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3話
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一方その頃。
国王夫妻と宰相は、眼光鋭くナリウスとカサンドラを睨め付ける、カラロウカ公爵を前に震え上がっていた。
近衛兵にナリウスと何処の誰とも知れず、一国の王子に人目も憚らず、べたべたとしな垂れ掛かる下品な女を拘束させ、非難の目を向けてくる貴族達の目を避け、控室に引きづり込んだまでは良かった。
しかしこの二人。
実の親である国王と王妃の言葉も耳に入らない様子で、二人だけの世界にどっぷりと嵌り込み。
叶いもしない、戯言の様な夢を語り続けている。
これは罰なのか。
王家の王子は二人。
双子として生まれて来た、長男のナリウスと次男のカリスト。
長男のナリウスの髪色は黄金、瞳は紺碧。
王家の色を持っていた。
しかし次男のカリストの髪色は漆黒、瞳は金の虹彩を持った新緑だった。
双子として産まれ落ちた瞬間から、慣例により、ナリウスは王太子として生き。王家の色を持たないカリストは、ナリウスのスペアとして生きる事が、定められてしまった。
皮肉なことに、子供達が成長するにつれ、ナリウスは王の資質を持ち合わせていない事が、明らかになって行った。
そして、スペアのカリストの方が数倍も優れて居ることも。
だが、国王夫妻は、己の息子を矯正するどころか、ナリウスを唯々甘やかし続けた。
そして婿になる筈だったキャニスに、全てを任せきりにしてしまった。
その事を深く悔いたが、もうどうする事も出来ない。
自分達の息子が、ここまで愚かだったとは。
国王夫妻は、後悔と恥辱にただ頭を抱え,怒り心頭の公爵をどうやって宥めるか、そればかりを考えていた。
ナリウスはこの国きっての大貴族。
現在の王家よりも、強大な力を有している、カラロウカ公爵を敵に回したのだ。
ここ数年、隆盛を誇るドルグ帝国からの無理難題に、屈することが無かったのも、公爵の働きが大きい。
政策の失敗から、空っぽになった国庫を補填し、王家としての体面を保てて来たのも、一重にキャニスを溺愛する公爵が、大切な息子に不自由な思いをさせまい、との力添えが有っての事だった。
それを、ナリウスは一瞬で台無しにしてしまった。
王家と公爵家の婚姻が、意味するところを理解しようともせず。
国政を何一つ理解しないまま、王家と公爵家の間で結ばれた契約を、ナリウスは独りよがりな欲望から、一方的に破棄してしまったのだ。
ラリス王国第一王子ナリウスと、カラロウカ公爵家次男キャニスとの婚約が発表されたのは、今から約10年前。
2人が9歳の時だった。
当時の第一王子ナリウスは、良く言えば意思の強い、活発な子供。
実際は、我儘で落ち着きのない子供だった。
そこで後継となる息子の将来を案じた国王夫妻は、将来の王たるナリウスに、伴侶を与える事にした。
貴族であれば、幼少時の婚約は珍しい事では無く。
ましてやこの世界は、人族の他に獣人や亜人など、その種族も多岐に渡り。
男女の性別に関係なく、子を産むことが出来る。
王家、王族という立場を持ってすれば、王子の伴侶など選び放題だ。
そんな国王夫妻が、第一王子の伴侶として選出したのが、カラロウカ公爵家令息のキャニスだった。
キャニスは幼少のころから、その美貌と大人びた物腰、聡明さで有名な令息だった。
公にされて居る、キャニスの選定理由は、秀でた頭脳と聡明さの他に、ナリウスと正反対な性格のキャニスなら、互いの足りない部分を補い合い、支え合い成長できるだろう。と言うものだった。
半分は真実。
国王夫妻はそう有れかし、と願っても居たのだ。
残り半分の真実は、無能な王子の教育に、希望を持てなかった国王夫妻が、息子の代わりに国政を担える優秀な国母を求めた。
そして何より、力の衰えた王家が、カラロウカ公爵の援助を期待した結果だった。
しかし、成長するにつれ二人の間の溝は、深くなるばかりだった。
元々、喜怒哀楽の感情の起伏が少なく、滅多に笑わないキャニスと、癇癪持ちで堪え性の無いナリウスが、うまく行くはずが無かった。
学業に関しても、授業をさぼり、遊び惚けてばかりのナリウスと、真面目で勤勉なキャニスの差は開く一方。
王太子に対する講師たちの忖度のお陰で、最下位を免れているナリウスは、在学中、学院のトップを維持し続けるキャニスを疎み始めた。
そして王子妃教育の為、キャニスが王宮に通い始めると、只でさえ少なかった婚約者同士の交流は、完全に絶えてしまった。
同じ王宮に居ながら、何故? と疑問を抱く事だろう。
しかし答えは簡単だ。
キャニスの登城に合わせ、交流を持つべきナリウスが、逆に王宮から逃げ出してしまったからだ。
人柄・学業・教養・容姿・マナー。
全てにおいて完璧な、王子妃と言われるキャニスの存在をナリウスが疎んだのだ。
だから5年も前から、破婚を願いを出して来たのに、私の可愛いキャニスに恥を掻かせやがって。
このクソ王子。
どうしてくれよう!!
王も王妃もオロオロするばかりで、なんの役にも立たん。宰相に至っては、胃痛で倒れる寸前ではないか。
どいつもこいつも話にならん。
だが、私の可愛い妖精を、10年も縛り付け、こき使った挙句、傷つけたのだ。こいつ等には相応の報いを受けさせねば!
最愛の息子をコケにされた公爵は、人目も憚らずベタベタ、デレデレといちゃつく二人に、ギリギリと歯噛みした。
「殿下。お取込み中申し訳ございません」
「なんだ? あぁ公爵か。息子と一緒に帰ったのではなかったのか?」
このクソガキめ!!
「息子共々、殿下の御意思は承りました。息子も婚約破棄を受け入れております。ですが王族の婚約破棄ともなれば、煩雑な手続きが有る事をご存じですか?」
「手続き? 書類を提出して終わりではないのか?」
「違いますな。そこで、殿下に確認したいことがございます」
「見ての通り、私は取り込み中だ。この後パーティーにも戻らねばならん。後日ではいかんのか?」
ああ。血管がブチ切れそうだ。
この期に及んで、まだパーティに戻れる気でいるのか? こんな愚か者の為に、私の妖精は、大切な青春時代を棒に振ったのか!
へらへらして居られるのも、今の内だぞ?
二人そろって、地獄に叩き落としてやる!
「後日でも、構いませんが。そうなると、王宮の人事異動の時期に入りますので。婚約破棄の手続きが終わるのは、2.3か月先になるでしょうな」
「はあ?2.3か月も掛かるのか?」
「え~~! 私、そんなに待てなぁい」
「おお。そうか。そうだな。さっさと済ませてしまおうな」
なんなんだこいつ等は?!
脳みそが腐っているのか?!
いや、我慢、我慢だ。
私はこいつ等の、地獄行きのチケットを、捥ぎ取らねばならんのだ。
「では殿下。この婚約破棄について、国王陛下、王妃様、宰相殿。何方でも構いませんが、ご相談されましたか?」
「相談など必要ない。私の結婚だ。成人した以上私自身の考えで、決めるのが当然だろう」
「そうよ。結婚は本人の意思で決めるものよ」
胸を張るナリウスと、その腕にぶら下がる下品な女。
本当にこいつは、何処の令嬢なのだ?
「左様でございますか」
「これで終いか?」
「いえ。殿下と我が息子の婚約は、王家とカラロウカ公爵家との契約に則ったものと、理解されていますか?」
「そんなものは、百も承知している。あの婚約に私の意思など微塵もない、そんな契約は私には無関係だ」
馬鹿め。
ルセ王朝の末裔が、自らの首を絞め続けていることに気付かんのか。
「え~~と。そこの貴方。カサンドラ嬢と仰っいましたか?」
「ええ。そうよ。私はカサンドラ・パトラ・オルタナスよ。私がナリウス殿下の伴侶、そして将来の国母となるの。よく覚えておいてね」
国母だと?
教養もマナーの欠片もないこの女が?
この女は馬鹿なんだな。
まさしく、ナリウス王子に相応しい。
国王夫妻と宰相は、眼光鋭くナリウスとカサンドラを睨め付ける、カラロウカ公爵を前に震え上がっていた。
近衛兵にナリウスと何処の誰とも知れず、一国の王子に人目も憚らず、べたべたとしな垂れ掛かる下品な女を拘束させ、非難の目を向けてくる貴族達の目を避け、控室に引きづり込んだまでは良かった。
しかしこの二人。
実の親である国王と王妃の言葉も耳に入らない様子で、二人だけの世界にどっぷりと嵌り込み。
叶いもしない、戯言の様な夢を語り続けている。
これは罰なのか。
王家の王子は二人。
双子として生まれて来た、長男のナリウスと次男のカリスト。
長男のナリウスの髪色は黄金、瞳は紺碧。
王家の色を持っていた。
しかし次男のカリストの髪色は漆黒、瞳は金の虹彩を持った新緑だった。
双子として産まれ落ちた瞬間から、慣例により、ナリウスは王太子として生き。王家の色を持たないカリストは、ナリウスのスペアとして生きる事が、定められてしまった。
皮肉なことに、子供達が成長するにつれ、ナリウスは王の資質を持ち合わせていない事が、明らかになって行った。
そして、スペアのカリストの方が数倍も優れて居ることも。
だが、国王夫妻は、己の息子を矯正するどころか、ナリウスを唯々甘やかし続けた。
そして婿になる筈だったキャニスに、全てを任せきりにしてしまった。
その事を深く悔いたが、もうどうする事も出来ない。
自分達の息子が、ここまで愚かだったとは。
国王夫妻は、後悔と恥辱にただ頭を抱え,怒り心頭の公爵をどうやって宥めるか、そればかりを考えていた。
ナリウスはこの国きっての大貴族。
現在の王家よりも、強大な力を有している、カラロウカ公爵を敵に回したのだ。
ここ数年、隆盛を誇るドルグ帝国からの無理難題に、屈することが無かったのも、公爵の働きが大きい。
政策の失敗から、空っぽになった国庫を補填し、王家としての体面を保てて来たのも、一重にキャニスを溺愛する公爵が、大切な息子に不自由な思いをさせまい、との力添えが有っての事だった。
それを、ナリウスは一瞬で台無しにしてしまった。
王家と公爵家の婚姻が、意味するところを理解しようともせず。
国政を何一つ理解しないまま、王家と公爵家の間で結ばれた契約を、ナリウスは独りよがりな欲望から、一方的に破棄してしまったのだ。
ラリス王国第一王子ナリウスと、カラロウカ公爵家次男キャニスとの婚約が発表されたのは、今から約10年前。
2人が9歳の時だった。
当時の第一王子ナリウスは、良く言えば意思の強い、活発な子供。
実際は、我儘で落ち着きのない子供だった。
そこで後継となる息子の将来を案じた国王夫妻は、将来の王たるナリウスに、伴侶を与える事にした。
貴族であれば、幼少時の婚約は珍しい事では無く。
ましてやこの世界は、人族の他に獣人や亜人など、その種族も多岐に渡り。
男女の性別に関係なく、子を産むことが出来る。
王家、王族という立場を持ってすれば、王子の伴侶など選び放題だ。
そんな国王夫妻が、第一王子の伴侶として選出したのが、カラロウカ公爵家令息のキャニスだった。
キャニスは幼少のころから、その美貌と大人びた物腰、聡明さで有名な令息だった。
公にされて居る、キャニスの選定理由は、秀でた頭脳と聡明さの他に、ナリウスと正反対な性格のキャニスなら、互いの足りない部分を補い合い、支え合い成長できるだろう。と言うものだった。
半分は真実。
国王夫妻はそう有れかし、と願っても居たのだ。
残り半分の真実は、無能な王子の教育に、希望を持てなかった国王夫妻が、息子の代わりに国政を担える優秀な国母を求めた。
そして何より、力の衰えた王家が、カラロウカ公爵の援助を期待した結果だった。
しかし、成長するにつれ二人の間の溝は、深くなるばかりだった。
元々、喜怒哀楽の感情の起伏が少なく、滅多に笑わないキャニスと、癇癪持ちで堪え性の無いナリウスが、うまく行くはずが無かった。
学業に関しても、授業をさぼり、遊び惚けてばかりのナリウスと、真面目で勤勉なキャニスの差は開く一方。
王太子に対する講師たちの忖度のお陰で、最下位を免れているナリウスは、在学中、学院のトップを維持し続けるキャニスを疎み始めた。
そして王子妃教育の為、キャニスが王宮に通い始めると、只でさえ少なかった婚約者同士の交流は、完全に絶えてしまった。
同じ王宮に居ながら、何故? と疑問を抱く事だろう。
しかし答えは簡単だ。
キャニスの登城に合わせ、交流を持つべきナリウスが、逆に王宮から逃げ出してしまったからだ。
人柄・学業・教養・容姿・マナー。
全てにおいて完璧な、王子妃と言われるキャニスの存在をナリウスが疎んだのだ。
だから5年も前から、破婚を願いを出して来たのに、私の可愛いキャニスに恥を掻かせやがって。
このクソ王子。
どうしてくれよう!!
王も王妃もオロオロするばかりで、なんの役にも立たん。宰相に至っては、胃痛で倒れる寸前ではないか。
どいつもこいつも話にならん。
だが、私の可愛い妖精を、10年も縛り付け、こき使った挙句、傷つけたのだ。こいつ等には相応の報いを受けさせねば!
最愛の息子をコケにされた公爵は、人目も憚らずベタベタ、デレデレといちゃつく二人に、ギリギリと歯噛みした。
「殿下。お取込み中申し訳ございません」
「なんだ? あぁ公爵か。息子と一緒に帰ったのではなかったのか?」
このクソガキめ!!
「息子共々、殿下の御意思は承りました。息子も婚約破棄を受け入れております。ですが王族の婚約破棄ともなれば、煩雑な手続きが有る事をご存じですか?」
「手続き? 書類を提出して終わりではないのか?」
「違いますな。そこで、殿下に確認したいことがございます」
「見ての通り、私は取り込み中だ。この後パーティーにも戻らねばならん。後日ではいかんのか?」
ああ。血管がブチ切れそうだ。
この期に及んで、まだパーティに戻れる気でいるのか? こんな愚か者の為に、私の妖精は、大切な青春時代を棒に振ったのか!
へらへらして居られるのも、今の内だぞ?
二人そろって、地獄に叩き落としてやる!
「後日でも、構いませんが。そうなると、王宮の人事異動の時期に入りますので。婚約破棄の手続きが終わるのは、2.3か月先になるでしょうな」
「はあ?2.3か月も掛かるのか?」
「え~~! 私、そんなに待てなぁい」
「おお。そうか。そうだな。さっさと済ませてしまおうな」
なんなんだこいつ等は?!
脳みそが腐っているのか?!
いや、我慢、我慢だ。
私はこいつ等の、地獄行きのチケットを、捥ぎ取らねばならんのだ。
「では殿下。この婚約破棄について、国王陛下、王妃様、宰相殿。何方でも構いませんが、ご相談されましたか?」
「相談など必要ない。私の結婚だ。成人した以上私自身の考えで、決めるのが当然だろう」
「そうよ。結婚は本人の意思で決めるものよ」
胸を張るナリウスと、その腕にぶら下がる下品な女。
本当にこいつは、何処の令嬢なのだ?
「左様でございますか」
「これで終いか?」
「いえ。殿下と我が息子の婚約は、王家とカラロウカ公爵家との契約に則ったものと、理解されていますか?」
「そんなものは、百も承知している。あの婚約に私の意思など微塵もない、そんな契約は私には無関係だ」
馬鹿め。
ルセ王朝の末裔が、自らの首を絞め続けていることに気付かんのか。
「え~~と。そこの貴方。カサンドラ嬢と仰っいましたか?」
「ええ。そうよ。私はカサンドラ・パトラ・オルタナスよ。私がナリウス殿下の伴侶、そして将来の国母となるの。よく覚えておいてね」
国母だと?
教養もマナーの欠片もないこの女が?
この女は馬鹿なんだな。
まさしく、ナリウス王子に相応しい。
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