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16話
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「なあ、サイラス。キャニスをどう思う?」
「はあ?どうって・・・嘘みたいに綺麗な人ですよね」
「それは分かってるよ。キャニスは昔から綺麗だったし可愛くてな」
うっとりと虚空を見つめるシェルビーには、王宮で初めて出会った時の、キャニスの可愛らしい姿が、今もハッキリと浮かんでいる。
「はいはい。その話はもうお腹いっぱいです。見た目の話しじゃ無ければ、性格とかですか?」
「そう、それだ。キャニスは子供の頃、既に感情を隠すことに慣れていた。それでも今よりは笑った顔を、ほんの少しだが見せてくれた事も有ったんだ。それが今はどうだ?」
「確かに氷華の貴公子に相応しく、全く感情が見られませんね」
「だろ?花を見て綺麗だ、船に乗って気持ちがいいと言う。しかし声に感情が乗る事も、表情を変ることも無い。唯一感情らしきものが見えたのは、お前がボートで、俺に悪態を吐いた時だけなんだぞ?」
「それは、褒美をもらわねば」
ニヤニヤと笑うサイラスの顔を、シェルビーは殴り飛ばしたい衝動にかられた。
「馬鹿言うな!キャニスには私に、笑いかけて欲しいのであって、お前の言動に呆れた顔が見たいわけではない!」
「ほんと、我儘だなあ」
「うるさい。それに、あんなに小食で生きて行けるのか?あれではスズメの方がよく食べる!」
「騎士でもない、貴族の坊ちゃんなら、あんなもんでしょう」
「なら私はなんだと?」
「殿下は王族で、貴族の坊ちゃんとは違いますから」
「また、減らず口を・・・」
「ですがね。キャニス様はお優しい方だと思うんです」
「何故そう思う」
「ボートに乗ってた時に、キャニス様が木陰に回って欲しい、と言われたのを覚えていますか?」
「日差しが強いからと言っていた時か?」
「それです。あれ多分、俺の為に言ってくれたんだと思うんですよ」
「はあ?なんでお前の為に!」
「どっかの誰かが、もっと早く漕げだの、あっちに行け、こっに行けとうるさく言うからでしょう?俺が汗を拭いてるのを見て、ああ言ってくれたんですよ。それなのにご本人は、隠してはいましたが、寒そうにしてるんですから。あんな風に下の者への気遣いが出来るのは、優しい証拠です」
「キャニスが、そんな気遣いを」
「その後も、適当な所で船を止めてくれたり。食堂でも一緒の席に誘ってくれたじゃないですか。今まで殿下の周りでそんな事をしてくれる、坊ちゃん嬢ちゃんは居ませんでしたからね。俺はこの先仕えるなら、キャニス様の様な方に仕えたいです」
「そうか。そうだよな。やはり王子妃には、キャニスしかいないよな?」
「そうなってくれたら、俺は嬉しいですが。彼方さんは、全く違う事を想っているかもしれませんよ?公爵だって、王族はもう懲り懲りだと言うかもしれませんし」
「だよなぁ・・・・」
キャニスを王子妃として認められてことに、浮足立ったシェルビーだが、サイラスの正論に途端に沈み込んでしまった。
「キャニス様は感情表現がへたくそと言うか。敢えて何も感じないようにして居るというか。殿下も戦場で見たでしょう?戦場だと、ああなる奴は結構いるんですよ。でもキャニス様は深窓のご令息でしょう?子供の頃には笑ってたって言うなら、その後に何が有ったのか、俺はそっちが気になります」
「俺が知って居るのは、ナリウスが放蕩三昧で、王太子の執務をキャニスに押し付けていた事と、あのアホが平民同然の女に入れあげて、キャニスとの婚約を破棄した事だけだ」
「それだけだって、充分酷いですけどね。王子妃教育だって、楽な訳じゃありませんから。学院の授業に王子妃教育、それに王太子の執務迄って、詰め込み過ぎでしょ。キャニス様が優秀だから何とかなっただけで、普通は周りがどうにかするもんじゃないですか?」
「サイモンの言う通りだ。俺もラリスの学院に留学していた時は楽だったが、こっちのアカデミーに通いながらの、王太子の執務は辛かった」
「それは殿下が怠け者なだけでしょう。キャニス様と一緒にしちゃだめですよ」
カラカラと笑うサイモンに、シェルビーは手近に置かれていたインク瓶を投げ付けた。
それをサイモンはパシリと掴み取り、何事もなかった様に、近くの棚に片付けた。
「お前、本当に失礼だな。俺が王太子だってことを忘れてないか?」
「人間位が高くなると、耳に痛い事を言ってくれる人間は貴重ですよ?兎も角ですね、ラリス王国には、まだ何かあるのかも知れませんね」
サイラスの言う事は一々腹が立つ事も多いが、言って居る事は正論だ。
ここは王族らしく正攻法と、裏ルート。
両方から攻めて、絡め取るのが最適解だろう。
「・・・・よし!!父上への謁見願を出してくれ」
「それは侍従か、補佐官の仕事でしょう」
「うるさいな。お前が伝えてくれればいいだろう?」
「嫌ですよ面倒臭い。俺もね暇じゃないんです。どっかの誰かがキャニス様の所へ日参する所為で、仕事が溜まってんですよ」
「お前な、それが雇い主に言う事か?」
「俺の雇い主は、今の所国王陛下なもんでね」
ワザとらしく肩を竦めるサイラスに、何とか言い返してやりたいが、この男に口でも剣でも、今は勝てる気がしない。
そう今は、だ。
「チッ!!減らず口ばかり叩きやがって」
「高貴なお方が、汚い言葉を吐いちゃ駄目ですよ。それに殿下も溜まってますよね?し・つ・む」
「うっ!」
「さあ、さあ。補佐官達が首を長くして待ってますよ。早く行っておあげなさい。陛下への謁見願は、可哀そうな補佐官の替わりに、俺が侍従に伝えておきますから」
「ぐ・・・頼む」
「内容はキャニス様に、求婚状を送りたいって事で良いですか?」
「その通りだ」
「承りました。それでは殿下。執務を頑張って下さい」
「分かったから早く行け」
ひらひらと手を振って、追い出そうとするシェルビーに、サイラスはニヤリと意地の悪い笑顔を向けた。
「そうそう。執務に障りが有りますからね。キャニス様をおかずにするのは、1回にしておいた方がいいですよ」
「なっ!?なんてことを言うんだ!!この恥知らず!!」
「おや?その気は無かったと?俺なら5回は行けますけどね」
「ううううっ煩い!!バカッ!!キャニスを汚すな!!」
「ははははっ!!」
シェルビーの投げた本をひょいと避けたサイラスは、王太子の部屋から逃げ出したが、堪え切れずに笑い声をあげてしまった。
冷徹な王太子の側近兼護衛として、厳格で有名なサイラスが、手放しで笑う姿に、王宮を行きかう人々が何事かと振り返っている。
立場的には烏滸がましくも、弟の様に可愛がってきたシェルビーに、やっと春が訪れた事が嬉しくてたまらない。
それだけにキャニスの受けた傷が、どれ程の物なのかが気になる。
シェルビーは、正式な求婚状を出し。
正規の方法で王子妃候補の調査を行い。
その裏の調査も進める積りだろう。
裏の調査の指揮は自分が取るべきだし、自分以外に適任者は居ない。
キャニスを調べたところで、過去は変えられないが、これからの接し方の指針にはなる。
シェルビーの初恋を実らせる為、サイラスはどんなことでもしてやろう、と心に誓うのだった。
「はあ?どうって・・・嘘みたいに綺麗な人ですよね」
「それは分かってるよ。キャニスは昔から綺麗だったし可愛くてな」
うっとりと虚空を見つめるシェルビーには、王宮で初めて出会った時の、キャニスの可愛らしい姿が、今もハッキリと浮かんでいる。
「はいはい。その話はもうお腹いっぱいです。見た目の話しじゃ無ければ、性格とかですか?」
「そう、それだ。キャニスは子供の頃、既に感情を隠すことに慣れていた。それでも今よりは笑った顔を、ほんの少しだが見せてくれた事も有ったんだ。それが今はどうだ?」
「確かに氷華の貴公子に相応しく、全く感情が見られませんね」
「だろ?花を見て綺麗だ、船に乗って気持ちがいいと言う。しかし声に感情が乗る事も、表情を変ることも無い。唯一感情らしきものが見えたのは、お前がボートで、俺に悪態を吐いた時だけなんだぞ?」
「それは、褒美をもらわねば」
ニヤニヤと笑うサイラスの顔を、シェルビーは殴り飛ばしたい衝動にかられた。
「馬鹿言うな!キャニスには私に、笑いかけて欲しいのであって、お前の言動に呆れた顔が見たいわけではない!」
「ほんと、我儘だなあ」
「うるさい。それに、あんなに小食で生きて行けるのか?あれではスズメの方がよく食べる!」
「騎士でもない、貴族の坊ちゃんなら、あんなもんでしょう」
「なら私はなんだと?」
「殿下は王族で、貴族の坊ちゃんとは違いますから」
「また、減らず口を・・・」
「ですがね。キャニス様はお優しい方だと思うんです」
「何故そう思う」
「ボートに乗ってた時に、キャニス様が木陰に回って欲しい、と言われたのを覚えていますか?」
「日差しが強いからと言っていた時か?」
「それです。あれ多分、俺の為に言ってくれたんだと思うんですよ」
「はあ?なんでお前の為に!」
「どっかの誰かが、もっと早く漕げだの、あっちに行け、こっに行けとうるさく言うからでしょう?俺が汗を拭いてるのを見て、ああ言ってくれたんですよ。それなのにご本人は、隠してはいましたが、寒そうにしてるんですから。あんな風に下の者への気遣いが出来るのは、優しい証拠です」
「キャニスが、そんな気遣いを」
「その後も、適当な所で船を止めてくれたり。食堂でも一緒の席に誘ってくれたじゃないですか。今まで殿下の周りでそんな事をしてくれる、坊ちゃん嬢ちゃんは居ませんでしたからね。俺はこの先仕えるなら、キャニス様の様な方に仕えたいです」
「そうか。そうだよな。やはり王子妃には、キャニスしかいないよな?」
「そうなってくれたら、俺は嬉しいですが。彼方さんは、全く違う事を想っているかもしれませんよ?公爵だって、王族はもう懲り懲りだと言うかもしれませんし」
「だよなぁ・・・・」
キャニスを王子妃として認められてことに、浮足立ったシェルビーだが、サイラスの正論に途端に沈み込んでしまった。
「キャニス様は感情表現がへたくそと言うか。敢えて何も感じないようにして居るというか。殿下も戦場で見たでしょう?戦場だと、ああなる奴は結構いるんですよ。でもキャニス様は深窓のご令息でしょう?子供の頃には笑ってたって言うなら、その後に何が有ったのか、俺はそっちが気になります」
「俺が知って居るのは、ナリウスが放蕩三昧で、王太子の執務をキャニスに押し付けていた事と、あのアホが平民同然の女に入れあげて、キャニスとの婚約を破棄した事だけだ」
「それだけだって、充分酷いですけどね。王子妃教育だって、楽な訳じゃありませんから。学院の授業に王子妃教育、それに王太子の執務迄って、詰め込み過ぎでしょ。キャニス様が優秀だから何とかなっただけで、普通は周りがどうにかするもんじゃないですか?」
「サイモンの言う通りだ。俺もラリスの学院に留学していた時は楽だったが、こっちのアカデミーに通いながらの、王太子の執務は辛かった」
「それは殿下が怠け者なだけでしょう。キャニス様と一緒にしちゃだめですよ」
カラカラと笑うサイモンに、シェルビーは手近に置かれていたインク瓶を投げ付けた。
それをサイモンはパシリと掴み取り、何事もなかった様に、近くの棚に片付けた。
「お前、本当に失礼だな。俺が王太子だってことを忘れてないか?」
「人間位が高くなると、耳に痛い事を言ってくれる人間は貴重ですよ?兎も角ですね、ラリス王国には、まだ何かあるのかも知れませんね」
サイラスの言う事は一々腹が立つ事も多いが、言って居る事は正論だ。
ここは王族らしく正攻法と、裏ルート。
両方から攻めて、絡め取るのが最適解だろう。
「・・・・よし!!父上への謁見願を出してくれ」
「それは侍従か、補佐官の仕事でしょう」
「うるさいな。お前が伝えてくれればいいだろう?」
「嫌ですよ面倒臭い。俺もね暇じゃないんです。どっかの誰かがキャニス様の所へ日参する所為で、仕事が溜まってんですよ」
「お前な、それが雇い主に言う事か?」
「俺の雇い主は、今の所国王陛下なもんでね」
ワザとらしく肩を竦めるサイラスに、何とか言い返してやりたいが、この男に口でも剣でも、今は勝てる気がしない。
そう今は、だ。
「チッ!!減らず口ばかり叩きやがって」
「高貴なお方が、汚い言葉を吐いちゃ駄目ですよ。それに殿下も溜まってますよね?し・つ・む」
「うっ!」
「さあ、さあ。補佐官達が首を長くして待ってますよ。早く行っておあげなさい。陛下への謁見願は、可哀そうな補佐官の替わりに、俺が侍従に伝えておきますから」
「ぐ・・・頼む」
「内容はキャニス様に、求婚状を送りたいって事で良いですか?」
「その通りだ」
「承りました。それでは殿下。執務を頑張って下さい」
「分かったから早く行け」
ひらひらと手を振って、追い出そうとするシェルビーに、サイラスはニヤリと意地の悪い笑顔を向けた。
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「なっ!?なんてことを言うんだ!!この恥知らず!!」
「おや?その気は無かったと?俺なら5回は行けますけどね」
「ううううっ煩い!!バカッ!!キャニスを汚すな!!」
「ははははっ!!」
シェルビーの投げた本をひょいと避けたサイラスは、王太子の部屋から逃げ出したが、堪え切れずに笑い声をあげてしまった。
冷徹な王太子の側近兼護衛として、厳格で有名なサイラスが、手放しで笑う姿に、王宮を行きかう人々が何事かと振り返っている。
立場的には烏滸がましくも、弟の様に可愛がってきたシェルビーに、やっと春が訪れた事が嬉しくてたまらない。
それだけにキャニスの受けた傷が、どれ程の物なのかが気になる。
シェルビーは、正式な求婚状を出し。
正規の方法で王子妃候補の調査を行い。
その裏の調査も進める積りだろう。
裏の調査の指揮は自分が取るべきだし、自分以外に適任者は居ない。
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