獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

モーガン

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 炎と瓦礫の山を越え、王城前広場にたどり着いた俺達は、そこで消火と住民の避難の指揮を取るモーガンと合流した。

「閣下が戻られて、正直ほっとしています」

「どんな様子だ?侯爵とセルゲイはどうした?」

「どうやらこの火付の犯人の魔物は、人族だけを狙って居る様だ。だからオーベルシュタイン侯爵は、城の中で隠れて貰っている」

「セルゲイは?」

「彼の性格でじっとしていられると思いますか?」

「ドラゴニュートを追って行ったのか?」

「ドラゴニュート?あれを閣下は御存じでしたか」

「レンが呪いを受けた時のあれだ」

「あぁ!あれが!成る程。道理で強いわけだ」

「モーガンさん。セルゲイさんはシエルが居るのに、平気なのかしら?」

「あ~。それがですね。この王城も一度、そのドラゴニュートの襲撃を受けたのですが」

 とモーガンは。穴の開いた王城の壁と見た。

「大変!怪我人は?子供達は無事ですか?」

「怪我人は居りません。子供達も無事です。それにあれはゲオルグ団長が開けた穴です」

「え?セルゲイさんがやったの?」

「そうなんです。ドラゴニュートは普通に王城の中に入って来て、匂いを嗅いで、獣人ばかりなのを確認したようで。それでそのまま出て行こうとしたのだが・・・」

「セルゲイが、ぶっ放したと」

「そういう事だ。そのまま部隊を率いて街に出てしまって。それっきり戻ってこない」

「何やってんだ、あいつは」

「一応、消火と避難誘導に当たらせている部下からの報告では、行く先々で襲われている人族を助けたり、消火や避難の指示も出しているようだから、放っておいて居るのだが。どうも、そのドラゴニュートを追い散らしている様に感じてな」

「まあ・・・そうなるだろうな。ドラゴニュートはヨナスと言う者に、人族の根切りを命じられたそうだ。だが獣人には手を出すなとも命じられて居てな。いくらセルゲイが追いかけ回しても、あいつ等はセルゲイを相手にはしないだろう」

「ヨナス?誰ですかそれは?」

「大昔に、ここを治めていたレジスと言う獣人と、魔族との間にできた息子だ」

「魔族・・・そりゃ長生きしそうだ」

 頭を掻くモーガンは熱気の所為で腕まくりをしているが、その腕の産毛が羽毛の様にフワフワと動いて居るのに、レンの眼は釘付けだ。

 珍しいから仕方がないが、ちょっと見すぎじゃないか?

「しかし閣下は戻られたばかりなのに、詳しいな」

「それが、ここに来る途中でレンが、ドラゴニュートを3体ティムしたのだ。俺の情報はそのティムした奴から聞き出した」

「ティム?! あの魔物とレン様は従魔契約を結ばれたのですか?!」

「えぇ。まあ。一応?」

「凄いですね」

 そうだよな。
 普通に驚くよな。
 だがレンは謎な荊の魔物と
 サンドワームとも従魔契約を結んでいるんだぞ。

 それを知ったら、モーガンは腰を抜かすのじゃないか?

「この王都に放たれたドラゴニュートは80体。その中の3体をレンはティムできた。しかし2体はティムできなかったのだ。一応魔獣用の縄で拘束してきたが、あの程度の縄ではそう長くは持つまい」

「では、残り75体ですか。どうしたものでしょうか」

「レンに考えがあってな。ティムしたドラゴニュート達に、残りの奴らをここに集める様に指示を出してある」

「ここにですか?」

「はい。出来れば全員ティム出来たらいいのですけど、さっきも二人失敗しちゃってるので、あと何人かティムしたら、残りはクレイオス様に、封印して貰おうと思ってます」

「なるほど。しかしそんなに巧く行きますか?」

「ティムが可能な事は実証済みだ。ここにドラゴニュート達を集めさえ出来たら、可能ではある。しかし・・・」

「何か問題があるのか?」

「王都の外に逃げ出した住民が大勢いた。それを追って、ドラゴニュートが王都の外に出てしまう可能性が高い。残して来た部下に、住民の世話とドラゴニュートを王都の外に出すな。と指示は出したが、まあ止めるのは無理だろうな」

「無理だと分かっていて、指示を出したのか?」

「いや。あの時はあそこ迄ドラゴニュートがでかくなっているとは、思っていなかった。分かって居たらあんな支持は出さんよ。無理に戦うなとも言ってあるから、部下達も危険は冒さないだろう。だからドラゴニュートが王都の外に出る、確率が高いと言ったのだ」

「成る程。ならば仕方があるまい。しかし・・・」

「王都以外で常駐している騎士団は居ない。他の街へ行ってしまったら、蹂躙の限りを尽くすだろうな」

「うむ・・・・困ったな」

「あの!」

 考え込む俺たち二人を、レンは拳を握って見上げてきた。

 こんな一生懸命な顔も可愛いとか。
 本当に反則だと思う。

「ん?どうしたんだ?」

「あのですね。ここに集まって来たドラゴニュートさん達を、ティムと封印したら、直ぐにヨナスさんに、会いに行くべきだと思うんです」

「それはそうだが、ティムするのにも魔力の消耗が激しいだろ?君も少しは休まないと」

「そんな暢気な事を、言っている場合ではないと思います。75人のドラゴニュートさん達全員を、ティムか封印できたとしても、ヨナスさんのもとに、まだ22人のドラゴニュートさん達が残っています。それにカルとアーロンさんが贄にされて居るなら、ヨナスさんの魔力は、無尽蔵だと言ってもいいでしょ?」

「うむ・・・」

「もし、王都の外に出てしまったドラゴニュートさんが居たとしても、後を追って行くより、ヨナスさんと会って、ドラゴニュートさん達の支配を止めさせた方が速いと思います。その為に私はクレイオス様に、魔素水を取って来るように頼んだんですよ?」

「しかし、それだと君の負担ばかりが増えるだけだ」

「アレク忘れちゃったの?ヨナスさんは空間を開くことが出来るのよ?」

「あ・・・」

「レン様、空間を開くとはどういうことですか?」

「モーガンさんも、カルやクレイオス様が、何もない処から、物を取り出すのを見た事が有るでしょ?あれと同じ事がヨナスさんは出来るの。転移魔法みたいにどこにでも行けるし、開いた空間の中に自分の世界を創り出す事も出来る。今はヨナスさんが居る場所が分かっているけど、別の場所に移動されて、空間を閉じられてしまったら、彼がどこに居るのか分からなくなる。それにドラゴニュートさん達を、好きな場所に送り込むことが出来る。帝国のどこにでも、タランにでもです」

「もしそこで、人族の虐殺を始めたら」

「だから、私達は急がなきゃいけないんです」

 迂闊だった。
 レンの心配ばかりしていて、重要な事を失念していた。

「だから、先ずはここのドラゴニュートさん達をどうにかしないと」

「そうですね。彼らが居る限り、いくら消火しても次々に火の手が上がり、まるでイタチごっこです。やはり問題は根本から対処しなければ」

「ですよね!」

 なんでモーガンと意気投合してるんだよ。
 まるで俺だけが、駄々をこねてるみたいじゃないか。
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