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13話
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世間知らずな両親を、カリストは哀れだと思った。
王家が力を持っていた時代に生まれていたら、気の良い国王、国母として国民に好かれ、穏やかな人生を送れたかもしれないのにと。
「公爵が痺れを切らし、王家を攻撃してきたら、どんな酷い目に遭わされるか分かりません。私は飢えた民衆の前に引き摺り出され、首を斬られるような死に方はしたくは無いのです。お二人も断頭台に登りたくは無いでしょう?」
「・・・・断頭台」
「お分かりいただけたなら、決断はお早くお願い致します」
そう言い捨て、部屋を出たカリストだが、扉が閉まる寸前の、打ちひしがれた両親の姿を、彼は一生忘れてはならないと、心に刻み込んだのだ。
******
「話しは済んだの?」
「一応な。あとは父上が決断されるかどうか・・・だな」
「決断しなかったら?逆にカリストを責めて来たらどうするの?」
「どうもしない。父上にも話したが、私は飢えた国民に嬲り殺されたくはない。父上が何もしないと言うなら、尻尾を巻いて逃げ出すだけだ」
「なぶり殺しって、ちょっと言い過ぎじゃない?」
「公爵が国政の全てから手を引いた以上。遠からずそうなる事は目に見えている。お前達も逃げ出すなら今の内だぞ?」
「だから、何でそう水臭いことを言うのさ!」
「そうだぞ!逃げるなら3人一緒だ。俺達には3人で立ち上げた商会も有る。食い扶持には困らん」
「リノス。マイルス・・・ははっお前達バカだろ?」
「まあね。何年君の友達をやってると思ってんの?」
「でなければ、継承が絶望的な王子と、何年も一緒に居るはずがないだろう?」
「あははは・・・・! バカな奴らだ!」
一頻り笑ったカリストは、ふと真顔に戻った。
「ありがとう」
幼少の頃から、長年苦楽を共にしてきた親友の感謝の言葉に、リノスは破顔し、マイルスは照れくさそうに微笑んだ。
「ねえカリスト?僕たちはね。君が思って居る以上に、君の事を大事に想っているんだよ?」
「そうだぞ。感謝も謝罪も、全ての事が済んで、お前が幸せだと思えた時にくれれば良い。その時が来るまで、お前は俺達を、自由に使って良いんだ」
「本当に・・・・バカな奴らだな」
「なに。事が済んだら褒美の一つ二つでもくれよ」
「褒美? 大したものは、やれんと思うが、良いのか?」
「僕達が一番欲しいものは、とっても貴重で、手に入りにくいものなんだ。だからそれ以外に何かくれるなら、なんでも構わないよ」
「貴重なもの?何か教えてくれないのか?」
「ん~~~。今はダメ。その時になったら教えてあげるよ。ねっマイルス?」
「うん。今は秘密だ」
「なんだよ。二人して、俺は除け者か?」
「あはは。カリストが拗ねた!」
「拗ねてないっ!!」
両親との深刻な会話も、身を切られるようなキャニスへの想いも、こうしていれば気を紛らわすことは出来る。
追い詰めらた状態だからこそ、支えてくれる友人の存在は、ありがたく貴いものだと思う。
一国の未来を賭けた困難な状況も、それを支えてくれる友がいるだけで、頑張ろうと思える。
そんな友人らしい友人も居なかったキャニスは、どれだけ辛かっただろうか。
あのパーティーで、ホールの中央にただ一人、凛とした姿を見せていた孤高の人を思い出す。
後悔と罪悪感、それを上回るキャニスへの想いで、熱くなる目頭を、カリストはそっと押さえ込んだ。
******
キャニスとの面会をカリストが公爵に頼み込んでいた時、実はキャニスはラリス王国と友好関係にある、オセニア王国に滞在していた。
もしカリストの熱意に、公爵が絆されたとしても、物理的に面会は叶わなかった訳だ。
オセニアは、カリストの留学先でもあり、キャニスも、いざとう言う時の逃亡先として、オセニアでもいくつか邸宅を購入していた。
現在キャニスが滞在して居るのは、自身が所有する邸宅の中で一番大きく、目眩しと公爵家の対面を保つ為に、購入した物件だった。
この邸宅以外は、逃亡潜伏に用いる為、偽名を使って購入しており、今はこの国の富裕層に貸し出して居る状態だ。
あのパーティーでの一件以来、キャニスは兄トバイアスの意見を聞き入れ、公爵邸でのんびりと過ごすつもりでいた。
しかし、父と兄が予想した通り、連日山の様に届く求婚状と、キャニスへの面会を求める貴族達に辟易したキャニスは、領地へ帰ろうかと考えていた。
しかし、領地へ帰った所で、状況が変わる訳でもない。
かえって公爵とトバイアスが側に居ない事で、キャニスへ近づこうとする貴族達の行動に、拍車がかかってしまう可能性が高い。
ならば秘密裏に、一旦国外へ出た方が、キャニスの為には良いのではないか?
「ナリウスの醜聞は広まって居るだろうが、他国の貴族達なら、キャスをよく知らない分、自国の貴族よりも放っておいてくれると思う」
という、トバイアスの提案にキャニスは従い、夜陰に紛れて、国を後にしたのだ。
出発ギリギリまで、キャニスを心配し、自分もついて行く、と駄々を捏ねる公爵を黙らせたのは、母である公爵夫人だった。
王家の血を引く夫人は、なよやかな見た目とは違い、優しげな微笑みの下に苛烈さを隠し持つ、所謂女傑だ。
「あなた。いい加減になさいまし」
夫人の冷たい微笑みを前に、流石の公爵も黙り込むしかなく、泣く泣くキャニスを隣国へと送り出したのだった。
しかし侯爵の涙を振り切っての、逃避行だったが、トバイアスの思惑は大いに外れてしまっていた。
その原因である人物は、他人の家とは思えぬ程寛いだ様子で、キャニスに満面の笑みをを向けている。
「シェルビー殿下。またいらしたのですか?」
「はは。今日もキャニスは、冷たいな!あまり冷たくされると、流石の私も傷付くのだぞ?」
言葉とは裏腹に、シェルビーは上機嫌だ。
「そうですか。私の性格は変わりませんので、もうお立ち寄りに、ならなければ宜しいのでは?御用もない様ですし、私もやる事が有りますので、これで失礼いたします」
全く興味が無いと言わんばかりに、部屋から出ようとするキャニスを、オセニア王国王太子は、慌てて引き留めた。
「待て待て待て!!キャニスはせっかち過ぎる。せめて私がなんの用で其方を訪ねたのか、聞いたらどうなんだ?」
追いすがるシェルビーの言葉に、キャニスはドアノブに手を掛けたまま振り向いた。
一国の王太子に対し、かなり無礼な態度だったが、事前に連絡もなく、毎日の様に突然押し掛けて来る相手に、礼儀を護る必要なし。
抗議の意味を込め、敢えて取った態度だと、シェルビーも気付いている様だ。
感情の見えない、透き通った菫色の瞳にじっと見つめられたシェルビーは、堪え切れず、ポッと頬を染めそっぽを向いてしまった。
「殿下」
「なんだ!」
少し食い気味に返事を返したのは、照れ隠しだ。
「御用は何ですか?」
「御用・・・? あ?あぁ! 其方この国に来てから、王宮に挨拶に来て以来、何処にも出かけていないそうじゃないか。今日は私も時間に余裕がある。これから二人で遠乗りに行かないか?」
「遠乗りですか?」
「そう!近場の名所を案内してやるから。帰りは何か旨い物でも食べて帰ろう!」
「・・・・・」
シェルビーの申し出に、瞬きも忘れ固まっているキャニスに、シェルビーは何か気に障る事をしたのではないかと、心配になった。
「どうした?気に入らんか?」
胸の前でオロオロと手を上げ下げする王太子に、キャニスはぱちりと瞬き、ドアノブから手を離し、隣国の王太子へ向き直った。
王家が力を持っていた時代に生まれていたら、気の良い国王、国母として国民に好かれ、穏やかな人生を送れたかもしれないのにと。
「公爵が痺れを切らし、王家を攻撃してきたら、どんな酷い目に遭わされるか分かりません。私は飢えた民衆の前に引き摺り出され、首を斬られるような死に方はしたくは無いのです。お二人も断頭台に登りたくは無いでしょう?」
「・・・・断頭台」
「お分かりいただけたなら、決断はお早くお願い致します」
そう言い捨て、部屋を出たカリストだが、扉が閉まる寸前の、打ちひしがれた両親の姿を、彼は一生忘れてはならないと、心に刻み込んだのだ。
******
「話しは済んだの?」
「一応な。あとは父上が決断されるかどうか・・・だな」
「決断しなかったら?逆にカリストを責めて来たらどうするの?」
「どうもしない。父上にも話したが、私は飢えた国民に嬲り殺されたくはない。父上が何もしないと言うなら、尻尾を巻いて逃げ出すだけだ」
「なぶり殺しって、ちょっと言い過ぎじゃない?」
「公爵が国政の全てから手を引いた以上。遠からずそうなる事は目に見えている。お前達も逃げ出すなら今の内だぞ?」
「だから、何でそう水臭いことを言うのさ!」
「そうだぞ!逃げるなら3人一緒だ。俺達には3人で立ち上げた商会も有る。食い扶持には困らん」
「リノス。マイルス・・・ははっお前達バカだろ?」
「まあね。何年君の友達をやってると思ってんの?」
「でなければ、継承が絶望的な王子と、何年も一緒に居るはずがないだろう?」
「あははは・・・・! バカな奴らだ!」
一頻り笑ったカリストは、ふと真顔に戻った。
「ありがとう」
幼少の頃から、長年苦楽を共にしてきた親友の感謝の言葉に、リノスは破顔し、マイルスは照れくさそうに微笑んだ。
「ねえカリスト?僕たちはね。君が思って居る以上に、君の事を大事に想っているんだよ?」
「そうだぞ。感謝も謝罪も、全ての事が済んで、お前が幸せだと思えた時にくれれば良い。その時が来るまで、お前は俺達を、自由に使って良いんだ」
「本当に・・・・バカな奴らだな」
「なに。事が済んだら褒美の一つ二つでもくれよ」
「褒美? 大したものは、やれんと思うが、良いのか?」
「僕達が一番欲しいものは、とっても貴重で、手に入りにくいものなんだ。だからそれ以外に何かくれるなら、なんでも構わないよ」
「貴重なもの?何か教えてくれないのか?」
「ん~~~。今はダメ。その時になったら教えてあげるよ。ねっマイルス?」
「うん。今は秘密だ」
「なんだよ。二人して、俺は除け者か?」
「あはは。カリストが拗ねた!」
「拗ねてないっ!!」
両親との深刻な会話も、身を切られるようなキャニスへの想いも、こうしていれば気を紛らわすことは出来る。
追い詰めらた状態だからこそ、支えてくれる友人の存在は、ありがたく貴いものだと思う。
一国の未来を賭けた困難な状況も、それを支えてくれる友がいるだけで、頑張ろうと思える。
そんな友人らしい友人も居なかったキャニスは、どれだけ辛かっただろうか。
あのパーティーで、ホールの中央にただ一人、凛とした姿を見せていた孤高の人を思い出す。
後悔と罪悪感、それを上回るキャニスへの想いで、熱くなる目頭を、カリストはそっと押さえ込んだ。
******
キャニスとの面会をカリストが公爵に頼み込んでいた時、実はキャニスはラリス王国と友好関係にある、オセニア王国に滞在していた。
もしカリストの熱意に、公爵が絆されたとしても、物理的に面会は叶わなかった訳だ。
オセニアは、カリストの留学先でもあり、キャニスも、いざとう言う時の逃亡先として、オセニアでもいくつか邸宅を購入していた。
現在キャニスが滞在して居るのは、自身が所有する邸宅の中で一番大きく、目眩しと公爵家の対面を保つ為に、購入した物件だった。
この邸宅以外は、逃亡潜伏に用いる為、偽名を使って購入しており、今はこの国の富裕層に貸し出して居る状態だ。
あのパーティーでの一件以来、キャニスは兄トバイアスの意見を聞き入れ、公爵邸でのんびりと過ごすつもりでいた。
しかし、父と兄が予想した通り、連日山の様に届く求婚状と、キャニスへの面会を求める貴族達に辟易したキャニスは、領地へ帰ろうかと考えていた。
しかし、領地へ帰った所で、状況が変わる訳でもない。
かえって公爵とトバイアスが側に居ない事で、キャニスへ近づこうとする貴族達の行動に、拍車がかかってしまう可能性が高い。
ならば秘密裏に、一旦国外へ出た方が、キャニスの為には良いのではないか?
「ナリウスの醜聞は広まって居るだろうが、他国の貴族達なら、キャスをよく知らない分、自国の貴族よりも放っておいてくれると思う」
という、トバイアスの提案にキャニスは従い、夜陰に紛れて、国を後にしたのだ。
出発ギリギリまで、キャニスを心配し、自分もついて行く、と駄々を捏ねる公爵を黙らせたのは、母である公爵夫人だった。
王家の血を引く夫人は、なよやかな見た目とは違い、優しげな微笑みの下に苛烈さを隠し持つ、所謂女傑だ。
「あなた。いい加減になさいまし」
夫人の冷たい微笑みを前に、流石の公爵も黙り込むしかなく、泣く泣くキャニスを隣国へと送り出したのだった。
しかし侯爵の涙を振り切っての、逃避行だったが、トバイアスの思惑は大いに外れてしまっていた。
その原因である人物は、他人の家とは思えぬ程寛いだ様子で、キャニスに満面の笑みをを向けている。
「シェルビー殿下。またいらしたのですか?」
「はは。今日もキャニスは、冷たいな!あまり冷たくされると、流石の私も傷付くのだぞ?」
言葉とは裏腹に、シェルビーは上機嫌だ。
「そうですか。私の性格は変わりませんので、もうお立ち寄りに、ならなければ宜しいのでは?御用もない様ですし、私もやる事が有りますので、これで失礼いたします」
全く興味が無いと言わんばかりに、部屋から出ようとするキャニスを、オセニア王国王太子は、慌てて引き留めた。
「待て待て待て!!キャニスはせっかち過ぎる。せめて私がなんの用で其方を訪ねたのか、聞いたらどうなんだ?」
追いすがるシェルビーの言葉に、キャニスはドアノブに手を掛けたまま振り向いた。
一国の王太子に対し、かなり無礼な態度だったが、事前に連絡もなく、毎日の様に突然押し掛けて来る相手に、礼儀を護る必要なし。
抗議の意味を込め、敢えて取った態度だと、シェルビーも気付いている様だ。
感情の見えない、透き通った菫色の瞳にじっと見つめられたシェルビーは、堪え切れず、ポッと頬を染めそっぽを向いてしまった。
「殿下」
「なんだ!」
少し食い気味に返事を返したのは、照れ隠しだ。
「御用は何ですか?」
「御用・・・? あ?あぁ! 其方この国に来てから、王宮に挨拶に来て以来、何処にも出かけていないそうじゃないか。今日は私も時間に余裕がある。これから二人で遠乗りに行かないか?」
「遠乗りですか?」
「そう!近場の名所を案内してやるから。帰りは何か旨い物でも食べて帰ろう!」
「・・・・・」
シェルビーの申し出に、瞬きも忘れ固まっているキャニスに、シェルビーは何か気に障る事をしたのではないかと、心配になった。
「どうした?気に入らんか?」
胸の前でオロオロと手を上げ下げする王太子に、キャニスはぱちりと瞬き、ドアノブから手を離し、隣国の王太子へ向き直った。
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