます」
「この度は、私の妻と息子のキャニスを王宮で匿っていただいた事、感謝申し上げる」
「王太子殿下だけでなく、両陛下、他の殿下方もキャニス様のお人柄に心酔され、あのような理不尽を罷り通らせてはならぬ、と仰せです」
「誠に有難く、両陛下を始め王家の方々には、私からの感謝をお伝えいただきたい」
「承りました。では早速で申し訳ないが、王太子殿下から手紙を預かっております。先ずはそちらに眼を通して頂きたい」
「拝見いたします」
サイラスが懐から取り出した手紙には、契約婚約などという、非常識な形になってしまった事への詫びと、キャニスに対する恋慕の想い。キャニスが夫人に告白した、記憶に関する全てを自分は信じる事と、帝国にキャニスを渡すつもりはなく、それはレ王家の総意であることが綴られていた。
手紙を読み終わった公爵は、そのままトバイアスへ手紙を渡し、何事かを考えている様だ。
トバイアスの方は、信じられないと言う顔つきで、読み終わった手紙を凝視していた。
「トバイアス様?何か気にかかる事が、書かれておりましたか?」
「いや。ちょっと信じられないと言うか、逆に納得したと言うか」
「何が言いたいのだ?」
「はぁ。学院に留学されていた頃の殿下は、本当にモテたのです。あの時在学していた女子生徒で、殿下に憧れなかったものは、一人も居ないでしょう。それに殿下は大変、男性的で魅力的な方でしたから、男子生徒からも憧れの的でした」
「ほう・・・」
「しかし、誰かと違い、浮いた話が一度も出た事はなく、何人もの女子生徒が、その、殿下に告白をしましたが、誰にも靡くことが無かった」
「ふむ。ご自分を律する、真面目なお方だったという事か?」
「ええ。印象としてはそうでした。しかし一人だけ、かなりしつこく殿下に付き纏っていた令嬢が居たのですが。その方に殿下は、”自分は心に秘めた相手がいる、その人は妖精の様に美しい人で、申し訳ないがその人以外は、皆カボチャに見えるから、今後自分に近寄らないで欲しい。”と仰られたそうでして」
「カボチャ・・・・」
「そうなんですよ父上。どれだけ自信があったのか知りませんが、その令嬢、大勢が見て居る前で殿下に告白したもんですから、あっという間に噂が広がって、結局学院を辞めてしまったんですけど」
「かぼちゃ・・・カボチャ・・もしや、若い後妻を貰った、あのカボチャ伯爵の事か?」
「当たりです。学院を辞めた後、あの令嬢にまともな縁談なんて無くて、伯爵家の後妻に入ったのですけどね。噂ってのは何処までも追ってくるものでしょう?だからカボチャ伯爵って呼ばれて居るんですよ」
「なるほどなぁ」
カボチャ伯爵・・・・。
いくら迷惑だったからって、断り方ってものがあるでしょうに。
殿下~~。
あんた他人の人生壊してますよ~!
「まさかあの時の妖精が、キャニスだったとは・・・しかしそうと分かれば、確かにあの令嬢はカボチャでしたね」
カボチャ認定される令嬢って、どんなだよ?
「殿下のキャニスに対する想いは本物なのだな。エミリーからの手紙だけでは今一つ、信じられなかったが、これで納得だ」
え~!カボチャで納得するのか?
あのご夫人の夫なだけあって。
この人も大概だ。
「すまんなキャピレット卿。あなたの主を疑ってしまった」
「いえ。お気になさらず。では次に、ご夫人からの手紙の補足を、私からするように言われております」
「あの手紙か・・・あれは私の手紙と入れ替わりで届いたのだ、返事が早すぎるとは思ったが・・・・」
「公爵様は信じて居られない?」
「いや。キャニスは嘘をついたり、空想に逃げる様な子ではない。あの子を疑ったり、信じない訳ではなくてだな。このトバイアスとも話し合ったのだが、あの子が心を開かない理由がやっと分かって、全ての事が腑に落ちたのです。ただ、その様な現象が起こる不思議に戸惑っている。と申し上げればご理解頂けますかな?」
「なるほど。そのお気持ちは理解できます。私はシェルビー殿下と共に、御夫人からその話を伺ったのですが、やはり公爵様と同じ気持ちになりました」
「エミリーの話しを聞いた殿下は、何と仰られた?」
「キャニス様を信じると。自分ならあのような体験を繰り返す事に、堪えられないだろう。キャニス様は本当に強く、優しい方であると。そしてキャニス様に笑顔を取り戻すために、自分の一生を捧げると、夫人に誓われて居られました」
そうですか。と呟き、公爵は片手で顔を撫で下ろした。
「王太子殿下は、私などよりずっと度量の広いお方の様だ。そして我が息子をお任せするに相応しいお方だと思います」
あ~。選ぶのはそっちか。
成る程、これがカラロウカなんだな。
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