518 / 605
千年王国
試練
しおりを挟むクソッ!
「クオン!!ノワール!!居るか?!」
「ん~~~?」
「なあに~~?」
「お前達セルゲイの事は分かるな?」
「イノシシ、セルゲイ?」
「いのっ・・・」
やめろよ。
こんな時に笑わせるなよ。
「お前達、あの黄色い煙が見えるか?」
「う~ん」
「みえるよ~」
「セルゲイを探して、あの黄色い煙の方に、物凄く強い魔物が出たから、セルゲイに討伐を任せると、俺が頼んでいると伝えてくれ」
「いいよ~」
「それと行きがけに、東側の火竜とドラゴニュートに、お前達のブレスをお見舞いしてやれ」
「え~~?」
「いいの~~?!」
なんだか嬉しそうだな。
退屈してたのか?
「構わん。但し人に当てるなよ?それと一発ずつだ。一発御見舞したら、直ぐにはなれて、セルゲイを探しに行くんだぞ」
「レン様ほめてくれる~~?」
「沢山褒めて上げるから。お願いね?」
「わかった~~!!」
子ドラゴン達は、黒煙棚引く王都の空を飛び去った。
「起きてたのか?」
「おはよう。ずっと抱っこしててくれたの?腕痛くない?」
「君は羽根みたいに軽いからな、全く問題ない」
「羽根は言い過ぎでしょ?それより一般の人達が逃げて来るのよね?」
「そうだ」
「じゃあ。マスクの無い第3の騎士さんと、一般人は王城に誘導して。中に入ったら、門を閉めてね」
「分かった、だがティムは無理だぞ?」
「はい。。全部に魅了が掛かるか分からないから、魔物は皆さんにお任せします」
少し悲しそうに言った番は、俺の腕から地面に降りると、空に向かいクレイオスの名を呼んだ。
「クレイオス様!!いますかぁ?!!」
『ダディだと言って居ろう』
「わッ! ビックリした! なんで後ろから出て来るんですか?!」
『ダディと呼ばんから、ちこっと脅かしてやろうと思っての』
「なんですかそれ?」
ちこっとって何だよ?
「まったくもう・・・・まあいいや。ダディ魔素水は持って来てくれた?」
『たんまりじゃ・・の?』
とその時、広場の東側から爆発が起こり、街の一角が消し飛んだ。
その爆風勢のいで燃え盛っていた炎まで、吹き消されてしまう程だった。
レンをマントの中に匿い、道を伝い噴き出した爆風から守ったが、いくら火竜が居たからといっても、これは遣り過ぎだろう。
『子供達は、ヤンチャにはしゃいで居るな』
これはやんちゃとか、はしゃいでいる、というレベルではないのだが?
「ありがとうアレク。それでカルが戻ってた様子はあった?」
『特に争った様子はなかったの。ただ茶の用意が二人分してあった』
「そう・・・」
おそらくヨナスが来たのだな。
しかし、この状況を無視して会話を続けられるとは・・・。
俺の番は、肝が太くて妙な安心感があるな。やはり俺の番は、レン以外考えられん。
「ダディ。もう直ぐここに、大勢の人と騎士さん達が、魔物に追われてやってきます。逃げて来る一般人と第3騎士団の皆には、王城の中に避難して貰って、私は魅了を使うから、そうしたらダディに、ドラゴニュートさん達の封印をお願いしたいの」
『心得た・・・従魔契約はどうする?』
「私、ティムした3人に、他のドラゴニュートさん達を、ここに集めてくれるように頼んだのだけど、彼等が失敗しちゃったのか。成功した結果がこれなのか理解できてなくて。もし成功した結果がこれなら、ティムで人数を増やしていいのか迷っちゃって」
『ふむ・・・。あ奴等には、ヨナスの支配の影響が残っていないとは言い切れんからの』
「だよね」
『しかし、ヨナスの元には、まだドラゴニュートが残って居るのだろう?』
「え?何で分かるの?」
『我は一度、あ奴らと対峙して居るからの。気配で数くらいは分かる。適当に何体か残しておくから、ティム出来るものはしておくといいだろう・・しかし、レンよ。浄化をしてはいかんぞ』
「どうして?魔物がいっぱいいるのよ?ダディが魔素水を沢山持って来てくれたから、私は大丈夫だと思うけど」
『そういう問題ではないのだ、それより、もう来るぞ』
「え?はっはい!」
クレイオスの言葉通り、最初の1人が広場に転び出たのを皮切りに、魔物に追われた人々が、川の流れのように広場へとなだれ込んで来た。
魔物に追われる恐怖で、引き攣った顔は煤で汚れ、怪我をして居る者も少なくない。
「止まるな!!城に逃げ込め!!」
「城へ入れ!!」
「第3騎士団!!民を護り城に入れ!!」
「急げ!!早くしろ!!」
「モーガン団長我々も、魔物と戦います!!」
「お前達がいては作戦の邪魔になる!!城に入れ!!」
「モーガン団長っ!!なんでいつも第2ばかり?!」
「くどいっ!!何度も同じ事を言わせるな! お前達は民と城に入り、護りを固めるのだ!!」
モーガンの叱責が飛び、若く使命感に燃える騎士達は、不満そうに口を噤んだ。
その間も人の流れは止まらず、魔物と交戦中の騎士達の怒号が響き渡っている。
「さっさと行けっ!!」
「了解!!」
悔しそうに、住民の誘導に戻る騎士に、モーガンは嘆息し魔物へ目を戻した。
「新人か?」
「若い者は血気盛んで、眩しくていかんな」
「同感だ」
俺達の若い頃は生き残る事が優先で、理想や使命感など、どこに置き忘れたのかも分からなかったからな。
「あぁ!早く早くっ!皆頑張って!!」
「レン、落ち着いて」
「でも・・・今浄化を掛ければ、魔物を減らす事が出来ます。そうしたらみんな、もっと楽に逃げられる!どうして駄目なの?!」
『レン。試練は等しく与えられ、人々は淘汰される。試練を乗り越えた者だけが、世界をより良く発展させるものなのだ』
「そんなの神様の都合でしょう?!助けを求める人達がいて、私には彼等を助ける力がある!その力を、何故使っちゃいけないの?!」
『奇跡と言うものは、人々に感動は与えるが、反省を促す事は出来ない。繰り返される奇跡に直ぐに慣れ、当たり前だと思ってしまうものなのだ』
「でも!」
『それに。今から浄化を掛けても、もう遅い』
「それって、どういう事?ねぇ!アレクからも何とか言ってよ?!」
「レン・・・俺はクレイオスの意見に賛成だ」
「そんな・・・モーガンさん!!」
「レン様。レン様のお力は確かに素晴らしい。ですが、レン様1人で全てを抱え込むことは出来ない。そしてレン様が与える奇跡に慣れてしまえば、人は弱くなります」
「モーガンさんまで・・・どうして?」
すでに城の中に逃げ込めたのは身体能力の高い獣人と、その獣人に護られた人族が殆どだった。
後ろの方に居るのは、守ってくれる獣人も無く、肥え太った人族が多いように見える。国の方針に従っていた彼等は、獣人と信頼関係を結べなかった者達なのだろう。
そう考えると、獣人に守られていた人族たちは、このゴトフリーという狂った国の中で良心を失わなかった、稀有な存在なのかもしれない。
「最後尾が見えた!!」
「急げ!急げ!!頑張るんだっ!!」
部下達は魔物と戦いながら、逃げる人々を励まし続けている。
それに対し、自分を助けろだの、彼等を守ろうと必死になって居る部下達を、無能呼ばわりする奴らも居た。
どんなに腹が立とうと、先程の商会長たちの様に、不意を突かれなければ、こんな危機的状況で、民を見捨てる騎士は居ない。
俺達は民と国の盾であり、復讐者ではないからだ。
「因果な商売だな」
「同感だ」
護る相手を選べずとも、俺達は盾として剣として、在り続けなければならない。
しかし、ヨナスは違う。
ヴァラクと同じ。
復讐に取り付かれた亡者だ。
レンの様に万民に慈悲を与える存在とは、根本からが違うのだ。
『これは民だけではない、レンに与えられた試練でもあるのだ』
100
お気に入りに追加
1,336
あなたにおすすめの小説
腹黒宰相との白い結婚
黎
恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?
柊 来飛
恋愛
ある日現実世界で車に撥ねられ死んでしまった主人公。
しかし、目が覚めるとそこは好きなゲームの世界で!?
しかもその悪役令嬢になっちゃった!?
困惑する主人公だが、大好きなヒロインのために頑張っていたら、なぜかヒロインの兄に溺愛されちゃって!?
不定期です。趣味で描いてます。
あくまでも創作として、なんでも許せる方のみ、ご覧ください。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる