獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

試練

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 クソッ!
 
「クオン!!ノワール!!居るか?!」

「ん~~~?」

「なあに~~?」

「お前達セルゲイの事は分かるな?」

「イノシシ、セルゲイ?」

「いのっ・・・」

 やめろよ。
 こんな時に笑わせるなよ。

「お前達、あの黄色い煙が見えるか?」

「う~ん」

「みえるよ~」

「セルゲイを探して、あの黄色い煙の方に、物凄く強い魔物が出たから、セルゲイに討伐を任せると、俺が頼んでいると伝えてくれ」

「いいよ~」

「それと行きがけに、東側の火竜とドラゴニュートに、お前達のブレスをお見舞いしてやれ」

「え~~?」

「いいの~~?!」

 なんだか嬉しそうだな。
 退屈してたのか?

「構わん。但し人に当てるなよ?それと一発ずつだ。一発御見舞したら、直ぐにはなれて、セルゲイを探しに行くんだぞ」

「レン様ほめてくれる~~?」

「沢山褒めて上げるから。お願いね?」

「わかった~~!!」

 子ドラゴン達は、黒煙棚引く王都の空を飛び去った。

「起きてたのか?」

「おはよう。ずっと抱っこしててくれたの?腕痛くない?」

「君は羽根みたいに軽いからな、全く問題ない」

「羽根は言い過ぎでしょ?それより一般の人達が逃げて来るのよね?」

「そうだ」

「じゃあ。マスクの無い第3の騎士さんと、一般人は王城に誘導して。中に入ったら、門を閉めてね」

「分かった、だがティムは無理だぞ?」

「はい。。全部に魅了が掛かるか分からないから、魔物は皆さんにお任せします」

 少し悲しそうに言った番は、俺の腕から地面に降りると、空に向かいクレイオスの名を呼んだ。

「クレイオス様!!いますかぁ?!!」

『ダディだと言って居ろう』

「わッ! ビックリした! なんで後ろから出て来るんですか?!」

『ダディと呼ばんから、ちこっと脅かしてやろうと思っての』

「なんですかそれ?」

 ちこっとって何だよ?

「まったくもう・・・・まあいいや。ダディ魔素水は持って来てくれた?」

『たんまりじゃ・・の?』

 とその時、広場の東側から爆発が起こり、街の一角が消し飛んだ。

 その爆風勢のいで燃え盛っていた炎まで、吹き消されてしまう程だった。

 レンをマントの中に匿い、道を伝い噴き出した爆風から守ったが、いくら火竜が居たからといっても、これは遣り過ぎだろう。

『子供達は、ヤンチャにはしゃいで居るな』

 これはやんちゃとか、はしゃいでいる、というレベルではないのだが?

「ありがとうアレク。それでカルが戻ってた様子はあった?」

『特に争った様子はなかったの。ただ茶の用意が二人分してあった』

「そう・・・」

 おそらくヨナスが来たのだな。

 しかし、この状況を無視して会話を続けられるとは・・・。
 
 俺の番は、肝が太くて妙な安心感があるな。やはり俺の番は、レン以外考えられん。

「ダディ。もう直ぐここに、大勢の人と騎士さん達が、魔物に追われてやってきます。逃げて来る一般人と第3騎士団の皆には、王城の中に避難して貰って、私は魅了を使うから、そうしたらダディに、ドラゴニュートさん達の封印をお願いしたいの」

『心得た・・・従魔契約はどうする?』

「私、ティムした3人に、他のドラゴニュートさん達を、ここに集めてくれるように頼んだのだけど、彼等が失敗しちゃったのか。成功した結果がこれなのか理解できてなくて。もし成功した結果がこれなら、ティムで人数を増やしていいのか迷っちゃって」

『ふむ・・・。あ奴等には、ヨナスの支配の影響が残っていないとは言い切れんからの』

「だよね」

『しかし、ヨナスの元には、まだドラゴニュートが残って居るのだろう?』

「え?何で分かるの?」

『我は一度、あ奴らと対峙して居るからの。気配で数くらいは分かる。適当に何体か残しておくから、ティム出来るものはしておくといいだろう・・しかし、レンよ。浄化をしてはいかんぞ』

「どうして?魔物がいっぱいいるのよ?ダディが魔素水を沢山持って来てくれたから、私は大丈夫だと思うけど」

『そういう問題ではないのだ、それより、もう来るぞ』

「え?はっはい!」

 クレイオスの言葉通り、最初の1人が広場に転び出たのを皮切りに、魔物に追われた人々が、川の流れのように広場へとなだれ込んで来た。

 魔物に追われる恐怖で、引き攣った顔は煤で汚れ、怪我をして居る者も少なくない。

「止まるな!!城に逃げ込め!!」

「城へ入れ!!」

「第3騎士団!!民を護り城に入れ!!」

「急げ!!早くしろ!!」

「モーガン団長我々も、魔物と戦います!!」

「お前達がいては作戦の邪魔になる!!城に入れ!!」

「モーガン団長っ!!なんでいつも第2ばかり?!」

「くどいっ!!何度も同じ事を言わせるな! お前達は民と城に入り、護りを固めるのだ!!」

 モーガンの叱責が飛び、若く使命感に燃える騎士達は、不満そうに口を噤んだ。

 その間も人の流れは止まらず、魔物と交戦中の騎士達の怒号が響き渡っている。

「さっさと行けっ!!」

「了解!!」

 悔しそうに、住民の誘導に戻る騎士に、モーガンは嘆息し魔物へ目を戻した。

「新人か?」

「若い者は血気盛んで、眩しくていかんな」

「同感だ」

 俺達の若い頃は生き残る事が優先で、理想や使命感など、どこに置き忘れたのかも分からなかったからな。

「あぁ!早く早くっ!皆頑張って!!」

「レン、落ち着いて」

「でも・・・今浄化を掛ければ、魔物を減らす事が出来ます。そうしたらみんな、もっと楽に逃げられる!どうして駄目なの?!」

『レン。試練は等しく与えられ、人々は淘汰される。試練を乗り越えた者だけが、世界をより良く発展させるものなのだ』

「そんなの神様の都合でしょう?!助けを求める人達がいて、私には彼等を助ける力がある!その力を、何故使っちゃいけないの?!」

『奇跡と言うものは、人々に感動は与えるが、反省を促す事は出来ない。繰り返される奇跡に直ぐに慣れ、当たり前だと思ってしまうものなのだ』

「でも!」

『それに。今から浄化を掛けても、もう遅い』

「それって、どういう事?ねぇ!アレクからも何とか言ってよ?!」

「レン・・・俺はクレイオスの意見に賛成だ」

「そんな・・・モーガンさん!!」

「レン様。レン様のお力は確かに素晴らしい。ですが、レン様1人で全てを抱え込むことは出来ない。そしてレン様が与える奇跡に慣れてしまえば、人は弱くなります」

「モーガンさんまで・・・どうして?」

 すでに城の中に逃げ込めたのは身体能力の高い獣人と、その獣人に護られた人族が殆どだった。

 後ろの方に居るのは、守ってくれる獣人も無く、肥え太った人族が多いように見える。国の方針に従っていた彼等は、獣人と信頼関係を結べなかった者達なのだろう。

 そう考えると、獣人に守られていた人族たちは、このゴトフリーという狂った国の中で良心を失わなかった、稀有な存在なのかもしれない。

「最後尾が見えた!!」

「急げ!急げ!!頑張るんだっ!!」

 部下達は魔物と戦いながら、逃げる人々を励まし続けている。

 それに対し、自分を助けろだの、彼等を守ろうと必死になって居る部下達を、無能呼ばわりする奴らも居た。

 どんなに腹が立とうと、先程の商会長たちの様に、不意を突かれなければ、こんな危機的状況で、民を見捨てる騎士は居ない。

 俺達は民と国の盾であり、復讐者ではないからだ。

「因果な商売だな」

「同感だ」

 護る相手を選べずとも、俺達は盾として剣として、在り続けなければならない。

 しかし、ヨナスは違う。
 ヴァラクと同じ。
 復讐に取り付かれた亡者だ。

 レンの様に万民に慈悲を与える存在とは、根本からが違うのだ。

『これは民だけではない、レンに与えられた試練でもあるのだ』
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