獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

クラフトマン☆レン

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 いちごに運ばれて、歩廊の上に戻ると、成り行きを見守っていたマークは、レンの無事な姿を見て安堵の溜息を洩らした。

 マークの目にうっすらと浮かぶ涙を見たレンは、マークの手を取り ”ごめんね” と謝ったのだが、感極まったマークがレンを抱き締めて、嗚咽を漏らし始めたのには、正直驚いた。

 普段のマークなら絶対にしない行動だ。

 恐らくマークも、レンの魅了の影響を受けていたのだろう。

 多分・・・・。

 他の奴がそんな真似をしたら、その場で殴り倒す処だが、マークが相手だと嫉妬心が湧いてこないから不思議だ。

 歩廊の上に居た他の部下達も、ボーっとレンを見つめて居たり、フラフラしている奴が幾人も居たから、レンの魅了の威力は以前よりも上がっているのかも知れない。

 そんな連中も、激しい雨に打たれる事で、徐々に正気を取り戻して行った。

 そして外郭は崩れてしまったが、空いた穴の前にサンドワームがたむろしているお陰か、他の魔物がこちらによってくる様子はない。

 魔物が襲ってこない間に、魔法を使い壁の穴をふさぐ作業に移ろうとすると、レンがおずおずと俺の袖を引いて来た。

「ん?どうしたんだ?」

「あの、あの子達をどこか屋根の下に入れて上げたいのだけど」

 とレンはサンドワームたちを指差した。

「雨もいつ止むか分からないし、放って置いたらどんどん水を吸収して、あの子達も苦しいと思うの」

「あ~確かにそうなんだが。あの図体を入れられる建物なんてあるか?」

「うん。それでね。浄化をしてあげたら、アンの時みたいに、サイズダウンするんじゃないかと思って」

 となぜかもじもじとするレンに、俺は成る程と納得した。

 レンは俺に浄化を止められているから、その許可を求めていたのだ。

「今は、あれが魔物除けになっているから、壁の補強が終わった後ならいいぞ」

「本当!!じゃあ、壁の補強も手伝っても良い?」

「ん?ん~~」

 レンが手伝ってくれれば、補強も直ぐに済むだろうが、この人は魔力がカラカラになる迄頑張ってしまう癖があるからな。
 
 どうしたものか・・・。

「ダメ?」

 だから、どうしてそういうあざとい顔をするんだ?そんな顔をされたら、駄目だと言う俺の方が、悪いみたいじゃないか。

「分かった。その代わり。俺とロロシュと一緒にやるんだぞ?」

「ロロシュさん?なんで?」

「ロロシュの魔力値はそれほど高くはないが、土魔法は得意だからな、君が魔力を使い過ぎないように補助役だ」

「そっか、アレクの言う通りにする」

 少し離れた場所で壁の補強をしていたロロシュを呼びにやり、3人で穴を塞ぐことにしたのだが、ここで俺達はレンの魔法の使い方に驚くことになった。

 俺や他の連中は、土魔法の名の通り土塀を造って穴を補強しようとしていたのだが、レンは土魔法で、大岩を創り出したのだ。

 そう言えばと、イマミアの入り江でも、レンは水を怖がるロロシュの為に、岩の橋を創り出した事が有ったのを思い出した。

「どうやるんだ?」

「??普通にみんな出来るでしょ?」

「石の礫くらいなら作れるが、こんな大きな岩を作れる奴は、中々居ないな」

「そうだぞちびっ子。地面を崩して砂に変えるのは割と簡単だが、岩を作るのは難しい」

「へ~そうなんだ。でも魔法ってイメージが大事なんでしょ?出来ないと思うから、出来ないんじゃない?」

 レンの言う事は至極尤もだが、そのイメージの仕方が分からないのだが?

「それが出来れば、誰でも簡単に出来てるだろうが」

「え~?簡単だと思うけどなあ。ロロシュさん頭が固いんじゃないの?」

「おいちびっ子。オレへの当りがきつくないか?!」

「まあ、あんまり優しくする理由もないし?」

「かあ~~っ!!ちょっと閣下。この子どうなのよ?」

「なんだ文句があるのか?」

「あんたもか?!オレだって一生懸命働いてるだろうがよ?!」

「お前は仕事は出来るが、性格がな」

「ひっで~!!」

 ブーブー文句を言うロロシュを無視し、俺は改めて岩の作り方を聞いてみた。

「えっと。アレクは岩がどうやってできるか知ってる?」

「いや、知らんな。ただそこにある物、としか考えたことが無かった」

「岩や石が、同じもので出来ているのは分かります?」

「それは、なんとなく分かる」

「岩や石はまとめで岩石って呼ぶんですけど、この岩石には大きく分けて3種類あるのね。一つは火山から噴き出した溶岩できたもの。二つ目は海とか湖とかに長い時間をかけて堆積したものが、その重みで岩に変わったもの。三つめは、前の二つが熱や圧力で変質したものなの」

「うん。それで?」

「だから、この土に圧力とか熱を与えながら持ち上げると、岩になるの」

「・・・・そうなのか?」

 言って居る事は理解できたが、どうやるんだ?

「ん~~。ゆっくりやってみるから、ちょっと見ててね?」

 そう言ってレンは、足元の土を手で掬い取りそこに魔力を流して行った。

 するとレンの掌の上の土がぶるぶると震え、中央に集まり出すと、土の中に含まれていた水と土に別れ、それが更に圧縮されると、小さな石へ姿を変えていた。

「なんか、みんなは何もない処から、土を出しているみたいだけど、私は此処に在る土に手を加えて岩を作ったの」

「生み出すのではなく、加工するのか?」

「そういう事」

 レンは事も無げにニコニコとしている。

 ならば、と俺とロロシュも試しにやってみたが、どうもうまく行かない。

 結局俺達は補助どころか、レンが大岩を作り出すのを、口を開けて感心するばかりで、職人技とでも言うのか、発想の違いで魔法の使い方の幅が、こうも違うのかと再認識させられたのだった。

 そしてサンドワームを、どこに移動させるかだが。

 レンはサンドワームを囲う形に外郭の形を変えて岩を作り出し、岩の屋根と言うか、洞窟的な物を創り出して、その中にサンドワームを納めてしまった。

「これでちょっとはマシかな?あとは・・・ねえアレク。ここの地面乾かせる?」

「あぁ。そのくらいなら簡単だ」

 服や髪を乾かすのに比べたら、大掛かりな魔法になるが、遣る事は一緒だから、なんの問題も無く、レンが創った洞窟の中を乾かすことが出来た。

「アレク、ありがとう。やっぱり寝床がべちょべちょだと、気持ち悪いもんね」
 
 とレンはサンドワームの身体を、ペシペシと叩いているが、さっき迄あれほど気持ち悪がっていたのが、嘘みたいにフレンドリーだ。

 やはりティムすると、情が湧くものなのだろうか。

「それじゃあ、サイズダウンするかどうか、浄化してみますね」

 レンの浄化で洞窟内が黄金色の光りに満たされると、レンの予想通りサンドワームはシュルシュルと小さくなって行った。

 元の大きさからすると二回りほど小さくなったように見えるが、それでもでかい事に変わりは無かった。

「あれ~?もうちょっと小さくなると思ったんだけどなぁ」

 レンがどのくらいの大きさを想定していたのか分からないが、いくら浄化をしても、サンドワームが蛇のサイズにはならないと思う。

 少し小さくなったサンドワームたちにレンが、ここで大人しくしている様にと言い聞かせると、そろって地面の上に丸くなってくれたが、こいつらの餌の確保には、手間がかかりそうだ。

「じゃあ。次は東ですね?」

「そうなんだが・・・おい、ロロシュ。レンと話があるから先に行ってろ」

「話しねぇ。へいへいお邪魔虫は退散しますよ」

 ロロシュは厭らしい笑いを浮かべて、洞窟から出て行った。

 分かっているなら、知らん顔が出来んのか。

「アレク?話って?」

「レン、魔力の補給をしないと」

「あ・・・・はい。お願いします」

 頬を染める番の唇を喰いつく様に奪い。
 魔力を流し込んで行った。
 
 壁の向こうに落ちていくレンの姿と、この魔物の群れの中で、レンを見つけられなかった絶望感を忘れる為に、けしからんお胸にちょっと悪戯も加えてしまったが、そこは魅了の影響が残っていたという事で、大目に見て貰いたい。

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