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千年王国

やっぱりダディはチョロかった

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「う"ゥゥ・・・ダディ~ヒック、ダディ・・・みんなをたすけ・・ヒック」

『おぉ。泣くな?ダディが助けてやる。見てるのだぞ?』

 しゃくりあげるレンに、良い父親ぶって優しく話しかけているが、なんなんだよコイツは!
 
 今までほったらかしにして置いて、いい処だけ持って行くつもりか。

 コイツのこう云う処に腹が立つ!
 何とか出来るなら、もっと早くに来いよ!

 しかし人智を超えた、創世のドラゴンの力は絶大だった。

 クレイオスは崩れ落ちた壁に代わりに、分厚い結界を張り巡らし、土石流の流入を堰き止めると、ばさりと羽ばたき空へ浮かび上がった。

 そして口の辺りに光が集まったと思った次には、その光が土石流が流れて来る東側から北へと弧を描く様に放たれた。

「ヒクッ・・は・・?ヒック・・破壊光・・・ヒクッ・・線?」

 はかいこうせん・・・・?
 破壊光線か!?

 クレイオスの放った破壊光線は、轟々と押し寄せる、土砂を巻き込んだ灰色の流れを、地面ごと深く抉り取った。

 とんでもない威力の攻撃だったが、土砂の流れを消し去る事は出来ず、一瞬途絶えさせただけだった。

 クレイオスでも、どうする事も出来ないのか。

 俺は諦めかけたのだが、クレイオスがその場で羽ばたくと、その羽ばたきで巻き起こった暴風が、土砂の流れの向きを変えてしまったのだ。

 クレイオスが一度羽ばたくと、流れが内包する枯れ木や岩が空に舞い上がり、結界を避ける様に北に向かって飛ばされて行く。

 そしてクレイオスが抉り取った地面へと流れ込み、クレイオスが数度羽ばたきを繰り返すと、無秩序に押し寄せてきていた土砂の流れは、広く深い河の流れに姿を変えていた。

 感心したのも束の間、弧を描く川の流れは、その弧の部分から流れが溢れ出してしまった。

『ふむ・・・・いう事をきかんの』

 そう呟いた、クレイオスが流れが溢れ出している方へ、鋭い爪を持った前足を向けると、地面がグラグラと揺れ出した。

 ゴゴゴゴ・・・・。

 土砂の流れる音に、地鳴りの音が加わり、なんとも不気味な印象だった。

 しかし固唾を呑み見守る俺達の前で、雨と土砂で濡れた地面が持ち上がり、あれよあれよという間に、小山が出来上がってしまった。

 そしてその小山が溢れ出す土砂を堰き止め、全ての土砂が東から北へと流れる大河となったのだ。

「あの人・・・忘れてましたが、創世のドラゴンでしたね」

「・・・・そうだな」

「ダディ凄~い!」

 レンは手放しで感心し、危険が去った事を素直に喜んでいるが、俺とマークは複雑な心境だった。

 ベヒモスとの戦いといい、この水害の治め方といい。

 人智を超えた、絶大な力を見せつけられると、俺達の苦労が、馬鹿みたいに思えて来る。

 しかし、手放しで喜んでいるレンと部下達に、水を差すのは如何にも無粋だ。これ以上は何も言わないで置いた方が良いだろう・・・とは思うが。

 腹が立つことに、変わりはないがな!

 人型に姿を変え、いそいそとレンのもとに戻って来たクレイオスの顔面を一発ぶんなぐってやりたかったが、レンの前なのでここは我慢だ。

『レン。もう大丈夫だぞ』

 なんだよその褒めてくれ、と言わんばかりの態度は。

 ムカツクな。 
 やっぱりぶっ飛ばそうか。

「ダ・・・」

『ん?どうした?』

「ダディーのバカぁ!!もっと早く来てくれたら、みんな怖い思いしなくて済んだのにぃ!!」

 ほんと。レンの言う通りだ。
 
『いやだが、捕まえたベヒモスを放って置く事も出来んだろ?ちょっとしまいに行っていただけなのだぞ?』

「そもそも、魔物が増えたもの幻獣が逃げたのもダディーのせいじゃない?!それなのになんでアレクとかマークさんとか!皆が怖い思いをしなくちゃいけないの?!」

『いや・・そうなんだけどな?』

「ダディは創世のドラゴンなんでしょ?! もっとちゃんとして!!」

『あ・・・はい』

 子供に叱られて、へこむ父親の図。

「ッ・・・・プッ・・・」

「クッ!・・・・ククッ・・・」

「もう!!みんな死んじゃうとこだったんだよ?!それ、分かってる?!」

『ごめんなさい』

「本当に!本当~~に!怖かったんだからねッ!!」

 そう言うと、レンはまた泣きだしてしまった。

 へこみながらも、レンの機嫌を取ろうとするクレイオスは、正直言ってウザい。

 ウザ過ぎる。

「おい。俺達は街に入りこんだ魔物を、始末しなければならん」

『・・・・・』

「聞いてるか?あんたは外の魔物を片付けてこい」

『なんでだよ。我には制約が』

「知るか!あんた今レンにちゃんとしろと言われたろう!レンは外の魔物の排除を望んでいる。レンの手伝いなら問題ないのだろう?それに元々はあんたが原因で増えた魔物だ。制約だのなんだの、ガタガタ言ってないで。責任を果たせよ!」

『む!ぐぬぬぬ・・・』

 表情がないくせに、苦り切っているのが手に取るようにわかる。

 制約だのなんだのと、ほざいているが。
 本当は、ただ面倒臭いだけじゃないのか?

「ダディ、だめなの?」

 涙声で目を潤ませたレンに、クレイオスは落ちた。

 それはもう、笑える程簡単に。

『駄目じゃない!駄目じゃないぞ!!』

「ほんとう?大神様に叱られない?」

『本当だとも!大神は・・・・叱られたら我が何とかするから、大丈夫だ!』

「そうだよね!ダディは創世のドラゴンなんだもん。大丈夫よね?」

 大丈夫、大丈夫。
 と胸を張る姿が、虚勢を張っているように見えるのは、気のせいだろうか。

 チョロい、チョロすぎるぞ、クレイオス。

「じゃあ。ダディ頑張ってね!」

『ダディに任せておきなさい!』

 ドンッと胸を叩き、飛び出して行ったクレイオスを見送ったレンが、俺を見上げてペロッと小さな舌を出して見せた。


「レン様。上手い事クレイオス様を転がしましたね?」

「なんの事?」

 惚けるレンに、俺とマークはニヤニヤしながら、魔物を追って街へと向かったのだ。

 その後俺達は、ウジュカの首都を駆けまわり、入り込んだ魔物を倒して行った。

 しかし、水に浸かってしまった街は足場も悪く。
 戦い慣れた俺の部下達も、負傷者が続出してしまった。

 朝から続く戦闘で、手持ちの回復薬も底を尽き、遠征である以上、医療班も帯同してはいるが、ちぎれ掛けた腕を、元通りに出来るのは、レンだけだ。

 レンには浄化を禁じはしたが、代わりに重症者の治癒をレンが一手に引き受ける事となった。

 重症者への治癒は、魔力の消耗が激しくなる。

 人数自体はそう多くないが、魔力が回復する前に次の患者が運ばれて来れば、レンが魔力切れを起こすのに、時間は掛からないだろう。 

 当然俺は魔力を分けようとしたが、いざという時に、俺が魔力切れでは洒落にならない、と言って断られてしまった。

 これは決して、俺とキスをするのが嫌だったからではない・・・と思いたい。

 そしてレンの魔力切れは、思っていたより早くやって来てしまったのだ。

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