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千年王国

言い訳と方便

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『先に言っておくが、あ奴の居所は分からん。カルたちと同じで気配が感じられん』

 これは知っているが教えない、という事では無いようだ。

 それより今は、ドラゴニュートが先だ。

「俺達に、ドラゴニュートは倒せるか?」

『・・・その昔。其方らの祖先は生き残った』

 可能性はゼロではないという事か。

 イプシロン達は、原始的な力と力のぶつかり合いには慣れているが、ロロシュのような相手を攪乱させる戦い方には慣れていない。

 其処が付け入りどころだな。

「将校を集めろ!」

「閣下。伝達なら私が」

「ドラゴニュートへの対応と戦い方を伝える。俺が直接話した方が良いだろう」

「了解。すぐに集めます」

 集まった将校達には、王都に立ち上がる火柱の原因はドラゴニュートだと伝えたが、将校達の中にドラゴニュートを知って居る者はなく、創世時代の魔族の生物兵器であるとだけ伝えた。

「お前達が優先するのは、住民の避難。次に消火だ。敵がドラゴニュートだと判明した以上、無理に戦う必要はない。もし戦闘になったとしても、一個中隊以上が居ないなら、逃げる事を第一条件に考えろ」

「はい!閣下!質問宜しいでしょうか!」

「なんだ?」

「そのような危険なものを、放置して宜しいのですか?!」

「以前俺とマーク、ロロシュ、エーグルの四人はドラゴニュートと戦った事が有る。あの時は、まずまず圧勝だったと言っても良いが、今は封印が解かれ、何倍も強くなっているらしい。ゲオルグやモーガンなら問題ないだろうが、お前達では足元にも及ばん。よってお前達がやるべきは、住民と自分達の安全確保だ」

「りっ了解しました!」

「ドラゴニュートは全部で102体。安全確保が最優先だが、王都の外に出さない様に、守りは固める事。周囲の部隊との連携は常に意識するように。以上だ」

 将校達は俺からの指示を、部下達に伝える為に戻って行った。

「なぁクレイオス。ヨナスはドラゴニュート達に獣人を傷つけるな。と言う命令を刻み込んだ。それは今も有効だと思うか?」

『どうであろうな。生み出した際に組み込んだ術式はそう簡単に組み替えられんだろうが、封印を解くにあたり何を施したか、見てみるまでは何とも言えんの』

「期待はせん方が、良いのだろうな」

『先入観は判断を鈍らせるからの』

 するとここまで大人しく話を聞いていたレンが、口を開き、クレイオスを質問攻めにした。

「ねぇダディ。幻獣達みたいに、もう一度ドラゴニュートさん達を封印できないの?」

『封印か?出来んことは無いと思うが』

「ヨナスさんの力の影響はない?」

『あ奴が存在する限り、あるだろうな』

「ヨナスさんを浄化することは、出来ると思う?」

『・・・・・・簡単ではないだろう』

「ドラゴニュートさん達を、味方にできるかしら?」

『我の子であれば可能であろう』

「私がお願いしたら、行きたい処に連れて行ってくれる?」

『其方が望むなら何処へでも』

「私達にカルとアーロンさんは、解放できるかしら?」

『それも簡単ではないな』

「ロロシュさんとシッチンさんじゃ無理?」

『・・・無理ではないが、時間は掛かるだろうな』

「ダディは、何処まで手伝ってくれる?」

『レン・・・其方、何処まで分かって居る?』

「何も分かってないです。だからダディの助言を求めてるのよ?」

『・・・我の子は賢いの。賢過ぎてぞくぞくするわい』

 この二人は何の話をしているのだ?

 レンはヨナスやカルたちの居場所を知っていて、クレイオスの助力をどこまで引き出せるのか、一つ一つ試しているようじゃないか。

『其方の望みなら、好きな所へ連れて行ってやろう、カルとアーロンの開放にも手を貸してやろう』

「ドラゴニュートの封印は?」

『其方が本当に、それを望むか確かめてからだ』

「分かりました・・・もし私やアレクさんが、ドラゴニュートにやられそうなったら、助けてくれる?」

 レンの問いかけに、クレイオスは俺の方をチラリと見た。

『そんな事には成らんと思うが、万が一の時は助けてやるとも』

「ありがとう。ダディ」

『なんの。良いかレン?何があっても我は其方の味方だ。それだけは忘れるで無いぞ?』

「うん。分かった」

 2人が話し終え、再びクレイオスが姿を消した後、こっそりレンに今の会話の意味を聞いてみた。

「クレイオス様は、細かいエピソードを把握していないって言ってたけど、本当は結構細かい事まで知っていると思うの」

「ふむ?」

「アウラ様のお庭で私、アレクさん達がドラゴニュートさん達と戦っているのを見たって言いましたよね?」

「言ってたな」

「あの鏡は、私様用に出してくれた物だったのだけど、アレクさんがニヒルに笑ってるところから、かっこいい蹴りまで、引きも寄せも思うがまま、余すことなく映し出していたのね」

「ニヒル・・・」

 あの時は、相手を小馬鹿にした笑いしか、浮かべていない筈だが?

「あんな風に、好きな時に好きな場所を見られるのなら、アウラ様が何も知らない筈は無い。だったら、感覚を共有しているクレイオス様も、全部知っているって思うの」

「なるほど?」

「それで、クレイオス様が教えてくれた事と、アウラ様の曖昧な態度とかを、合わせて色々考えてみて、基本的にアウラ様達は、何も教えてはいけない事になってるんじゃないか、って思ったのね」

「教えてはいけないのか?」

「うん。神託とか予言も、わざと分かり難い言葉を使ったりしているでしょ?本当は教えられる事なんて殆ど無くて、神託とかで、わざと難しい言葉を並べるのは、教えてませんよ~、ヒントをあげただけですよ~って、言い訳と言うかポーズなんじゃないかって。それにアウラ様達が初中、大神様に怒られて居るのって、本当は手助けしちゃいけない事を、助けてくれたり、教えてくれたりしているからみたいなの」

「あれでも教え過ぎ・・・なのか?」

「よく考えたら、何も知らないのが普通ですからね?小出しでも情報をくれたり、手助けしてくれるのは、とっても有難いことなんです。なんたって神の奇跡なんですから」

「そうかも知れんが」

「基本的には、何も教えられない、手出しも出来ない。なら神の助力を引き出す為にはどうしたら良いか」

「どうすればいいんだ?」

「助言を求める事」

「助言?」

 助言と助力。
 言葉遊びの様だが?

「私の居た世界の神様は、神様の中でも格が高いそうなんですけど、その神様は、インスピレーションと言う形で、色々な情報を人に与えているそうなんです」

「情報を与えていいのか?」

「人々を教え導く情報なら、OKって事らしいですよ?それにクレイオス様も前に言っていたんです。人を教え導くのは神の仕事の内だって」

「どういうことだ?」

 するとレンは、悪戯っぽく俺に笑って見せた。

「要は、聞き方の問題です。〇〇についての答えを教えろ。ではなく。〇〇についてこれこれこうしようと思っているが、これでいいだろうか?〇〇について困っています、何かいい知恵は無いでしょうか?みたいな」

「うむむ・・・・?」

「あとは〇〇を倒したいから力を貸してくれ。では無く。〇〇を倒すためにはこれこれでいいか教えて欲しい。死力を尽くすが力及ばぬ時には、知恵と力を貸して欲しい。って感じです」

「屁理屈にしか聞こえんが」

「屁理屈ですよ?大神様の創った規則の抜け道なんだもん。それに神様は自分で言った事は、必ず守らなくちゃいけないみたいなの」

「それは・・・言質を取ったら勝ちって事か?」

「人聞きが悪いですよ?約束は守るもの。でしょ?」

「なるほど・・・それであの質問攻めか」

「まあ。そういう事です。ウジュカの水害は、元はと言えばクレイオス様の所為で、魔物が増えたから外郭が弱っていた。故に水害から街を救ったのも、外郭の外の魔物を駆除したのも、自分の行いの責任を取っただけだ。と言い訳が出来るし、その前に西側の魔物を倒してくれたのは、ベヒモスを捕まえる為に、他の魔物も巻き添えになったと言い逃れられます」

「大神に対する、言い訳が必要という事か?」

「言い訳と言うか方便ですね。力を貸すための方便を用意してあげれば、結構なんでもしてくれる気はします」

「そういう事だったのか」

「でも。基本は私達、地上で生きる者が、対処するべき事ではあるんですよ?ただねぇ。起こっていることが、とんでもない事ばっかりで、みんなの命が掛かっているのだから、クレイオス様には、せっせと働いてもらいたいですよね」

 
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